■ラッセル・ホーバンさんとリリアン・ホーバンさんの絵本 |
ラッセル・ホーバン・・・1925年、アメリカのペンシルバニア州生まれ。第2次世界大戦従軍後、8年間フリーのイラストレーターとして活躍。その後、本格的に作家活動に入る。
リリアン・ホーバン・・・1925年、アメリカのペンシルバニア州生まれ。大学時代に知りあったラッセル・ホーバンとの共同作品「フランシス」シリーズなど、作品多数。 (『むしゃくしゃ家族』あすなろ書房 表紙カバーうら見返し 著者紹介より) |
『むしゃくしゃ家族』*『ハービーのかくれが』 |
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『むしゃくしゃ かぞく』 ラッセル・ホーバン文 リリアン・ホーバン絵 福本友美子訳 あすなろ書房 2003年
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くらーいもりのむしゃくしゃかぞくは、いつもむしゃくしゃ、すなとじゃりのごはんはまずく、よるとさわるとけんかばかり、なにもかもいやーなことばかり。 ところが、あるひ、いちばん末っ子のむしゃくしゃぼうやが、野原で不思議なものを見つけたのです。 それは、ふわふわぽわん、とした何かで、何だかににこ、楽しい気持ちにさせるもの。 ぼうやがそっとつかまえて、家に持って帰ると・・・。
昔話のようにとんとんとリズミカルなテキストに、セピア調のおしゃれで楽しいイラストを添えた、愛らしい小ぶりな絵本。 描かれている愉快なむしゃくしゃかぞくは、どこかちくちくと風刺的。 原書の初版は1966年だそうですが、古びることなく、ますます新しい輝きの見出せる絵本。 ふわふわぽわん、としたものが、私たちのもとにもやってきますように・・・。
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原書は『THE LITTLE BRUTE EAMILY』、初版は1966年だそうです。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
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『The Little Brute Family (Sunburst Books)』 Sunburst 2002
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『ジャムつきパンとフランシス 』 、『フランシスのいえで 』(ともに邦訳は好学社、画像はアマゾン洋書)、などなど、あなぐまの温かな家族の小さな姉妹の姉の目を通して、毎日の何気ないエピソードと、左右さまざまにゆれながら日々すこやかに成長する心を描いた、「あなぐまのフランシス」シリーズの、ラッセル・ホーバンさんとリリアン・ホーバンさんの絵本です。
フランシスシリーズや、『ハービーのかくれが』(あかね書房、品切れ、▼)などでおなじみの、表情豊かで親しみやすいイラストに、セピア系のちょっとシックな色彩と、本の小ぶりな版型が愛らしく、どこか垢抜けて洒落た感じがします。
今度の家族の主人公は・・・何の動物なのでしょうね?いがくり、あるいはタワシ系の毛並みにも思えますが、黒々つやつやどっしりとしたお鼻は、イヌのような、それでいて四角い出っ歯と全体の雰囲気は、トロルのような・・・。
森の小枝の色のような、チョコレート色のような、タワシ色のような表紙を開くと、見返しには小豆色の紙。すかすと細かな銀箔がきらきらと光る和紙のような、色紙のような紙で、さりげない渋さと上品な雰囲気。 本文イラストも、表紙のような温かな茶系でまとめられていて、作者と絵本の出版社のこだわりがすみずみまでゆきわたっている感じです(原書を見たことはありませんが)。 そしてテキスト。
くらーい、くらいもりのなかに、 むしゃくしゃかぞくがすんでいました。 むしゃくしゃパパに、むしゃくしゃママ、 むしゃくしゃねえちゃんに、むしゃくしゃにいちゃん、 それからむしゃくしゃぼうや。
高い木立の底の小さな家につづいて、仏頂面のむしゃくしゃかぞくの一人一人のイラストがぽんぽん登場し、物語がとんとんはじまります。
あさごはんはママがつくった、 すなとじゃりのおかゆです。 ううう、まずい、まずい。 げええ、かたい、かたい。
