■ジェラルド・ローズさんの絵本

1935年、香港生まれ。イギリスに渡り、油絵を学ぶ。小学校の教師をしていたエリザベスと知り合ってから子どもの本に興味をもつようになり、コンビで数多くの絵本を手がける。
『ウィンクルさんとかもめ』(岩波書店)著者紹介より
『ウィンクルさんとかもめ』*『なんだこりゃたまご』*『猫と悪魔』*『ネス湖のネッシー大あばれ』

 

『ウィンクルさんとかもめ』岩波書店

『ウィンクルさん

かもめ』
エリザベス・ローズ文
ジェラルド・ローズ絵
ふしみみさを訳
岩波書店
2006年

ある日、さかながぱたりととれなくなって、町中がすっかり元気をなくしてしまいます。
かもめが友達の、ひとりぼっちのウィンクルさんだけは、あきらめず、毎日おんぼろボートで漁に出るのですが・・・。

のびのびと美しいイラストと、素直で楽しいテキストで、海の元気と喜びをたっぷり届けてくれる、おおらかで陽気な古典絵本。

オンライン書店ビーケーワン:ウィンクルさんとかもめ

漁師のウィンクルさんはいつもひとりぼっち。ボート、サリー号はおんぼろ旧式、話し相手はかもめだけ。
今日もかもめにえさをやるウィンクルさんを見て、ぴかぴかの大きな船の漁師たちは、ふふんと笑っています。
そんなある日、ぱたりと魚がとれなくなって、町中の元気がぱたぱたとみんななくなってしまいました。
えらい学者が額にしわをよせてもだめ。

ウィンクルさんだけはあきらめず、まいにちサリー号で漁に出るのですが・・・!

原書は『OLD WINKLE AND THE SEAGULLS』、1960、Faber and Faber Limlted,London年、とあります。

ジェラルド・ローズさんの邦訳絵本は、『なんじゃこりゃたまご(ほるぷ出版)など、あまり数が多くはないですが、人気はとても高いですよね。

そのジェラルド・ローズさんのケイト・グリーナウェイ賞受賞作品である、『ウィンクルさんとかもめ』が、ふしみみさをさんの訳により、岩波書店から、とても嬉しい出版となりました。

すこしくすんだ、美しい色調の、なつかしくてレトロなタッチ、自由でのびやかでにぎやかな筆遣い、カラーと白黒のページの交互に編まれた古風な構成、かっちりとひとつずつすすんで盛り上がり、ひとつずつおしまいまでたどってみーんな楽しくなるような陽気なテキスト・・・これは愉快で華のある絵本!

表紙からして、ウィンクルさんのあどけなくて、どこかぎこちなくさえある首の曲がり具合、両手を高々と差し伸べ、口を大きく開けて、無防備なまでに無邪気なその様子は、天真爛漫、あけっぴろげ、もうとにかく情熱的で、うんと頼りになる古典絵本!という感じがします。

活気あふれる素朴な港町の、元気をおすそわけしてもらったような絵本。とんとんと階段を駆け上るように、リズミカルで、勢いがあって、心地よい風を感じる、さわやかな作品でした。茶目っ気ある人々の表情も、可愛いくって、好き。絵本の中のおかみさんたちの元気がいいと、平和で、頼もしいですよね。

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『なんだこりゃたまご』ほるぷ出版

『なんだこりゃ
たまご』
ジェラルド・ローズさく
おさなぎひとみやく
ほるぷ出版
1980年

ジャングルでこうのとりが見つけたたまご、つついてもわれず、カバがふんづけてもつぶれず、ライオンが牙をたててもこわれず・・・みんながそれぞれのやり方で試しますが、それでもたまごはわれません。
「なんだこりゃ」とみんながあきれるなか、ぱりぱりっと中からひびが入って・・・。

素直でのんびりした愉快なお話。「なんだこりゃ」に対して、最後にひとことまとめてみるなら、「なんだと、こらぁ!」だったりして??

