|
『そばやの まねきねこ』
|
村田エミコ作・絵 ポプラ社 2003年
|
あるまんげつのよる。 そばやのまねきねこのすずのすけは、えいやっと店から飛び出しました。 あの店のねこもこの店のねこもみんなさそって、商店街のまねきねこご一行の楽しいお散歩。
ところが、大きなネズミがあらわれて・・・。
日本手ぬぐいのような粋な色彩、活気あふれるにぎやかな町並み、丹念に掘り込まれた版画の、どこかなつかしいレトロな世界を、今宵まねきねこたちとご一緒に。
|

これは可愛い表紙です。 しかもいかにも私好みの一つの(好みはたくさんありますので、苦笑)、きっぱりとシンプルでくっきりと鮮やかな、黄色と紺色の色使いの見事な、力強い美しい表紙。ほんのちょぴっとの挿し色の赤色が、ルージュみたいに効いています。
ほんのわずかにかすれを残した、版画の木彫りの質感も、とても粋。 日本手ぬぐいを思い出すような、和風でレトロな感じがたまりません。
そしてわくわく中身をぱらぱらめくってみたら・・・、本文見開き一面に広がる大胆な版画が、大好きな紺色を主体に、黄色、赤色の挿し色が効いて、なんて渋くてこころにくい! 白い紙ではなくて、生成りというのか、薄いベージュ色というのか、クリーム色というのか、ほどよくほんのり色づいた紙に、とても紺色が映えています。
愛らしくデフォルメされた独特の登場人物たちと、こまごまとにぎやかに、ほどよく雑多な感じをにじませながら整然と居並ぶレトロな町並みが、おもちゃばこみたいでお菓子やさんみたいで、眺めるだけでも飽きません。
ちょっと昔からの町の路地横丁みたいな、密集した風景を丁寧に一つ一つ版画で彫り上げるのは、さぞかし時間がかかることでしょうね・・・。
しかし、お話を読むのはあっという間、楽しく愉快にひといきで読めてしまえる面白さ!
2丁目のおそばやさんは、まねきねこのおかげもあって商売繁盛。 でもまねきねこのすずのすけは、すわってばかりのおんなじ毎日に、ちょっぴり飽きてしまいました。
あるまんげつのよる。 「きょうはとくべつきれいなよるだなあ。 えーい!ここでじっとなんてしていられないや」
すずのすけは思い切って、夜の町に飛び出します。 さあ、すし屋のまねきねこも、めがねやのまねきねこも、銭湯のまねきねこも、パンやのまねきねこも、みんなみんなさそってお散歩です。
と、そこへ、大きなねずみが「コラー!」と、現れたからさあたいへん。 みんなは必死で逃げますが、ねずみはどこまでもいじわるく追いかけてきて、絶体絶命。 とうとう、町でいちばん高い銭湯の煙突にのぼりつめて・・・。
いまにも飛び出してきそうな迫力のページや、楽しくコマ割りに並べられたページなどなど、ページ構成もめくるごとに新鮮で楽しくて、生き生きとした読み聞かせが楽しめます。 もちろん3姉妹にも大好評!
作者の村田エミコさんは、 「1969年東京都生まれ、93年より木版画制作を始める。」 とあります。 (『そばやのまねきねこ』著者紹介より)
その他の作品には、『よるのどうぶつえん』(大日本図書)などがあるそうです。
▲上へ
|
『よるの どうぶつえん』 川口幸男さく 村田エミコえ 大日本図書 |
青木さんは動物園につとめることになりました。仕事は夜の飼育係。 青木さんといっしょに、夜の動物たちを見に行きましょう。
動物たちの夜の生態を、静かな語り口と、力強い版画で描いた知識の絵本。 作者の川口幸男さんは、実際にも、東京都恩賜上野動物園飼育課勤務だそうです。 動物園の夜のひみつを、初々しいこどもたちに。
|
これからのご活躍がとても楽しみですね!
