■ディートリント・ブレッヒさんの絵本 |
Dietlind Blech 1937年ドイツのベルリン生まれ。ヴッパータールの美術学校とミュンヘンの美術アカデミーで絵を学ぶ。 他の作品に、『Die Garten-Uhr (ハードカバー) Ellermann Heinrich Verla (2001/02) ) などがある。 |
『パンドラ』 |
|
『パンドラ』 文 ウィリアム・メイン 絵 ディートリント・ブレッヒ 訳 今江祥智&遠藤育枝 BL出版 1999年
|
ふたりといっぴきで、満ち足りて暮らしていた毎日に、ショールにくるまれた「しんいり」がやってきて、パンドラはびりっかすになってしまい・・・。 静かで気品あふれる文章と、しなやかで美しい細密画の奏でる世界に、しっとりと魅了される絵本。
|
パンドラはみちたりていた。すむ家はあるし、男のひとも女のひとも、パンドラのことをだいすきなのが、よくわかっていたし。 ところが、その家に、毛布とショールにくるまれた、ミルクのにおいのする、みたことのないものがはいりこんでくると、気持ちのよかったひざも、こころづかいもなくなって、ドアの外にしめだされ、パンドラはもうかまってもらえなくなってしまった。 こころのかわいたパンドラは、家をひとりで出て行った。 「ちゃんとしたねこならひとりでやってくものよ。」 赤い首輪は、いばらのしげみでなくしてしまった。 ・・・
自分の居場所を求めてさまよい、したたかに生き抜く強さを身につけたパンドラの、しなやかな魂の軌跡を描いた美しい絵本。 初めての生まれたての赤ちゃんを抱えた飼い主の若い夫婦の気持ちも、突然気の毒なくらい邪険にされはじめたパンドラの気持ちも、どちらも理解できるだけに、ページから目がはなせず、心がすいよせられてしまいます。 自分から荒地に出て行ったパンドラの強がりも、例えば小さい子なら兄弟げんかや、例えば大きい人なら恋愛などの、いろいろな局面で誰もが経験していて、共感を呼びそう。 ここでパンドラがもしも人間なら、出て行ってほどなくいなくなったことに気づかれ、心配され、探し出され、あたたかな暖炉のもとに連れて帰ってもらえるのでしょうけれど・・・。 猫のパンドラの、荒野で一人生き抜き、猛々しく変貌していくさまは、圧巻で、もしかすると痛々しいくらい・・・。 淡々とした文章と、濃密でするどい絵に、心をつかまれ、ゆさぶられました。 そして強く生き抜いていくうちに起きた、パンドラの身の変化と、気持ちの変化の場面は、格調高く美しく、心に明かりをともすよう。
パンドラが自分の力で勝ち取った成長と、選び取った自分の居場所の物語は、猫だけでなく人間のさまざまな場面で、心のよすがになりそうな予感。 誇り高い猫の絵本としても、忘れられない珠玉の一冊。
原題は『PANDLA』 First published in 1995 by Jonathan Cape Children's Books とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
『Pandora (ハードカバー)』 Jonathan Cape Children's Books (1995/10/5) 英語版 |
|
『Pandora (ハードカバー)』 Hanser, Carl GmbH + Co. (1999/05) ドイツ語版 |
表紙は、邦訳本文中の一場面。
|
この記事へのコメントを読む▼*書く▼ (この記事へ戻るには、ブラウザの戻る、をクリックしてくださいね) |
▲上へ
ディートリント・ブレッヒさんの絵本 「た」の絵本箱へ
HOMEへ
Copyright (c)2005-2007 kudolacieko All Rights Reserved
|