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『キップコップの クリスマス』 マレーク・ベロニカ 文と絵 羽仁協子 訳 風濤社 2005年10月
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ある日ともだちのシジュウカラが、町の家の中にもみの木が立っているという不思議な知らせを運んできます。 早速町へ行ったキップコップが、窓から家をのぞくと、本当にもみの木が、美しく飾られてたっていたのでした。
クリスマスを知らない森のキップコップは、もみの木のてっぺんに飾られたおほしさまに導かれて、クリスマスについてお話を聞きながら、少しずつ、もみの木をのぼります。 途中にはきれいな飾りや、美味しそうな砂糖菓子や、楽しそうなおもちゃなどがいっぱい。 でも、そのときがくるまで、いまは触ってはだめだよ、と、おほしさまにいなされつづけて、だんだん疲れてきたキップコップは・・・。
遠いハンガリーの静かな幸せなクリスマスを、ひとときキップコップとともにゆっくりと味わうことのできる、心温まる美しい絵本。
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ハンガリーのマレーク・ベロニカさんの愛らしい絵本、とちのみぼうやのキップコップシリーズの1冊です。 原書は『KIPPKOPP KARACSONYA』Mora Ferenc Konyvkiado, Budapest,Hungary,1984、とあります。手作りのぬくもりただようような、一筆一筆丁寧に描きこまれた美しいイラストが、ほのぼのと、キップコップと読み手をクリスマスへといざないます。
物語は、ある冬の日、ともだちのシジュウカラが不思議なニュースを運んできます。 「もみのきがね、おうちのなかにたっているの。おうちのまんなかで。どういうことだかわかる?」 そこで、キップコップとシジュウカラは、町に行って、その不思議な家をのぞきます。 そこに美しく飾り付けられて立っているのは、クリスマスツリー。 でももりにすむキップコップは、クリスマスのことを何も知りません。 「もっとちかくでみてみよう」 と、窓から中にぴょんととびおりたキップコップのところへ、ツリーのてっぺんから、きらきらひかるおほしさまがおりてきました。 このもみのきについて、質問するキップコップに、 「あんないしてあげよう」 と、おほしさまは、キップコップを導いて、もみのきをゆっくり上っていきます。 そこには、りんごやくるみや、砂糖菓子やろうそくや、ガラス飾りなどなど、きれいでにぎやかで楽しいものがいっぱい飾り付けられてありました。 「これはなあに」 と、訪ねるキップコップに、おほしさまは、ひとつひとつ丁寧に答えていきます・・・。
憧れのハンガリーのクリスマスツリーに思いを馳せながら、クリスマスを心待ちにひとつひとつ飾り付けていく子どもたちや家族の姿が、心に浮かぶような気がします。 もみの木のツンとした匂いをかぎながら、時には背伸びして、砂糖菓子やガラス玉をそっと結び付けていくお手伝いは、とてもにぎやかでわくわくする光景でしょうね!
クリスマスのための特別のクッキーやメレンゲのお菓子なら、すぐさま食べてみたくてたまらないことでしょうけれど、そのときがくるまでじっと待って、しずかに飾っておく。ろうそくや花火に火をつけるのは、そのときがきちんと訪れてから。 クリスマスをはじめて知るキップコップは、繊細な砂糖菓子をいますぐ食べてみたいと思ったり、ろうそくや花火に火が付いていないのでがっかりしたりするのですが、 「まだだめだよ。そのときがきたらね」 と、おほしさまにやさしくいなされます。 「そのときっていつ?ぼくもうつかれちゃったよ・・・」 一度は疲れて駄々っ子のようになるのですが、おほしさまのはからいで少し眠ったあと、目をさますといつのまにか夜。
魔法のように、もみの木のろうそくには火がともされ、もみの木の下にはひみつめいた贈り物が並んでいます。 そして音楽が鳴って、きれいにおめかししたこの家の家族が、静かによりそって入ってきました・・・。
キップコップと一緒に、ハンガリーの幸せなクリスマスをそっと見ているような、こちらまでほのぼのと心温まる絵本です。 時熟するまで待つことを知れば、待ちぬいた後の喜びもひとしお。 知らなかったことを理解する喜びも、理解を反芻ししっかりと自分のものとする喜びも、きちんと描かれています。
もみの木の深い緑に、チョコレートいろのキップコップがとてもよく映えた、しっとりとした美しいイラスト。 そしてそれぞれのテキストのページの、落ち着いたトーンの明るい色調の色の背景もお洒落です。さりげなく、とても細やかに、イラストの色にしっくりとなじむ色が選ばれているのでしょうね。
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キップコップの冬の絵本には、少し前に発売になった『ゆきのなかのキップコップ』(風濤社)という絵本もあります。 上記『キップコップとクリスマス』にも登場する、小鳥のシジュウカラたちと、初めて出会った寒い寒い冬のお話で、厳しい冬の森と、キップコップの勇気とやさしさを描いた愛らしい物語です。
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『ゆきのなかの キップコップ』 マレーク・ベロニカ 文と絵 羽仁協子 訳 風濤社 2005年2月
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ともだちのシジュウカラとの出会いともなった物語。 心も凍りそうな厳しい寒い冬に、みんなで助けあい支えあってともに過ごすことの喜びを、ちいさなキップコップの目を通してみずみずしく描いた絵本。
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あるひ、物置小屋に住むキップコップが、ひえびえとした寒さに目を覚ますと、外は真っ白な雪! 早速雪野原を探検していると、一羽の凍えたシジュウカラが力なく横たわっていました。うちにつれて帰ると、シジュウカラはゆっくりと目を覚まし、仲間たちに食べ物をあげてください、と、言いました・・・。
キップコップのやさしさ、勇気が、まっすぐ心に届く絵本。小さなキップコップがひとつひとつ工夫をしながら、困難をのりこえて、とうとうやりとげる様子が、真心のこもった丹念なタッチで、明るく楽しく描かれています。 真冬のきりっと澄んだ空気にぴったり。
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『キップコップと ティップトップ』 マレーク・ベロニカ文と絵 羽仁協子訳 風濤社 2005年7月
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葉っぱのヘリコプターで、世界を旅していたとちのみの女の子ティップトップが、深まる秋の森に舞い降りました。 最初に出会ったハリネズミは、じきやってくる寒く厳しい冬に備えて、泊まる場所を見つけたほうがいいよ、と、忠告してくれます。 そこで、ティップトップは、次々と出会う虫や生き物たちを葉っぱでそっくり真似て、友達になって、泊めてもらおうとするのですが、あいにく親切な彼らのように、飛んだりもぐりこんだりすることはできなくて、ひとりぼっちになってしまいます。
そんなときでした。 ティップトップは、自分とそっくりな、もう一人のとちのみの男の子をみつけたのです!
