どんぐりえんおばけ
ビーケーワン
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『どんぐりえん おばけ』 こさかまさみさく さとうあやえ 福音館書店 こどものとも通巻593号 2005年8月号
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今日はどんぐりえんのももこせんせいが病気でおやすみ。かわりにおばけのクリリンの化けたももこせんせいが、すずめぐみのみんなと遊びます。 いつもは誰にも見えないクリリンですが、今日は晴れてみんなといっしょに、思い切り遊べるね! でもみんなはももこせんせいがクリリンだとは知らなくて・・・。
愛らしいおばけのないしょの大活躍が、お茶目でほのぼのする絵本。
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どんぐりえんにクリリンというおばけがいっぴきすんでいます。 ある朝、困ったことに、すずめぐみのももこせんせいが、ぐあいがわるくておやすみだという電話がありました。 園長先生のため息をきいたクリリンは、めをつぶってじゅもんをとなえて、ももこせんせいに大変身!
ももこせんせいにばけたクリリンは、はりきってすずめぐみの部屋に行って、みんなとかくれんぼをはじめますが・・・。
愛らしいおばけのクリリンと、すずめぐみのみんなが、いつもと同じように、いつもとは少し違う、楽しくて不思議な一日をすごすお話。 丸い顔に丸い目、にっこりさんの口元、あどけなくてほほえましいイラストが、なんてほのぼの、元気いっぱい。 ひなたぼっこしているみたいに、やわらかな色に包まれて、ながめているだけで気持ちが和んでいきそう。
楽しいクリリンの大活躍に、子どもらしい無邪気さとやさしさ、そしておばけならではの不思議な茶目っ気がちりばめられていて、おばけの怖い子もおばけ大好きの子も大満足、みんなみんないっしょに読みたい絵本です。 おばけだからできるあんなこと、せんせいだからできるこんなこと、こわいけれどちょっと経験してみたいこんなこと、やさしいおばけだったらいいなと願う子どもたちのひそかな憧れと、お楽しみがいっぱいつまった可愛い絵本。
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『おばけのおーちゃん』 市川宣子さく さとうあやえ 福音館書店 2002年
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会社をクビになり、アパートを追い出され、町はずれのおんぼろ家に「ただ同然」の家賃で引っ越してきたお人よしの青年と、その家に住んでいた可愛くてちょっぴり情けないおばけのおーちゃんの、ほのぼのとした交流と成長を描いた、なんだかほっておけないいとおしいお話。
「はなびら」 「不動産屋」 「木枯らし」 「雲おばけ」 「カナカナ」 「ともだち」 の六話収録。
「雑誌『母の友』(福音館書店)に掲載された"おーちゃんのおはなし"(五〇七号、五一三号、五一八号、五四六号に掲載)を加筆訂正したものに、新たな書き下ろし「はなびら」を加え、単行本としたもの」 とあります。 愛らしい本文の挿絵は白黒。
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おばけは風にめっぽう弱くて、うちわの風にもさからえない・・・。 けど、ばあちゃん、これがおばけ?明るい春の庭に浮かんでいる、こんなちいさな花びらが?
