■ニコラ・ベイリーさんの絵本2

1949年シンガポール生まれ。ロイヤル・カレッジで絵画を学び、『マザー・グースのうたがきこえる』(ほるぷ出版)でデビュー。
『風車小屋ねこカッチェ』*『いっとうのいぎりすのおうし』
≫別頁『5ひきのねこのゆめ』(5冊セット)*『くもねこ』*『かにねこ』*『ほっきょくぐまねこ』*『おうむねこ』*『ぞうねこ』

 
『風車小屋ねこカッチェ』BL出版

『風車小屋
ねこ
カッチェ』

グレッチェン・ウェルフレ文
ニコラ・ベイリー絵
今江祥智&遠藤育枝訳
BL出版
2002年

粉屋のニコとのんびり暮らしていた風車小屋のねこ、カッチェが、新しい家族にとまどい、恐ろしい嵐に翻弄されながらも、大切なものを守り抜く・・・。

1421年、実際にオランダでおきた洪水で、猫と赤ちゃんが生きのびたというお話をもとに生まれたお話、だそうです。

グレッチェン・ウェルフレさんが物語に書き上げ、ニコラ・ベイリーさんが絵筆にしたためたねこのカッチェは、ねこらしい好奇心と愛嬌たっぷり、素直でやさしくて、頼もしく、抱きしめたくなります。

「1421年11月5日の聖エリザベスの日、北海からの猛烈な嵐のために堤防が決壊し、南オランダの小さな村が洪水におそわれました。『風車小屋ねこカッチェ』は、この聖エリザベスの日の洪水の実話をもとにしています。猫と小さな赤ん坊が、恐ろしい洪水を実際に生きのびたのです。」

と、絵本の巻末の解説にあります。

原書は『Katje the Windmill Cat』、コピーライトは2001年、とあります。
アマゾン洋書ではこちらなど。↓

『Katje
the Windmill
Cat』
Walker Books Ltd

カッチェは、オランダの海沿いの村の粉屋のニコのねこ。昼は風車小屋でねずみをとり、夜はニコのまくらで眠って、楽しくのんびり暮らしていました。
ところが、ある日ニコがお嫁さんのレナを連れてきてから、何もかもがすっかり変わってしまいます。
二コのまくらにはレナが眠り、カッチェは仕方なく台所へ。風車小屋から家に帰ってくると、粉だらけの足をきれいにしなければなりません。

赤ちゃんのアッネケが生まれると、カッチェはゆりかごをゆすってアッネケと遊んでいたのに、
「いやあね、カッチェ。あんたのせいでアッネケがくしゃみするじゃないの」
レナにしかられます。
カッチェはとうとう家をでて、風車小屋に引っ越すことにしました。
・・・。

そんなある日の午後、強い嵐がやってきて・・・

ニコラ・ベイリーさんの描く優雅で細密なイラストが、スライドを見るようにひとつひとつ美しく配置された絵本です。

ろうそくにほの明るく浮かび上がるようなやわらかな光と影をあわせもつ、濃密なイラストは、嵐の予感を感じさせる暗めの色調。灰青、紫青、藍、緑青・・・と、青色を基調とした、どこか船底のような雰囲気に、アッネケのゆりかごに結ばれた赤色が、きりりと映えています。

ページの左側には、淡い水色をほどこされた小さな四角いイラストたちが、古い白タイルのように、4枚縦に並べられて、ページ共通の飾り枠になっています。一番上と下のモチーフは、チューリップの鉢植えが描かれていて、それだけでも、異国の古い館に迷い込んだような、不思議な雰囲気を醸し出していて魅力的なのですが、さらに心にくいことには、一ページ一ページ、真ん中の2枚のタイル模様のイラストが、物語とともにさりげなく移り変わっているのです。
よく見ると、真ん中の2枚は、それぞれのページの内容に沿った、ワンポイントのようなスケッチになっています。たとえば、嵐が近づいてきた場面の、風車小屋の中のニコとカッチェを描いたメインのイラストの横のタイル模様のイラストは、外から見た風車小屋と、暗く荒れ始めた空模様の小さなスケッチ、というように。
物語をさらに多面的に楽しめる、小さなしかけともいえるかも!

ニコラ・ベイリーさんの描くねこのカッチェは、猫らしい気品にあふれながら、温和でお人よしの性格がにじみでていて、いさましい中にも愛嬌たっぷり。最後のページの無邪気な満面の笑顔には、心までとろけてしまいそうです。一家に一匹、赤ちゃんのおともに、お守りに、最強の守り神ですよね。

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『いっとうのいぎりすのおうし』冨山房 品切れ

『いっとうの
いぎりすのおうし』
ニコラ・ベイリー作
谷川俊太郎訳
冨山房
1977年
品切れ

原書は『One Old Oxford Ox』Jonathan Cape Ltd.,London. 1977、とあります。
アマゾン洋書ではこちらなど↓

『One Old Oxford Ox』
Jonathan Cape
Children's Books

原書のタイトルと邦訳のタイトルのように、言葉の始まりに同じ文字を用いて、ひととおり意味がある詩文に仕立てた言葉遊びの短い詩に、ニコラ・ベイリーさんが写真のように緻密で美しくナンセンスな絵を添えた詩の絵本です。
詩にでてくる動物たちがみんな舞台に集まった、記念写真のような趣のイラストは、深い青色のカーテンも美しく、これから楽しい絵本の芝居の幕開けを思わせるよう。

1
いっとうの
いぎりすのおうし
いじが
きたない

2
にひきの
にたものがえる
ににんさんきゃくの
そうだん

3
さんとうの
・・・

左ページに短い詩、右ページに華やかな絵。
1から12まで、それぞれ動物たちが一匹ずつ増えてにぎやかになっていく短い詩に、一枚一枚、遠近を活かした美しいイラストが添えられています。
絵本は大学ノートサイズなのですが、小さな絵画のような奥行きのあるイラストは葉書よりもさらに小さな手のひらサイズ。(ちょうど、『5ひきのねこのゆめ』(ほるぷ出版)オンライン書店ビーケーワン:ぞう ねこ(画像はシリーズの一冊、『ぞうねこ』)のイラストと同じくらいのサイズです)
額縁のような、ゆったりとした白い余白と、オフホワイトの枠の中に、贅沢に配置されています。

登場するさまざまな生き物は、ひげも鼻面も毛並みも写真を見るように精緻に描かれ、つぶらな瞳で思い思いの表情。そしてふとさりげなく、手やしぐさが擬人化されていて、広間でごちそうを優雅に食べていたり、どこかの宮廷の庭の池のような場所で網をもって何かを捕まえていたり・・・と、大真面目にユーモラス。
遠近を巧みに取り入れて、背景まできっちりと丹念に筆を入れたクラシカルで美しいイラストが、リズミカルでナンセンスな詩の世界を鮮やかに描き出します。
ねこのイラストはないのですが(ねこ科ではトラが登場)、どの動物も、ニコラ・ベイリーさんならではの気品と愛嬌がふんだんに。

巻末には原詩がそえられてありますので、テキストの言葉遊びと、イラストの洒落っ気を見事にふまえて日本語にあらわした谷川俊太郎さんの見事な詩も、もとのままの原文も、どちらも贅沢に楽しむことができます。

マザーグースのうたがきこえる』(ほるぷ出版)の世界と、『5ひきのねこのゆめ』(同)の世界に通じる、優雅で不思議でナンセンスでユーモラスでリズミカルな世界を、もっともっと。
図書館などに蔵書がありましたら、お読みになってくださいね。

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