とちのみの女の子のティップトップと、とちのみの男の子のキップトップが、深まる秋の森でようやく出会った、記念すべき輝かしい瞬間の愛らしい物語。 駆け足で通り過ぎる秋を、いつくしむような1冊。 |
金色にひかる秋の森の空を、とちのみの女の子のティップトップが、葉っぱのヘリコプターで旅をしていました。世界を探検したかったのです。 はじめに出会ったハリネズミは、舞い降りてきたティップトップにびっくりしましたが、秋の夜は寒いから、誰かに泊めてもらわないとね、と、忠告して行ってしまいました。
「だいじょうぶ!このいろんないろのはっぱをつかって、なんにでもへんしんできるもの」 ティップトップは元気で明るい女の子。 次に出会ったリスそっくりに、葉っぱと木の実をまとって変身すると、ヘーゼルナッツを差し出して、さっそくリスに話しかけます。 「あのね、わたしにはとまるところがないの。あなたのいえにこんばんとめてくれないかしら?」 「ついておいで!」 と、リスは親切に請け負うと、木から木へととびうつり、あっという間に見えなくなってしまいました。 けれど、ティップトップには、そんなふうにとびうつることはできません。
次に出会ったのはちょうちょうです。 ティップトップはさっそく葉っぱでちょうちょうそっくりに変身すると、ひらひらとちょうちょうに、泊めてくれないかしらと助けを求めます。 「もちろんたすけてあげるわ」 親切にちょうちょうが案内してもぐりこんだのは、ティップトップが決してはいりこめないような、狭い木の皮の下の隙間でした・・・。
次に出会ったのは・・・。
秋の森のこっくりした深い色のさまざまな形の葉っぱたちと、やわらかい色の背景を眺めているだけでも、心がとても落ち着く感じ。 ぎざぎざの葉っぱや、くるんと先のカールした葉っぱ、大きく手を開いたような葉っぱなどなど、とおい日本でも同じ葉っぱを探してみたくなるくらい、一枚一枚くっきりと鮮やかに描かれています。
それらの葉っぱを上手く身体にまとって、可愛らしいお人形のようなとちのみの女の子のティップトップが、次々と登場する生き物たちをなんとか真似て話しかけます。 そのけなげな努力がほほえましいのと同時に、似せるために実につける葉っぱの取り合わせや配置に、自由な想像力とさりげないセンスが光っていて、はっとする感じです。おしゃれ。
けれど、どんなに相手の姿かたちを葉っぱで真似ても、本質的に身体の構造や性質が異なっているので、せっかくの親切な招きに応えて、ティップトップが泊めてもらうことはできません・・・。
ひとりぼっちのティップトップは、すぐにやってくる寒い冬を、どうやって過ごすことになるのでしょう・・・。
先日≫こちらで、自分にぴったりの冬支度を探すうさぎの物語・『こうさぎの白いコート』(金の星社 品切れ)をご紹介したのですが、『キップコップとティップトップ』も、ファンタジックなとちのみの女の子の姿を借りながら、さまざまな森の動物たちをたずねて、自分にぴったりの冬の居場所を探すリズミカルな物語になっています。 奇しくも秋の森をテーマに、さまざまな他人を知ることで、自分を知っていくモチーフを、それぞれの作者ならではの描き方で描いた、どちらも大好きな作品!
そして『キップコップとティップトップ』に話を戻すと、二人の小さなとちのみの子どもの、さりげなくも運命的な出会いと、ひととおり問題が落ち着いた後の、お互いの存在と自分の気持に気づく場面がとても好きです。 自分の仲間を見つけた喜び、飾らない素のままの自分を受け入れてもらえる喜び、そしてさっきまでの他人が自分にとってかけがえのない人に変わる魔法のような輝かしい瞬間を、明るい秋色のくっきりと美しいイラストで、子どもにもわかりやすく、とても喜ばしく描いている物語がとても好き!
キップコップとティップトップにとって、秋の森の葉っぱはは、ヘリコプターになったり変装に用いられたりなど、とてもドラマティックな小道具にもなるのですね。
秋の森で幸せになれるほのぼのとした物語。 子どもたちにとって、『キップコップとティップトップ』のような、韻を踏んだ感じの響きのいい名前の仲間たちが、二人や三人など複数で出てくる物語は、にぎやかで楽しい感じがしてとても親しみがもてるようです。 よろしければ図書館などでお読みになってくださいね。
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