漁師のウィンクルさんはいつもひとりぼっち。ボート、サリー号はおんぼろ旧式、話し相手はかもめだけ。 ウィンクルさんだけはあきらめず、まいにちサリー号で漁に出るのですが・・・! 原書は『OLD WINKLE AND THE SEAGULLS』、1960、Faber and Faber Limlted,London年、とあります。 ジェラルド・ローズさんの邦訳絵本は、『なんじゃこりゃたまご』▼(ほるぷ出版)など、あまり数が多くはないですが、人気はとても高いですよね。 そのジェラルド・ローズさんのケイト・グリーナウェイ賞受賞作品である、『ウィンクルさんとかもめ』が、ふしみみさをさんの訳により、岩波書店から、とても嬉しい出版となりました。 すこしくすんだ、美しい色調の、なつかしくてレトロなタッチ、自由でのびやかでにぎやかな筆遣い、カラーと白黒のページの交互に編まれた古風な構成、かっちりとひとつずつすすんで盛り上がり、ひとつずつおしまいまでたどってみーんな楽しくなるような陽気なテキスト・・・これは愉快で華のある絵本! 表紙からして、ウィンクルさんのあどけなくて、どこかぎこちなくさえある首の曲がり具合、両手を高々と差し伸べ、口を大きく開けて、無防備なまでに無邪気なその様子は、天真爛漫、あけっぴろげ、もうとにかく情熱的で、うんと頼りになる古典絵本!という感じがします。 活気あふれる素朴な港町の、元気をおすそわけしてもらったような絵本。とんとんと階段を駆け上るように、リズミカルで、勢いがあって、心地よい風を感じる、さわやかな作品でした。茶目っ気ある人々の表情も、可愛いくって、好き。絵本の中のおかみさんたちの元気がいいと、平和で、頼もしいですよね。
原書は『"AHHH!"SAID STORK』1977 Faber&Faber Limited とあります。 上記の『ウィンクルさんのかもめ』(岩波書店)▲などとは少し趣きの異なる、線画に水彩風の軽やかなタッチ。水と絵の具、筆を自在にあやつって、重ねやにじみ、ひろがり、とけこみを効果的に用いた、透明感のある画風。 巻末の著者紹介には、ジェラルド・ローズさんと夫人のエリザベス・ローズさんの貴重な写真がおさめられています。
ヨーロッパ文壇の巨匠、ジェイムズ・ジョイスさんが、1936年8月、54歳の北欧旅行のとき、当時4歳の孫スティーヴンに書き送った、生涯唯一の童話。 ずっと昔、フランスのボージャンシーの人たちは、川に橋がなくて困っておりました。これを新聞で知った悪魔は、おしゃれして、おしゃれな市長のところへ行ったのです。 ジェイムズ・ジョイスさんについてや、この作品の背景などについて、まったく何も知らずとも、おおらかでがっちりとした筋立てにシニカルなスパイスのふりかけられたしてやったりの物語を、ニヤリと楽しく味わうことができます。 ジェラルド・ローズさんの描く、めがねをかけた細身の悪魔は、ジェイムズ・ジョイスさん本人の特徴を巧みに写し取っているそうです。 訳者の丸谷才一さんは、この作品を旧仮名遣いで訳されていて、「表記についてのあとがき」が添えられています。そして、作者のジェイムズ・ジョイスさんについてや、孫への贈り物であるこの作品の背景、単なる孫へのにこやかな贈り物ではなく作者の苦い内面に深く結びつく作品の背景などを、とても詳しくひたむきにあとがきで記されています。 原書は『The Cat And The Devil』 Faber and Faber,London とあります。初版の表記が不明なのですが、調べると、1965年でしょうか? 目下探求中の一冊、復刊をのぞみます!
現代イギリスを代表する詩人の一人、テッド・ヒューズさんの楽しい子供向けの作品に、ジェラルド・ローズさんがのびやかな挿絵を添えた古典絵本。 スコットランドに住んでいるのに、人々にいると思ってももらえない、ネス湖のネッシーはご機嫌ななめ。 ネス湖から出れば、「ゐるもんか、ゐるもんか。怪獣なんてゐるもんか!」。 イギリスの国を代表する、飼い主不明の大怪獣の、いちずなお騒がせ珍道中は、ずんずんロンドンへと進みます。巨体をくねらせきょろきょろ、まごまご、ともあれ、前へ、前へ。たまに下品な言葉遣いの貴族にごちそうになって、ついでに貴族までぺろりとごちそうにしたりも(怪獣ですからね)したけれど、比較的おとなしく、言われたとおり、教えられたとおりに進みます。 この文章も、訳者の丸谷才一さんが、旧仮名遣いで記されています。 巻末には、「ファウナ(※)の詩人−テッド・ヒューズについて」という、出淵博さんのくわしい解説が添えられています。作者の詩人・テッド・ヒューズさんについて、詩について、『ネス湖のネッシー大あばれ』について、ネッシーの巨体ののっそりした動きの様子を写している巧みな脚韻(ライム)について、などなど、読めばますます作品が輝いてくるような論文です。(※「ファウナ」・・・動物群。対することばは「フローラ」、植物群。同解説より ラテン語起源) それにしてもおきゃんでおとぼけのおおきな可愛いネッシーが、その図体のかけらほどもなかなか人々に認めてもらえず、苦悩しながらのこのこ進んでいく様子は、本当にお気の毒なのですが傍目からは目の薬、愉快痛快楽しませてくれます。
ちなみに、1964年度版のものは、海外の古本でもレアのよう。今となっては邦訳もレアですが、洋書もまたしかりなのですね・・・。目下探求中。 なおこの絵本を読んだとき、コメディータッチの楽しい『びっくりドラゴンおおそうどう!』▲(好学社)を、個人的に思い出してしまいました。罪のない大きな存在が、大笑い、そしてチクリ。
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