そんなちいさな花びらみたいなおばけのおーちゃんは、扇風機の風さえこわくて、他の新しい家に住むことができず、なかなか人を驚かすこともできないので、おばけの主食の人の悲鳴を食べることもできず、いつまでもちっぽけなままのふがいないおばけ。 「ひぃぃぃい、ひっくひっくひっく、おおんおおん、えーんえーん」 ことあるごとにぼくに泣きついたり、背中にはりついたり。まさしくおんぶに抱っこで、世話がやけるおばけです。 ぼくだって、なんとかその日をしのぐしがない貧乏青年なのですが、情けないおーちゃんがやっぱり放っておけず、仕方なくあれこれ手助けして、おーちゃんのために手を尽します。 そのおーちゃんとのあれこれ珍騒動のおかげで、町の人々からはうさんくさい目で見られたりもしますが、弁当屋の職にありつくことができたり、新しい出会いの予感があったりと、気が付けばおーちゃんと一緒に、少しずつでも、前進していたりするのですよね。 おーちゃんだって、いつもずるずるべったりおんおん泣くだけではなくて、ぶるぶる震えながらも立ち上がったり、ここぞというときには思い切って飛び立ったりと、なんとかかんとか勇姿を見せてほろりとさせくれます。 気が付けば一緒にはらはらしながら応援している読み手の心も、ふたりの成長を見届けた喜びで、ほのかなばら色の表紙の絵ように、ほのぼのあったかくなる物語。
人とおばけの、迷信と畏怖とメルヘンとユーモアが、少しなつかしい田舎町の中に、ほどよく共存しています。社会的には、どちらかといえばはじっこのぼくとおーちゃんですが、町外れのおんぼろ家で、このひそやかな共存が、いつまでも守られるといいですよね。
テキストの市川宣子さんとイラストのさとうあやさんのコンビの読み物には、『ケイゾウさんは四月がきらいです。』(福音館書店) があります。
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『ネコのタクシー』 南部和也さく さとうあやえ 福音館書店 2001年
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足の速いネコのトムならではの、愛らしいネコのタクシーの大活躍する楽しい読み物。 礼儀正しく真面目で飼い主思いで、タクシーの仕事に情熱を燃やすネコのトムや、トムをとりまく温かな町の人々が、とってもいとおしくなります。 ネコの目から眺めた人間世界への、ちょっぴりのスパイスも新鮮で楽しい。 やさしい雰囲気のカラーの挿絵も充実しています。 ネコでも人でも、誰かのために役に立つって、本当に嬉しいことですよね。
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ネコのタクシー、って、何でしょう? タクシー・ドライバーのランスさんが、飼い猫のトムに頼まれて友人とブリキのバケツから手作りした、小さなネコ用のタクシーです。色は、ランスさんのタクシーと同じ、ぴかぴかの黒。ちゃんと「ネコのタクシー」という標識もついています。でも、エンジンはないのですけれどもね。 足に自信のあるネコのトムが、ハンドルを持って、エンジンの代わりに走るのです!エコですね! お客は、ネコだけ。 ネコのためのネコによるネコのタクシーなのです。
どうしてそんなタクシーが誕生したかというと、トムを飼ってくれることになった、ひとり暮らしのタクシー・ドライバーのランスさんが、ある朝階段から落ちて、足の骨を折ってしまったからなのです。これでは、タクシーの運転は当分できません。タクシーに乗れないと、仕事がないから、お金がなくなる・・・。 「お金がないとこまるんですか」 ネコのトムにはお金のことはわかりません。けれどいいことを思いつきました。 「そうだ、ぼくにも運転できるタクシーを作ってください。小さなネコのタクシーを。そうすれば、ぼく、仕事をしますから」
「ネコに、タクシーができるとわしには思えないが、おまえがどうしてもやりたいというのなら、やってみたらいいだろう」 「まかせてください、かならずお役に立ってみせます。足にはじしんがあるのです」 こうして世にも珍しいネコのタクシーが登場!トムは次の朝から、はりきってネコのタクシーに乗って街にでかけていきましたが・・・。
トムもお客のネコたちも、人間のお金の意味を知らないので、タクシーのお礼にくれたものは、コルクの栓、消しゴム、魚・・・。ネコにとって意味があっても、人間のランスさんの助けにはならないものばかり。 ネコたちにとって、お金なんて、冷たくてかたくて、へんなにおいがするだけで、なんの興味もなかったのです。 けれど、ランスさんのためにお金が必要なトムと、タクシーに乗りたいネコたちが、見つけたとびきりの解決方法は・・・。
ネコの習性と、トムの住む町の温かな人情を巧みにおりまぜながら、ユーモアとちょっぴりの皮肉を効かせて、少しずつネコのタクシーが活躍を重ねていく楽しい物語。 ネコのタクシーなんて、しかも自分の足で走るタクシーなんて、奇想天外な設定だけど、たちまち町の風景にとけこんで、温かく迎えられ、読み手の心にもしっかりなじんでいきます。 本当にこんなタクシーがあったら、ネコでなくてお客になれない自分が本当に残念だけれど、愛猫や近所のネコに利用してもらったり、小さな荷物をおまかせして運んでもらいたくなっちゃいそう。
ネコのネコらしさ、ネコと人とのかかわり、人と人との思いやりが、ほどよいユーモアとともにてきぱきとテンポよく描かれていて、うきうきと嬉しくなってしまいます。 作者のネコに対する愛情、親しみ、敬意の念や、お茶目な遊び心が、ひたむきで奥ゆかしいネコのトムを描いた文章からも感じられて、ネコ好きならずとも、トムが可愛くてたまらなくなりそう。
身近な世界をほのぼのと描いた一つの小さな物語が、一話ごとに完結しながら、次へとつながっていく読み物なので、量的にも質的にも、絵本から児童書への橋渡しにぴったり。 穏やかなタッチの愛らしいカラーの挿絵も豊富だし、楽しいおしゃべりや優しい思いやりのお話、はらはらどきどき痛快な大活躍のお話と、一冊でもりだくさんの集まりで、子どもだけの読み物にしておくのはもったいないかも!
