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『お日さまをみつけたよ』 マイ・ミトゥーリチ原案 絵 松谷さやか 文 福音館書店
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北の果ての森に、やっと訪れたまぶしい春を、快く思っていない動物がいました。ふくろうです。 ふくろうがぬすみ、ほらあなの奥深く隠したおひさまを、みんなの代表で取り戻しに行ったのは、足の速い小さなうさぎと、力持ちの大きなくまでした・・・。
マイ・ミトゥーリチさんの、水墨画にも通じるような筆さばきと、やわらかいピンクのさし色が美しい絵本。
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「このお話は、シベリアの昔話をモチーフに制作したもの」 だそうです(本文奥付より)。
北の果ての自然豊かで厳しい大地の、凍てついた長い冬がやっと終わり、やさしくまぶしい春がやってきました。 森は、あたたかく、やわらかくみずみずしい春の光に満たされて、新しい命をはぐくむ動物たちでにぎやかです。
たった一羽、ふくろうだけは、このことをこころよく思っていませんでした。 そしてある日、ついにおひさまをぬすんで、ほらあな深く閉じ込めてしまいます・・・。
まっさらのまっしろのパレットをおろして、どきどきしながら好きな色の絵の具をほんのちょっとだけのせて、水で溶いてみた、あの初めての色のように、ほんのりと淡い筆の色彩が、とても美しいイラストです。 下絵など何もなく、筆で一気に描き上げたようにも思える大胆さなのですが、それぞれの色ににごりがなく、重なりや、ぼかしやにじみを自在に操る繊細さを持ち合わせていて、みずみずしい雰囲気。 冬の暗い灰色の世界では指し色として、春のまぶしく明るい世界ではやわらかい日差しの一色として、のびやかに用いられているピンク色がとても印象的。
奥深く隠されたお日さまを、動物たちを代表して探しに行くのは、足の速いうさぎと、力持ちのくま。ぴょんぴょんすばしこいながら、小さくてあとちょっと力及ばずのうさぎと、のっそりのっそりゆっくりながら、大きくて頼りになるくまの、2匹のそれぞれの特長を活かして、物語を大きくリズミカルに進めます。 まるで、小さな子どもがおとなの手をひっぱって、「はやくはやく来て来て」と、言っているみたいなほほえましい雰囲気があるような気がします。
物語は比較的素直な展開なので、小さい子にもわかりやすく、親しみやすい感じ。
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さらに、ロシアのおひさま絵本をもう少し。
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『ぬすまれたおひさま』 コルネイ・チュコフスキー作 ユーリ・ヴァスネッツォフ絵 松谷さやか訳 らくだ出版 1975年 現在品切れ
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空のおひさま、わにがぱっくり、世界はまっくら。 わにからとりもどせるのは、くましかいないと、みんなが頼めば、こぐまが迷子で、おろおろぐまも、うさぎに諭され、ついにうぉーと、立ち上がる!
ヴァスネッツォフさんの、濃厚な色彩と、温かくユーモラスなタッチの動物たちのイラストが、大らかで力強いお話の雰囲気にぴったり。
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「ぬすまれたおひさま」は、えらびぬかれた美しい言葉が正しい韻律をふんで並んでいるすばらしい詩物語です。と、あとがきにあります。 コルネイ・チュコフスキーさん(1882-1969)が、子どものために選びぬかれた言葉でつむいだ詩物語の一つで、いまなお古典として子どもたちに愛され続けているそうです。
物語は・・・ 空にかがやくおひさまを、わにがぱっくりのんでしまって、あたりが真っ暗になってしまいます。 困った動物たちは、わにからおひさまを取り戻してほしいと、強いくまに頼みます。 おじいさんぐまはちょうど、こぐまがいなくなって、おいおい泣きながら、うろうろ探し回っているところ。
そこへうさぎがやってきて、 「おじいさんがなくなんておかしいわ あなたはうさぎとちがってつよいくまさんよ ・・・ おひさまがふたたびそらにかがやけば、 あなたのけむくじゃらのぼうやたち まんまるかかとのちびっこたちが おうちにかけもどってくるでしょう ・・・」
励まされ諭されて、おじいさんぐまは、棍棒をもって力強くわにに立ち向かいます。 そしてくまがうぉーっとわにをおさえつけて・・・。
