『わたしのぼうし』 さのようこさく ポプラ社 1976年
お気に入りのぼうしへの小さなこだわりが、夏のさわやかな情景の中に少しずつとけていくさまを、懐かしい夢のように美しく描いた詩的な作品。 おにいさんのぼうしは青いリボン、わたしのぼうしは赤いリボン、わたしはこのぼうしがとても好きで、とんぼとりに行くにも、おでかけするにも、いつも必ずかぶっていました。ところがある日、きしゃでおでかけの際、窓からふわりとわたしのぼうしが飛んでいってしまったのです。
おにいさんとおそろいで、新しく買ってもらったぼうしは、なんだかわたしのぼうしではないみたいです。だからわたしはかぶりません・・・。
ところがある暑い日、おにいさんととんぼとりにでかけたわたしのぼうしに、ちょうちょがとまって・・・。
たくさんのセミがぴたりとそろって鳴き声を止める一瞬のようでいて、子どもの頃果てしなく永遠に思われた大人になるまでの長い日々のようでもあり、わたしとおにいさんの心臓のどきどきの共鳴が聞こえてきそうなほど、静かでひそやかで、長くて短い忘れがたき時間・・・。を、寄り添い並んでしゃがむ後姿で淡々と描いた場面が鮮やか。 余談ですが「しゃがんで待つ」、あれはとてもくたびれたときにも思わずしてしまう行為ですが(笑)、心に何かどきどきを抱えている時にも、こぼさないように思わずひざごと抱え込んでしまう形なのかも。
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