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『おばけリンゴ』 ヤーノシュさく やがわすみこやく 福音館書店 1969年
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ひとつでいいからリンゴがなりますように。 ワルターの願いはかなえられ、ひとつのおばけリンゴがなりました。 ・・・
おばけリンゴをめぐる悲喜こもごもを、のびやかな絵で昔話風に描いた古典絵本。世界的に評価が高いそうです。
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むかし、びんぼうなワルターというおとこが、リンゴのきをいっぽんもっていました。 葉っぱはつやつや緑色、幹はすくすく丈夫でしたが、どうしたことかまだ実がならず、花さえさいたことがないのです。よその木はみんなたわわに実っているのに! ワルターは願いました。 「たったひとつでいいから、リンゴがなりますように」 このささやかな願いはかなえられ、ワルターのリンゴの木には、りっぱなリンゴの花が一つ咲きました。大切に大切に育てると、やがて、おおきなおおきなおおきなおばけリンゴになりました。 ワルターは重いリンゴをおぶって、遠くまではるばる売りに出かけますが、市場の人は笑うばかり・・・。
たったひとりでいいから・・・と、願って授かった子どもが、見かけはどうあれ、のちのち立派な正義の味方となって大活躍する、爽快な昔話はいろいろありますが、このおばけリンゴはどうなるのかな?
こっくりとした色、こってりとしたタッチ、自由な筆でのびのびと描いた、昔話のような楽しいお話。 ところどころに洒落た対句的表現をはさみつつ、とんとんとはずむように物語がすすみ、途中からりゅうも出てきて急展開! 国を荒らす恐ろしいりゅうとの対決も、ワルター流(?)というか、屈託なくおおらかで、どこか皮肉めいた感じも少し。 最後のワルターの、懲りず希望を捨てないささやかな新しい願いと、さりげなくばら色の背景が印象的。
原書は『Das Apfelmannchen』1965、Nord-Sud Verlag, Switzerland とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど↓
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『Das Apfelmaennchen (ハードカバー)』 ヤーノシュさく やがわすみこやく 福音館書店 |
表紙は、邦訳の本文中の一場面と同じものだと思われます(きしゃにものらないおばけリンゴをおぶって、はるばる売りに出かけるところ)。
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『ふしぎなじどうしゃ』 ヤーノシュ作・画 志賀朝子訳 小学館 1980年 品切れ
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こんなことがあったらいいな、なったらいいな、を、みんなかなえてくれた、天晴れな手作りの自動車のおはなし。
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しずかないなかにやさしいおじいさん、おばあさんととすむバスティは、7歳のお誕生日にほしかったじどうしゃをもらいます。 それは、おじいさんの手作りの木の赤い自動車のおもちゃ。本物の自動車がほしかったバスティは、思わずなきそうになりますが、おばあさんが不思議なことを言います。 「このじどうしゃはね、花のつぼみとおんなじよ。まっててごらん。雨がふったら、すてきなことがおこるから」 次の日は雨、すると、本当に木の自動車が、雨にぬれたとたんむくむくふくらんで、本物の走る自動車になったのです!
小学館世界の創作童話の一冊。 白黒とカラーのイラストが、交互に編まれた構成。 くっきりと美しくこっくりした明るい色で描かれた、奇想天外な物語が、夢一杯の楽しいドライブにさそってくれます。 物語の最初と最後の、おばあさんの静かな一言が、とても好き。
原書は『DAS REGENAUTO』Verlag Heinrich Ellermann KG Miinchen,West Germany とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど↓
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『Das Regenauto. Farb- Bilderbuch. (Perfect)』 Rowohlt TB-V., Rnb. (2001/06) |
邦訳の表紙と同じだと思われます。 繰り返し再販されているのですね。
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『ヨーザとまほうの バイオリン』 ヤーノシュさく やがわすみこやく 偕成社 1981年 品切れ
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まほうのバイオリンを手にしたヨーザは、いばりんぼうをこらしめ、まずしい人を助けながら、遠い月をめざします。 父のような炭焼きになれなかったヨーザですが、別のやり方で、父を喜ばせることができたのでした。
大胆で繊細な絵、おおらかで不思議な物語で、月のしらべがきこえてくるような美しい絵本。