原書は『"AHHH!"SAID STORK』1977 Faber&Faber Limited とあります。

上記の『ウィンクルさんのかもめ』(岩波書店)などとは少し趣きの異なる、線画に水彩風の軽やかなタッチ。水と絵の具、筆を自在にあやつって、重ねやにじみ、ひろがり、とけこみを効果的に用いた、透明感のある画風。

巻末の著者紹介には、ジェラルド・ローズさんと夫人のエリザベス・ローズさんの貴重な写真がおさめられています。
長く品切れでしたが、最近嬉しい復刊になりました。

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『猫と悪魔』小学館 品切れ

『猫と悪魔』
ジェイムズ・ジョイス文
ジェラルド・ローズ画
丸谷才一訳
小学館
1976年
品切れ

むかし、フランスのボージャンシーの町の川には橋がなく、人々は困っておりました。それを知った悪魔が、たった一晩で立派な橋をかけますが、一番初めにわたったものを、悪魔の家来にするというのです。
人々と悪魔が見守る中、橋のたもとに市長さんとねことバケツが現れて・・・。

「悪魔だまし」の民話をもとにした、ジェイムズ・ジョイスさんの唯一の童話。物語にこめられた奥深い背景を明らかにしていくくわしい解説がおさめられています。
力強くのびやかで、ダンディな挿絵が美しい絵本。

ヨーロッパ文壇の巨匠、ジェイムズ・ジョイスさんが、1936年8月、54歳の北欧旅行のとき、当時4歳の孫スティーヴンに書き送った、生涯唯一の童話。
民間伝承にみられる「悪魔だまし」の主題にのっとった話、だそうです。
(『猫と悪魔』小学館 あとがきより)

ずっと昔、フランスのボージャンシーの人たちは、川に橋がなくて困っておりました。これを新聞で知った悪魔は、おしゃれして、おしゃれな市長のところへ行ったのです。
「世界で一番よい橋をたつた一晩でかけてあげませう。ただ、一番はじめに橋を渡る者がわたしの家来になることです」
次の日、本当にきれいでがっちりした石の橋が広い川にかかりました。橋の向こう側には悪魔が立っていて、一番はじめに橋を渡る者を待っています。
そこへ、重い金のくさりを首に巻いた赤いマントの市長さんが、水のはいったバケツを片手に、もう一方の腕に猫を抱いてあらわれました。
・・・

ジェイムズ・ジョイスさんについてや、この作品の背景などについて、まったく何も知らずとも、おおらかでがっちりとした筋立てにシニカルなスパイスのふりかけられたしてやったりの物語を、ニヤリと楽しく味わうことができます。
ジェラルド・ローズさんの自由闊達なタッチの、表情ゆたかなイラストも魅力的。
深い青緑色の美しい明るく陽気なカラーのページと、勢いのある線画の白黒のページが、交互に編まれた古風な構成。猫の劇的な変化のページは白黒なのですが、その迫力のすさまじいこと、もはや化け猫的!?

ジェラルド・ローズさんの描く、めがねをかけた細身の悪魔は、ジェイムズ・ジョイスさん本人の特徴を巧みに写し取っているそうです。
(『猫と悪魔』小学館 あとがきより)

訳者の丸谷才一さんは、この作品を旧仮名遣いで訳されていて、「表記についてのあとがき」が添えられています。そして、作者のジェイムズ・ジョイスさんについてや、孫への贈り物であるこの作品の背景、単なる孫へのにこやかな贈り物ではなく作者の苦い内面に深く結びつく作品の背景などを、とても詳しくひたむきにあとがきで記されています。
このあとがきを読むと、作品への理解がますます深まり、魅力的な別の一面がありありと見えてくることと思いますが・・・現在とてもながく品切れなのですよね。

原書は『The Cat And The Devil』 Faber and Faber,London とあります。初版の表記が不明なのですが、調べると、1965年でしょうか?
この作品には別の画家たち、Richard Erdoes、Blachon(ロジェ・ブラション、邦訳『猫と悪魔』は文化出版局より、品切れ)、による絵本などもあるようです。ジェラルド・ローズさんのものは、海外の古本でもレアなもののようです。

目下探求中の一冊、復刊をのぞみます!

