■ドン・フリーマンさんの絵本
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Don Freeman ドン・フリーマン・・・(1908-1978)カリフォルニア生まれ。音楽、演劇、イラストレーター、舞台デザインなど多方面にわたる芸術家。若い頃はダンス・バンドのトランペット奏者で活躍しながら、ニューヨークの美術学校に学ぶ。 二児の父でもあるドン・フリーマンさんは、20冊以上の絵本を出版し、大人の本の挿絵も多数描いた。1958年『とんでとんでサンフランシスコ』(BL出版)で、コルデコット賞オナー賞受賞。1978年の『くれよんのはなし』(ほるぷ出版)が遺作となった。 |
『子リスのアール』*『とんでとんでサンフランシスコ』*『野はらの音楽家マヌエロ』 |
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『子リスのアール』 ドン・フリーマンさく やましたはるおやく BL出版 2006年 48p
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ひとりでドングリを見つけようと決意して、友達のジルにもらった赤いスカーフを持って、夜の森に出かけた子リスのアール。 フクロウが、ドングリの木の場所を教えてくれますが、そこには雄牛のコンラッドがいて・・・。
すっきりとした赤と黒の配色の、リズミカルな版画調のイラストが美しい絵本。きりっと赤いスカーフが、挿絵だけでなく、物語の小道具としても効いていて、楽しくて頼もしい展開に心が弾みます。 少し成長したアールの姿がすがすがしい、大好きな絵本!
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ある秋の朝、おかあさんリスが子リスのアールに言いました。 「ねえ、アール。そろそろおまえも、外にでて、じぶんの手ででドングリを見つけることを、おぼえるときだよ」 そこでアールが、まず友達の女の子・ジルの家の窓にすっとんでいくと、ジルは大きなドングリとクルミわりの道具をくれました。 こんなにはやく立派なドングリが見つかるなんて、きっとおかあさんもほめてくれるだろうと、アールがいさんで帰っていくと、おかあさんはアールに言いました。 「ちょっと、こっちにおいで、アール。いっておきたいことがあるの!」 ・・・
リスにクルミわりきなんて!と、おかあさんはおかんむり。ジルの親切も、リスが生き抜くためにはいらぬ世話。 アールが返しに行くと、ジルは気にせず、今度は赤いスカーフを首にまいてくれました。 とても気に入ったアールでしたが、戻ってきたアールを見たおかあさんは、 「ちょっと、こっちにおいで、アール。いっておきたいことがあるの!」 ・・・
そんなことがあった夜、アールは自分でドングリを見つける決心をして、ジルにもらった赤いスカーフをもって、ひとりで森へ出かけます。 ・・・
「ドン・フリーマン幻の絵本」 と、絵本の帯のコピーにあります。 「作者の没後見つかった幻の絵本」だそうです。 それだけでもう個人的には宝物決定ともいえますが、黒に真っ赤のさしいろがきわだつ、愛らしく小粋な表紙にひとめぼれ。版画調の白黒と、赤色の挿絵が好み、あたたかなユーモアと愛情に包まれた、楽しくて気持ちのいい物語も大好き。
アールをはさんだ、リスのおかあさんとジルの対決(?)のくりかえしも茶目っ気たっぷりで可笑しくて、そして、なるほど、そうだよねとうなづけます。 でも板ばさみの(?)アールが友達のジルを大切に思う気持ちも、なかなか、ほろりとしませんか? 自分で見つけ出そうとしたアールの決意もけなげですが、ジルにもらった赤いスカーフを、おかあさんを思って直接には首に巻かず、ジルを思って棒切れに結び付けて、ちゃんと連れて行くところが、なおほほえましくて、応援したくなるところだったり。 森で出会ったフクロウに言われたとおり、そんな赤いスカーフを連れて行くところが、後々とんでもない事態をひきおこす原因になってしまうのですけれどもね・・・。
このあたりのきびきびした展開も、アールの中のリスらしさの確立とからめて、ページをめくる楽しみが大きくふくらむところです。 黒白の気持ちいい切り口のイラストの中に、スカーフの赤色が抜群に映えているように、ユーモアを交えたとんとん拍子のテキストの中に、スカーフのさまざまな使い道が、あるところではふわりと、あるところではちくりと、あるところではひらりと、あるところではしんみりと、抜群に効いていますよね。
ちょっぴりほろりとする、切なくてりりしい、あたたかな結末も大好き。
原書は『EARL THE SQUIRREL』、コピーライトはRoy Freeman 2005 とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
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『Earl The Squirrel (ハードカバー)』 Viking Childrens Books (2005/8/25) 48p
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『とんでとんで サンフランシスコ』 ドン・フリーマンさく やましたはるおやく BL出版 2005年
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サンフランシスコの一羽のハト・シッドが、果敢にも巣づくりに挑んだところは、なんとビルの屋上の看板文字「B」の下側の空間。 他のハトからなんと思われようと、よき理解者ミッドや、親切なおじさんハイ・リーさんたちと、幸せな日々を過ごすシッドでしたが、ある日、ミッドとたまごの待つ巣に戻ってみて愕然としました。 なんと「B」の文字が、撤去されてしまっていたのです!