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ちびでちからもなく、大きくて力持ちの父のような立派な炭焼きになれそうにもないヨーザ。けれど友達の鳥が、ヨーザに魔法のバイオリンをもってきてくれました。 大きさは鳥の羽くらい、弓はせいぜいくさのくきほどの小さなバイオリンでしたが、鳥におしえてもらったまほうの曲を奏でれば、相手はだれでもまほうにかかり、大きくつよくなってしまうのです。そして、同じ曲をさかさまからひくと、だんだん小さくみえなくなってしまいます。
「お月さまにこの曲をきかせたらどうだろう?やっぱり、大きくなったり小さくなったりするのかな?」 ヨーザはお月さまを目指して、遠い長い旅に出ることにしました。 「父さん、ここで空をみはっていてね。ぼくがお月さまにまほうをかけてみせるから。そしたら父さんもみんなにじまんできるよ。−どうだい、うちのせがれのヨーザがお月さんをまほうかけてるんだぜって。」 ・・・
こうして、ヨーザの不思議な旅が始まりました。けれど、道はとおく、ヨーザはちっぽけ。まほうで大きくしたアリの背中に乗って進み、出会った動物や人たちに、月への道をたずねますが、 「おしえたってなんになる」 と、みんなは自分の問題にあたまを悩ませていて、なかなか教えてくれません。そこでヨーザは、まほうのバイオリンを奏で・・・。
深く澄んだ青を基調に、濃厚な筆遣いでのびのびと描いた不思議な絵が魅力的。昔話のようにおおらかな物語は、出会う人に幸せを運びながら、お月さまをめざしてすすみます。世界中に大きな人と小さな人がいっぱいいるわけや、ひなぎくがひまわりになったはなしなど、ところどころに、ヨーザのバイオリンのおとしもののようなエピソードがさしはさまれていて、茶目っ気もたっぷり。王さまとの場面では皮肉もさらりともりこまれています。 物語そのものも、月に男が住んでいる、という伝説をさりげなくふまえているのかもしれないなと思いました。
父のようにはなれなかったけれど、別のやり方で花開いたヨーザ。 青い月の光のように、静かで冴えわたった不思議な物語。
原書は『DER JOSA MIT DER ZAUBERFIEDEL』1967 Parabel Verlag とあります。
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『Der Josa mit der Zauberfiedel. Nach der neuen Rechtschreibung (Perfect)』 tabu Vlg., Mchn. (2001/08)
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装丁は異なりますが、表紙の絵は邦訳と同じものだと思われます。
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『とべとりとべ』
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ヤーノシュ作 楠田枝里子訳 文化出版局 1979年 品切れ
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町に住むふたりの子どもが、がらくたいっぱいの原っぱで見つけたアルミニウムの缶で、空想のゆめのくにごっこをはじめました。缶はロケットで、好きなところへとんでいけるのです。 ところが、そこにはおそろしい人食いライオンや魚がいて・・・。
のびのびと美しい絵で描かれた、謎めいたおおらかな物語。読者が書き込んで参加できる珍しい(?)ページもあります。
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ヤーノシュさんの、濃厚な色彩の濃密なタッチで、自由闊達奔放自在に描かれた、不思議で美しい絵本。ヤーノシュさんの濃いタッチがとても好きなのですが、さらにこの絵本に出てくる不思議な同心円状のカラフルな文様、フォークロア的な文様のちょうちょに、目が釘付けになりました。目を惹く鮮やかさ、心に残る美しさ。どうしてこんなにのびのびと、ときはなたれた空のような魅力的な絵が描けるのかしら。
主人公は、クノフとツビーベルという、ちいさなふたりのおとこのことおんなのこ。 ねずみいろのせかせかした町の、粗大ごみ不法投棄場みたいになっている緑の原っぱにやってきたふたりが、がらくたのアルミニウム缶を見つけて、その缶を家に見立てたり、ロケットに見立てたりして、自由に空想の国で遊びます。 ロケットで向かったところが、おんなのこのツビーベルの行きたいおとぎの国だとすると、クノフが言うにはライオンがいて、早速ツビーベルは半分ライオンの口の中。助けるには・・・。 ページをめくると、左ページに描きかけのライオンの線画、右ページにぐるぐるの渦巻きの線。 「ライオンをつかまえたかったら、このほんにおおきくかいてごらん。いろんないろで、しっぽのさきがまほうのらせんのまんまんなかにくるようにかくんだ。それができればどんなライオンだってやっつけられるよ。」
堂々と落書き、じゃなかった、書き込みのできる、読者参加型絵本なのですね!
そもそも不思議な物語で、クノフとツビーベル以外にも、決まった時間に原っぱにまほうのがらくたを探しにやってくる不思議な衣装のまほうつかいのイクス親子や、原っぱの前でガムやビーだまなんかを売っているかわいい出店のおじさん、ブンビーデルなどが、登場するのですが、実際には何も具体的に物語にかかわる行動をしておらず、その登場する一行に名前だけというひかえめな活躍です。
タイトルの『とべとりとべ』(原題、Flieg Vogel flieg)も、暗示的で不思議で、確かに表紙にとりが描かれていて、イラストのあちこちにもいろいろなとりが登場していますが・・・テキストにはどこにも顔をのぞかせていないのです。
大活躍するのは、物語に魔法のような魅力を与えるクノフとツビーベルの大いなる空想力と、絵本に書き込んだりして参加する読者の子どもたちなのかも!