ぼうやはひとくちたべては、うえーん、となきます。 にいちゃんはあしをけとばし、 ねえちゃんもやりかえします。
・・・。
軽快なテキストと、愉快なイラストで、むしゃくしゃかぞくのむしゃくしゃした一日が描かれます。 朝、パパはふくろをしょって、小石や小枝を集めに出かけ、にいちゃんねえちゃんはいがみ合いながら学校へ、家に残ったママは手荒に家事を行いながらぼうやをしかり、ぼうやはあーんと泣いています。 夜は夜で、パパが集めてきた材料でばんごはんのシチューをつくるから、ううう、げええ、のくりかえし。 無駄のないテキストに遊び心がちりばめられ、ふわふわしたイラストにユーモアがあふれているので、むしゃくしゃかぞくの散々な一日にあまり深刻さを感じませんが、・・・実際にこんな毎日を想像すると、かなり陰鬱としてしまいそう。
それでも子どもたちは、つっつきけっとばしあいながらも、夏の水遊びや冬のそり遊びなど、それなりに子どもらしく遊んでいるのですが・・・むしゃくしゃ方式(?)だと、泳げずすべれず、何をしてもうまくいきません。
そんなある日のことです。 むしゃくしゃぼうやがのはらにいくと、ひなぎくの上に、なにやら見慣れぬ、 「ふわふわぽわん」 としたものを見つけました。
ぼうやはそれをそっとつかまえてポケットに入れました。 するとぼうやは何だかとても楽しくなって、 「わーい、わーい!」
そしてぼうやが「ふわふわぽわん」を、家につれてかえると・・・。
「ふわふわぽわん」とは・・・正体は何なのでしょうね? 絵本を見て、読んで、聞いて、感じる、心に広がる、「ふわふわぽわん」としたもの、かもしれません。 「ふわふわぽわん」が春風のように家にやってきた後の、むしゃくしゃかぞくの変化が、前半をふまえて対句的にリズミカルにドラマチックなテキストと、そして穏やかで和やかなイラストでふわんと描かれていて、なんだかぼうやと同じようにとても楽しい気持ちになってきます。
「むしゃくしゃかぞく」をむしゃくしゃと描きながら、いつしか「ふわふわぽわん」と、心が和み、素直にほころんでいくような、とても愛らしい絵本です。 心がとげとげ、ちくちくしてきたら、「ふわふわぽわん」を思い出して、そっと開きたい古典絵本。 よろしければ、図書館などで家族でお読みになってくださいね。
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さらに、あなぐまのフランシスシリーズがお気に入りの方には、こちらのこのジャコウネズミのこの絵本も・・・。
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『ハービーのかくれが』 ラッセル・ホーバン作 リリアン・ホーバン絵 谷口由美子訳 あかね書房 品切れ
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ジャコウネズミのハービーは、おねえちゃんのミルドレッドと、いかだ作りで口げんか。とうとうおとうさんにおこられたあげく、寝る前にも、まだ言い争い、捨て台詞。 「いーっだ、あした、あんたのしらないすてきなパーティーにいくんだもんね」 「ぼくだって、おねえちゃんのしらないひみつのばしょでひみつのクラブの会があるんだから」
さて、次の日、二人はさっそくそれぞれに、ひみつの場所へと急ぎます・・・。互いに互いのひみつを気にしながら。 自分のひみつの場所にやってきたハービーは・・・。
自分のかくれがを掘り進みながら、相手のひみつをあれこれ思い、だんだん自分の内面をも掘り下げていく物語。競い合い、けなしあい、そむきあっては、やっぱり気になって、こっそりふりむいてみたり。どこの兄弟姉妹も同じだなーと、ほほえましくなる絵本。 ハービーとミルドレッドの、さらりと自然で巧みな描写は、目の前で見て聞いているかのように生き生き鮮やか。 自分のかくれがを持ち始めた子どもたちに。
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つい先日、といっても数年前ですが、復刊して、喜んで購入し、このエントリのためにふと検索してみたら・・・、品切れ!という幻のかくれが絵本。
原書は『HARVEY'S HIDEOUT』、1969年とあります。