霧と人情の街、サンフランシスコを舞台に、必死のシッドの大捜索が始まります。
ドン・フリーマンさんの人間愛あふれる、爽快な青空絵本。
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『とんでとんでサンフランシスコ』は、3姉妹も大好きな『くまのコールテンくん』(偕成社)のドン・フリーマン(1908-1978)さんの、1958年コルデコット賞オナー・ブックに輝いた作品だそうです。 原書は『FLY HIGH,FLY LOW』 1957、とあります。 アマゾン洋書ではこちら↓
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『Fly High, Fly Low』 Viking Childrens Books
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さて、『とんでとんでサンフランシスコ』です。 表紙のさわやかな空色、そして黄色身をわずかにおびた白い雲、空を背に雲を背に舞う二羽のハト、それだけでハハはハートを射抜かれました。
中身のイラストもまたきれい。 空色、黄色、赤、の三色の色鉛筆を自在に重ねて描かれたものなのでしょうか・・・のびのびとくつろいだ感じでありながら、三色を巧みに織り交ぜ、美しい陰影をほどこしたイラストは、力強く、いきいきとしたリズムとみずみずしい流れがあって、きれい・・・のひとこと。 斜のかかった色鉛筆のような筆致が、うるわしの霧の街サンフランシスコにぴったりの感じです。
物語は、そんなサンフランシスコの大空と街を舞台に、ちょっぴりかわったところに巣をかけた一羽の雄鳩、シッドの、巣をめぐる大追跡を描いたのびやかで心温まる物語。
「そんなところに巣をかけるなんて、いかれたヤツだ」と、他の鳩から思われていた一羽の灰色の雄鳩は、高いビルの屋上の、ネオンサインの看板の、「B」の文字の下側のかこいの中、に居を定めたいかした鳩でした。 その雄鳩と、ただ一羽の理解者の雌の白鳩を、ミッド、シッドと呼んで、毎朝ユニオン・スクエア公園で、パンくずやケーキのくずをくれるのが、鳩たちの大好きな親切なハイ・リーさんでした。
さて、シッドとミッドは、せっせと「B」の文字に巣作りをいそしみ、いつしか大事なたまごを交代であたためはじめたのでした。 そんな高いビルの巣と、しあわせの絶頂にあったシッドとミッドに、ある日おそろしい「地震」がおそいかかります・・・いいえ、それは、「地震」よりももっとおそろしいものでした。
シッドが朝の公園にえさをついばみに出ている間、交代でたまごをあたためていたミッドと大事なたまご入りの巣の入った「B」の文字が、看板の取り外しによって、ビルの頂上から撮り下ろされ、いずこへか運び去られてしまったのです!
いつものように巣へ舞い戻ったシッドが、変わり果てたがらんどうの足場を見て、どんな気持だったかあなたにもわかるでしょう!
