■ズデネック・ミレルさんの絵本2
1921年、チェコ、クラドノ生まれ。プラハ工芸大学に学ぶ。絵本の挿絵、漫画、アニメーション、人形劇映画の分野で活躍。もぐらの「クルテク」など、チェコの子どもたちに愛され続けているシリーズは多い。
『ゆかいなきかんしゃ』*『せかいでいちばんおかねもちのすずめ』*『まぬけのイワン』
≫別頁『しりたがりやのこいぬとおひさま』*『しりたがりやのこいぬとみつばち』*『しりたがりやのこいぬとたまご』
≫別頁『もぐらくんとオオワシ』

 

『ゆかいなきかんしゃ』ひさかたチャイルド

『ゆかいなきかんしゃ』
ヤン・チャレックぶん ズデネック・ミレルえ
きむらゆうこやく

ひさかたチャイルド 2006年 

ぼくはゆかいなきかんしゃさ
ぽーっときてきがなったなら
たのしいたびにさあしゅっぱーつ!

リズミカルなテキストとリズミカルなイラストで、きかんしゃくんのゆかいな一日を描きます。
元気に楽しく安全運転、よいこの夢をいっぱいのせて、しゅっしゅっぽっぽ、いってきまーす!

こども部屋にいつもならべておきたい、健やかな厚紙絵本。

知らない間に、ズデネック・ミレルさんの絵本が2冊、発売になっていたのですって!

ゆかいなきかんしゃオンライン書店ビーケーワン:ゆかいなきかんしゃは、きかんしゃみたいに楽しい横長の、厚紙絵本。
愛らしいきかんしゃの一日を、子どもたちによりそって愉快に明快に描いたきかんしゃえほんは、子どもたちの熱狂的支持によりひっぱりだこになりそうですが、本文の、角の丸い厚紙仕様が頼もしく、子どもたちの過度の(?)愛情もがっしりと受け止めてくれそうです。しかも、表紙と裏表紙は、普通の絵本ような、ハードカバー仕様ですので、子どもから大人まで長く愛蔵版になりそうな一冊。

原書は『O VESELE MASINCE』、コピーライトは1961年、とあります。(正しい表記ができなくてごめんなさい)
テキストのヤン・チャレックさんは、詩人で、
「鉄道関係の公務員として働きながら、子どもの詩を数多く書いた。」
そうです。
(『ゆかいなきかんしゃ』表紙カバー見返しの著者紹介より)

実は原書のボードブックを持っていて、ゆかいなイラストを眺めて楽しんでいたのですが、待望の邦訳は、期待通り、さらに楽しいテキストでした。

みんなぼくをしってるかい?
ぼくはゆかいなきかんしゃさ
きしゃきしゃきかんしゃ
ぽーっときてきがなったなら
たのしいたびにさあしゅっぱーつ!

しゅっしゅっぽっぽ
しゅっしゅっぽっぽ
・・・

訳者のきむらゆうこさんの、口調のよい楽しい訳にのって、きかんしゃのぼくといっしょに、たのしいたびにさあしゅっぱーつ!

穏やかな色彩の、愛らしいフォルムの、擬人化されたきかんしゃくんが、うららかな景色をぬって、今日も元気にしゅっしゅっぽっぽ、ぽーっ。

「きかんしゃくんだ!」
れーるはしんぱいそうです。

だいじょうぶだいじょうぶ
いつものようにおねがいね

ほらとりのように
ふわりととおるから
・・・

野をこえ、森をぬけ、鉄橋をわたり、町の駅へ、それからまた、まっくらな夜の中を、きらきらひばなをちらしながら。信号にみちびかれ、ポイントにしたがって、けむりをはいて、車輪を元気にまわしながら、楽しかった一日が終わるまで・・・

