『つきのぼうや』福音館書店

『つきの
ぼうや』
イブ・
スパング・
オルセン
さく
やまのうち
きよこ
やく
福音館書店
1975年

お月様絵本の決定版ロングセラーのロング・ロング・絵本。

夜空に浮かぶお月さまが、池に移る自分の姿を見て、
「あのつきとともだちになりたい」
と思いました。
そこで、つきのぼうやのお使いです。
かごを持って、いってきます、と、元気よく空から地上へと飛び降りました。

その、空を下へ下へと気持ちよく落ちていく間の、つきのぼうやが出くわしたものたちや人々との、つかの間のかかわりを、絵本の細長さを巧みに活かして、愉快に爽快に描いた、愛らしくほほえましい傑作古典絵本。

メルヘンもユーモアも皮肉も茶目っ気も、つきのぼうやが全編にわたって、きらきらとふりそそいでくれているようです。

原書は『DRENGEN I MANEN』1962、とあります。(正確な表記ができなくてごめんなさい)
これこれ。
実は、その昔ハハが高校生だった頃(ホホホ)、初めて「紀伊国屋書店」なる大型書店に出向き、一目ぼれしてつれて帰った絵本なのですよ。
その背高で細長いフォルムが目をひいたせいもあるけれど、何よりその後の私の絵本における好みを決定付けたともいえる、大好きな水色と黄色の黄金コンビ、というか黄水コンビのすっきりスマートな色使い、そして黄色いまんまるお月様にほれたのです。

さらに、つれて帰ってわくわくと読んだ物語にも、フォールインラブ。落ちました。ええ、恋に落ち、目からはウロコが落ちたのです。

物語は、『不思議の国のアリス』のアリスが井戸に落っこちるように、不思議な不思議な時間と空間の中を、おつきさまのお友だちの「もう一人のおつきさま」を探してどこまでも落っこちていく、つきのぼうやの愛らしいお話。

空に堂々と浮かぶおお月様が、ある日地表の池に写る自分の姿を目にして、
「あのつきとともだちになりたい」
と、考えます。いきなりのお月様のメルヘンチックな目の付け所に、表紙とタイトルから期待していた通りのファンタジックな世界が読み手の目の前にぱあっと開けた感じです。
あるいは、有名なイソップ童話の、「橋の上からホネをくわえたまま水面を覗き込んで、映る姿を別の犬と勘違いしたあわれな欲張り犬のお話」を、思い出すようなどこか皮肉なモチーフに、このお月様こんなこと言っちゃっていったいどうなるのかしら、などと、つい余計な心配までして、ページをつぎつぎとめくらずにはいれらなくなります(笑)。

ですがご安心。
イソップ童話の犬とは違って、『つきのぼうや』のお月様にはおつきの「つきのぼうや」がいるのです。


オンライン書店ビーケーワン:つきのぼうや

「ほら、これがつきのぼうやです」

この一文で、何の疑いも驚きもなく絵本から読み手の中に飛び込んで、納得させてしまうのですからますますすごい!

そのつきびとの(まさしく!)つきのぼうやが、それでは探しに行ってまいります、と、かごをさげて(お月様の友だちが手提げかごに入る、と、考えているのでしょうか、その気軽さ・気楽さと現実との落差がこれまたたまらなくをかしです)、ぴょいと地表目指して舞い降りて・・・。

という、お話です。
その舞い降りる、地上までの時間と空間の中で、つきのぼうやがおつきさまの友だちを探すお話、がこの絵本の主題なのですが、これまた不思議で、ユーモアと茶目っ気たっぷり、すみずみまでお楽しみ。

オンライン書店ビーケーワン:つきのぼうや左側の物語の文章を追いかけて読むと、右側のイラストの目線も自然に下りていき、するとつきのぼうやも知らぬ間に下方へ移動しているという、長い長い形の絵本ならではの特長を、巧みに活かした絵本です。
その中で、つきのぼうやが通りすがりに空を飛ぶ雲や飛行機や鳥にであったり、探しているお月様のような丸いもの・風船やボールなどに出会ったり、飛行機やアパートの窓越しに女の子や男の子に出会ったりする、さまざまなひとコマが軽やかに描かれています。

特にお気に入りの小さな場面は、木の上のりんごをもいでいる女の子に出会って、りんごをもらったつきのぼうやが、おかえしにつきのかけらをふりかける場面。なんて小粋でおしゃれなのでしょう!

それから、えんとつそうじのすすで顔が真黒になったおしゃれなつきのぼうやを、アパートの窓越しに見たお母さんが、自分の子どもに、
「ほらね、かおをあらわないと、あんなふうになりますよ」
と、しつけの反面教師の具体例として諭している場面。なんて大真面目にとぼけているのでしょう!
つきのぼうやの存在など頭から信じない大人も、素直にそのまま受け入れる子どもも、知らぬ間につきのぼうやをめぐって会話をむすぶ、そのズレがいとをかしです。

世の中にはさまざまな見方があり、その見方についてそれぞれさまざまな味方がついていますからね!

お月様の味方はもちろん、つきのぼうや。
つきのぼうやは首尾よく池の中のお月様をつれて帰ることができるでしょうか?

物語の巧みな結末は、古典絵本の傑作としてぜひお子さまと楽しくお読みいただきたいのですが、たわごとを少し。もし、池の中のお月様を見つけられなかったとしても、それはそれでお月さまは幸せだったのでは、などと、ハハとしてはオトナ読みでたまに考えたりするのです。
だって、お月様のいちばんの幸せは、やっぱり池の中のお月様ではなくて、いちばんそばにいるつきのぼうや、とともにあると思うのですよ!

ともあれ、私たちの幸せは、『つきのぼうや』が昔も今もずっと読み継がれ愛され続けて、こうして書店でも図書館でも普通に手に取れることですよね。
というのも、この絵本は、1972年国際アンデルセン賞受賞作家のイブ・スパング・オルセンさんの邦訳作品で、現在も普通に入手可能な貴重な絵本の1冊なのです。(他には、アンデルセン童話集全4冊(『親指姫』など 福音館書店、bk1さんの画像は文庫版→オンライン書店ビーケーワン:親指姫が、あります。・・・ちなみにハハのいちばんお気に入りで目下探求中の絵本は、『小人のすむところ』(ほるぷ出版、品切れ)です・・・)

その細長い形の特殊性ゆえ、本棚になかなかおさまりにくい(そしてひとたびおさまると発見しにくい)絵本ではありますが、飾っても絵になるとっても愛らしい絵本ですので、ぜひ図書館などでお読みになってくださいね。

▲上へ

絵本箱へ
くどー★La★ちぇこさんの絵本箱へ

HOMEへ
くどー★La★ちぇこさんの絵本日記HOMEへ


Copyright (c)2006 kudolacieko All Rights Reserved