ジャクリーヌ・デュエムさんの絵本とポール・エリュアールさんの絵本
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ジャクリーヌ・デュエム(1927-)・・・ベルサイユ生まれの画家、児童書の挿絵やエル誌のイラストレーターとして活躍。 ポール・エリュアール(1895-1952年)・・・フランスの詩人。ダリ、ピカソなどとも交流。平和運動につくす。『自由』の詩は、戦火の最中に自由を求めて書かれたもの。 |
『つきのオペラ』*『自由−愛と平和を謳う』* |
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『つきのオペラ』 ジャック・プレベール作 ジャクリーヌ・デュエム絵 内藤 濯 訳 至光社
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「おつきさまはぼくのなかよしだよ・・・」 パパもママもなく、さびしそうな顔をした男の子、ミシェル・モランは、「おつきさまのこ」と呼ばれていました。 おつきさまが空に光ってさえすれば、嬉しがっていたからです。
ミシェル・モランの不思議なおしゃべりは、無邪気な子どもの夢のようで、それでいて何かの大切な暗示のようで、流れる美しい音楽のよう。 幻想的な詩人の言葉に、ジャクリーヌ・デュエムさんの繊細なイラストが静かな輝きを添えています。
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愛らしく繊細で幻想的な表紙に強く惹かれて購入した絵本なのですが、ページを開くと・・・さらにロマンチックで、独特のふわふわした浮遊感ただよう軽やかなタッチの美しい絵本でした。 ただ、少しテキストが小さい子には難しいかもしれません。というより、難しくとらえるのは大人のほうで、小さい子のほうが、もしかすると直感的に理解できるのかもしれませんが・・・。
このお話の主人公の男の子、ミシェル・モランは、パパもママもなく、さびしそうな顔をしていて、日のささない家に住んでいるのですが、眠りながらいつもにこにこわらっていて、"おつきさまのこ"ともよばれていました。 おつきさまが空に光ってさえすれば、嬉しがっていたからです。
おとこのこはこういうのでした。 「おつきさまはぼくのなかよしだよ・・・」
そして、ミシェル・モランの、おつきさまをめぐる夢とも現実ともつかない、不思議なおしゃべりがはじまります。
月の上には何だってあって、みんな幸せに暮らしていること、会ったこともないパパとママがいて、月の上では子どもでいること、それから美しい壮大な月のオペラのお話、それから平和で自由な月の世界のこと・・・。
大人たちは少しミシェル・モランのことを、夢見がちの変わった少年だと思っているようで、彼の不思議な月の話につきあいながら、時には首をひねったり、時には哀れに思ったり・・・。 しかしミシェル・モランはどんどんしゃべり、そのおしゃべりは、次第に自由にのびやかに広がり、聞き手をぐいぐい引き込んでいきます。
この不思議な、何かを暗示しているような謎めいたテキストは、発想の自由で豊かな子どもたちのつぶやきそのままのようにも思えるし、繊細な詩人が何かをやわらかい言葉で託しているようにも思えます。 何度読んでもいたずらな風がすりぬけてしまうような、幻想的で、夢のような世界に、それぞれの受け止め方でひとときゆっくりとひたり、余韻を楽しむのも、また大人の絵本の楽しみの一つですよね。
そしてこのような独特の世界をもつ奥深い美しい絵本が、現在も版を重ね続けているということは本当に嬉しく頼もしいかぎり。(版元の至光社さま、ありがとうございます!)
そのミシェル・モランの内なる不思議な世界を、みずみずしい筆で、とても美しく描き出しているのが、ジャクリーヌ・デュエムさんのイラストです。 繊細で透き通った画風が、気持をやわらかくなでていくような、個人的にとても好みのイラストです。
原書は『L'opera De La Lune』EDITIONS G.P. PARIS 1974、とあります。 テキストの作者のジャック・プレベールさん(1900-1977)は、 「パリ近郊生まれの詩人。人間社会の権威や道徳に反抗するこころを軸に、時には皮肉にはげしく、時にはやさしく美しく、自由・正義・幸福のテーマを歌いつづけた。平明な言葉による詩は、フランスの子どもから大人までのあらゆる階層に愛され、中でも詩集「パロール」(言葉) は有名。」 と、『つきのオペラ』原作者紹介にあります。(上記画像は邦訳『ことばたち』(ぴあ、品切れ)
イラストのジャクリーヌ・デュエムさん(1927-)はベルサイユ生まれの画家。ジャック・プレベールさんのほかにも、ポール・エリュアールさんなどの児童書の挿絵を多く手がけています。Elle誌、Vogue誌のイラストレーターなどとしても活躍。その絵画はジャクリーヌ・ケネディ元大統領夫人に愛され、海外旅行にも同行し、『JACQUELINE KENNEDY ET JACQUELINE DUHEME PARTENT EN VOYAGE』を描いています。
今回、いろいろ検索していて、ジャクリーヌ・デュエムさんの表紙画像がいちばん豊富だったのは、やはりアマゾンフランスでした。かなり多くの作品を手がけていらっしゃるようで、どれも華やかで気品あふれる魅力的なものばかり。 そして、『月のオペラ』と同じく、詩人のジャック・プレベールさんのテキストにイラストをそえた絵本が他にもあって、 『EN SORTANT DE L'ECOLE ET AUTRES POEMES』、 『AU HASARD DES OISEAUX. ET AUTRES POEMES』、 『LE CHAT ET L'OISEAU ET AUTRES POEMES』 『CHANSON DES ESCARGOTS/CHANSON POUR LES ENFANTS L'HIVER/PRODIGES』、 などなど(クリックするとアマゾンフランスへ別ウィンドウが開きます)。 どれもページをじっくり開いてみたい魅力的な絵本のようです・・・。
ジャクリーヌ・デュエムさんの作品には他にも、 『JACQUELINE KENNEDY ET JACQUELINE DUHEME PARTENT EN VOYAGE』という本があります。ジャクリーヌ・ケネディ元大統領夫人の海外旅行に、ジャクリーヌ・デュエムさんが同行したイラスト入りの手記、と思われます。 英語版が、『Mrs. Kennedy Goes Abroad』。アマゾンではこちら。↓ 繊細で華やかなイラストで、二人のジャクリーヌの心温まる交流と、世界旅行を描いた作品。翻訳切希望!
