■出久根育さんの絵本
1969年東京生まれ。武蔵野美術大学造形学部版画専攻卒業。銅版画・油彩画、絵本・挿し絵・装画等を手がける。『あめふらし』(パロル舎)オンライン書店ビーケーワン:あめふらし でブラティスラヴァ世界絵本原画展グランプリを受賞。挿絵作品には、『ペンキや』(理論社)オンライン書店ビーケーワン:ペンキや、『おふとんのくにのこびとたち』(鈴木出版)オンライン書店ビーケーワン:おふとんのくにのこびとたち、『山のタンタラばあさん』(小学館)オンライン書店ビーケーワン:山のタンタラばあさん、など多数。

『アントン・ベリーのながいたび』*『マーシャと白い鳥』*(『おばけどり』)

 
『アントン・ベリーのながいたび』すずき出版

『アントン・ベリーの
ながいたぴ』
天沼春樹/作
出久根育/絵
鈴木出版
2007年

アントン・ベリーのそだてるドラゴン・プーは、さすがドラゴン、大食漢。とうとう食べ物がなくなって、二人はながいながい旅に出ました。
ところが、せっかく実のなる木を見つけても、ドラゴン・プーが食べてしまって・・・。

昔話風の懲りない繰り返しと、わくわくする冒険が楽しい物語。なつかしいのどかさと、どこか妖艶なメルヘンがとけあったような、美しい絵も魅力的。

オンライン書店ビーケーワン:アントン・ベリーのながいたび

アントン・ベリーはいっぴきのりゅうをそだてることにしました。なまえはドラゴン・プー。
アントン・ベリーとドラゴン・プーはすぐになかよくなりました。
ところが、ドラゴン・プーは、ちいさくてもりゅうの子、一日に人間の10倍も食べるのです。家中の食べ物をみんな食べてしまったので、アントン・ベリーとドラゴン・プーは、食べ物を探しに、長い長い旅に出かけることにしました。
最初についた山には、大きなくるみの木。ところが、ドラゴン・プーが、ばりばり、ぽりぽり、食べてしまって、残ったのはたったひとつ。
「しかたがないなあ」
アントン・ベリーは、また旅を続けることにしました。
次に見つけたのは、りんごの木・・・。
・・・

濃密なムードと、美しさと愛らしさを兼ね備えた、色鮮やかなイラストに、どきどき。昔話的なエッセンスをちりばめた、性懲りもない繰り返しの展開のおおらかな物語に、わくわく。メルヘンをおりまぜながら、めでたしめでたしで合点のいく結末も、気持ちのいい読後感。

ドラゴン・プーの深い青緑色が好きです。どんどん大きくなるわりに、ひょろりとかぼそい羽や、手足のアンバランスさも、愛嬌たっぷり。海の青も、魚の青も好きです。
「食べる」場面がくりかえし出てくる展開も、くいしんぼの子どもたちが大好き。だんだん大きくなって、ドラゴンらしい風格の出てくるやんちゃなドラゴンも、子どもたちの人気者。性懲りもなく大食いを繰り返しては、アントン・ベリーにたしなめられる場面など、何だかデジャヴュのような(笑)、親しみがわいてきますよね。にくめないドラゴンのうなだれる表情が、ありありと目に浮かぶよう。
また一つ、大好きなドラゴンの絵本が増えました。

▲上へ

 
『マーシャと白い鳥』偕成社

『マーシャと白い鳥』
M.ブラートフ再話
出久根育文・絵
偕成社
2005年10月


古くから伝わるロシア民話のおおらかな面白さ、底知れぬ摩訶不思議さを、愛らしい中にもシュールなタッチで、重厚に描いた美しい作品。
時間も海もはるか越えて、今、森の中をひたむきにかけぬけていくマーシャが、すがすがしい風を運ぶよう。

オンライン書店ビーケーワン:マーシャと白い鳥 

両親が市場に出かけている間、姉のマーシャは弟のワーニャのもりを頼まれますが、すぐにほっぽって遊びに行ってしまいます。
マーシャが帰ってみると、弟がいません。
マーシャは泣きましたが、泣いても何にもなりません。
あわてて野原に探しに行くと、白い鳥のむれが黒い森に飛んで行くのが見えます。
マーシャは白い鳥を追いかけて走り出しました。
マーシャは最初にペチカに出会って、弟の行方をたずねますが・・・。

弟をさらった白い鳥を追いかける、姉の勇気と冒険の物語。
ミハエル・ブラートフのほかにも、アレクセイ・トルストイアレクサンドル・アファナーシェフなど、細部のバリエーションのさまざまな再話の存在する、有名なロシア民話だそうです。

何度か別の本で読んだことがあるのですが、
「弟のもりをほったらかしにして遊びに行っている間に、弟を悪者に連れ去られてしまった」
という設定が、民話にしては結構リアリティがあるな、と、思った記憶があります。
普通の小さい兄弟姉妹によくあるように、夢中になると周りが見えなくなって、親にいいつけられているのに、小さい弟を放って、自分の遊びに行ってしまうマーシャは、民話によくある完璧いい子・正義の子型の女の子の主人公とは少し異なり、人間くさくて、親しみがもてる感じです。
しかし、その後すぐに「泣いても何にもならない」と心を強く持って、「弟をさがさなくちゃ」と、とりたちを果敢に追いかけるところは、りりしく頼もしく、すがすがしい感じです。

出久根育さんのあとがきを読むと、よりいっそう、物語が深い色を帯びてくるように思われます。
古く褪せたタペストリーを見ているような、深く沈んだ色使いや、ほのあかるくうかびあがり、ときにどきっとするような鋭さの光る登場人物のまなざしが、力をもって、訴えかけてくるような作品。

▲上へ

なみに私が読んだことのあるうちの一冊は、新読書社さんの仕掛け絵本。

 
 ***
『おばけどり』
ロシア民話
A.トルストイによる
松谷さやか訳
新読書社

弟をさらったおばけどりを追いかける、姉の勇気と冒険のロシア民話を、A.トルストイが再話したもの。

姉は、後に助けてくれる重要な登場人物(?)のペチカやりんごの木の頼みを、最初はすげなくことわり、かわりに弟の居場所への道も教えてもらえず、一人でどんどん走っていきます。
結局行き当たりばったり的に森の中のバーバ・ヤガーの家にたどり着いて、バーバ・ヤガーに糸つむぎをさせられます。それをたすけたのはりねずみ。
姉は弟と逃げながら、やっとペチカやりんごの頼みを聞き入れて、ひとときかくまってもらいます。

多少人間くさい性格の姉が、新鮮で興味深い物語。
愛らしく素朴なイラストの仕掛け絵本は、今ではとても貴重なものだと思われます。

この記事へのコメントを読む*書く
(この記事へ戻るには、ブラウザの戻る、をクリックしてくださいね)

▲上へ

出久根育さんの絵本
「た」の絵本箱へ

くどー★La★ちぇこさんの絵本箱へ

HOMEへ
くどー★La★ちぇこさんの絵本日記HOMEへ


Copyright (c)2005-2007 kudolacieko All Rights Reserved