さあ、巣を求めて、シッドの大追跡がはじまりました・・・。
霧にかすむしっとりとしたサンフランシスコの街中をとびめぐるシッド。やがて霧は雨に変わり、孤独なシッドは身も心も闇に包まれてずぶぬれになり、うちひしがれてしまいます。 その霧の中のイラストの、丹念に重ねられた青色と黄色、赤色の斜の部分、そして上からかぶせられたやわらかい黒色の斜が、シッドの不安の薄闇を浮かび上がらせているようです。
そしてラストへと続く黄色のさしいろ。 これほどまぶしく、頼もしい色は他にないかもしれませんね。
霧と、人々の温かなまなざしに満ちたサンフランシスコの街を舞台に、シッドとミッドの強い勇気と愛情に、おしみない光の降り注ぐ、とてもさわやかな青色の絵本。 ドン・フリーマンさんの豊かな人間愛を描いた絵本を、また一つ新しく読むことが出来て、久々にとても嬉しいです! よろしければ図書館などでお読みになってくださいね。
それから、個人的に心惹かれた余談を少し。 この絵本のカバーの裏表紙見返しにある、著者紹介の、ドン・フリーマンさんのトランペットにまつわる一文を読んで、ちょっとびっくり。かつてドン・フリーマンさんがトランペット演奏者でもあった、ということは、以前絵本の著者紹介などで読んでいたのですが、絵本の世界へ転身した秘密は、そんなきっかけにあったのですね・・・ぜひ、よろしければこちらもお見逃しなくお読みになってくださいね!
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『野はらの 音楽家 マヌエロ』 ドン・フリーマン作 みはらいずみ訳 あすなろ書房 2006年 |
陽気で楽しいカマキリくんは、誰よりも音楽が好き。でも自分では音を出せません。失敗してもあきらめず、笑われてもへこたれず、別のやり方を工夫して、次々に夢中で挑戦しますが、それでも音を出せなくて、だんだんくじけそうになりました。 「元気をだして」 そんな時、どこからかちいさな声がして・・・。
自分を受け入れながら、夢をあきらめない勇気をくれる、明るく陽気で元気の出る絵本。ほんの少しだけ、カマキリゆえの切なさもおりまぜているように感じました。
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カマキリのマヌエロは、音楽が好き。自分でも音をだせたらなあと、コオロギのように羽をふるわせてみますが・・・ちっとも鳴りません。 「そうだ!楽器をつくってみよう!」 マヌエロはガマでフルートをつくったり、ラッパの形をした花でラッパをつくったり、曲がった枝とくもの糸でハープをつくったり・・・でも、やっぱりちっとも鳴りません。ハープなど、ひいたとたん、カマで糸が切れてしまいました。 そんな様子を、自分で音楽を奏でられるコオロギやカエル、キリギリスたちに笑われて、 「やっぱりぼくにはむりなんだ・・・」 夢をあきらめかけたとき、 「元気をだして」 どこからかちいさな声がして・・・。
コオロギやキリギリスにどこか似ているのに、自分では音の出せないカマキリが、本当の友達とめぐり合い、一緒に夢をかなえようとがんばる物語。 マヌエロの楽器づくりが、おままごとみたいな愛らしさとともに、考えて工夫して一からこしらえる楽しさを伝えてくれるよう。 陽気で明るいマヌエロが、長い細い手足に長いお腹(おしり)で、演奏しようと構えているところは、どことなくタキシード姿を連想させて、ダンディな雰囲気。
とはいえ、実は肉食、見かけが似ているコオロギやキリギリスを食べてしまう習性を併せ持っているのですよね・・・。マヌエロにそんな気はなくても、やっぱりマヌエロはどうしたってカマキリですから、他の虫たちはやがて思い出します。そこのところも、さりげなく物語に組み入れて、ユーモラスなのに、少しだけ、切ない余韻を残しています。
それだけに、マヌエロと、マヌエロに勇気と知恵をさずけてくれた友達との静かな友情が、心にゆっくりしみわたってくる絵本。
原書は『MANUELO THE PLAYING MANTIS』とあります。 The illustrations on pages 16,28-29,and 32 were created by Jody Wheeler from sketches by Don Freeman. と、あります。 描かれたのは晩年でしょうか・・・? アマゾン洋書ではこちらなど↓
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『Manuelo the Playing Mantis (ハードカバー)』 Viking Childrens Books (2004/03) |
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