■谷川晃一さんの絵本 |
1938年東京生まれ。攻玉社高校卒業、絵画は独学。画家・評論家。『ウラパン・オコサ』(童心社)▼で日本絵本賞を受賞。著書に『デッサン・ノート』(日本放送出版協会) など多数、絵本に『へんしーん』(偕成社)など。 (『お月さまにげた』毎日新聞社 著者紹介 参照) |
『お月さまにげた』*『おんどりボルケ』*『ウラパン・オコサ』 |
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『お月さまにげた』 谷川晃一作・絵 毎日新聞社 2005年
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嵐の夜、海辺の酒場にひょっこりやってきたのはなんとお月さま。顔はお月さまですが、普通の服を着て、普通におしゃべりして、普通によっぱらう、なんだか気さくで愉快なお月さま。 事の成り行きに驚き、お月さまに敬意を表して、店でいちばんいいワインなどさしだしていた店主のボトルですが、あれれ、だんだん、途中から、雲行きがあやしくなってきました。 お月さまの本物の煌々たる明かりを浴びながら、なにやらよからぬことを思いついてしまったのです。 このままお月さまを閉じ込めて、うちの宝物にしてしまおうと!
まんまと閉じ込められ、店の見世物にされてしまった気の毒なお月さまは、なんとか窓から抜け出そうとしますが・・・。
一見無邪気で実は邪気だらけの(?)お話が痛快。抜け目のボトルとお月さまの勝負、どちらの勝ち?
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嵐になりそうな夜。 海辺の酒場≪金の魚≫の主人・ボトルが、客もこないだろうとあきらめ顔で、店をしめようとしたとき、 「ワインをのみにきたよ」 といいながら、お月さまがドアをあけました。
「今夜はあらしだから、わたしは空にいなくてもいいんだよ」 といいながら、お月さまはワインをつぎつぎおかわりして、とうとうよっぱらってねむってしまいました。 ・・・
嵐で非番の(?)お月さまが、下界の酒場にお出ましするところも愉快ですが、そのいでたちも立ち居振る舞いもなかなか痛快。普通のおっさんみたいによいつぶれるところなど、親しみやすくてニンマリしてしまいます。 さらにニンマリするのは、はじめのうち、陽気で人のよさそうに見えたボトルのまさかの豹変ぶり。昔話のように、正直じいさんとよくばりじいさんのどちらかに分類してしまいにくい、裏表のあるボトルに、妙に人間くささを感じてしまいます。 人間くさいといえば、なんとか逃げ出そうと試みるお月さまのあがきや、鉄格子の窓からも真ん丸の体がつかえて抜け出せないお月さまのしょんぼりぶりも、かなり表情豊かで、あわれを誘います。
大胆なデザインに、鮮やかな色使いやコラージュを駆使しているのですが、なんとなく頼りない雰囲気のタッチ(失礼!)で、ひょうひょうとした物語を痛快に描いた絵本。 縦書きのテキストも、国語の教科書みたいで、新鮮でどこかなつかしい感じ。 ひとくせもふたくせもある登場人物の行動が、単なる子供向けの絵本ではない展開で、大人もしっかりウシシとほくそえみたくなっちゃいます。 意外にも3姉妹に大人気でほくほく嬉しかったのでした。
まったく余談ですが、海辺の酒場の名前≪金の魚≫や、荒れる空や海のモチーフが、ロシア民話、プーシキンの「金の魚」を思い出させて、ますます味わいが増してくる感じです。
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簡潔で的確なテキストとイラストで、素朴にユーモラスにリズミカルに、はりきりもののおんどりボルケの再生の軌跡を描いた絵物語。 鳴けなくなったボルケのために、村人がこぞって手をつくしても、どうにもならないところまできたとき、ボルケの心にふと響いたのは・・・。 ゆっくりと元気があふれてくる読み物。
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クワアー クエーッ コオー コオー このむらでは おんどりボルケは 「めざましどけい」の かわりです。 おんどりボルケの鳴き声で、太陽も山も森も動物たちも人々もサーカス団も、みんなみんな目を覚まします。
むらじゅうをあさにするおんどりボルケはにんきもの。 今朝はサーカス団の人たちも、ボルケをひとめみようとやってきたので、ボルケはとくいになって、30回も鳴いてみせました。でもはりきりすぎて、そのうちグーグーとおおいびき。 そして翌朝、声が出なくなってしまったのです!