ズデネック・ミレルさんのまんまるほっぺの楽しいイラストは、ふくふくと愛らしくて、眺めているだけで思わずにっこり。
きかんしゃくんの色とりどりの貨車たちや、煙突からぽっぽとふきでる煙たち、見送るガチョウたちや、飛び出すうさぎたち、鉄橋の下の川から見上げる魚たちなどなど、リズミカルな連続のまとまりで描かれていて、コマわりフィルムのような楽しい動きを感じます。
横長の絵本で、地平線に水平なレイアウトが多く、絵本の左から右へと、楽しく旅しているような構成に、ぴちぴちとはねるように元気よく、おさまりよく並べられた可愛い連続のモチーフたちは、何かを思い出すと思ったら、まるで五線譜の音符のよう!
ところどころに、きかんしゃくんを正面から見た、奥行きのあるレイアウトも織り交ぜられて、めくる楽しみもいっぱい。

元気な音符のようにはずむイラストと、元気な歌のようにはずむテキストで、しゅっしゅっぽっぽと、元気なきかんしゃのたびにいってらっしゃーい!

さらにもう一冊、ミレルさんの絵本が出たのですって!

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 『せかいでいちばんおかねもちのすずめ』プチグラパブリッシング


エドアルド・ペチシカぶん
ズデネック・ミレルえ

『せかいでいちばん
おかねもちのすずめ』
きむらゆうこやく
プチグラパブリッシング
2006年

ぼさぼさくんは、ちゃっかりもののやんちゃなすずめ。寒い冬に見つけたエサを、仲間にないしょでひとりじめすることも。
そんなある朝、こがねいろの美味しそうな小麦がベルトコンベアーでどんどん運び込まれている貨車の中に、ちゃっかり小麦をいただいていたぼさぼさくんも、うっかり落っこちてしまいました。
知らず閉じ込められて、「せかいいちたくさんのこむぎ」をひとりじめしたぼさぼさくんは、はじめは大喜びしますが・・・

ズデネック・ミレルさんの描く雪景色、青い空、リズミカルな木立、家なみ、すべてが美しく響きあった一冊。
チェコの冬の美しさをおすそわけしてもらったよう。

オンライン書店ビーケーワン:せかいでいちばんおかねもちのすずめこちらはほぼ正方形の絵本。表紙からもおわかりいただけるように、その冴え冴えした水色の美しさが本当に美しい一冊。空や水の青色、水色が個人的に大好きで、ミレルさんの水色はとくに好きなのですが、この絵本は画用紙のような紙質に色がしっかりと沈んだ感じも好みで、また一冊、大切なお気に入りが増えました。

主人公の「せかいでいちばんおかねもちのすずめ」は、上記表紙のすずめたちの左側で、羽を広げて何かおしゃべりしているすずめ。ちょっぴりあたまとしっぽがぼさぼさなので、名前は「ぼさぼさくん」。

ぼさぼさくんは、ぼさっとした羽とはうらはらにぬけめのないちゃっかりしたやんちゃなすずめで、寒い冬、やっと見つけた少ないエサをささっと独り占めして、後から来た仲間たちにはしらんぷりすることもしばしば。
それでもやさしい気のいい仲間たちと、体をよりそいあたためあって眠っていました。

ある朝、ピーッと、機関車がやってきて、赤い貨車だけを駅に残していってしまいました。
さっそくすずめたちが見に行ってみると、その赤い貨車にベルトコンベアーでつぎつぎと積み込まれていくのは、こがねいろのおいしそうな小麦の山!

他のすずめたちが大喜びで落ちた小麦をつついているのに対して、ぼさぼさくんは、ちゃっかりとベルトコンベアーのきれいな小麦の小山の上。

ドッシーン。
麦と一緒に貨車の中におっこちてしまったけれど、貨車の中にはうずたかい小麦の山。
これは、せかいでいちばんおおきなむぎのやまにちがいありません。
・・・
「このやまは、ぼ〜くの〜。ぜ〜んぶ、ぽ〜くのさ〜」
仲間のことも忘れ、貨車に閉じ込められたことにも気づかず、ぼさぼさくんは、とうとう歌いだしました・・・。

貨車の麦にまみれて喜ぶ、あっけらかんとしたぼさぼさくんと、外の雪にまみれて遊ぶ、気のいい仲間たちとの、対比のイラストのレイアウトが楽しくて、ちょっぴりシニカル。
一面の雪のやわらかい白と、おひさまの光をはねかえすまぶしい空の水色の、ほんのりとした境界線、そして、閉ざされた貨車の中の黒色と、黄金色の小麦をうきぼりにする小窓の切り取られたような水色の、くっきりとした境界線が、物語を効果的にひきしめているようです。

