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『とんでもない おいかけっこ』 クレメント・ハード作 江國 香織訳 BL出版 2006年
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しんしのいぬと、ごふじんのねこが、まちかどでばったりはちあわせ。 みゃあ。 うぉふ。 さあ、とんでもないおいかけっこのはじまりです。
どしん、ばたん、がんがらがっちゃん。 うわあ、きゃあ、あれえええ。 そんな騒々しい物音や、にぎやかな金切り声が、鮮やかな洒落たイラストから、今にも聞こえてきそう。
おちゃめでおしゃれ、なつかしくて新鮮な、楽しい楽しい古典絵本。
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原書は『THE MERRY CHASE』、初版は1941年だそうです。 アマゾン洋書ではこちら↓
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『The Merry Chase』 Chronicle Books Llc (Juv) 2005
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2005年にアメリカで復刊され、日本でも初めての出版になったそうです。
なんとも華やかなピンクと青のとりあわせが、どこかレトロで新鮮、軽やかにかけぬける犬と猫の姿も気になって、タイトルの通り、「とんでもない」絵本の予感!
あるひ、しんしがひとり、いぬをさんぽさせていました。 まがりかどのむこうから、ねこをつれたごふじんがやってきます。 ”みゃあ”ねこがなきました。 ”うぉふ”いぬがほえました。 さあ、とんでもないおいかけっこのはじまりです。 ・・・
わくわくとページをひらくと、赤、青、黄、黒、白、5色できっぱりと構成された、鮮やかな絵! 輪郭線はあまりなく、あったとするとアクセント。強い日差しをあびるような、色の面で物体を識別するような、くっきりとおしゃれなアート! 雰囲気、色の感じが、どこか『おへやのなかのおとのほん』(ほるぷ出版) を思い出させます。 つまり、好み。
選び抜かれた色だけで、町なみや部屋の中が塗り分けられているので、黄色い壁やピンクの壁、青い床に赤いいすなどなど、見るものすべてとびきり新鮮。なかでも気持ちよいほど斬新なのは、いぬとねこがおいかけっこで通り抜ける病院で、壁が黒で床がピンク、ベッドとタンスが青!
この古風で斬新で洒落た空間を、紳士の犬、淑女のねこが、優雅なフォルムでひたすら町を駆け抜けて、ドアからドアへ、ドアから窓へ、窓から通りへ、通りからまたドアへ、行き止まればガラスさえもつきやぶって、住人をびっくりさせ、ひっくりかえし、ひっかきまわして、おいかけっこを続けます。 ページをよく見て! テキストはさらりと流れていますが、とばっちりをくらって、あわをくう人々のなんとまあお気の毒で可笑しなこと。 まさしく「とんでもない」おいかけっこですよね。 耳で聞いたテキストを絵で確認し、そこに「とんでもない」新しい物語を発見する、楽しい絵本。
この「とんでもない」事態を巻き起こした張本人のいぬとねこはといえば、どこ吹く風とわき目も振らず、あわてふためく人々の決定的瞬間も見過ごして、あっけらかんとおいかけっこ。 常にスマートなフォルムの犬と猫が、「とんでもない」場面の中に大真面目に配置されている構図も、笑えます。 逃げる猫の出口と、追いかける犬の入り口が、ページをめくると、位置的につながっているところもさりげなく律儀。 大騒ぎてんやわんやの結末も、古きよき絵本を思わせるおおらかなもので、くすりとほほえましくて、憎めません。
つきぬける青空のような、爽快なおいかけっこの古典絵本。心憎い初邦訳!
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『おやすみなさい おつきさま』 マーガレット・ワイズ・ブラウンさく クレメント・ハードえ せたていじやく 評論社 1979年
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眠りにつく前の、あたたかく満ち足りて、心地よくくつろいだ、名残惜しいひとときを、ゆったりゆっくりと描いた古典絵本。
少しずつ色調を落としながら、こうさぎを眠りへとさそうみどりのへやの、ひとつひとつのものたちにも、小さな物語がともっています。
文を読み、絵を読む。しっかりとした絵本のゆりかごに心地よくゆられているような絵本。
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原書は『GOODNIGHT MOON』1947,Happer&Row,Publishers とあります。 アマゾン洋書では、ハードカバー、ペーパーバック、ボードブック、カセットつき、小物つき・・・などなど、さまざまな版型のものがありました。今なお愛され続けている作品なのですね。
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『Goodnight Moon』 (ハードカバー) Harpercollins Childrens Books |
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←Harperfestival; Book & Toy版(ボードブック)
おおきなみどりのおへやのなかの いろいろなものたち ひとつひとつに おやすみをつげるこども
うさぎのおばあさん ちいさいこえで ”しずかにおし”といっています
おやすみ おへや おやすみ おつきさま おやすみ あかりさん おやすみ あかいふうせん ・・・
だんだんまぶたが重くなるように ゆっくりと暗くなるお部屋 だんろの炎 まどの外の月と星 ひとつひとつ なじみのものたちにかこまれて 動くものも うさぎの子の眠りのさまたげとならぬように だんだん静まってゆく
おやすみ ほしさん おやすみ よぞらさん ・・・
赤、青、緑、黄色・・・少ないけれどはっきりとした色で、くっきりと描かれた、みどりのおへや。 白黒の頁と、大胆な配色の静かなお部屋の頁が、交互に編まれたクラシカルな構成を重ねてゆくうちに、だんだんカラーの頁のトーンが落ちてゆっくりと暗くなっていきます。暗闇へのフェイド・アウトを予感させるように。眠りの世界への旅立ちを想像させるように。 眺めているだけで、満ち足りて、眠たげな気持ち。
うさぎのこどもの、名残惜しく、ひとつひとつおやすみをつげているものたちを眺めて、確認していくのも楽しい。 動かないもの、てぶくろ、くつした・・・うさぎのこのものかな? あの絵は・・・あの物語?あの本は・・・この物語? 動くもの、ねこ、おばあさん、ねずみ・・・いまなにしてる? うさぎのこどもは、ちゃんとおふとんにはいったかな?
