■ケネス・グレアムさんの本 |
Kenneth Grahame 1858-1932。スコットランドのエディンバラ生まれ。イングランド銀行に勤めながら、作品を出版。著書に『たのしい川べ』(岩波書店) (『川べにそよ風』講談社、品切れ、『川べのゆかいな仲間たち』講談社、品切れ、など)、『おさわがせなバーディーくん』(徳間書店) など。 |
『ものぐさドラゴン』*「ものぐさドラゴン」その他 |
|
『ものぐさ ドラゴン』 K.グレーアム/作 亀山龍樹/訳 西川おさむ/絵 金の星社 1978年 品切れ
|
見かけとはうらはらに、お人よしでのんびりや争いを好まず、詩作が好きで礼儀正しいドラゴンと、小さいながら物知りでしっかりものの男の子と、ドラゴンと戦う羽目になってしまった伝説の騎士・セント・ジョージの、三つ巴を中心に、のどかな村のドラゴン騒動を痛快に描いた、楽しくて、どこかほろにがい古典童話。
|
雪の上の足あとって、いろんなことを思わせるものですね。 雪の上の見慣れない足跡を、ドラゴンだと思い込んで、胸弾ませて追跡し、ぼくと妹がたどりついたのは、サーカスの団長をしている知り合いのおじさんの庭でした。 おじさんはぼくたちの話を聞くと、親切にお茶と世界の動物図鑑でもてなしてくれ、帰り道、何かお話してと妹にせがまれるままに、こんな話をきかせてくれたのです・・・。
むかし、むかし、ある羊飼いが、かみさんと、本好きの男の子といっしょに小さな家に住んでいました。 ある日、羊飼いは、まえまえから気になっていたほら穴をとうとうのぞいて、そこで、夕すずみを楽しんでいるような風情のドラゴンを、はっきりくっきりと見てしまったのです。 どうしたものかとおびえる羊飼いに、本でドラゴンをよく知っている男の子は、 「だいじょうぶだよ、とうちゃん、ぼく、ドラゴンと話をしてくるよ」 と、落ち着いた顔で・・・。
ドラゴンとくれば凶暴で、ただちに勇者によって退治されるべき怪物というのが通説ですが、そのドラゴンがものぐさで、詩を愛しているなんて、うわべと中身の痛切なずれがなんともユーモラス。直接話をした男の子はちゃんと理解しますが、遠巻きにうわさするのみの人々は、伝説の騎士・セント・ジョージをよびよせて、退治してもらおうとします。 いかんせん見た目がドラゴンであるだけに、従来の人々の思い込みと、騎士との対決への期待と、その見物のお祭り的高揚感が、勝手に一人歩きしてしまって、決闘前に、セント・ジョージが本当のドラゴンの姿を知ったときには、もはや後戻りできない状況になっていたのでした。 セント・ジョージとドラゴンは、話し合いの末、戦うことになったのですが・・・。
ひょうひょうと描かれている愛すべきドラゴンの、見え隠れするこれまでのいろいろな受難、まさに現在進行形で受けようとしているさまざまな困難が、シニカルで、ほろにがい感じです。 小さな男の子は頼もしくて、話のわかるセント・ジョージも心強く、のどかなドラゴンもいとおしくて、本当に魅力的。 人々だって、ドラゴンについては誤解しているとはいえ、おおらかで、庶民的で、娯楽の少ない中で日々働き、夜は酒場に集い、ドラゴンと騎士の決闘とくればお祭り気分でうかれ、影でかけをするような、古きよき陽気な人々。 悪人などだれもいないユーモラスな物語なのに・・・どうしてもドラゴンを悪役に仕立てあげ、英雄の登場を待望するような群集心理が、なんとも皮肉ですよね。そんな難問も見事に解決し、ドラゴン・騎士・人々の全員の面目をなんとか保ちながら、読み手もはらはらと案じる最悪の事態を避けてくれる展開が、巧みな手品をみせてもらった後のような、爽快な読後感。 いつのまにか、この物語が、帰り道にサーカスのおじさんの語ってくれているお話だなんて、すっかり忘れてのめりこむ楽しさです。 たとえ物語だとしても、願うのは、これからのこの紳士的なドラゴンの幸せな行く末。どうぞ、このままのんびりいつでも好きなときに、ドラゴンがひるねをしたり、詩をひねったりできますように。
実際の伝説の英雄・セント・ジョーンズについての解説や、作者の ケネス・グレアムさんについての解説など、訳者の亀山龍樹さん(1922-1980)のあとがきも、参考になることばかり。 西川おさむさんの描くシンプルな線画の挿絵は、白黒か2色のあっさりしたもの。こざっぱりとして奥ゆかしい感じで、ひょうひょうとした愉快なドラゴンにぴったり。
原題は『The Reluctant Dragon』、短編集「夢見る日々」(1898)の中の作品だそうです。 (『ものぐさドラゴン』金の星社 品切れ あとがき 「作者と作品について」 亀山龍樹 参照)
「ものぐさドラゴン」の邦訳は、別の出版社、訳者、挿絵のものも出ています。 それぞれ少しずつ違った魅力のドラゴンが楽しめそう!↓
『ものぐさドラゴン』 ケネス・グレアム他 青土社 1999年 |
「ヴィクトリア時代の童話の黄金期に生まれた、個性豊かな作品を集めたシリーズ第3巻。M・ド・モーガンや、ケネス・グレアム、エディス・ネズビットなど5作家の7作品を収録。」 アマゾン内容紹介より
|
『のんきな りゅう』 ケネス・グレアム作 インガ・ムーア絵 中川 千尋訳 徳間書店 2006年
|
|
『おひとよしの りゅう』 ケネス・グレアム作 寺島竜一画石井桃子訳 学研 1969年 品切れ
|
≫ビーケーワン
|
▲上へ
ケネス・グレアムさんの本 「か」の絵本箱へ

HOMEへ

Copyright (c)2005-2007 kudolacieko All Rights Reserved
|