「1421年11月5日の聖エリザベスの日、北海からの猛烈な嵐のために堤防が決壊し、南オランダの小さな村が洪水におそわれました。『風車小屋ねこカッチェ』は、この聖エリザベスの日の洪水の実話をもとにしています。猫と小さな赤ん坊が、恐ろしい洪水を実際に生きのびたのです。」 と、絵本の巻末の解説にあります。 原書は『Katje the Windmill Cat』、コピーライトは2001年、とあります。
カッチェは、オランダの海沿いの村の粉屋のニコのねこ。昼は風車小屋でねずみをとり、夜はニコのまくらで眠って、楽しくのんびり暮らしていました。 赤ちゃんのアッネケが生まれると、カッチェはゆりかごをゆすってアッネケと遊んでいたのに、 そんなある日の午後、強い嵐がやってきて・・・ ニコラ・ベイリーさんの描く優雅で細密なイラストが、スライドを見るようにひとつひとつ美しく配置された絵本です。 ろうそくにほの明るく浮かび上がるようなやわらかな光と影をあわせもつ、濃密なイラストは、嵐の予感を感じさせる暗めの色調。灰青、紫青、藍、緑青・・・と、青色を基調とした、どこか船底のような雰囲気に、アッネケのゆりかごに結ばれた赤色が、きりりと映えています。 ページの左側には、淡い水色をほどこされた小さな四角いイラストたちが、古い白タイルのように、4枚縦に並べられて、ページ共通の飾り枠になっています。一番上と下のモチーフは、チューリップの鉢植えが描かれていて、それだけでも、異国の古い館に迷い込んだような、不思議な雰囲気を醸し出していて魅力的なのですが、さらに心にくいことには、一ページ一ページ、真ん中の2枚のタイル模様のイラストが、物語とともにさりげなく移り変わっているのです。 ニコラ・ベイリーさんの描くねこのカッチェは、猫らしい気品にあふれながら、温和でお人よしの性格がにじみでていて、いさましい中にも愛嬌たっぷり。最後のページの無邪気な満面の笑顔には、心までとろけてしまいそうです。一家に一匹、赤ちゃんのおともに、お守りに、最強の守り神ですよね。
原書は『One Old Oxford Ox』Jonathan Cape Ltd.,London. 1977、とあります。
原書のタイトルと邦訳のタイトルのように、言葉の始まりに同じ文字を用いて、ひととおり意味がある詩文に仕立てた言葉遊びの短い詩に、ニコラ・ベイリーさんが写真のように緻密で美しくナンセンスな絵を添えた詩の絵本です。 1 2 3 左ページに短い詩、右ページに華やかな絵。 登場するさまざまな生き物は、ひげも鼻面も毛並みも写真を見るように精緻に描かれ、つぶらな瞳で思い思いの表情。そしてふとさりげなく、手やしぐさが擬人化されていて、広間でごちそうを優雅に食べていたり、どこかの宮廷の庭の池のような場所で網をもって何かを捕まえていたり・・・と、大真面目にユーモラス。 巻末には原詩がそえられてありますので、テキストの言葉遊びと、イラストの洒落っ気を見事にふまえて日本語にあらわした谷川俊太郎さんの見事な詩も、もとのままの原文も、どちらも贅沢に楽しむことができます。 『マザーグースのうたがきこえる』(ほるぷ出版)の世界と、『5ひきのねこのゆめ』(同)の世界に通じる、優雅で不思議でナンセンスでユーモラスでリズミカルな世界を、もっともっと。
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