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『アントン・ベリーの ながいたぴ』 天沼春樹/作 出久根育/絵 鈴木出版 2007年
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アントン・ベリーのそだてるドラゴン・プーは、さすがドラゴン、大食漢。とうとう食べ物がなくなって、二人はながいながい旅に出ました。 ところが、せっかく実のなる木を見つけても、ドラゴン・プーが食べてしまって・・・。
昔話風の懲りない繰り返しと、わくわくする冒険が楽しい物語。なつかしいのどかさと、どこか妖艶なメルヘンがとけあったような、美しい絵も魅力的。
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アントン・ベリーはいっぴきのりゅうをそだてることにしました。なまえはドラゴン・プー。 アントン・ベリーとドラゴン・プーはすぐになかよくなりました。 ところが、ドラゴン・プーは、ちいさくてもりゅうの子、一日に人間の10倍も食べるのです。家中の食べ物をみんな食べてしまったので、アントン・ベリーとドラゴン・プーは、食べ物を探しに、長い長い旅に出かけることにしました。 最初についた山には、大きなくるみの木。ところが、ドラゴン・プーが、ばりばり、ぽりぽり、食べてしまって、残ったのはたったひとつ。 「しかたがないなあ」 アントン・ベリーは、また旅を続けることにしました。 次に見つけたのは、りんごの木・・・。 ・・・
濃密なムードと、美しさと愛らしさを兼ね備えた、色鮮やかなイラストに、どきどき。昔話的なエッセンスをちりばめた、性懲りもない繰り返しの展開のおおらかな物語に、わくわく。メルヘンをおりまぜながら、めでたしめでたしで合点のいく結末も、気持ちのいい読後感。
ドラゴン・プーの深い青緑色が好きです。どんどん大きくなるわりに、ひょろりとかぼそい羽や、手足のアンバランスさも、愛嬌たっぷり。海の青も、魚の青も好きです。 「食べる」場面がくりかえし出てくる展開も、くいしんぼの子どもたちが大好き。だんだん大きくなって、ドラゴンらしい風格の出てくるやんちゃなドラゴンも、子どもたちの人気者。性懲りもなく大食いを繰り返しては、アントン・ベリーにたしなめられる場面など、何だかデジャヴュのような(笑)、親しみがわいてきますよね。にくめないドラゴンのうなだれる表情が、ありありと目に浮かぶよう。 また一つ、大好きなドラゴンの絵本が増えました。
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『マーシャと白い鳥』 M.ブラートフ再話 出久根育文・絵 偕成社 2005年10月
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古くから伝わるロシア民話のおおらかな面白さ、底知れぬ摩訶不思議さを、愛らしい中にもシュールなタッチで、重厚に描いた美しい作品。 時間も海もはるか越えて、今、森の中をひたむきにかけぬけていくマーシャが、すがすがしい風を運ぶよう。
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両親が市場に出かけている間、姉のマーシャは弟のワーニャのもりを頼まれますが、すぐにほっぽって遊びに行ってしまいます。 マーシャが帰ってみると、弟がいません。 マーシャは泣きましたが、泣いても何にもなりません。 あわてて野原に探しに行くと、白い鳥のむれが黒い森に飛んで行くのが見えます。 マーシャは白い鳥を追いかけて走り出しました。 マーシャは最初にペチカに出会って、弟の行方をたずねますが・・・。
弟をさらった白い鳥を追いかける、姉の勇気と冒険の物語。 ミハエル・ブラートフのほかにも、アレクセイ・トルストイ、アレクサンドル・アファナーシェフなど、細部のバリエーションのさまざまな再話の存在する、有名なロシア民話だそうです。
何度か別の本で読んだことがあるのですが、 「弟のもりをほったらかしにして遊びに行っている間に、弟を悪者に連れ去られてしまった」 という設定が、民話にしては結構リアリティがあるな、と、思った記憶があります。 普通の小さい兄弟姉妹によくあるように、夢中になると周りが見えなくなって、親にいいつけられているのに、小さい弟を放って、自分の遊びに行ってしまうマーシャは、民話によくある完璧いい子・正義の子型の女の子の主人公とは少し異なり、人間くさくて、親しみがもてる感じです。 しかし、その後すぐに「泣いても何にもならない」と心を強く持って、「弟をさがさなくちゃ」と、とりたちを果敢に追いかけるところは、りりしく頼もしく、すがすがしい感じです。
出久根育さんのあとがきを読むと、よりいっそう、物語が深い色を帯びてくるように思われます。 古く褪せたタペストリーを見ているような、深く沈んだ色使いや、ほのあかるくうかびあがり、ときにどきっとするような鋭さの光る登場人物のまなざしが、力をもって、訴えかけてくるような作品。
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ちなみに私が読んだことのあるうちの一冊は、新読書社さんの仕掛け絵本。
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『おばけどり』 ロシア民話 A.トルストイによる 松谷さやか訳 新読書社 |
弟をさらったおばけどりを追いかける、姉の勇気と冒険のロシア民話を、A.トルストイが再話したもの。
姉は、後に助けてくれる重要な登場人物(?)のペチカやりんごの木の頼みを、最初はすげなくことわり、かわりに弟の居場所への道も教えてもらえず、一人でどんどん走っていきます。 結局行き当たりばったり的に森の中のバーバ・ヤガーの家にたどり着いて、バーバ・ヤガーに糸つむぎをさせられます。それをたすけたのはりねずみ。 姉は弟と逃げながら、やっとペチカやりんごの頼みを聞き入れて、ひとときかくまってもらいます。
多少人間くさい性格の姉が、新鮮で興味深い物語。 愛らしく素朴なイラストの仕掛け絵本は、今ではとても貴重なものだと思われます。
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