それにしても、情けないことに最後の問題がまだ解けないでいるのですが、だれか教えてくださいな!
原書は『Flieg Vogel flieg』1971 Parabel Verlag GmbH,Munchen とあります。
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『新装版 大人のための グリム童話』 ヤーノシュ作 池田香代子訳 宝島社 2004年 1994年同社より単行本として刊行され、99年に文庫化された『大人のたのグリム童話』を新装版にしたもの
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T男と女 U子ども Vお金 W人生いろいろ の大きな4章にわかれ、「ラプンツェルのサラダ」「ハリネズミのハンス」「黄金のガチョウ」「しあわせなハンス」などなどなど、悲喜こもごもごもっとも人生のこもったパロディ・メルヒェンがよりどりみどり。 訳者の池田香代子さんのあとがきを読むと、もっともっとヤーノシュ・ワールドひたれます。
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←楽天ブックス(表紙はカラー、本文は白黒の挿絵)
ヤーノシュさんが描くグリム童話って、どんなのだろ・・・と、(今頃ですが)思って、とりあえず図書館で借りてみたのが、お手ごろな感じの白黒『新装版 大人のためのグリム童話』。 これが個人的には大当たりだったと思います。 なんてったって、ヤーノシュさんの皮肉当てこすり揶揄自虐的グリム童話はもちろん・もちろんのこと、訳者の池田香代子さんのあとがきがいい。たまらなくいい。ヤーノシュさんがこだわって(※)手塩にかけたグリム童話の単行本によせたあとがきがまずひりひりとスパイシーで、後に文庫本によせたあとがきが、酸いも甘いもかみわけたあとの人生の深淵を勝手に見せてもらった感じでいい塩梅。 (※・・・なんでもあとがきによると、いちど40歳の時に出版したものを、60歳を迎えてもう一度書き換えて絵も全部書き直して、新版のグリム・パロディを出したのだそうです。このこだわり!)
「文庫版では、ヤーノシュの絵が新たな細密画の魅力をはなっている。単行本ではほとんどがカラーだったが、このたびモノクロになることによって、勝手に新しい境地をひらいている。 ・・・」 (『新装版 大人のためのグリム童話』宝島社 文庫のためのあとがき一九九九年早春 より)
いいなあ、いいなあ。 もとのカラーの単行本も、あわせて味わわずにはいられなくなっちゃった。
ともあれ、ちょいと順番を飛び越えて白黒新境地版を堪能してしまいました。 ヤーノシュさんがグリム童話をどうとらえ、どうさばき、どう味付けしたか。真剣にちゃらんぽらんで、飄々と堂々としていて、自由摩訶不思議で、切々と諭されたようでちゃらちゃらとちゃかされたようでひらひらと惑わされたようで、結局とりこになってしまう・・・手練手管の悪女くらい困った魅力的なパロディ集です。もとのお話なんか、知ってても知らなくても、どうでもいいくらい、骨太なんだもん。
「そのわけを知らなかった人も、この話を読んだんだから、だれかに教えてあげたらいかが?」 (『新装版 大人のためのグリム童話』宝島社 「黄金のがちょう」より)
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もとの単行本はこちら↓。惜しくも品切れなのですね。
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『大人のための グリム童話』 ヤーノシュ作 池田香代子訳 宝島社 1994年 品切れ
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ヤーノシュです。カラーです。文庫版より大きいソフトカバーの単行本です。 文庫本よりしっかりした紙だと思われますが、文庫本みたいに最初から真っ白ではない紙の印刷です。図書館で借りたらすでになんとなく紙の茶変がはじまっていて、ますます勝手にハクとコクをつけています。アクの強いキャラクターの、褪せても変化がなさそうな淡い薄い渋い色使いが、最初からいい塩梅に落ち着いています。古い宝の地図みたいです。
表紙は下↓の原書たちと同じイラストだと思われます。装丁は、少し異なっています。
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原書は『Janosch erzählt Grimm's Märchen』1972、1991 Beltz Verlag,Weinheim und Basel Programm Beltz & Gelberg,Weinheim とあります。 アマゾン洋書で検索すると、これかな?
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『Janosch erzaehlt Grimm's Maerchen. 54 ausgewaehlte Maerchen, neu erzaehlt fuer Kinder v on heute (ハードカバー)』 Beltz GmbH, Julius (2000/08)
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『Erzahlt Grimms Marchen (ペーパーバック)』 Koch, Neff & Oetinger & Co (1996/03)
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アマゾンドイツで検索すると、CDを発見。≫こちらなど。
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