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『ネス湖のネッシー大あばれ』小学館 品切れ

『ネス湖のネッシー
大あばれ』

テッド・ヒューズ文
ジェラルド・ローズ絵
丸谷才一訳
小学館
1980年
品切れ

ほんとはほんとにいるのに、いないと勝手に思われて、おかんむりのおきゃんなネッシーの、ロンドンへの旅の軌跡を描いた、テッド・ヒューズさんの楽しい作品。のほほんとユーモラスで無邪気、ニヤリ、ちくりと風刺的。

ジェラルド・ローズさんの、おおらかな素朴さと洗練された華やかさのいりまじったクラシカルな絵が、田舎者の怪獣(?)だけど一流のレディのネッシーにおにあい。

現代イギリスを代表する詩人の一人、テッド・ヒューズさんの楽しい子供向けの作品に、ジェラルド・ローズさんがのびやかな挿絵を添えた古典絵本。

スコットランドに住んでいるのに、人々にいると思ってももらえない、ネス湖のネッシーはご機嫌ななめ。
「ひどいぢやない、あたしのこと、あれはデマさ、なんて。童話の中の動物さ、なんて。いばるつもりはありませんが、みんなに知られたい。出てゆきたい。」
そしてのこのこ、ロンドンめざして、前進あるのみ、旅に出た!

ネス湖から出れば、「ゐるもんか、ゐるもんか。怪獣なんてゐるもんか!」。
エジンバラでは、おまわりさんに、「こんな大きな猫、どこのだれが飼つてるんだらう。」
ノーサンバランドでは、ヨークシャーでは、森でであった貴族の家では・・・

イギリスの国を代表する、飼い主不明の大怪獣の、いちずなお騒がせ珍道中は、ずんずんロンドンへと進みます。巨体をくねらせきょろきょろ、まごまご、ともあれ、前へ、前へ。たまに下品な言葉遣いの貴族にごちそうになって、ついでに貴族までぺろりとごちそうにしたりも(怪獣ですからね)したけれど、比較的おとなしく、言われたとおり、教えられたとおりに進みます。
女王様に一目お目にかかりたくて。
「あれはすばらしい女の子」
きっとみんなはそういってくれるはず!
そして・・・

この文章も、訳者の丸谷才一さんが、旧仮名遣いで記されています。

巻末には、「ファウナ(※)の詩人−テッド・ヒューズについて」という、出淵博さんのくわしい解説が添えられています。作者の詩人・テッド・ヒューズさんについて、詩について、『ネス湖のネッシー大あばれ』について、ネッシーの巨体ののっそりした動きの様子を写している巧みな脚韻(ライム)について、などなど、読めばますます作品が輝いてくるような論文です。(※「ファウナ」・・・動物群。対することばは「フローラ」、植物群。同解説より ラテン語起源)

それにしてもおきゃんでおとぼけのおおきな可愛いネッシーが、その図体のかけらほどもなかなか人々に認めてもらえず、苦悩しながらのこのこ進んでいく様子は、本当にお気の毒なのですが傍目からは目の薬、愉快痛快楽しませてくれます。
ジェラルド・ローズさんののびのびしたタッチの華やかなイラストが、さらに物語を無邪気に明るく、ちくりと毒のあるものにしているように思います。
濃厚なカラーと白黒の線画の交互の構成。
原書は、『Nessie the Mannerless Monster 』Faber and Faber,London 1964 とあります。
ちらりと調べてみたところ、アマゾン洋書では、同じコンビ、同じタイトル、おなじ版元の、こちら↓が画像つきでありました。
後にジェラルド・ローズさんがイラストを新しくしたものなのでしょうか???タッチの雰囲気が異なるようにも思われます。

『Nessie the
Mannerless
Monster
(ペーパーバック)』

Faber and Faber (1992/4/27)

ちなみに、1964年度版のものは、海外の古本でもレアのよう。今となっては邦訳もレアですが、洋書もまたしかりなのですね・・・。目下探求中。

なおこの絵本を読んだとき、コメディータッチの楽しい『びっくりドラゴンおおそうどう!(好学社)を、個人的に思い出してしまいました。罪のない大きな存在が、大笑い、そしてチクリ。

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