『きかんぼのちいちゃいいもうと』堀内誠一絵 福音館書店 品切れ
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『きかんぼの ちいちゃいいもうと』 ドロシー・エドワーズさく 渡辺茂男やく 堀内誠一え 福音館書店 1978年発行 品切れ
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強固で頑固で向こう見ずできかんぼうのいもうとのまきおこす愉快痛快な出来事が、そのせいかどうか大人びたお姉さんのもの静かな語りを通して、ユーモアとスパイスたっぷりにいきいきと描かれている、イギリスの傑作幼年童話。
堀内誠一さんのさらさらとモノクロで描く、絶妙のきかんぼさがあちこちでスパークリングワインのように心地よくはじけているイラストが、とても痛快。 ちょっとやそっとじゃなびいたりしない野生の小動物のような、手ごわそうな視線が、小気味よくて、大好きです。
抱腹絶倒のいもうとのお話を、楽しい訳で読みすすめていくうちに、きかんぼのいもうとが、いちばん子どもらしく素直で生き生きと輝いて見えてくるかも。
残念ながら、堀内誠一さんのイラストの版は品切れですが、酒井駒子さんによる未邦訳のお話も加わった新版(全3冊)が、新たに発売となりました。あわせて読みたい傑作!
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原書は『 MY NAUGHTY LITTLE SISTER 』 Methuen & Co.,Ltd.,in England 1952 と、あります。 作者のドロシー・エドワーズさんは、イギリスのストーリーテラーの第一人者、だそうで、このお話はもともとはBBC放送で放送された後、出版されたもの、だそうです。 イラストは堀内誠一さん。本文はモノクロで、ささっと鉛筆を走らせたような巧みなイラストが、いきいきといもうとの活躍を描きます。 表紙のいもうとのなんとも勝気な瞳や、きっとへの字に結んだ口元、「なんか文句ある?」とでもいいたげな、きっぱりした表情がお見事。
この堀内誠一さんのイラストの版は、少し前の福音館書店さんの限定復刊シリーズの一冊で、現在は品切れ。 さらに未邦訳のエピソードも新たに加え、酒井駒子さんがみずみずしいイラストを描き下ろした新版(全3冊)が、新たに出版となるそうです(こちら▼参照)。
『きかんぼのちいちゃいいもうと』の中には、きかんぼのいもうとのまきおこした愉快痛快無理難題ハタメイワクお騒がせな物語が、たくさんおさめられているのですが、今回は、ついにあこがれの学校で学んだお話「九十点の日」を中心に少し。
九十点の日 |
初めて学校へ特別に行けることになって、嬉しくてたまらないきかんぼのちいちゃいいもうとの、ぴんと張り詰めてうんと背伸びした気持が、なんとも愛らしい物語。
「おとなしくしていられれば、きてもけっこうです」 と、先生がおっしゃったので、いもうとは喜んで、さっそく用意をして、すっかりいいこになって翌朝にそなえます。いつもとはまるきり違って、文句も不平もいわず食事をし、遊ばずふざけず風呂に入り、さっさとおとなしくベットに入り・・・朝早く起きると、自分で服を着ることさえしたのです。
さらに、学校へ行くと、みんなにきちんとあいさつをし、おとなしく席に座り、先生のお話もちゃんときいて、他の大きい生徒たちのすることをちゃんと見て、一生懸命まねて頑張ります。 タイトルの九十点というのは、先生の質問にちゃんと答えられたから、先生から紙にかいていただいた、ごほうびのすばらしい点数なのです。
質問にも答えられたし、ねんどでかごもつくったし、絵も描いたし、体操もしたし・・・。 しかもとてもおぎょうぎもよくいいこで、みんなのお手本として前に出て披露してもらえるくらい、いい出来で頑張ったので、先生にことごとくほめてもらえて、披露して・・・疲労して・・・。 やんちゃでちいちゃいきかんぼのいもうとは、この日ばかりはそんなそぶりをみじんもみせず、なれない精一杯のせのびをして、あこがれの学校で頑張ったのです。
そのいもうとのいじらしいまでの頑張りが、対照的にどこか大人びた物静かな姉の目を通して、生真面目に淡々と描かれていて、抱腹絶倒です。 この不慣れな立派な振る舞いの結果、いもうとが学校でどうなったか・・・は、どうぞ本をお読みになってお腹をかかえてくださいね。
いもうとの努力とおねえさんの見守るまなざしもけなげでほほえましいですが、受け入れてくれた学校と先生もおおらかですばらしいですね!
