■ゲルダ・ミューラーさんの絵本
1926年オランダ生まれ。アムステルダムのデザイン学校卒業後、パリに移住。フォーシェの絵本実験学校で学び、「ペール・カストール」シリーズの挿絵のほか、『ぼくたちのかしの木』(文化出版局)、「こびとの村」シリーズ(文化出版局、品切れ)、『みえないさんぽ−このあしあとだれの?』(評論社)オンライン書店ビーケーワン:みえないさんぽなど、作品多数。
(『さるとつばめのやおやさん』パロル舎 著者紹介より)
『さるとつばめのやおやさん』*『マルラゲットとオオカミ』*洋書

 

『さるとつばめのやおやさん』パロル舎

『さるとつばめの
やおやさん』

ジャン=ミシェル・ギルシェさく
ゲルダ・ミューラーえ
ふしみみさをやく
パロル舎
2003年

むかし、もりのかたすみにかわいいやおやがありました。店番のさるのバブーンはどうしようもないくいしんぼうで、仕入れ係のつばめのエルヴィールの目を盗んでは、お店の食べ物をかたっぱしからバリバリ、ペロペロ。
とうとうお店は、ほうきやブラシの食べられないものと、大きすぎて食べる気にならなかったおばけきゅうりだけ、あとはみんな空っぽに。
仕入れをしなければならなくなったエルヴィールは、いっぺんに運べる船があったらなあと嘆くのですが、それを聞いたバブーンは・・・。

レトロで、くっきりと色鮮やかなイラスト、楽しくて夢のあるテキスト、小ぶりな版型も愛らしく、ずっと手元においておきたくなる古典絵本。

パロル舎選「ペール・カストール」シリーズ、という絵本シリーズがあります。
「「ペール・カストール」(「ビーバーおじさん」の意味)シリーズは、1931年、ポール・フォーシェにより創刊されました。単なる知識本ではない、文化的芸術的教育をめざして作られた子どものための絵本です。」
と、あります。
(『さるとつばめのやおやさん』パロル舎奥付より)

このパロル舎選「ペール・カストール」シリーズは、
つきねこオンライン書店ビーケーワン:つきねこ、『あおいうまオンライン書店ビーケーワン:あおいうまなどなど、どれも美しくレトロでおしゃれな絵と、楽しく魅力的なテキストで、とてもとてもお気に入り。
とりわけ、
さるとつばめのやおやさんオンライン書店ビーケーワン:さるとつばめのやおやさん、『マルラゲットとオオカミオンライン書店ビーケーワン:マルラゲットとオオカミ 、『ゆきのひのおくりものオンライン書店ビーケーワン:ゆきのひのおくりものの、ゲルダ・ミューラーさんのイラストには、ほとんどひとめぼれ状態でした。ぽってりと濃く塗られた色鮮やかなイラストの、じんわりとにじみでてくるようなレトロな雰囲気がとても好み!印刷の仕上がりも、古い絵本に基づいた感じがして、好きです。

さて、テキストは・・・これまた、くすくすと愛らしく、ちくちくと愉快で、すくすくとすこやかな物語。

むかしもりのかたすみに、いっけんのかわいいやおやがありました。
そこにはふたりのてんいんさんがいました。
つばめのエルヴィールと、さるのバブーンです。

仕入れ担当のエルヴィールはてきぱきとよく働くしっかりもの。店番担当のバブーンは、せっせとよく働くのですが・・・こまったことがひとつだけ。ものすごいくいしんぼうで、お店の品物をなにかしらいつもバリバリペロペロ、口に入れていなければ気がすまなかったのです。
おかげで、お店はすっからかん。食べられるものといえば、
あまりにおおきくてさすがのバブーンもてをつけなかったおばけきゅうりだけ。
エルヴィールはかんかん。
バブーンははずかしくてしたをむいたきり。

エルヴィールがいいました。
「たべものをしいれにいかなくちゃ・・・ああ、ふねがあったらねえ。みんないっぺんにはこんでこられるのに!」
「そいつはいいかんがえだ!ぼくにまかせて!
・・・
バブーンはこころをこめてふねをつくりました。

・・・

おばけきゅうりで!

