『オンネリとアンネリのおうち』プチグラパブリッシング
|
新しく出た児童書の、何気なく目を止めて、息が止まった1冊。
|
『オンネリとアンネリ のおうち』 マリヤッタ・クレンニエミ作 マイヤ・カルマ絵 渡部翠訳 プチグラパブリッシング 2005年7月
|
それぞれの事情を抱えて、少女だけの二人きりで、バラの木の美しいこじんまりしたおうちで暮らすことになった、アンネリとオンネリ。 小さな女の子のためのおもちゃもお人形も、お台所もお洋服も何もかもぴったりとしつらえてある可愛い本物のおうちで、二人が楽しくにぎやかに過ごす毎日が、ちょっとした事件をからませながら、鮮やかな筆さばきで軽やかに進んでいきます。
ちょっぴり自立したい、一人で好きなようにのびのびと暮らしてみたい、それでいてちゃんとした大人のようにきちんと整えてやってみたい、女の子たちのあこがれの気持を、きらきらと結晶化したような美しいフィンランドの読み物です。 ふっくらと、みずみずしい挿絵も魅力。
女の子の宝物になりそうな予感。
|
紅色の花咲く、深い緑の背景に、互いに手に手をとってかけてくるおかっぱのふたりの少女たち。 その可憐で清楚な、ピンクの表紙にほれました。
実はこの『オンネリとアンネリのおうち』は、かつて大日本図書さんから同タイトルで出版されていたものの、復刊、だそうです。もちろん、その旧版もリクエストしましたよ!(こちら)
さて、新版『オンネリとアンネリのおうち』(プチグラパブリッシング)です。
 |
『オンネリとアンネリ のおうち』 マリヤッタ・クレンニエミ作 マイヤ・カルマ絵 渡部翠訳 プチグラパブリッシング 2005年7月
|
←左記bk1さんの詳細の内容紹介を見ると、 「1967年の誕生以来、女の子らしい興味と興奮と喜びにあふれた児童文学の定番として少女たちが熱中した「オンネリとアンネリ」シリーズ。」 と、あります。
|
まさしく、女の子の本。 女の子の女の子による、女の子のための、女の子らしい、夢とあこがれが、ぎゅっとつまった、砂糖菓子のようなおとぎ話です。というと、何か語弊があるかもしれませんが。
もし私がン年前の現役乙女だったら(笑)、バイブルにしていたかもしれません。
なんといっても、学校に上がってやっと二年目の親友同士の小さな女の子、オンネリとアンネリが、たった二人で、バラの花咲く庭付きの新しい居心地の良いおうちで仲良く暮らす、という設定が、ファンタジックでロマンチックで、女の子の憧れをかきたてます。 それも、小さな女の子が二人で暮らすのにこれ以上ないほどぴったりの、お洋服も人形も絵本もベッドも、食べ物も食器も小鳥もみんなみんなはじめからきちんとそろって手招きしているような、本物のおままごとのような愛らしいおうちなのです。
この夢のようなおうちをはじめに立てたのは、バラの木夫人という不思議でお茶目なおばあさん。 バラの木夫人は、新しい家を建てることが大好きなのですが、何故かいつも大工さんに、注文以外の思っても見ない家を建てられてしまって、引越しばかりする羽目になるという、世にも気の毒なおばあちゃん。 でも世の中上手くしたもので、そのバラの木夫人には合わない家が、探していた別の人々には、これ以上ないほどぴったりと、希望どおりのあこがれの家だったりするのです。そしてその人々は、目に見えない糸でたぐりよせられるように、運命的にバラの木夫人とその家に出会うことになっているのです。
オンネリとアンネリがバラの木夫人と出会ったのも、バラの木夫人が、ちょうど大工さんに「ふたりのちいさな女の子のためのおうち」を建てられて困ってしまったその時でした。 しかも、オンネリとアンネリは、その日、偶然そのおうちの前の通りを歩いていて、ある拾い物をしていたのです。 心清らかで素直でやさしい二人の少女は、「正直なひろいぬしさんにさしあげます」と、書かれていた封筒の中身が何であるかも見ないまま、おまわりさんのウルポ・ウルプッカさんに届けるのですが、開けてびっくり。 お金だったのです。 しかもそのおうちがちょうど買えて、当面のちいさなふたりの女の子の十分な生活費となるくらいの。
二人の少女は、自分たちはお金などいらないから、必要な他の人のために、もとの場所にもどしておこう、と、バラの木夫人のおうちの前まで戻るのですが、そこで、門の近くに出ていたバラの木夫人と、運命の出会いをします。
そして、短い話し合いと、お金のやりとりの後、オンネリとアンネリは、夢のようないごこちのいいふたりだけのおうちを、手に入れることになったのです・・・!
