■キム・ジェホンさんの絵本 |
Kim Jae-hong 1958年韓国の京幾道で生まれ、公益大学で学ぶ。「トンガンの子どもたち」で2004年エスパスアンパン賞を受賞。 (『ヨンイのビニールがさ』岩崎書店 著者紹介 参照) |
『ヨンイのビニールがさ』 |
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『ヨンイのビニールがさ』 ユン・ドンジェ/作 キム・ジェホン/絵 ピョン・キジャ/訳 岩崎書店 2006年
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少女の真心が、降り続く雨のようにまっすぐに、わけへだてなく、すべての地面をうがち、洗い流し、しみわたっていく、美しい絵本。 ビニール傘の透ける緑色が、鈍い灰色の雨の世界におくゆかしく映える、繊細な場面が、心を照らしてくれるよう。
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ざあーざあー あめがふる げつようびの あさ。
がっこうへ いく みちで ヨンイは
あめに ぬれながら コンクリートの へいに もたれて ねむっている ものごいの おじいさんを みかけた。
・・・
韓国の小学生の女の子ヨンイのやさしさと勇気が、静かにふりつづく雨のように、心を洗い流し、奥深くしみとおってくる絵本。
「この絵本の詩は、韓国の人々のくらしがまだあまり豊かでなかった、1980年代初めに書かれました。」 と、表紙カバー見返し裏にあります。 地味ですがなつかしく穏やかな風景の、手を伸ばせばすぐ届きそうな、雨の日が舞台。 重厚な色彩で、写実的に描かれた美しい絵からは、ふりしきる雨音や、ヨンイの心臓の鼓動の音までも聞こえてくるよう。少し離れたところから、ヨンイの背中を見つめるレイアウトは、古い映画のフィルムを見ているようにも思えます。 重く鈍い雨の日の色彩の中に、ほのかに透けながらうす明るい色を差すヨンイのビニール傘は、ヨンイの表情を巧みに隠しているのに、いつのまにか、読み手の心の中に、ヨンイのまなざしが浮かび上がるよう・・・ヨンイの傘さえも描かれず、緑色の影だけが、雨の地表に鏡のように残像を結ぶ美しい場面では、ヨンイに思いをはせるうち、いつの間にか自分がヨンイになって、目の前の光景を見つめているような錯覚すら覚えます。
どのページも詩的で印象的ですが、最後のすがすがしい場面の、ヨンイの後ろ姿が好き。 ヨンイを遠くから見つめ、後ろから見つめ、地面からそっと見上げ、ヨンイの行動を見守ってきたイラストは、坂の石段をふみしめておりていくヨンイの後ろ姿で終わっています。 物語の高まりと共鳴するようなアングルと、ヨンイやおじいさんの気持ちを象徴するような傘の描き方がとても印象的。 描かれているのは1980年台のヨンイかもしれませんが、いつの時代でも、心の雨に傘の華をさしてくれそう。
『Yeong's Vinyl Umbrella 』 テキストとイラストのコピーライトは、2005年とあります。
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