|
『ゆきのプレゼント』 文 ベアトリス・シェンク・ド・レーニエ 絵 ライナー・チムニク 訳 矢川澄子 童話屋 品切れ
|
ライナー・チムニクさんの、かぼそい線のにぎやかにつむがれた白黒の絵を、いつまでも眺めていたい愛らしい絵本。
ふたりぽっちのちっちゃなおとしよりふうふの家に、次々と吹雪で立ち往生したお客たちが訪れました。吹雪の中、にぎやかなパーティを夢見ていたちいばあさんは、大喜びでつぎつぎどんどん迎え入れますが、もてなすものはお茶しかありません。せめてケーキでもあったらいいのに・・・! すると・・・。
吹雪が招いた客たちとの不思議で楽しいひとときを軽やかに描いた、白さがひきたつ美しい絵本。
|
ちっちゃなおとしよりのふうふが、ちっちゃなふるいいなかやにすんでいました。にわとりたちのほかは、ふたりぽっちで。 まいにちまいにちゆきふりの中、ケーキのKMベーカリーのコマーシャルの流れるラジオを聴きながら、ちいばあさんは考えました。 「おおぜいよんで、にぎやかにパーティでもしたいのに。ケーキをやいて、バイオリンひきをたのんで、ダンスして、うかれさわいでね。・・・」
ちいじいさんはあきれ顔。そんな知り合いなどひとりもおらず、ましてやこの吹雪のなか、いったい誰が来てくれるでしょうか?それにきてくれたって、家にはケーキのケのじも、ありゃしないのです。 それよりも、鳥小屋の300ぱのひよこを家の中に入れてやろうよ、少しはにぎやかになるだろうと、裏口から出て行きました。
ちょっと、きいてください! だれか、げんかんをノックしていますよ。コツコツ!
戸を開けると、そこに立っていたのはひとりの男の人。この雪で、大勢乗っている車がえんこしてしまって困っているのです。 ちいばあさんはもちろん大喜びでみんなを家の中に招きいれ、はりきってお茶の用意をします。 そこへ・・・
コツコツ、ノックの音もかろやかに、後々につながる小粋な秘密をしのばせて、ちいばあさんの願っていた、普通なら吹雪の中やってくるはずもないお客たちが、吹雪ゆえに立ち往生して次々と家に舞い込んできます。 戸を開けるたび、11にん、27にん、42にん、おとな、こども、赤ちゃん、ペット・・・と、数も種類もざっくざっくと大雑把にかつ几帳面に増えていき、ちいばあさんも読み手も何だかうきうき楽しくなって大喜び。 だんだんぴよぴよざわざわ部屋の中がにぎやかになるにつれて、おもてなしするケーキでもあったらねえ・・・と、ちいばあさんは思うのですが、そのとき・・・。
ライナー・チムニクさんの、コミカルにふるえるかぼそい線の、人情が凝縮されたような、ぬくもりと華やぎが好き。小さな子ならぬり絵をしたくなるような(?)線と線の間の色のない空間から、読み手にゆだねられた自由な色や、旋律さえ、聞こえてくるような気がします。 夢見るちいばあさんと、人のいいちいじいさんをはじめとして、訪れる人たちひとりひとりのにっこりと結ばれた明るい表情も好き。
吹雪がもたらした、予期せぬ客たちとのにぎやかな、つかのまのパーティの不思議。みんなが楽しんだ、魔法のようなひとときを、巧みにつむがれた物語で楽しめる絵本。 ちいばあさん、ちいじいさん、なんて、矢川澄子さんの訳も美しく、きらきら、さらさらとした真っ白な雪のよう。
ライナー・チムニクさんの本は、パロル舎から、『クレーン男』、『セーヌの釣りびとヨナス』など、少し前に次々と復刊がなされています。 テキストのベアトリス・シェンク・ド・レーニエさんの別の作品、『ともだちつれてよろしいですか』▲(童話館出版)、『くつがあったらなにをする?』(福音館書店)も、復刊がかなっています。 ぜひぜひ、この絵本も、ほんとうの『ゆきのプレゼント』として復刊を希望いたします。
▲上へ
|
『ゆきのよるのおきゃくさま』 ティルデ・ミヒェルぶん ラインハルト・ミヒルえ ひらのきょうこやく 宝島社 1994年 品切れ
|
雪の夜のハンスの家を次々と訪れるお客さまは、いつもなら考えられない組み合わせ。けれど今夜は、いつもとは違う吹雪の夜です。いつもなら考えられない不思議なことがおこるのです・・・!
