■こみねゆらさんの絵本 |
熊本県熊本市生まれ。イラストレーター、人形作家。東京芸術大学絵画科油画専攻。同大学院修了後、フランス政府給費留学生として渡仏、8年間滞在する。1992年、初めての絵本「Les deux soeurs」をフランスにて出版。帰国後、絵本・イラスト、人形製作など幅広い分野で活躍中。『おさんぽ』(白泉社) など多数。 (『空とぶじゅうたん』ブッキング 著者紹介 より) |
『トリッポンのこねこ』*『おばあさんのうちへ』*『空とぶじゅうたん』 |
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『トリッポンのこねこ』 萩尾望都作 こみねゆら絵 教育画劇 2007年
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不思議な響きの名前の少年が、いなくなったカエルという名前の元気なこねこを、森で探す物語。 贅沢なコンビがおりなす、紗織りの薄絹のように繊細で、少しかしいだ幻想的な世界に、心がときめく絵本。
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トリッポンはまっ白なこねこをかっていた。 こねこの名前はカエルといった。元気なこねこで、なににでもぴょんぴょんとびつくので、トリッポンがそうつけたのだ。 トリッポンの一家のひっこしにも、バスケットに入れてつれてきたのだが、そこらにさんぽに出かけたきり、もどってこなかった。 そして一瞬間ほどすぎた、あるしずかでやさしい日ぐれどき、トリッポンはカエルのなき声をきいた。 ・・・
少年トリッポンが、森でいなくなったこねこを探す物語。優雅で繊細な絵と文がおりなす、こっくりとしたメロウな世界に魅了されます。 トリッポンなんて、少年の名前の響きも不思議で、線の細い少年のこころもちかしいだ感じの絵も不思議な感覚。ほのかに透けながら、発光しているような登場人物たちも、幻想的で、繊細な砂糖菓子みたい。 とろりとした果汁がとけこんだような、独特の色と響きの世界にひたっていると、現実との境界があやうくなって、ほんとうにたくさんのねこたちのおしゃべりが、すぐそこでささやかれているような気がします。 カエルが出ていった理由もお茶目で洒落ていて、少年のみずみずしさとともに鮮やかな印象。
とにかく贅沢すぎる作者たちのつむぐ繊細で美しい世界に、目がくらみそうな絵本。こだわりの感じられる装丁も魅力的。 なんと嬉しいことに、教育画劇からシリーズで合計三冊 (『トリッポンとおばけ』) (『トリッポンと王さま』)出ていて、こころゆくまで二人の世界にひたれます。
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おばあさんのうちへ
↑ ビーケーワン
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『おばあさんのうちへ』 こみねゆらさく 福音館書店 こどものとも2003年12月 通巻573号 品切れ
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メイはもりをぬけて、おばあさんのうちへあそびにいきます。 メイのかごには、あか、ちゃいろ、みずいろ、ピンク、よっつのけいとだま。おばあさんにセーターをあんでもらうのです。 あらっ、ねこのミーもついてきて、けいとだまにとびついたら、あかいけいとだまがころがって、りすのおうちへ・・・。
まどろむ午後の日差しのような、こっくりと柔らかな中間色が美しい絵本。 ころがるけいとだまが導いてくれる、三度の繰り返しの物語も、耳になじんだ昔話のよう。 おばあさんにセーターをあんでもらうはずのけいとだまの、動物たちのおうちにおさまったあとの、それぞれの工夫をこらした愛らしい使い道が乙女心をくすぐります。 穏やかで、とろけるような優しいイラストも、気が利いていて優雅な結末も、夢見心地。 おばあさんのおうちのしつらえはもちろん、動物たちのおうちにも、憧れがつのってしまう美しい絵本。
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『空とぶじゅうたん』 T・U 新藤悦子 絵・こみねゆら ブッキング 2006年
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中近東の伝統の技で手織りされた美しい絨毯。 過酷な状況下で織り上げてきた女性たちの魂の物語を、絨毯を縦糸に、著者の想像力を横糸に、著者ならではのまなざしで濃密に織り上げた繊細で幻想的な物語。 贅沢な挿絵も装丁も作り手の上質のこだわりを感じ、嬉しくなるような復刊作品。
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1996年に日本ヴォーグ社より刊行された『空とぶじゅうたん』 をもとに、ブッキングより復刊された作品。復刊にあたり、著者による全面的な改稿がなされ、また装丁も新たにデザインされたそうです。 (『空とぶじゅうたん』ブッキング より)
トルコ、イラン、アフガニスタン……イスラム世界の国々を舞台に、地方・部族ごとに代々伝わるそれぞれ独自の手織りの美しい絨毯を下敷きに、それらを祈りを込めて織り上げる女性の秘められた物語を、著者の豊かな経験と想像力で幻想的に織り上げた、美しく妖しくはかない5つの物語。 全編をつつみこむ、こみねゆらさんの繊細で濃密なイラストが、美しい絨毯の地の物語への憧れをますますかきたてます。
T巻には、 「糸は翼になって」 「消えたシャフメーラン」 「砂漠をおよぐ魚」 U巻には、 「ざくろの恋」 「イスリムのながい旅」 が、おさめられています。それぞれの物語の巻頭には、関連する美しい絨毯の絵と簡潔な解説がそえられていて、魅惑的な入り口となっています。
絨毯を織り上げる女性たちの、ひたむきで、熱いまなざしや、凛とした意志を秘めたほそいうなじが、美しいテキストやイラストのページから、かげろうのようにゆらゆらとたちのぼるよう。古いしきたりの息づく中で、何も言わないけれど、時の熟するのを逃さず行動する、果敢な女性たちは、まるで熟れた果実のようなみずみずしさ、潔さ。 情熱を織り込んだ絨毯からたちのぼる、そこはかとなく妖艶で切ない物語は、時も場所もここではないはるかあこがれの世界に、ひととき身も心も運んでくれるよう。
どの物語も好きですが、いちばん心ときめいたのは、「ざくろの恋」。 西へ向かう途中、砂漠の不思議にあやつられるように出会った二人の、絨毯とざくろをからませた、つかのまのひとときの交流が、こみねゆらさんの描くターバンの少年のまなざしとともに、ずっと切なく、心に焼き付いています。
著者の新藤悦子さんは、 トルコで絨毯を織り上げたり、トルコやイランを旅した経験を生かして、紀行エッセイなどを執筆している。2005年、16世紀のオスマントルコを舞台にしたファンタジー『青いチューリップ』(講談社) で第38回日本児童文学者協会新人賞を受賞。 とあります。 (『空とぶじゅうたん』ブッキング 著者紹介 より) 著者の豊富な見識と絨毯から得た美しいインスピレーションを、最高の装いでおすそわけしてもらったような、魅惑的な絵本。
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