ボルケが鳴かないので、このむらの太陽は目を覚まさず、人々はまっくらで困ってしまって・・・
突然の不調に陥ったはりきりもののおんどりボルケと、なんとかボルケを直そうとあたふたする素朴で陽気な村人たちの、愉快な騒動を描いた絵物語。 シンプルでリズミカルな線画に、青と黄色、黒の3色を基調とした色使いが、すっきりとモダン。ところどころ切り抜かれたカラーフィルムをかぶせるように、線画に当たっている丸や四角の幾何学模様が、まるでスポットライトみたい。
おんどりと太陽、かくれた太陽をとりもどそうとするモチーフや、くりかえしを用いて、ひとつひとつ丁寧に物語る簡潔なテキストは、なじんだ昔話を読んでいるよう。読み進む楽しさと、続く展開への期待に、だんだん気持ちが高まってくるのと同時に、テキストそのものも、なんとかボルケの声をとりもどさせようと、あの手この手、ボルケを取り囲み、だんだん加熱して、カーニバルのように最高潮に達します。いまにも効果音がきこえてきそうな、熱気。
そのとき、ボルケの身におこったことは・・・
ボルケをとりまく状況の変化が、がらりと劇的。 ほろりと、意外なきっかけでボルケの呪縛がほどかれていく場面は、物語の単なるどんでん返しの効果以上に、何だか象徴的で、ゆっくりと心にしみわたるよう。 頑張りすぎてがんじがらめになってしまったとき、一生懸命やったけれど煮詰まってしまったとき・・・ふと耳をかたむけて、ボルケといっしょに聞いて、いっしょに目覚めの力を感じたいな、なんて思ったりしました。
見開き左側に簡潔でリズミカルなテキスト、右側にイラストがおさめられた、全部で80ページもある児童書の形式の本ですが、絵本のように読みやすく、つまり、40ページもイラストが楽しめる、嬉しい絵物語でもあります。
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かずあそび 『ウラパン・オコサ』 谷川晃一 童心社 1999年
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慣れた10進法以外のやり方で、たくさんのものを、一定のまとまりで数える方法を、楽しく遊びながら学べるアートな絵本。 口の中でころがしやすくて、謎めいた言葉、ウラパン・オコサに子どもたちも夢中。 2000年度読書感想文課題図書、2000年日本絵本賞受賞。
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1と2だけでかずあそびしよう 1はウラパン 2はオコサ 3はオコサ・ウラパンだよ
さるが1ぴきでウラパン バナナが2ほんでオコサだよ
さあかぞえてみよう ・・・
2進法を愉快に明快に描いた美しい絵本。 とはいえちっとも堅苦しくなく、ウラパン・オコサなんてオマジナイみたいな言葉で、遊びながら親しめます。 茶色に塗られた背景に、いきいきした筆のタッチが、なんだか板絵のような雰囲気。 さるやバナナなど、かぞえる対象のイラストのまわりに、すいかの種のような点々模様が、2列で行進しているみたいに並んで縁取っているのも、リズミカルで楽しい感じ。なんとなく数えてみたくなります。 大胆で力強いデザインも、ウラパン・オコサの呪文のような不思議な響きも、どこか民族調の素朴な味わい。
何ページが読み進んでいくうちに、「ウラパン」「オコサ」のしくみがわかると、続くページは楽しい問題のページにはやがわり。 どんどんにぎやかになっていくページに、読み聞かせのにぎやかさも最高潮、指二本でたどって数える子、目で追いかけて数える子、上二人をかわるがわる見ながら、とにかくどっちでもいいから叫んでみる三女と(笑)、なかなか白熱したひとときをすごしました。
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