おままごとのように愛らしく砂糖菓子のようにふわふわと甘い、あこがれと喜びと自由に満ちた、ふたりの小さな女の子の共同生活が始まります。
けれど、単にべたべたと甘いだけのお菓子のような物語ではなく、かすかな憂いとやわらかな影を感じるのは、オンネリとアンネリのそれぞれの家を出るきっかけとなった、それぞれの抱えている事情です。
普通の女の子オンネリとアンネリも、幸せだけに囲まれて暮らしているわけではなく、それぞれに複雑な家庭の事情があり、ちょっとずつ淋しさややるせなさを感じながらも、互いを思いやって、にこにこと明るく生きているのです。(さらにそのクレンニエミさんの描写に、温かい巧みなユーモアがあるので、必要以上にしめっぽくならず、さらりとしている感じです)
そして、甘さの中にも品のよさと、老舗の銘菓のような風格を感じるのは、やはり、ベテランならではの鮮やかな筋運びだと思います。主人公の女の子たちの抱える影の部分や、個性的でどこか浮世離れした登場人物たちに秘められた悲しい過去が、オンネリとアンネリのささやかで愛らしい日々を読み進むうちに、やがて、するりと、もつれた糸がほどけるように解決するさまは爽快です。 多少出来すぎかなとも思ってしまうくらい、あっぱれで、パレードのようににぎやかで見事な大団円は、アンコールをかけたいくらい晴れやかで、静かなラストは、いつまでも心地よい余韻にひたらせてくれるようです。
ちょっぴり自立したい、一人で好きなようにのびのびと暮らしてみたい、それでいてちゃんとした大人のようにきちんと整えてやってみたい、女の子たちのあこがれの気持を、きらきらと結晶化したような美しい読み物です。
この物語には続編があり、全部で4作からなる「オンネリとアンネリシリーズ」の第1作で、 2作目『オンネリとアンネリの冬』、 3作目『オンネリとアンネリとみなし子たち』、 4作目『オンネリとアンネリの眠り時計』 (訳者の渡部翠さんのあとがきより)と続くそうです。ぜひとも読んでみたい!
原書は『Onnelin ja Annelin talo』WSOY in 1966,Helsinki,Finland. とあります。 テキストの作者マリヤッタ・クレンニエミさん(1918-2004)は、4人の子どもを育てながら29歳の時にデビューして以来、30作以上の著作と、200作近い翻訳や再話作品を著わしている、フィンランドの代表的な児童文学作家だそうです。 イラストのマイヤ・カルマさん(1914-1999)は、絵本や児童書を中心に、挿絵やカバーのイラストを100作品以上手がけている画家で、マリヤッタ・クレンニエミさんの作品や、トベリウスの作品の挿絵などが有名だそうです。 (訳者の渡部翠さんのあとがき、著者plofile欄より)
それにしても、大人でも子どもでも、自分だけのおうち・・・とまではいかないまでも、自分だけの空間を持つ、ということは、とても大切だと思います。 大事なときには駆け込んで、息を整えて心を落ち着かせている間身を潜ませることのできる、 一人きりで邪魔されないで静かに深く考えることのできる、 きゅうくつなものは全部脱いで外して、自分がいちばん自分のままでいることのできる、 時折親しい人を招いて、こじんまりとしたいごこちのよさをともにわかちあうことのできる、 そんな自分だけの小さな空間です。
まあ、実際に子どもたちが自分だけの空間、例えばお部屋などを持つと、自分が唯一の王さまで主人でもてなし側のホストであると同時に、唯一の家来でしもべで召使なので、散らかれば片付けねばならず、掃除をせねばほこりもたまるわけで、きちんとしつらえた実在の空間を保ち続けるためにはおそらく想像以上の忍耐と不断の努力が必要であると思われます。 ・・・ですので、現実の物理的金銭的地理的年齢的事情などもあいまって、実際に自分専用の空間を持つ、ということは、子どもたちにはなかなか難しいにしても、心のうちで、こっそりひっそりしっかりと、自分だけの空間をこしらえて楽しむことは出来ます。
『オンネリとアンネリのおうち』を開くと、そんな小さな理想のおうちが、バラの花と楽しい隣人たちに囲まれて、手招きしてくれているような・・・自分もその一員になっているような、そんな可愛いおうちを感じます。
ところで、図書館にリクエストして届いた旧版『オンネリとアンネリのおうち 』(大日本図書 品切れ)を見てびっくりしました。 表紙のイラストも、裏表紙のイラストも違うのです!(本文挿絵は、同じものを用いていると思われますが、モノクロの一色ずりでした) そしていちばん異なったのが、あとがき。こちらは訳者の渡部翠さんのご主人で、フィンランド文学権威の、高橋静男さんが書かれているものでした。 当時のフィンランドの生活と日本との文化的違いなどにも触れてくださっているこの解説を読むと、『オンネリとアンネリのおうち』への理解がまた少し広がる感じがしました。 図書館などに蔵書がありましたら、ぜひお読みになってくださいね。
そしてめでたい復刊の『オンネリとアンネリのおうち』(プチグラパブリッシング)は、普通に手に入りますので、少し大きい子とすでに大きい子は(笑)、どうぞ図書館などでお読みになってくださいね!
▲上へ
マリヤッタ・クレンニエミさんの絵本 「ま」の絵本箱へ

HOMEへ

Copyright (c)2005-2007 kudolacieko All Rights Reserved
|