ルイス・スロボドキン絵『たくさんのお月さま』徳間書店
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『たくさんのお月さま』 ジェームズ・サーバー作 ルイス・スロボドキン絵 なかがわちひろ訳 徳間書店
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「お月さまをもらったら、きっと元気になると思うの」 具合の悪い小さなレノア姫のために、何とか月を取れる方法はないかと、王様は家来たちをひとりひとりよびよせます。 月についておのおののさまざまな解釈とのもと、誰一人その入手方法を見出せず長々とした逃げ口上を述べる中、この問題をいともあっさり解き明かしたのは・・・。
ジェームズ・サーバーさんのウィットとユーモアあふれるテキストが、吟遊詩人のリュートのようによどみなく流れ、いぶし銀のように静かに輝いて、おつきさまにウィンクしたくなるような、心の満たされるおつきさま絵本。
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少し大きい子向きの美しい古典絵本はこちら。
原書は『MANY MOON』1943、とあります。60年以上も前の作品なのですね! アマゾン洋書ではこちらなど。
1944年コールデコット賞受賞作品で、世代を越えて読み継がれ愛され続けている、永遠の傑作絵本です。
ふんわりさらさらと流れるようなルイス・スロボドキンさん(1903-1975)のイラストが、どこか神秘的で、静かに降り注ぐ月光のように、想像力の源を照らし出す感じです。 話はそれますが、かなり以前に偕成社さんから幼年童話の体裁で出ていた(そして現在は品切れ)、文章も絵もスロボドキンさんによる児童書で、 『ねぼすけはとどけい』 『スーザンのかくれんぼ』 (2006年6月祝・復刊!) という作品があるのですが、私はこの作品がとてもお気に入りなのです。ちょうど焼きたてのカステラのようにほんわかと心温まる物語は、今の子どもたちの心にもほのぼのとぬくもりを届けてくれるのでは、と思うのですけれど。しみじみ復刊希望です。
さて、話を元に戻して、『たくさんのお月さま』 です。
とある海辺の王国に何不自由なく暮らす小さなレノア姫は、ある日木イチゴのタルトを食べ過ぎておなかをいためてしまいます。 すっかり弱って床に伏せったレノア姫ののぞみは、なんと夜空に浮かぶお月さま。 「お月さまをもらったら、きっとげんきになるとおもうの。」 と弱々しく答える小さなレノア姫のために、王さまは国選りすぐりのかしこい家来たちを呼び寄せ、順番にその月入手の方法を尋ねて回ります・・・。
その、王さまとそれぞれの家来の問答の場面も、繰り返しの面白さと、ジェームズ・サーバーさん(1894-1961)のユーモアとウィットがぴりりと効いていて、大人が読んでもニヤリとできそうなところです。
すなわち、尋ねられたかしこい家来たち・大臣や数学者、魔法使いたちは、まずわが身の保守のために、恩着せがましく自分たちのこれまでの功績をつらつらと申し述べ、いい加減王さまをうんざりさせた後に、やっと「月とはこういうものだから、持ってくることは無理だ」と申し述べて結局王さまの逆鱗に触れるのですが、このそれぞれのヘリクツひとつにも鋭いセンスが光っていて、子どものための童話でありながら子どもだけの童話の枠を超越しています。
しかも、注意深く読むと、家来たち一人一人の月に対する尺度と理解が、それぞれ異なっていることがわかります。 実は、この受け止め方の相違のズレが、後々物語の重要な点になってくるのですよね。 レノア姫がほしがり、これだけかしこい大人が知恵をふりしぼって論議をつくし、持ち運び不可という結論に達した「月」というものが、一体何なのか・・・、そこへ、物語をいざなうさらりとした筆運びは本当に胸のすく思い、心憎いばかりです。
とくに、静かにリュートをつまびきながら、もつれた糸をゆっくり見事に解きほぐした道化師と、お月さまの最後の場面は、飾っておきたいほど小粋で、物語をここまで読み通した私たちへの小さな贈り物のような、心地よい余韻をもたらせてくれます。
もうしばらく前からハハのために、いつか3姉妹に読み聞かせしようと購入してこっそりあたためていたのですが、つい先日、お月さまのきれいな夜に長女と二女に頑張って読んでみたところ、 「面白い!」 と、長女(7歳)は目を輝かせてくれました。 少し大きい子におすすめですので、よろしければ、図書館などでお読みになってくださいね。
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宇野亜喜良絵『たくさんのお月さま』ブックローン出版 品切れ
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『たくさんのお月さま』(徳間書店) は、かつて光吉夏弥さんの訳で英米出版社から1949年に出版されていたそうです。 そして画像のルイス・スロボドキンさんイラスト版の上記の他にも、訳者、画家の異なる別の版元の邦訳が出ていることを、コメント▼などからいろいろな方に教えていただいて(ありがとうございました)、早速図書館で読んでみました。 訳者・今江祥智さん、画家・宇野亜喜良さん、のコンビによる絵本だそうです。
喜んで検索してみると・・・、あら、サンリオ版、ブックローン出版(BL出版)版・・・と、何種類かあるのですね。結構初版が古そうなので、何度か復刊、再刊がなされた、ということでしょうか? さらに、図書館では学研版というものもあることが判明。
読みました。 いちばん古い昭和40年初版の学研版は、なんと158pもの児童書の体裁だったので、まずは絵本形式の(つまり薄くて読みやすそうに思えた)青い表紙のブックローン版のものから読みました。この絵本は、どこかで幾度か表紙を見たことがあるような気がします・・・なのに
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『たくさんのお月さま』 ジェームズ・サーバー作 今江祥智訳 宇野亜喜良絵 ブックローン出版 1989年 品切れ
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↑ これって、既に品切れ状態なのですか・・・? 紫がかったピンク色のドレスを着た長い髪のおひめさまが、小船のように三日月に乗って、白い細いオールで夜空をこいでいる神秘的なイラストの表紙です。 月の光のせいか、青ざめた顔のお姫さまの、何かを思いつめたような、それでいて遠くを見つめているような、あるいは見えないものを見つめているような、物思いに沈んでいるような、はかない影のある表情が、ただの子どもの絵本ではないような繊細な雰囲気です。
本文イラストも・・・オールカラーで、筆のタッチもみずみずしく大胆に彩色された部分と、繊細な細い線で描かれ、主として影の部分にあっさりと彩色を施された部分の、空間がとてもおしゃれで大人びた雰囲気。 テキストにも、テキストのレイアウトにもこだわりが感じられます。 テキストは徳間書店版の『たくさんのお月さま』とはまた少し異なる感じで、時折効果的にさしはさまれる、「すらりと」「しゃっきりした」などの日本語の擬態語が印象深い感じです。 これが今では本当に品切れなのですか・・・?