▲上へ
|
『コッコばあさんのおひっこし』 橋谷桂子作 村田エミコ絵 文化出版局 1998年 品切れ
|
おんぼろわが家はドッ・スン、ドッ・スン、 古い嫁入りタンスはスッタン、スッタン、 柱時計はコッチン、コッチン ・・・
道路建設の立ち退きをせまられ、ついにとうとう、コッコおばあさんは決心しました。なじみの仲間たちも立ち上がり、鳴り物入りのお引越し行列がにぎやかに続きます。
ところがそこへ、村長さんが走ってきて・・・。
軽快な語り口調と元気な版画で、心が弾んで踊りだすような読み物。 まんまるめがねをしゃんとかけた、愛らしく頼もしいコッコおばあさんは、いつかこうなりたいあこがれのおばあちゃん。 楽しくて、面白くて、ちょっぴりほろ苦い、現代の童話。
|
「第十八回カネボウ・ミセス童話大賞」受賞作品、とあります。 レモン色の地に深い緑の版画のイラストが、とても心安らぐ感じの、小ぶりな読み物。 児童書の体裁ですが、力強く愛らしい版画がどのページをも楽しく飾り、元気一杯の物語をいっそうにぎやかにもりたてています。 読み聞かせには少し長い(ので読む側が大変)ですが、くりかえし豊富に出てくる 「ドッ・スン、ドッ・スン」「スッタン・スッタン」「コッチン・コッチン」 などの擬態語を聞くのも耳に心地よく、彫り跡もリズミカルな版画のイラストを見るのも目に新鮮で、7歳長女、5歳二女は結構釘付け。 少し大きい子が自分で読めたら、嬉しくなる感じです。
さて、その楽しい物語は、まんまるめがねをしゃんとかけたコッコばあさんと、コッコばあさんのなじみのものたちが、車専用の道路建設のために立ち退きをせまられて、いっさいがっさい住み慣れた家ごと、お引越しをするにぎやかなお話。
いよいよ川向こうで始まった道路建設に、一人で守ってきた村はずれの小さな家も畑仕事もあきらめて、村長さんやひとりむすめの勧めどおり、となり町の団地のむすめのところで世話になるか、どうするかと、立ち退きをせまられたコッコばあさんは、さすがにいつもの元気をなくしてしょんぼり。 見かねたイヌがわけをたずねますが、そのイヌも気落ちすることには、町なかの団地は人間だけしか住めない決まり。 「おいら、ばあさんとわかれるのはいやだっ」
そのとき、ぴょーいとばあさんのひざにとびついてきたものがいる。ネコや。おしいれでたぬきねいりをしていて、話はすっかり聞いていた。 「おねがいです。どうぞ、わたしもいっしょにつれていってくださいな」と、かべのあなから、ちょろろんととびだしたのは、ネズミ。 「もっちろん、あたいだって、ばあさんのいくところなら、どこだっておともしますっ」 「おやおや、おまえまでが、『おともします』だってさ。はははっ、これじゃまるで、あたしはももたろうさんやないか!」 さっきまで、おちこんでいたコッコばあさん。うれしくなったり、わらいだしたりして、いそがしいこと。
そのときや。 −ぐらぁり− 家がゆれた。 ・・・。
絵本、児童書の中の主人公が、しゃんとして元気なおばあさん、おばさんである場合、それだけで物語が楽しく明るく愛嬌たっぷりになるものが多いようにも思うのですが、どうでしょうか? ともあれ、コッコばあさんは、とても元気で陽気で前向きで一本気で、情が厚くて頼りがいがあって、こんなおばあさんになれたらいいなあと憧れます。 そんなコッコばあさんを慕って、イヌやネコやネズミや、果ては住み慣れたあばら家自身や、よめにきたときからの縁のたんすや、コッチコッチつきあいの柱時計や、ガラン、ガラリンなべやかんや、カラコロ、カラリンちゃわんにはしや・・・われもわれもとあれもこれもが、にぎやかに名乗りと重い腰をあげ、コッコばあさんは嬉し涙にくれました。 「よっしゃ、このコッコばあさんにまかせとき!」