ここでも、くまとうさぎが物語の重要人物として登場することが興味深いです。 愛らしく足が速いけれど、身を守る牙も爪も角もなく、小さくて無力なうさぎが、大きくて力の強い毛むくじゃらのくまを、力ではなく言葉で説得して、その気にさせる、という設定が、どことなく痛快なイメージです。 そのくまも、可愛い孫がいなくなって必死で探しているという設定なので、毛むくじゃらでコワモテだけれど、実はお人よしのやさしいおじいちゃん、という、どこかほのぼのした素朴なイメージでもあります。 ヴァスネッツォフさんの描く、たけだけしさと素朴な愛嬌が巧みに入り混じった、濃い茶色の横顔のくまさんが、まさにぴったり。
この絵本も含めて、ヴァスネツォフさんの絵本は、『3びきのくま』(福音館書店) 以外、現在品切れ絵本ばかりなので、ぜひとも、もう一度よみがえり、おひさまのように輝いてほしいところです。 ちなみに、いまとても気になる洋書はこちら。↓

『ラドゥーシキ』 ヴァスネツォフ挿絵の ロシアの民謡民話集。 クリックすると、 楽天「RUINOK」さんで 詳細がごらんいただけます。
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『おひさまパン』 エリサ・クレヴェン作絵 江國 香織訳 金の星社
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おひさまが隠れ、通りも心も冷え切った動物の町。 おひさまを待ち焦がれたいぬのパンやさんが、とっておきのおひさまパンを焼くことにしました。
するとおひさまパンは、ふくらと香ばしく、ほかほかとあたたかく、おひさまのように輝きながら、ふくらんで、ふくらんで・・・。
手作りのパッチワークのような夢いっぱいのイラストと、香ばしくにおい立つような美味しいパンのお話で、おなかも心も温まり満たされるやさしい絵本。
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こちらはアメリカの人気絵本作家エリサ・クレヴェンさんの描いたほかほかぽかぽかのおひさま絵本。 Makさまに教えていただいて(ありがとうございました)、さっそく図書館でリクエストしてみました。 エリサ・クレヴェンさんの、『あかいことりとライオン▲』(徳間書店) がとても好きなのですが、こちらの『おひさまパン』も、手作りのパッチワークのような、にぎやかなコラージュがとても楽しくて、幸せそうな動物たちの顔を見ているだけで、こころがぽかぽかしてくる絵本です。
物語は、おひさまがすっかりかくれてしまった動物たちの町は、雪と薄闇に閉じ込められて、心も灰色、氷のようにとがり、冷たく凍えてしまいそうです。 そんなとき、いぬのパンやさんが、おひさまを待ち焦がれて、とっておきの「おひさまパン」を焼くことにしました。 「ほんとうのおひさまはかくれたままだから、わたしがちいさなおひさまをやくってわけ」
すると、どうでしょう、なにかまほうの粉でも入っていたのでしょうか、おひさまパンは、おいしそうに、かがやかしく、ふくらんで、ふくらんで、ふくらんで、店いっぱいにほかほかぽかぽかとふくらみました。 まるでお店の中に、おひさまがおりてきたみたいです。 町中に広がるふっくらと香ばしい匂いに、暗い顔の動物たちがつぎつぎと誘われるように集まって・・・。
にぎやかで心浮き立つようなイラストも、夢のあるテキストも美しく、訳文もふっくらきらきらと輝くような美しさ。
はじめの方の、おひさまがかくれた町の家々の様子が描かれた場面があるのですが、サルやイヌの兄弟がケンカしていたり、親グマが子グマのおいたをしかっていたり、ふてねを決め込んでいる動物たちがいたりと、寒さと暗い空と家の中に閉じ込められて、うんざりしている動物たちの様子が、とても細やかに描かれています。 例えば雨続きで、お休みの日に一日中部屋から出られない某3姉妹の時間の経過に伴う部屋の中の状態を思い出すだけでも、このイラストは「そうそう、そうなのよ」とても親しみが感じられるのですが(笑)、このご機嫌ななめのイラストが、本文ラスト近くで晴れやかに一変する場面は、眺めているだけでも「よかったね」とうきうきしてきます。
母親の細やかなやさしいまなざしで、一筆ひとふで心を込めて作り上げたような、ふっくらとした現代版おとぎ話。 裏表紙には、注意がきもしゃれている美味しそうなおひさまパンの作り方がのせられていますので、親子で挑戦・・・してみたいです、ああ、オーブンほしい(笑)。
おひさまの出てくる絵本は、どこか素直で喜ばしく、みんなが幸せになるような絵本が多いようにも思います。よろしければ図書館などでお読みになってくださいね。
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