おばけきゅうりを縦二つに切って、中身をスプーンでくりぬくと、長くて軽いすてきな船のできあがり。
次の日さあ仕入れに出発、へさきのエルヴィールの広げた翼が帆の役目、後ろのバブーンの水にたらした尻尾が舵の役目です。ふねはどんどんすいすいすすんだのですが、だんだんバブーンは・・・。

わかっちゃいるけどやめられない、ダメダメバブーンの、なんともトホホで、愛らしいこと。いつももぐもぐ、店のものまで手当たりしだい口にほうりこむいやしんぼ以外は、気立ても頭もよくて働き者なのですけれどもね・・・。おさるさんだなあ、という感じです(笑)。
しっかりもののつばめのエルヴィールと、ちゃっかりものの小猿のバブーンのコンビが、あるところではパートナーのようで、あるところではくされ縁の昔馴染みのようで、あるところでは親子のようで、あるところでは漫才のようで、なんとも心当たりがあるようなないような・・・笑えます。
夢があって、可愛らしくて、楽しくて、そうなったらいいな、をきっちりかなえてくれる素直な物語が、由緒正しき古典絵本という感じ。耳からも楽しめるテキスト、目で味わう美しいイラスト、ほのぼのとよかったねのラストの満足感、どれもお気に入りの一冊です。

原書は『LE SINGE ET L'HIRONDELLE』Flammarion 1962.Imprime en France、とあります。

さらにもう一冊、テキストもイラストも大好きな、ほんのり乙女の香りの絵本はこちら。↓

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『マルラゲットとオオカミ』パロル舎

『マルラゲットとオオカミ』
マリイ・コルモンさく
ゲルダ・ミューラーえ 
ふしみみさをやく
パロル舎
2004年

ある日、オオカミがマルラゲットを襲おうとしますが、失敗して、逆に怪我をしてしまいます。気の毒になったマルラゲットは自分のやり方で手厚い看病を施します。森で嫌われ者だったオオカミは、はじめて受けた優しさに心をうたれ、元気になったあとも、マルラゲットの望むとおりに行動しようとつとめますが・・・。

人間と動物の間に横たわる一線の、はざまでたゆたう、不思議で切ない物語。

パロル舎選「ペール・カストール」シリーズの一冊で、ゲルダ・ミューラーさんの挿絵です。
みつあみの少女の慈愛に満ちたひたむきなまなざしと、草をくわえた灰色のオオカミのどこか情けなさそうな表情、とりわけおでこの右上の、ピンクのテープの傷当てが、なんとも二枚目半の、不思議なハーモニーをかもし出しています。

テキストも、不思議。

あるひのこと、マルラゲットがもりにきのこをとりにいくと、とつげん、おそろしいけものがおそいかかってきました。そう、オオカミです。
オオカミはマルラゲットをさらっていこうとしましたが、マルラゲットが必死であばれるので調子がくるってしまい、さらにあわてすぎて、巣穴の入り口におでこをぶつけて、
「いたい、いたいよう」
と、ぱったりと倒れてしまいます。

あんまり具合が悪そうなので、マルラゲットは気の毒になって、せっせと傷の手当てをしてやります。
きらわれもののオオカミが、誰かにやさしくしてもらうなんて生まれて初めて。オオカミにとってはポットのせんじ薬もそれを飲まされるカップも、苦いだけ、牙があたってこぼすだけのありがた迷惑でしたが、献身的なマルラゲットにほだされて、いうことをきくよりありません。