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『ネコのタクシー アフリカへ行く』 南部和也さく さとうあやえ 福音館書店 2004年
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ネコのトムが生まれて初めて出会った父親のドクター・ジョンが届けてくれたのは、遠いアフリカのゴロンゴロン高原のサルの王さまからの招待状。 ランスさんも一緒に、ネコのトムの大冒険の始まりです。 紆余曲折苦難幾多を乗り越えて、トムが得たものは・・・。
文章のはしばしにユーモアとウィットがちりばめられ、ネコ好きも大人も子どももたちまちとりこになる物語。
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ネコのタクシーのお話が、もっともっと読みたいと思ったら、嬉しい続編が出ていました。 なんとなんと、ネコのトムがひょんなことから遠いアフリカのサルの王さまに招かれて、ランスさんも一緒にアフリカへと船出して、サルの王さまの待つゴロンゴロン高原へと、大冒険を繰り広げる壮大な物語。 もちろん、遠い遠いアフリカの聞いたこともないゴロンゴロン高原ですから、ひとすじなわで到達できるはずもなくて・・・! 今回も夢中になる面白さです。
『ネコのタクシー』のお話のあちこちにちりばめられているトムのお母さんの名言も的確で神妙でしたが、『ネコのタクシーアフリカへいく』では、謎めいた生物学者であり冒険家で、ツワモノのトムのお父さん・ドクター・ジョンまで初登場して、なにやら哲学的な台詞で周りをケムにまきつつ、トムたちを冒険へと奮い立たせ、要所要所で導いてくれます。これでトムのトムたるルーツを垣間見ることができるかも? しかもトムの身を案じて、一緒についてくるランスさん自身についての物語まで、読み進むほどに知ることができるのですから(やっぱりランスさんも、酸いも甘いもかみ分けた風情があって、ただのタクシー・ドライバーではないと思ってはいましたが、この展開は結構びっくり!)、『ネコのタクシー』シリーズの世界がぐんと厚みを増し、奥行きを広げてくれそう。
「人生に冒険は必要だよ」 トムのお父さん・ドクター・ジョンの言葉や、意味深な手紙、サルの王さまとのやりとりも遊び心たっぷりで楽しいのはもちろん、トムとランスさんが出発する町の人々の密かな反響や、アフリカで出会う動物たちとの禅問答みたいな会話も痛快で、読みながら、いたるところでくすくすニマニマしのび笑いをしてしまいそう。
今回の挿絵は、本文白黒。カラーの本文挿絵もぜひ拝見したかったので、次回作に期待というところかな?
ネコの気持ちもヒトの気持ちもお見通しのテキストの作者の南部和也さんは、 「1960年、東京生まれ。獣医師。北里大学獣医学科卒業。その後、米国カリフォルニア州アーバインの「THE CAT HOSPITAL」で研修。帰国後、東京で猫専門の病院「キャットホスピタル」を開業する。」 と、あります。 (『ネコのタクシーアフリカへ行く』福音館書店 著者紹介 より) 他の著作には、『しっぽのきらいなネコ』(福音館書店) 、『ネコのラジオ局』(教育画劇) 、『ひとのいいネコ』(教育画劇) などがあります。どのネコも実に魅力的ですよね。
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