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宇野亜喜良絵『たくさんのお月さま』学習研究社 品切れ
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さらに。
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『たくさんのお月さま』 ジェームズ・サーバー作 今江祥智訳 宇野亜喜良絵 学習研究社 昭和40年 現在品切れ
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学研版は、児童書で、同じく今江祥智訳、宇野亜喜良絵なのですが、タイトルの「たくさんのお月さま」が前半にあるほか、後半に、「新イソップものがたり」がおさめられていて、こちらの挿絵は、長新太さんが手がけていらっしゃいます。 ジェームズ・サーバーさんの作品には、現代版に軽妙にシニカルに独自にアレンジなさった「新イソップものがたり」というものもあるのですね。
そして、こちらの学研版の表紙は、ブックローン版の絵本とは、まったく異なっていました。 濃厚な無彩色の夜空に細い水色の三日月が浮かび、その三日月にかぼそい両手を差し伸べるようにして、灰色のドレスを着て長い帽子にぴったりと髪の毛をおさめた青い目のお姫様が、背中のピンクの長いリボンをなびかせて浮かんでいる表紙です。
本文のイラストも異なります。 児童書の体裁のせいか、本文挿絵はすべてモノクロの、比較的シンプルな線画。 後のブックローン出版の絵本版のイラストのもとになるような、よく似た構図が多いようにも思いましたが、学研の児童書版のおひめさまのほうが、多少あどけない感じがするのと、道化師の大きな帽子が異なるせいか、雰囲気も異なる感じがしました。 もちろん、それぞれに、この物語の神秘的な美しさやそこはかとない仰々しさ、諷刺的なエッセンスを繊細におりまぜた、美しいイラストです。
テキストは・・・ブックローン出版の絵本版とひととおり読み比べてみましたが、細かな修正点などわずかにあるほかは、基本的にほぼ同じ文章のように思いました。つまり、学研版初版の昭和40年から、完成されていた文章なのですね! ちなみに、この児童書が、訳者の今江祥智さんの、初めての本格的な翻訳のお仕事だそうです。記念すべき貴重な児童書のように思いますが・・・品切れ。 せめて図書館などに普通に蔵書があるとよいのですが。
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宇野亜喜良絵『たくさんのお月さま』サンリオ 品切れ
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そしてサンリオ版は・・・、
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『たくさんのお月さま』 ジェームズ・サーバー作 今江祥智訳 宇野亜喜良絵 サンリオ 1976年 現在品切れ
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あら・・・こちらは小型版で、絵本形式、灰色の表紙は、学研版の表紙にそっくり。 つまり、ぱっちりと大きなひとみのおひめさまが、両手を三日月にかかげて、腰のピンクのリボンをなびかせて、夜空にただよっている表紙です。 学研版ととてもよく似ているのですが、ドレスの色が水色になっていたり、お目目がよりぱっちりしていたり、夜空にお月さまと雲以外に星がきらめいていたりなどなど、また新しく描かれたもののようです。
この、澄んだ大きな瞳でものいいたげにこちらを見つめて、かぼそい両手を月に差し出している印象的な少女のモチーフは、とても魅力的で心惹かれていたので、もう一度会えてとても嬉しい気持ちになりました。(でも今となっては品切れで残念)
さっそく本文を読んで・・・テキストは、学研版とほぼ同じ。 イラストは、学研版のモノクロの線画に、淡い彩色がほどこされているものや、学研版とは別の新しいイラストなどなど、セピア調の雰囲気の、とてもしっとりと、美しいものになっています。 コンパクトな小型の版型も愛らしいし、お気に入りの絵本としてそっとカバンにしのばせておきたいような、愛蔵決定版わたしのえほん、という感じです。
カバーの裏表紙見返しに、「著者のことぱ」がのせられているのですが、そこで、画家の宇野亜喜良さんご自身が、 「その時(※)のイラストレーションに色をつけたり、新しく描きくわえたりで、サンリオ出版から新しく生まれ変わりました。」 と、述べられています。(※サンリオ版出版当時より10年ほど前に出された学研版) 本当に新しく愛らしく美しく絵本版として生まれ変わっていると思います・・・のに、品切れとはつくづく残念。
学研版、サンリオ版、まったく新しいBL出版版と、どれもがそれぞれに魅力的な書物でありながら、いまとなってはすべて入手困難だということが、おそまきながら初めてお二人の『たくさんのお月さま』を知った私には本当に残念。これでまたまた果てしない探求書が3冊増えてしまいました。 図書館などに蔵書がありましたら、お読みになってくださいね。
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