やがてつきっきりの看病のかいあって、オオカミの具合はだいぶよくなりましたが、けもののオオカミと少女マルラゲットの一見奇妙な取り合わせに、
「ジューイ、ジェイ!そんなやつといっしょにいると、たべられちゃうよ、マルラゲット!」
と、カケスが忠告。
いまやそんな気はまるでないオオカミはおこって、ついにカケスを食べてしまいます。
それを見たマルラゲットはカンカン、オオカミとくちをきかなくなります。
すっかりしょげかえったオオカミは、クーンクーンとはなをならして、
「もうどうぶつはたべないよう・・・」
・・・。

美しくかっちりと塗られた緑豊かな森の中でくりひろげられる、優しい人間の少女マルラゲットと、おそろしいけもののオオカミのひとときの交流の物語。
オオカミの出てくる絵本は多く、その中で人や動物を食べることもしばしばありますが、そのほとんどはまるのみで、最後にはおなかの中から生きたまま助け出される、というパターン。『マルラゲットとオオカミ』はその意味では異色。オオカミが、ほとんどの絵本の中で、たとえ人間の言葉は発しても、生き物を襲い生肉を食するけもののおそろしいイメージ、意地悪で乱暴なイメージだけが擬人化され、悪者、敵役ばかりでありがちなのに対し、『マルラゲットとオオカミ』では、優しい少女の気持ちにいつしかよりそって、自らの本性をゆがめてまでも、少女の期待にこたえようと奮闘しています。
乙女らしいやさしい少女を慕いはじめ、オオカミらしくない心を持ってしまったやさしいオオカミが、自分自身をもてあましながらも必死にこらえていたとき・・・。

オオカミが動物を食べて生きることは知っている。でも薬を飲ませ、せっせと看病して、やっと元気になった私のともだちオオカミが、他の動物を殺して食べるなんて!何か他の食べ物ではだめなの?
小さな子どもが誰でも思うようなやさしい考えを、そっと、あるべきところへ導いてくれる作品。
小さな子どもなりの、理想と現実が、美しい絵本のファンタジーの中に静かにくるまれて横たわっています。
自分だけのロマンチックな満足から、オオカミの本当に生きるための現実に目をむけなければならなかったマルラゲットの、かなしさと切なさを思うと、ファンタジックな絵本ながら心がじんと熱くなります。そしてオオカミがほとんど恋のように、マルラゲットに捧げていた日々を思うと・・・ただの子どもの絵本以上に、心がいっぱいになってしまうのです。
勝手にうがって読むならば、悲恋。それもどちらかといえばオオカミの。オオカミはきっと一生そのままの気持ちを持ち続けるだろうけれど、純粋な少女のマルラゲットが、やがて大人になったときはどうだろう・・・マルラゲットがオオカミに抱いていたやさしい気持ちは、果たしてオオカミのそれとまったく同じものだったのだろうか・・・と、考えると、少し、余計な(?)大人読みなどしてしまって、切ないです。もちろんマルラゲットの心の中にも、一生の思い出として刻まれ続けることでしょう。きっとこの絵本を読んだ人の心と同じように。

人間と動物の間に横たわる一線の、はざまでたゆたう、不思議で切ない物語。

原書は『MARLAGUETTE』Flammarion 1952-Imprime en France、とあります。

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 アマゾン洋書を検索していて発見した、その他のゲルダ・ミューラーさんの絵本はこちらなど。

『Spring』
Gryphon House
2004
10p、ボードブック
英語

『Summer』
Gryphon House
2004
10p、ボードブック
英語

『Autumn』
Gryphon House
2004
10p、ボードブック
英語

『Winter』
Gryphon House
2004
10p、ボードブック
英語

『Circle
of
Seasons』

Dutton
Childrens Books
1995
英語

『Ich bin
das kleine
Kaninchen』
Ravensburger
Buchverlag
G
2001

『Ich bin
der kleine
Igel.

( Ab 2 J.)』
Ravensburger
Buchverlag G
2001

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