『かしこいビル』ペンギン社

て。
長い夏休み、実は先日から3姉妹ともども帰省中なのですが・・・、キセイチュウ、と、何気なく変換しようとして、実家のパソコンでまず出てきたのが
「寄生虫」。

・・・確かに、帰省中は寄生虫かもしれないなーと、ふと思ったりする私(笑)。あなたのパソコンではどうですか?

そこで(?)今日はこの絵本。

『かしこいビル』
ウィリアム・ニコルソンさく
よしだしんいち
まつおかきょうこやく
ペンギン社
1982年

ある日メリーのもとに、おばさまから一通のお手紙が届きました。
「よかったらあそびにいらっしゃい。いくつおとまりしてもいいですよ。」

喜んだメリーは、早速おとまりの荷物づくりに励みます。
あれを入れて、これも入れて、そうだあれが要るし、これも持って行かなくちゃ!そして大事なかしこいビル!

いろいろあれこれ出したり入れたり、点検・確認・検索・模索をくりかえすうちに、時間がどんどんなくなって、あわてたメリーは、とにかく何でもかんでもぎゅうぎゅうにつめこんで、

なんと!

肝心のかしこいビルを忘れてしまいます!

かわいそうなかしこいビル!
しかしビルはいつまでも泣いてはおらず、高らかにシンバルを打ち鳴らすと、しゃっきり走って、しゃにむにメリーの汽車を追いかけます。
どんどん、どんどん、走って、走って・・・!

実在する作者の愛娘・メリーと、メリーの身近な品々、そしてかしこいビルをモデルに、父があたたかなまなざしで娘に描いた永遠の傑作。
わくわくとはずんでころがるまりのような展開、大胆で力強く、洗練された美しい絵・・・父が娘に語りかけるくつろいだ温かな雰囲気を、今こうして子どもたちと共有できる幸せ!

はじまりのページからおしまいのページまで、すべてがいとおしい、古典的傑作。

原書は『Clever Bill』Faber and Faber Ltd.,1926年、とあります。
作者のウィリアム・ニコルソンさん(1982-1949年)はイギリス生まれ、商業美術ポスター、芝居の舞台美術、肖像画家などとして名高かったそうです。1922年マージョリー・ビアンコさんの『ビロードうさぎ』(童話館出版)の挿絵を依頼され、好評だったことから、文章・絵ともに彼の手による絵本の制作を依頼され、娘メリーのために作られたのがこの『かしこいビル』だったそう。彼のもう一冊の自作の絵本が『the Pirate Twins』(「ふたごの海賊」)Faber and Faber、1929だそうで、アマゾン洋書ではこちら(最近再販されたみたいです、見てみたい!)

て、『Clever Bill』をアマゾン洋書で検索すると、幾度か再販されたようで4件ヒットしたのですが、そのうち画像のあった最近のものがこちら。

『Clever Bill
Heinemann Young Books

はっとするようなはっきりした明るい黄色の地に、汽車の走る枠のデザイン、真ん中のタイトル文字の上を、赤い上着にシンバルを携えたお人形のかしこいビルが、いちもくさんにその汽車にむかってかけていく後姿!

この絵本のあふれるスピード感、大胆で洗練された美しさを象徴しているような、粋な表紙で、何度ながめてもわくわくします。

う、この絵本は、大胆でシンプルで骨太でモダンなテキストとイラストのハーモニーがおりなす、わくわくとどきどきのぎゅっとつまった、古くて新しい手作りの絵本。

物語は、主人公の女の子メリーが、遠くに住むおばさんにお泊りに招かれて、荷物をかばんにつめて、汽車で出発するお話。


かばんに何をどうつめこむか、あれこれいろいろ孤軍奮闘・苦心惨憺したあげく、いちばん大切な「かしこいビル」のお人形を入れ忘れてしまって、さあたいへん!
取り残されたかわいそうなかしこいビルは、いつまでも泣いてばかりではありませんでした。
そして・・・。

邦訳の本文も解説以外はすべて手書き文字で、作者が娘のために娘の身の回りの親しい世界を背景につくりあげた温かみある手作りのよさを、存分に伝えている感じがします。

が子のために作った絵本、には、ほかのすべての子どもたちにも喜ばれ愛され続ける傑作が多いように思いますが(ぱっと思いつくだけでも、『くまのプーさん』(岩波書店)サンドベルイご夫妻の絵本たち、『モモちゃんとアカネちゃん』(講談社)、などなど・・・)、『かしこいビル』もまさしくその一冊。

父と娘メリーにだけわかる符合のような、実際に持っていたおもちゃや道具などの登場する、くつろいだ温かな雰囲気の中に、ほかのすべての子どもたちにも共通するような、はっとするしぐさが描かれていたりして、作者のウィリアム・ニコルソンさんのやさしくて研ぎ澄まされたまなざしを感じます。

とりわけ3姉妹のハハが大好きなのは、メリーがあわててお泊り道具をかばんにあれこれつめこんでは気に入らず、引っ張り出してはまたつめなおし、とうとううっかりかしこいビルを忘れてしまう一連のあの場面たち!

遠足の前夜もそうですが、今回のキセイあたっても、3姉妹はそれぞれ自分のリュックに荷物を出したり入れたり入れたり出したり、あげくそれぞれいちばん熱心に書いていたお手紙やら絵やらをまんまと忘れてしまうという、そっくりの悲(喜)劇を演じていましたので。

でもハハは、この大好きな『かしこいビル』を、キセイチュウの読み聞かせ用の一冊に選ぶことをしっかり忘れませんでした(笑)。
3姉妹ともども、テキストをそらんじているくらい大好きな一冊。何度見てもそのたび新しい発見のあるような奥の深いイラストが、さらに楽しい一冊です。
このような古典的傑作がずーっといまも普通に書店で手にできるなんて本当に幸せ!

よろしければ図書館などでお読みになってくださいね。

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