ほんわかメルヘンというよりはちゃっかり現実的で、うふふというよりはニヤリと笑える、不思議で愉快なドイツの絵本。
|
さむいさむいくにの、吹雪の夜に、森の外れにひとりで暮らすハンスの家でおこったお話。
さむさにこごえた動物たちが、つぎつぎとハンスの家の戸をたたきます。 最初はうさぎ、それからきつね。それから、くま。 ハンスの家でひと心地ついていた先客の動物たちは、後からの客にそれぞれ身の危険を感じ、うさぎはきつねを、きつねはくまを拒みますが、きつねもくまも命がけ。うさぎをたべない、おとなしくする、とそれぞれ約束します。
「それならおはいり」 ハンスに招き入れられて、吹雪に導かれた特別な組み合わせの客たちが、一晩いっしょに眠ることになって・・・。
民話のような、三度の繰り返しが楽しく心地よい、読むほどにわくわくはらはらする絵本。 命の危機を前にしては、普段の敵味方などもはやかまっていられません。ハンスのふところの広さに心うたれ、逆巻く吹雪の中しっかりと持ちこたえているハンスの小さな家の確かさに、心がほっと和みます。 とはいえ、物語はそこでは終わりません。吹雪の中の小さな家で、安堵といれかわるようにそれぞれの思惑と疑心暗鬼が頭をもたげ・・・。
吹雪の夜ではないですが、霧の夜の動物たちの、一つ屋根の下に身を寄せ合う物語を、リズミカルな繰り返しでわくわくはらはらと描いた日本の絵本に、『とんとんとめてくださいな』▼(福音館書店)があります。そのほんわかとメルヘンな結末に対して、『ゆきのよるのおきゃくさま』の結末は、どこかにやりとシニカルな雰囲気。 恐れるものと恐れられるものの、大・中・小ときれいに並ぶモチーフの美しさを楽しんだり、吹雪がめぐりあわせた特別の組み合わせの、他では決してありえないようなひとときの不思議を楽しんだり・・・。
丁寧な線とやわらかい色で描かれ、真面目さとユーモラスがほどよくまざったイラストも、本当にあったような夢のような不思議な物語にぴったりで魅力的。
原書は『Es klopft bei Wanja in der Nacht.』Verlag Heinrich Ellermann,Munchen 1985 とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど↓
|
『Es Klopft Bei Wanja in Der Nacht : Eine Geschichte in Versen (ペーパーバック) 』 Deutscher Taschenbuch Verlag (DTV)
|
邦訳版と同じ表紙。
|
|
『Es klopft bei Wanja in der Nacht. Eine Geschichte in Versen (ハードカバー)』 Ellermann Heinrich Verlag
|
ペーパーバック版、邦訳版とは表紙が異なっています。邦訳本文中にはないもので、物語を凝縮したような構図になっているので、表紙のために描かれたものかな?