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ちなみに、大なり小なり、こんなきかんぼのちいちゃいいもうと・あるいはおとうとが、どこの家庭にもひとりやふたりはいるのでは、などと思うのですが(笑)、それだけに、どのお話もなんだかとっても身近に感じられて、年代も海もこえたお話とは思えないほど、いきいきと目の前に情景が浮かび上がる感じです。
おまけに、きかんぼのいもうとの物語を読みながら、いもうとの性格をだんだん理解してくると、いつしかいちばん手のかかる駄々っ子のいもうとが、いちばん子どもらしくて素直で愛らしく思えてくるから不思議です。
こんないもうとのかわいい活躍を描いた数ある嬉しいお話の中でも、とりわけお気に入りは、
ぐらぐらのは |
周りがあれこれ抜けそうになった歯について言えば言うほど、ぐらぐらの歯を守ろうとかたくなになるきかんぼのちいちゃいいもうとの、抱腹絶倒の物語。納得させるべく何とかかんとかやっとこ歯医者さんまで連れ出したものの、決着はいかに? |
あみもののおけいこ |
まわりの口車にのせられて、あみものをはじめたきかんぼのちいちゃいいもうとと、いもうとの初めての傑作を受け取った慈悲深いおじさんとの、ほのぼのとした交流を描いたお腹を抱える物語。いもうともおじさんも作品も大満足の決着が痛快。 |
妖精のお人形 |
物語の語り手役で、きかんぼのちいちゃいいもうとの姉でありながら、あまりのいもうとパワーに気おされるためか、物語の表舞台にはあまり登場しない影の薄い(?)姉の、いつもの淡々と冷静沈着な語り口もふっとぶような大事件を、きかんぼのちいちゃいいもうとがついにまきおこします。とばっちりをくらったお人形の運命はいかに? 事件の前と後の、姉のお人形への微妙な心境の変化が、なんというか巧みに人生のひだを感じさせて、しみじみします。 |
さらには、 「はさみでじょきじょき」(新版で少し紹介しています▼) 「おとうさんとおるすばん」(新版で紹介しています▼) かな。もしかするとほとんど全部かも(笑)。
現在品切れ状態なのが本当に惜しい限りですが、よろしければぜひ図書館などでお読みになってくださいね。
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ところで、原書をアマゾン洋書で検索すると、とてもシックなシリーズが! 50th Anniversary Celebration 巻 として、2004年に出版された新版のようです。 福音館書店からの新版(全3冊)の装丁は、この雰囲気をくむものなのかしら???
『My Naughty Little Sister (My Naughty Little Sister Series)』 Egmont Books
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イラストShirley Hughes
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『More Naughty Little Sister Stories (My Naughty Little Sister Series)』 Egmont Books
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イラストShirley Hughes
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『My Naughty Little Sister and Bad Harry (My Naughty Little Sister Series)』 Egmont Books
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イラストShirley Hughes |
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その福音館書店の、新しい版は、これまたとてもシックな美しい装丁! 訳者はかわらず渡辺茂男さん、原作の中の未邦訳のエピソードも新たに加えられました。 イラストは、酒井駒子さんによるもの。↓
『ぐらぐらの歯 きかんぼのちいちゃいいもうとその1』酒井駒子絵 福音館書店
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『ぐらぐらの歯』 きかんぼの ちいちゃいいもうと その1 ドロシー・エドワーズさく 渡辺茂男やく 酒井駒子え 福音館書店
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酒井駒子さんの色数を抑えたシックなイラストが、本当に美しい1冊。 きかんぼのいもうとの、素直がゆえの意思の強さと頑なさを、とても自然ににじみでるように描いた愛らしくお洒落なカットが、あちこちにたくさんちりばめられています。
