■なかえよしをさんと上野紀子さんの絵本
中江嘉男。兵庫県神戸市出身。日本大学芸術学部美術科卒業後、広告会社のデザイナーを経て絵本作家に。『ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社)で講談社出版文化賞を受賞。2005年に巖谷小波文芸賞を、2006年に文化庁メディア芸術祭奨励賞をそれぞれ受賞した。
(『ねこのシェリー』長崎出版、著者紹介より)
上野紀子。埼玉県入間市出身。日本大学芸術学部美術科卒業後、イラストレーターを経て絵本の世界へ。1972年にニューヨークのハーパー&ロウ社から初の絵本“ELEPHANT BUTTONS”を出版。『ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社)で講談社出版文化賞、『いたずらララちゃん』(ポプラ社)で絵本にっぽん賞、金子みすゞ童謡『ほしとたんぽぽ』(JULA出版局)でサンケイ児童出版文化賞推薦など多くの受賞作品がある。また2005年には巖谷小波文芸賞を受賞した
(『ねこのシェリー』長崎出版、著者紹介より)
『ねこのシェリー』*『猫と星のおはなし』

 
『ねこのシェリー』長崎出版

『ねこのシェリー』
なかえよしをさく
上野紀子え
長崎出版
ciel books
2006年

おしとやかな飼い猫のシェリーが、名前もない風来坊ののらねこに誘われて、外の世界の楽しさや、ねことしての自分、そして大切なものに目覚めたとき・・・。

鉛筆と、パステル画でしょうか、上野紀子さんの描く繊細で柔らかいシルクのような、にこ毛のようなタッチがこのうえなく美しい絵本。いのちの喜びにはつらつと輝き、さまざまな表情にゆらめくねこの大きなひたむきな瞳が、読み手の心をつかみます。

オンライン書店ビーケーワン:ねこのシェリー

この家てせ大切に、贅沢にそだてられた、しろいねこのシェリーが、窓辺でひなたぼっこをしてまどろんでいると、どこからかいっぴきののらねこがやってきました。
「おーい、にんげんのいえなんかで、よくそんなにのんびりねていられるね」
あまりおもてにでたことのないシェリーは驚き、失礼にあきれ、名前もなくひとりっきりののらねこを初めかわいそうに思うのですが、
「すこしはおもてにでてみなよ、たのしいから」
と、のらねこに誘われるままに、垣根をくぐりぬけて・・・。

にんげんに大切にされていたためにシェリーは何も知らなくて、ねこらしい身のこなしがすこし苦手。
けれど自由で気楽なのらねこの導きで、どんどんおもての世界とねこらしさを知って、とまどいながらも、新鮮な驚きと喜びを満喫します。
そのとき、ひとりのおんなのこがやってきて・・・。

上野紀子さんの描く、花曇りの空のような、薄絹をまとったようなほんわりとした背景が、うっとりするほどきれい・・・。
うるむようなねこたちの大きな瞳や、柔らかくしなやかに立ち上がる毛先から、ねこたちの気高さや、生命力の輝きが、ゆらゆらとたちのぼっているみたい。やんちゃそうにきゅっと結ばれた口元が、本当にいとおしい絵本。

墨絵のように色調を抑えたイラストも、シンプルなテキストの行間に、シェリーの初めての気持ちの揺れ動きを描き出しているところも、おくゆかしくて好きです。
シェリーとのらねこの、静かに余韻の残る結末も、ゆっくりと風にとけていくような絵の雰囲気にぴったり。

この絵本は、かつて『のらねこの詩』(偕成社、1979年、品切れ)として出版されていたものに、加筆訂正し改題されたものだそうです。
版型も少し小さくなっています。

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『猫と星のおはなし』偕成社 品切れ

『猫と星のおはなし』偕成社

『猫と星のおはなし』
なかえよしを・作
上野紀子・絵
偕成社
品切れ
1979年

ひとりぼっちの猫と星のひそかなおはなし。
猫は自分の目がきれいだとほめられたのは、生まれてはじめてでした。
猫は星とともだちになったけれど、それなのに星は・・・。

すいこまれるように美しい絵と、きらきらと輝くシンプルな言葉が、漆黒の闇の中で共鳴したメルヘン絵本。
復刊切希望。

わたしはいつもひとりぼっち
キラキラ星のきれいな夜
わたしのはらにいって
星をながめていたの
そしたらね
星がひとつひゅーんて
おちてきて
・・・

こぼれそうに大きな瞳の白い猫と、キラキラちいさな星の、ひそやかに輝く珠玉のメルヘンの絵本。
ものいいたげに、じっとこちらを見つめる表紙の猫の絵のくろぐろとした大きな瞳は、片側が青色、片側が緑色に、光を跳ね返しています。
それはつややかな、強い光。
表紙をあけると、表紙カバー見返しには、そっと、こんな文章が。

「メルヘンという名の猫がいました。その猫は、すこしかわった目をしていたので、ほかの猫たちに「へんな目!」と、いつもからかわれていました。そのうちに、目がへんがメルヘンになってしまったのです。
これは、そのメルヘンの目をすきになってしまった星のお話です。」
(『猫と星のおはなし』表紙カバー見返し より)

絵本の本文には、猫の名前も、そのいわれも、からかわれていた場面も、何もでてきませんが、すいこまれそうに大きな瞳を見つめていると、じっと心に閉じ込めた切ない気持ちが、いまにもあふれ出してきそうです。
こんなにあどけなく、純粋で、小さくて、愛らしいのに、ずっとひとりぼっちだったねこ。
星は、はじめてねこの目を、とてもきれいだと、ほめてくれたのでした。
それなのに・・・。

濃密に描かれている闇が、極上のビロードのように輝く美しい絵本。
言葉と絵がひとつになって、繊細なメルヘンをかなでています。
だれもの心に、つらいときも嬉しいときも悲しいときも、いつも星がそばにいてくれますように・・・。

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