|
テキストの作者、ティルデ・ミヒェルスさんは、1920年ドイツのフランクフルト生まれ。アマゾン洋書で検索すると、『Gustav Baer geht in die Schule. Schreibschrift. ( Ab 6 J.) 』(Edition Buecherbaer Im Ar )、 『Igel, komm, ich nehm dich mit. Druckschrift. 』(DTV Deutscher Taschenbuch)などなど、数多くの作品がヒットしました。多くの国で翻訳されているそうです。邦訳作品には、『こぐまのグーちゃん 』(ポプラ社 品切れ)、『くまの3びき チリ、ビン、モッケ』(同)など。 画家のラインハルト・ミヒルさんは、1948年ドイツ生まれ。ドイツでもっとも有名な絵本作家の一人だそうです。アマゾン洋書で検索すると、 『Der Findefuchs. Wie der kleine Fuchs eine Mutter bekam 』(Thienemann Verlag GmbH )、 『Wuschelbaer. Druckschrift. 』(DTV Deutscher Taschenbuch)などなど多数。邦訳作品では、『みなしごギツネ 』(福武書店 品切れ)、『モジャクマくんのいえで 』(講談社 品切れ)など。 (『ゆきのよるのおきゃくさま』宝島社 表紙カバー裏見返し 著者紹介 参照)
▲上へ
|
『とんとん とめてくださいな』 ぶん・こいでたん え・こいでやすこ 福音館書店 1981年福音館のペーパーバック絵本 1992年福音館の幼児絵本
|
「とんとんとめてくださいな」 夜の霧の森で、道にまよった動物たちが、つぎつぎと主のいない家の戸をたたきます。そのたびに、失礼してベッドにもぐりこんでいた先客たちはどきりとして、似たような仲間にほっとして。 けれど、最後にどしんどしんとやってきて、とんとんともしないでドアをあけたのは・・・!
細部まで丹念に描きこまれ、いくつもの物語をしのばせた淡い絵と、どきどきとはらはらの心地よい繰り返しの結末に驚きを仕掛けた楽しい文章が、一つにとけあった物語。 文も絵もとんとんとリズミカルで、大小の見せ場もたっぷり、読み聞かせにもぴったり。
|
「とんとん とめてくださいな」 とっぷりと暮れた霧の森で、道に迷った動物たちが、明かりを頼りに森の奥の一軒家をつぎつぎと訪れますが、家の中には、だあれもいません。 疲れ果てた動物たちは、わるいかなと思いつつ、そうっと中に入り、あたたかな部屋の大きなベッドに、つぎつぎにもぐりこんでしまいます。 三びきのねずみがもぐりこんだところへ、二ひきのうさぎ、二ひきのうさぎが加わったところへ、三びきのたぬき・・・順番に戸がたたかれるたび、中の先客と読み手はどきり。お客が同じ境遇の似た仲間と知って、小さく安堵の息をつくも、最後にどしんどしんとやってきて、 「とんとん とめてくださいな」 ともいわず、ぎいーっとドアをあけたのは・・・!
口調のよい民話のような、繰り返しながらどきどきが高まっていくテキスト、細部まで丁寧に描きこまれ、物語全体の和やかな雰囲気をもりたてている親しみやすいイラスト、怖いもの見たさの子どもたちも大満足、楽しいどんでんがえしに大人もほのぼの、小さな子も夢中で見守る、愉快で美しい絵本。読み聞かせにもぴったり。
ねずみ、うさぎ、たぬき・・・と、少しずつ大きくなる繰り返しもさることながら、それぞれが三びき、二ひき、と、複数のかたまりであることも、目で見る楽しみをふくらませてくれているように思います。それでいて、さりげなくきちんと、三びきのねずみの個性も打ち出されていて(特に赤いぼうしのコ)、丹念な絵のそこここにかくされた手がかりを楽しむこともできます。 この三びきのねずみシリーズ(福音館書店)は、他にも『はるですはるのおおそうじ』、『とてもとてもあついひ』、『ゆきのひのゆうびんやさん』 などがあります。
なかでも、『とんとんとめてくださいな』は、海外にも翻訳紹介されたそうです。アマゾンではこちらなど。↓
|
『May We Sleep Here Tonight? (ハードカバー) 』 Margaret Mcelderry; Revised版 (2000/05)
|
|
この記事へのコメントを読む▼*書く▼ (この記事へ戻るには、ブラウザの戻る、をクリックしてくださいね) |
▲上へ
特集*ゆきのおくりものえほん 「特集」の絵本箱へ
HOMEへ
Copyright (c)2005-2007 kudolacieko All Rights Reserved
|