個人的に大好きなお話、 「ぐらぐらの歯」 「あみもののおけいこ」 「妖精のお人形」 「九十点の日」 などもりだくさん。
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『おとまり きかんぼのちいちゃいいもうと その2』酒井駒子絵 福音館書店
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『きかんぼの ちいちゃいいもうと その2 おとまり』 ドロシー・エドワーズさく 渡辺茂男やく 酒井駒子え 福音館書店 2006年
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わたしがまだ小さくて、わたしのきかんぼのいもうとが、もっと小さかったときのことです。 ・・・
赤ちゃんのときから、よちよち歩きをへて、きかんぼ花盛りの幼児のころまで、さまざまなきかんぼのいもうとと、いもうとをとりまくやさしいひとたち、こだわりのものたちのお話が、全部で10話。 きかんぼ大活躍の「はさみでじょきじょき」以外の9話は、今回初邦訳のお話。 今回の酒井駒子さんのイラストも、りりしくて手ごわそうなきかんぼのちいちゃいいもうとの、ふっくらとしてほほえましいしぐさが、シックな2色刷りで大小さまざまに堪能できます。
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イギリスのストーリー・テラー、ドロシー・エドワーズさんの古典的幼年童話「きかんぼのちいちゃいいもうと」のシリーズ全3冊の、その2『おとまり』です。
表紙の、あれこれと荷物をかばんにつめるちいちゃいいもうとの、夢中のしぐさの可愛いこと! 表題の「おとまり」、そして表紙のかばんにあれこれつめる場面・・・思わず、大好きなイギリスの古典的絵本『かしこいビル』▼(ペンギン社)を、個人的に思い出してしまいました。 小さな子どもにとって、親しい人からおよばれされておめかししてお出かけし、家族と離れて一人になり、親しい人のおうちでもてなされ、新鮮なベッドで眠る「おとまり」は、特別のとっておきの出来事、ほんのちょっぴり大人になったようなよそいきの気分で、わくわくと胸がときめくものですよね。
『おとまり』には、表題の「おとまり」のほか、 「いちばんはじめのお話」 「大きい女の子のベッド」 「本の中の小さい男の子」 「たいそうお年よりのおたんじょう日」、 ・・・ それに、旧版の『きかんぼのちいちゃいいもうと』▲にもおさめられていた、「はさみでじょきじょき」、 など、全部で10編がおさめられています。 「はさみでじょきじょき」以外の9編は、旧版では未邦訳のもので、今回の新版のためにあらたに訳されたものだそうです。嬉しい!
本文のいちばんはじめのお話でもある、「いちばんはじめのお話」は、きかんぼのちいちゃいいもうとが生まれたときの、あねの驚きと喜び、あねらしい優しい気持ちの芽生えを描いた愛らしいお話。他のお話では語り手に徹していて、どちらかといえば存在感の薄い姉が、生き生きと行動している珍しい(?)お話かも。添えられた愛らしいイラストに心も和みます。
「おしゃべりをはじめる」 「かわいそうなチャーリー・ココア」 では、きかんぼのちいちゃいいもうとが、おとなりのやさしいココア・ジョーンズ夫妻に可愛がってもらうようになったエピソードがいもうとらしく描かれ、 「大きい女の子のベッド」 「本の中の小さい男の子」 「おとまり」 などでは、ココア・ジョーンズ夫妻をはじめとして、きかんぼのちいちゃいいもうとをやさしくとりまく、近所のおばさんや親戚のおばさんたちとの交流が、いもうとらしく描かれています。 「おじいちゃんの銀時計」 「『かがり火の夜』のプティング」 「たいそうお年よりのたんじょう日」 などでは、おじいちゃん、おばあちゃんも登場、その温かなユーモアにくるまれるようなお話が描かれています。
旧版のときから大好きだった「はさみでじょきじょき」では、病気で退屈のあまりへそを曲げたいもうとの、後先かえりみない八つ当たり的行動のきわみの、いけないことと知りながら贈り物の上等の布を切り裂く 「すく、すくるる、すくるる」 の擬音語が、はらはらしながらも本当に爽快! はりつめた空気が小気味よく音をたてて裂けていくこの場面を、耳で聞いた子どもたちは、どんなにか、固唾を呑んで見守り、そのあとの場面にカタルシスを感じたことでしょう。
とはいえ、きかんぼのちいちゃいいもうとが、そのきかんぼらしさを発揮しすぎて周りの人を困らせるのは、『おとまり』の中では、上記の「はさみでじょきじょき」くらいかもしれません。『おとまり』の10編のお話は、小さなきかんぼのいもうとが、いもうとを愛するやさしい大人たちに囲まれて、とても幸せに健やかにおおきくなってゆくさまが描かれているように感じました。
その3『いたずらハリー』で、このきかんぼのちいちゃいいもうとが、どのようにさらに成長していくのか、同年代の子どもとのやりとりの中でどのような活躍を披露してくれるのか、本当に楽しみですよね!