「あなぐまのフランシス」シリーズでは、愛情あふれるまなざしを注ぎ、温かな心で包み込みながら、豊かで広い手のひらで子どもを自在に転がしつつ、時にやさしくときにきびしく、健やかに子どもを育んでいく完璧なまでの母親像に、うちのめされたり・・・じゃなかった(苦笑)、教え諭されたり、鼓舞されたりと、母と子の物語をも、楽しむことができたのですが、 『ハービーのかくれが』は、どちらかというと、家の外にも自分たちの世界を持つようになった、少し大きな姉弟が主人公の、二人の心のうちとそとを描いた、ちょっとしたなぞときのような楽しみもある物語。
ジャコウネズミのハービーと、おねえさんのミルドレッドは、仲良しだけどケンカもいっぱい、さっきまで協力してじゃれあっていたかと思うと、たちまち敵対してじゃましあっているような、まるでどこかの3姉妹をみているかのような(笑)、愛らしい姉弟です。 ある夏休みの午後、池のほとりの家の外(うらにわ)でトンテンカンテンいかだをつくっていたハービーに、家の中から、詩をつくっていたミルドレッドが、 「うるさいからやめて」 と、口出しします。 ハービーもまけじと、 「ここはおねえちゃんだけの家じゃないんだから」 と、やり返して、トンテンカンテンを続行するのですが、やがてお母さんにも 「どこかよそでやってちょうだい」 と言われてやむなく場所移動、池を泳いで向こう岸にわたります。 そして出来上がったいかだに乗って、これみよがしにミルドレッドの窓辺へやってきて、涼しい顔で魚釣り。 「のせてくれない?」 と、言われるのを待ってましたとばかりに、 「やあーだよ。これは、うちでもないし、うらにわでもないんだから、ぜんぶぼくのものだよ。ハッハッハー」
ついに、ミルドレッドとハービーの舌戦がはじまります。 ・・・が、聞きとがめたおかあさんが介入、あえなく休戦。夜おとうさんにもしかられて、寝る前の子ども部屋でも、険悪ムード続行。 「いーっだ。そんなこといったって、あたし、あんたのしらないいいことしってるんだから。」 「えっ、なに?」 「あした、すてきなパーティにいくのよ。おとうとなんかよばれないパーティよ。」 「へいきさ。ぼくだって、おねえちゃんのしらないいいことをしってるもん。」 「まあ、なによ?」 「ひみつのばしょで、ひみつのクラブの会があるんだ。おねえちゃんなんかなかまにはいれないクラブなんだから。」 「気にしないわ。・・・・」
そして次の日・・・。
なにやら二人の隠密行動のはじまりです。ここまで二人のやりとりを、目の前でくりひろげられているかのようにとても自然につぶさに描いていたテキストは、二人それぞれの不信な(?)動きを、ややなぞめいてさらりと描いています。ので、ハービーもミルドレッドも、お互いのそぶりをそ知らぬふりでチェックしつつも、内心疑心暗鬼、となりの芝生は青く、となりのクラブはさも楽しげに思えて、それぞれの別行動の場所で、心の中は複雑に・・・。
やがてハービーのひみつの場所の、ひみつのかくれがが読者の前に明らかになります。それは池の近くの土手に掘っている穴の中。 ハービーだけのかくれがを堀り進み、穴の内装をあれこれ工夫してこしらえながら、ハービーはミルドレッドとすてきなパーティーを思って、自分の心をも掘りさげて、だんだん自分の内面と向かい合っていきます・・・。
すると・・・。
ラッセル・ホーバンさんの描く子どもたちの、なめらかな口調生意気な台詞の、なんと生き生きと自然なこと! リリアン・ホーバンさんの描く子どもたちの、やわらかな色彩やんちゃなイラストの、なんと素直で愛らしいこと! ハービーとミルドレッドの明るく素直で仲がよく、そのくせちょいと意地っ張りでお互いを意識しぶつかりあう、やることなすことデジャヴュのよう、どこの兄弟姉妹もそっくりだなーと、読みながらそれぞれに苦笑している親子も多いですよね? そんな兄弟姉妹のあれこれを、身近な出来事になぞらえながら、とても巧みに描かれている場面は、親子ともどもいろいろ参考になりそうです。 少し長いテキストなのですが、押入れを「かくれが」としはじめた3姉妹長女にも、そろそろ一人でも読めるかなあ、という感じです。こっそり彼女の目のつくところに、これみよがしに置いておかねば(笑)。
近くの誰かと一緒に遊びたい、けれど誰かに邪魔されたくはない。誰にも邪魔されない自分の場所がほしい、けれど、やっぱり近くの誰かが気になる。ずっと誰もいないのはやっぱり淋しい・・・。 そんな気持ちの芽生えはじめた、兄弟姉妹に捧げる絵本。
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