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『Mrs. Kennedy Goes Abroad』 Artisan
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ジャクリーヌ・デュエムさんの邦訳絵本には、同じく至光社さんより以前出ていた『わたげちゃん』があるのですが(こちらも著名な詩人・ポール・エリュアールさんのテキストによるものです)、こちらは惜しくも品切れ。 ふわふわとただよう愛らしく不思議な女の子が、ほんとうにデュエムさんのタッチにぴったりの絵本なのです・・・復刊切希望。 (アマゾンフランスで原書と思われる素敵な画像を発見しました。こちら) ポール・エリュアールさんの詩集絵本『自由 愛と平和を謳う』(朔北社)については、下記↓をごらんになってくださいね。
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『自由 ―愛と平和を謳う』 ポール エリュアール詩 クロード ゴワラン画 こやま 峰子訳 朔北社 |
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「ぼくは きみの名を書く ぼくの大切なノートに 小鳥たちのつばさに ふたつに切られた 果物に 用心深い 沈黙にも ・・・ ぼくは きみの名を書く」
戦火の最中に自由を求めて書かれた、ポール・エリュアールの詩をもとにした絵本、だそうです。
実は勉強不足でフランスの詩人・ポール・エリュアールさん(1895-1952年)についてまったく知らなかったのですが、そんな私でも、いつのまにかこの作品のもつとてつもないオーラに包み込まれ、画面からほとばしる情熱的な強い力に導かれるように、ぐいぐいページを読み進むことができました。
かなりの、衝撃でした。
表紙画像をごらんいただくと、大胆で力強く、なおかつ繊細でお洒落なイラストとタイトル文字のレタリングが、ぱっと目を惹くと思います。 ポール・エリュアールさんの本を検索すると、結構難しそうな詩集が多く出てきたのですが、その中で、この絵本はひとめで私の心をつかみました。 早速図書館で取寄せてみて、期待以上のダイナミックでのびやかな画風にほれぼれしながらページをめくると・・・
たましいのほとばしるような、情熱的な 詩 でした。
ぼくは きみの名を書く
きりっと短くて、さらさらとこぼれるような、それでいて鋭い切り口を持ち、さわるとやけどするように熱い、全身で受け止めなくてははじかれそうに強い、豊かなイメージの4行の詩が、左ページに一ページずつ、くっきりと押された刻印のように、わずかにかすれを残したフォントで記されています。 さらに原文の「j'écris ton nom」という一行が、同じページのどこかにひっそりと、あるいはくっきりと、自由に繊細に配置されています。 その原文のレタリングが、一ページずつ、右ページ一面のイラストと一体化するように、みずみずしい手描き文字であったり、選び抜かれた色とフォントであったり・・・。 まさに、たましいの叫びを記した絵本にふさわしく、作り手の敬意とこだわりが感じられるような、大人のための贅沢な絵本、という感じです。
クロード・ゴワランさんのイラストも、ページごとにつぎつぎと画風を変えながら、この詩のもつとぎすまされたイメージを豊かに情熱的に膨らませてくれる、力のみなぎった美しい作品で、どのページからも目が離せないほど熱い! アマゾンで検索しても、Amazon.frで検索しても、いまのところこの絵本しかヒットしなかったのが本当に残念。
そして、私の全く知らなかった、詩人・ポール・エリュアールさんについてを、訳者のこやま峰子さんが、あとがきで詳しく解説してくださっていますので、こちらを読めば、さらに味わいときらめきがますことでしょう! ポール・エリュアールさんの、劇的な一生は、詩 そのもののように情熱的で真摯で胸を打ちます。 この、たましいをえぐりとるように刻まれている自由への叫びが、うねりながらくだけながらそれでもさらさらと流れる川のように、いつしか「自由」への海へ流れ着くこの絵本を、自分なりに精一杯受け止め、もう一度でも二度でも「自由」の意味を問い直したい。そんな美しく激しい絵本です。
よろしければ図書館などで、ぜひお読みになってくださいね。
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