■ジャン・ブレッドさんの絵本 |
1949年米国生まれ。現在はマサチューセッツ州の家に、夫のジョー・ハーリンとはりねずみのバフィー、犬のペーキー・パンプキンと一緒に暮らしている。フォークロア、詩などの題材に美しい絵をつけた作品多数。 (『ぼうし』ほるぷ出版 表紙カバー見返しの著者紹介 より)
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『ぼうし』*洋書 |
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『ぼうし』 ジャン・ブレッド作 松井るり子訳 ほるぷ出版 2005年
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冬間近のある日、リサが綱につるした赤い手袋が、片方、強い風にとばされました。知りたがりやのハリネズミのハリーが、鼻をつっこんだら・・・ハリがささってとれません!
この珍妙なぼうしを見て、動物たちの笑うこと、からかうこと。ハリーはツンとすましたフリで、「この帽子、いいでしょう」とさも嬉しげに自慢してみせるのですが・・・。
美しい枠の中で多面的にくりひろげられる物語は、紙芝居台の紙芝居を見ているような、三面鏡をのぞいているような、不思議な奥行き。 愛情にあふれるまなざしで、丁寧に描かれた冬の自然がすがすがしい絵本。 お茶目な結末がお気に入り。
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これは美しい絵本です。
作者、ジャン・ブレッドさんの実際に飼っているハリネズミとのエピソードがモデルの、やんちゃで愛らしい物語です。
冬も近づいた風の強いある日、リサはふゆものを出して、外の物干し綱にならべてつるしました。 そのとき赤い毛糸の靴下が、片方風に飛ばされて・・・しりたがりやのはりねずみのハリーが見つけて、鼻をつっこみました。 ぬごうとしたら、はりがささってとれません!
めんどりかあさんが、ひよこをつれてやってきました。 「コーッ コッ くくく。ハリーはなにをかぶってるの」 「あたらしいぼうし。いいでしょう?」 めんどりはなにかいいたげにくびをかしげると、はしっていきました。
やかましやのがちょうがハリーをみおろします。 「グワッ グワッ ぐはは。いぶくろかついだはりねずみだ」 「フンだ。これさえあればあめでもへいき」 がちょうはちょっとかんがえて、はしっていきました。
・・・。
ハリーがはりに刺さったくつした「ぼうし」を脱ごうと人知れず悪戦苦闘しているところへ、次々と動物たちがとおりかかり、のんきに質問をあびせたり、笑ったりからかったり。 ハリーはそのたびに、奇妙な格好でもがきながらも、これはぼうしだ、こんなにすてき、と、けなげに立ち向かい、精一杯意空威張り。 そのユーモアのある意地の張り方が可愛いのなんの、作者のハリネズミへの愛情がにじみ出ていて、思わずほっぺたがゆるみます。 動物たちにもそれぞれに感じるところがあったらしく、はしっていきます。その動物たちの表情も、行動も、とてもなめらかで美しく愛らしくて、物語を最後まで読むと、とんでもなくお茶目に見えてくるかも。
自然の姿をそのままにとらえた動物たちが、それぞれの思いのままに表情を持ち、おしゃべりをするなら、きっとこんな感じ・・・と思えるような、瞳や口元、しぐさがとても愛嬌たっぷり。 毛並みや木の皮、野の草の一本一本まで丹念に筆を入れ、すみずみまで丁寧に描きこまれたやわらかいイラストは、冬の家の周りの動物たちと自然を撮り続けた写真を眺めているような、一枚一枚丁寧に飾られたアルバムを見ているよう。 綿密に計算された新鮮なレイアウトが、どこか、ゆっくりと走る車の窓の外の変わる景色を眺めているような、鏡台の三面鏡の扉をひらいてのぞいているような、不思議な立体感を感じます。
本文を何ページかめくると、すぐに気がつかれると思いますが、日本語の「ぼうし」と書かれたタイトルのある中表紙から、物語はすでにはじまり、不思議なレイアウトもはじまっています。 不思議なレイアウト・・・というのは、なんと表現するのかわからないのですが、枠組み、というのでしょうか、本文すべての場面が、縁取りの写真のような、基本的な形の決まった枠組みの中に描かれているのです。もちろん、その枠組みもすべて丁寧な手描き。 表紙のイラスト が、すでにその一部になっていますので、ごらんになってくださいね。 本文は、見開き2ページに渡り、この中央の大きな縁取りのイラストが描かれていて、その両脇の壁を飾るように、丸い鏡のような枠が描かれています。もちろんその中にもイラスト。左右の枠は双子のように同じですが、中に描かれているイラストは・・・異なります。 中央の写真のような縁取りのメインイラストの上にも、ネームプレートのような飾り枠があって、その中にもさりげなくイラスト。 アンティークな雰囲気の、すべてのページの枠の形や飾りが、少しずつ少しずつ変化をみせていますので、こちらを眺めるのもとても楽しみです。
なにより、これらの枠の中で、いきいきと弾むように描かれているそれぞれのイラストを何ページか眺めたときの、子どもたちの嬉々とした「発見」が楽しみ。 一見異なる場面を描いているそれぞれのイラストにはもちろんちゃんとした意味があり、関連があって、それぞれが伏線となって、全体としてひとつの物語を立体的に描き出しているのですが、子どもたちがそのことに(部分的にでも)気がついて、「あーっ」と、指差してくれるときが楽しみです。 読み聞かせながら私も早々と気がついたのですが、ヒントともいえる美しいイラストがたくさん描かれていたにもかかわらず、ラストの鮮やかなオチに結びつけることができなくて、不覚というか、まだまだ読みが深くなかったというか・・・作者の巧みなお手際に気持ちよくはまった、という感じです。
読み聞かせをする大人も、読み聞かせをしてもらう子どもも、それぞれに発見があって、楽しみがあって、いとおしくなるような絵本です。
原書は『THE HAT 』、G.P.Putnam's Sons,a member of Penguin Group(USA), Inc. 1997、とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
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『The Hat (ハードカバー)』 Putnam Pub Group (1997/09)
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かなり人気のようで、ペーパーバック版、ボードブック版などさまざまな版がありました。特筆すべきはこちら!
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『The Hat (ボードブック)』 Putnam Pub Group; Book & Toy版 (1999/09)
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可愛い! なんと、ぬいぐるみと絵本がセットなのですね。
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『The Mitten: A Ukrainian Folktale (ボードブック)』 Putnam Pub Group; Board版 (1996/10)
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『てぶくろ』 (邦訳はてぶくろつき絵本、岩崎書店、品切れ)の原書かな?
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『Hedgie Blasts Off (ハードカバー)』 Putnam Pub Group (2006/9/7)
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ハリネズミがどんな活躍をしてくれるのでしょう、邦訳希望!
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『Town Mouse Country Mouse (ハードカバー)』 Putnam Pub Group (1994/09)
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『Goldilocks and the Three Bears (ハードカバー)』 Dodd Mead (1992/11)
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