そしてついに引越しの日、コッコばあさんが新天地に選んだのは、天国のじいさんとの思い出の、いまではすっかりはげ山の、うらての小さなすぎ山のふもと。 (あの山のふもとなら、だいじょうぶ。畑仕事だってできるしな。みんなといっしょになら、なかよく、楽しくくらしていけるやろ)
そして、キリリとはちまきをしめたコッコばあさんを先頭に、イヌ、ネコ、ネズミ、 つづくは、家。ドッ・スン、ドッ・スン、ドッ・スン おつぎは、たんすのおとおりだ。 スッタン、スッタン、スッタン 柱時計もあるいてく。 コッチン、コッチン、コッチン ・・・。
なんとも楽しくにぎやかな鳴り物入りの(?)行進場面ですよね! 軽快な語り口も、選ばれた擬態語の繰り返しも、聞いているだけでうきうきと嬉しくなって、わくわくと心が躍ります。 目一杯掘り込まれた版画との息もぴったり、わいわいがやがや長い長ーい夢のある行列に、思わずくっついて小躍りしてしまいそう。
「おーい、おーい、まっとくれぇー」 そこへ血相を変えてやってきたのは、なんと村長さんでした・・・。
にぎやかな物語は、土壇場で意外な方向に持っていかれるのですが、のどかな村をつらぬいて車だけの道路を作るという設定も現代的ならば、村長さんの運んできたびっくりニュースの顛末も現代的で、なんとも皮肉。 さてコッコばあさん一行のたどった思いがけない道への続きは、ぜひ図書館などでお読みになってくださいね。
テキストの作者の橋谷桂子さんのあとがきに、このコッコばあさんの物語の誕生のきっかけのニュースともなった実際の出来事についてちらりとふれられていて、そこから作者の中でコッコばあさんが登場し、どんどん一人歩きするようににぎやかにふくらんでいった様子が描かれているのですが、・・・何だか、手に取るように想像できて、大いにうなづける感じです。楽しく明るい元気者のコッコばあさんだから、「おいらもおいらも」と、ひとりでに慕う仲間たちがやってきて、ひとりでにまわりだす糸車のように、どんどん物語がつむがれて・・・。(それを実際に物語に仕立てるのはもちろん簡単なことではなく豊かな才能が必要だとは思いますが!) いきいきとした粋なおばあさんの楽しい物語が、また1冊私の中でも増えました。
▲上へ
版画の作者の村田エミコさんの他の挿絵の作品には『ちきゅうのリズム』(リーブル) という、愛らしい大きさの小さな詩集などがあります。
|

『ちきゅう の リズム』 鈴木初江詩 村田エミコ絵 リーブル 2003年 品切れ
|
詩人の暮らしている新潟の海の魚や畑の野菜など、豊かで身近な自然の繰り返すいとなみのリズムを、ぼくやわたしの子どもの目線でゆったりと描いた詩集。
|
この中にも、畑仕事をするおばあちゃんの詩などがいくつか登場していて、とても心に残りました。
とりわけ、個人的に印象的だったのが「ブロッコリー」という詩。
畑にいちれつ 小さなたまご色の花が びっしりさいた ひと株ごとに まるい花のかたまり
入院しているおばあちゃんに なんの花ってきいたら ブロッコリーがばけたんだ こうしちゃいらんない とわらった
・・・・
いま入院はしているけれど、これまで畑仕事をいとおしみ元気に励んできたおばあちゃんの、明るく前向きな気持ちやユーモアや可愛らしさが、まごのいたわりと尊敬の気持と、実は花のつぼみであるブロッコリーへの新鮮な発見とともに、やさしい語り口でうたいあげられている大好きな詩です。 おばあちゃんもおじいちゃんも、ぼくもわたしも野菜も魚も、みんな地球の仲間たち、地球のリズムで生きている、と、素直な感謝の気持、見出す発見の楽しみ、教わり学ぶ喜びが、ぎゅっとつまっている愛らしい詩集。 こちらもよろしければ図書館などでお読みになってくださいね。
▲上へ
「ま」の絵本箱へ

HOMEへ

Copyright (c)2005-2007 kudolacieko All Rights Reserved
|