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『いたずらハリー きかんぼのちいちゃいいもうと その2』酒井駒子絵 福音館書店
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『きかんぼの ちいちゃいいもうと その3 いたずらハリー』 ドロシー・エドワーズさく 渡辺茂男やく 酒井駒子え 福音館書店 2006年
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待望の3巻は、少し大きくなったきかんぼのちいちゃいいもうとと、同じくらいやんちゃな近所のいたずらハリーが、きかんぼパワー全開で、いろいろないたずらをやらかす愉快なお話など、全部で8話がおさめられています。
おとなしく秘密の回収にはげんだり、秘密の観察に励んだり、まっすぐな愛情表現でがんこなおじさんの心をほぐしたり、奇抜さで目印になってくれたりなどなど、いろいろとお騒がせなきかんぼのちいちゃいいもうとたちですが、別の視点から見ると・・・本当に子どもらしくて本性に素直ないもうとたちも、まあわるくないですよね!
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きかんぼが一人でもてんてこ舞いだったのに、二人にふえたら嵐みたい、まわりを慌てふためかせたり仰天させたり、驚嘆させたり、本当にもうきりきり舞い。 二人にかかれば、拭き掃除のぬれた床だって立派な川遊び(「いたずらハリー」)、 パンの耳を残してはいけないと言われれば、本当にお皿から消してしまう方法を編み出して知らん顔、ふたをあけたらびっくり仰天の、「パンの耳」、 図書館でいたって静かにしているよい子のハリーをうたがったら、ちゃんと本当におとなしくしていて、ついでにいもうとまで子ねずみみたいに静かになった、そのわけを知って納得、そのそもそもの原因を知ってさらに痛快な、「としょかんのこねずみ」、 などなど、 ちいちゃいきかんぼたちのいかにもたくらみそうなこと、やらかしそうなことを、語り手に徹した姉の淡々とした文章で、見事に描きあげている物語。
わけても、「おとうさんとおるすばん」は、旧版の『きかんぼのちいちゃいいもうと』▲の中にもおさめられていた、大好きな作品の一つで、はじめて二人きりでおるすばんすることになった、いもうととおとうさんのかけひきの緊迫と破綻を描いた身につまされる物語。 おとうさんは、仰せつかったいもうとのお守りという大役をこなそうとそれなりに張り切り、いもうとは、留守番などしたくなかったのに置いてきぼりにされておかんむりなものの、怖いおとうさんにおこられたくないとそれなりにしおらしく、お互い初手合わせを願います。 あさごはんだって、おとうさんになんどもおかわりをお願いするほど食べるし、食べた後は、おとうさんがそばで書き物をしながら見張っている庭の芝生で、静かに人形遊びをしながら、何かほしいものがあるときには、勝手に自分で取りにいったりせず、執筆中のおとうさんにその都度丁寧に頼む、という具合です。
「おとうさん、おねがいだから、ロージー・プリムローズのはこをとってきて」 「おとうさん、お水がのみたいの」 「ロージー・プリムローズのお水はどこなの?」 ・・・
この一連の場面の、普段どおり振舞い始めながら普段以上のおしとやかさを保ち続けるいもうとの言葉遣いと、普段まったく育児慣れしていないおとうさんの荒げていく靴音と、普段の妹をよく知る語り手の姉のちょいと的外れな模範的解説が、それぞれに勝手なメロディでからみあっていながら、ぴたりと迫真に迫るハーモニーを奏でていて・・・抱腹絶倒。
最初は使命感と義務感に燃えてお互い手探りで、それぞれ様子をうかがいつつ下手にでていたものの、だんだんなりふりかまわず本性を現してくる手ごわい様子が、手に取るようにありありと描かれていて、思わず手に汗握って読んでしまいます。 いませんか、こんなおとうさん、まわりにも(笑)。
語り部道をひたすらつらぬいて決して前面にしゃしゃりでてこない賢い姉が、めずらしく、文章の主語となって何かをする場面が出てくるのも、このお話の見逃せないところかも。
酒井駒子さんのイラストは、木造校舎での放課後の黒板の落書きや美術の時間の木炭のデッサンを思い出すような、遠いあまずっぱいなつかしさを漂わせながら、いもうとのきかんぼぶりをあますところなく描き出していて、美しいのひとこと。
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