ミレルさんの描く『せかいいちおかねもちのすずめ』には統一されたレイアウトがあり、それに基づいてすっきりと美しく配置されたイラストの中に、関連性のあるモチーフを見つけたり、物語性のあるモチーフを目で追ったり、対比させて楽しんだりするさらなる楽しみがあります。ミレルさんの描く背景の、個性的な文様の木々や、ぽってりとした三角屋根の色とりどりのおうちの並びなどの、リズミカルな波を思わせる配列も楽しい作品。ぐるりの見返しも、きれい。

原書は『O nejbohatsim vrabci na svete』とあります。

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『まぬけのイワン』プチグラパブリッシング

ぶん マクシム・ゴーリキー
え ズデネック・ミレル
やく きむらゆうこ
プチグラパブリッシング
2006年
『まぬけのイワン』

まぬけのイワンが、ごしゅじんとおくさんから留守番と子守を頼まれますが、子どもたちは抜け出してしまいます。イワンは言いつけどおりにドアを背負って見張りつつ、子どもたちを捜しに森へ。ひょっこり出会ったくまに笑われ、面白がられて、くまの家へ連れて行かれて・・・。

権力への皮肉を込めたロシアの文豪マクシム・ゴーリキーさんの民話風の物語に、チェコの国民的アーティストのズデネック・ミレルさんがおおらかで美しいイラストを添えた愛すべき絵本。
おろかしいほどに生真面目なイワンに、いつした心がほだされてゆく大切な一冊。

オンライン書店ビーケーワン:まぬけのイワン

ズデネック・ミレルさんの明るく楽しく美しい絵本がまたまた嬉しいお目見えになりました。

あるところに、イワンという、りっぱで、ちょいとまぬけな青年がおりました。
町へ行くごしゅじんとおくさんに、子守と留守番を頼まれたある日のことです。
「ドアをしっかりみはることだ。くれぐれも、こどもたちがもりへにげださないようにな」

ところが、おくさんに言われたとおりのスープを作ろうとして、何を切るんだっけと、イワンがおたおた手間取っている間に、おびえた子どもたちがそうっと出て行ってしまいます。
スープづくりもそこそこに、イワンは子どもたちを捜しに森へ。言いつけどおりドアをしっかり見張るために、なんとドアそのものをしょっていて、出会ったくまに驚かれ、あきれられ、逆に面白がられてしまいます。
「こんなまぬけなやつはみたこともない。
にょうぼうにどうしてもあわせたい。さあ、ついておいで」
・・・

のこのこついていったイワンは、どこまでも大真面目生真面目なのですが、なんともずれていて、とぼけていて、くまならずとも笑えます。しかしその言動はただ愚直なだけではなく、知らず物事の本心をついていて、くまならずともなお面白く、ついほだされてしまいます。ただの「まぬけ」とあなどるべからず。

おろかなまでに善人のイワンと、おそろしい獣でありながら、もしかするとそこらの人間以上に話のわかる親分肌のくま。
緑深い美しい森の中でおこった、民話調の、あっけらかんと鋭い輝きを放つ物語を、ズデネック・ミレルさんの優しく深い色彩の、美しく澄んだイラストで楽しめる、贅沢な絵本。
宝物がまた増えました。

テキストのマクシム・ゴーリキーさん(1868-1936)は、ロシア出身の小説家、戯作家で、社会活動家。
「本書『まぬけのイワン』は、ゴーリキーの母国ロシアが圧制に苦しんでいた時代を背景に、イワンという正直な善人を主人公にしながら、権力を持つ者たちへの皮肉を込めて書かれたお話です。」
と、あります。
(『まぬけのイワン』プチグラパブリッシング 著者紹介より)

原書は『Ivanek Hlupacek』1973 ALBATROS社 とあります。

どことなく眠たげで、あどけない表情が愛くるしいイワンとくまたち、子どもたちですが、奥底にそのような秘密をたたえているのですね。

   
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