いっしょに部屋にいるのは、うさぎの「おかあさん」ではなくて、「おばあさん」なのですね。 きちんとととのえられた暖炉の部屋は、子ども部屋のようでもあり、おばあさん自身の部屋のようでもあり、居間のようでもあり、客室のようでもあり・・・。おばあさんの家に泊まりにきたのかな、おかあさんの留守におばあさんが来てくれたのかな、それとも今日はおばあさんに寝かしつけてもらっているのかな・・・などなど、いろいろな物語を考えたり。 おなじコンビによるうさぎの絵本『ぼくにげちゃうよ』(ほるぷ出版)が、どちらかといえば濃厚な母と子の物語であるのに対し、最後にはそっといなくなる「おばあさん」うさぎと子どもうさぎのおやすみなさいの物語は、さらりとしていて、眠りへと旅立った子どもの見る夢の世界までも、続いていくような余韻を感じます。
昔も今もこれからも、こどもたちをゆっくりとゆったりと眠りに導く大切な古典絵本。
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『ぼくにげちゃうよ』 マーガレット・ワイズ・ブラウンさく クレメント・ハードえ いわたみみやく ほるぷ出版 1976年
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かあさんはおまえをつかまえますよ。おまえが魚になるのなら、かあさんは漁師になって、おまえがことりになるのなら、かあさんは木になって、おまえがとまりに帰ってくるのをまっていますよ ・・・。
ゆるぎない母の愛、つつみこむ母の愛を、美しい絵と巧みな言葉で描いた古典絵本。 白黒とカラーの頁の切り替えで、文と絵の美しさがいっそう際立ちます。 心のふるさとになりそうな絵本。
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「かあさんがおいかけてきたら、ぼくは、おがわのさかなになって、およいでいっちゃうよ」 と、とこうさぎはいいました。 「おまえがおがわのさかなになるのなら、かあさんは、りょうしになって、おまえをつりあげますよ」 と、かあさんうさぎがいいました。 ・・・
ゆるぎない母の愛、つつみこむ母の愛、母と子の強い絆を詩情豊かにうたった、美しい古典絵本。 にげるぼくと、おいかけるかあさんうさぎの、言葉遊びが楽しいテキストの白黒のイラストの頁と、続く見開きのテキストのないカラーの頁が、交互に組まれた、クラシカルで鮮やかな構成。 うさぎのぼくのつぎつぎの変身ぶりと、すかさず追いかけるかあさんうさぎの見事な立ち回りが、テキストと、続くイラストで、耳から目から、二度たっぷりと追いかけて捕らえて楽しめる、古典的で新鮮な展開です。
同じコンビによる絵本『おやすみなさいおつきさま』(評論社)に続いてゆくような、さりげない関連も、あれこれ想像して楽しめる隠し味つき。
読む人、読まれる人の、そのときの気持ちや抱えている状況、場面によっても、いつ読むか、何度読むか、誰と読むか、誰と向き合って読むかによっても、その時々で、さまざまな読み方、受け止め方のできそうな、味わい深い絵本。 時には逃げる子うさぎの気持ちで、時には追いかけるかあさんうさぎの気持ちで。 けれどやっぱり、かあさんうさぎの臨機応変で柔軟な追いかけ方、傷つけることなく最適の方法でそっとしっかりと捕まえるやり方には、親としても子としても脱帽してしまいます・・・。大地の母のような、偉大なかあさんうさぎの前には、言葉もなくこうべをたれてしまうのです。
原書は『THE RUNAWAY BUNNY』、最初のコピーライトは、1942, Happer&Row,Publishers,Inc.,New York. と、あります。 アマゾン洋書では、こちらなど。↓他にもペーパーバッグ、カセット、ぬいぐるみつきなどなど、さまざまな版があります。
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『The Runaway Bunny 』 (ハードカバー) Harpercollins Childrens Books
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←Harpercollins Childrens Books; Bk&Acces版 (ボードブック)
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『ぼくのせかいを ひとまわり』 マーガレット・ワイズ・ブラウンさく クレメント・ハードえ おがわひとみやく 評論社 2001年
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おおきなみどりのへやのなかとそと、ぼくのせかいはこんなふう。 ぼくになじんだ、ぼくのものたち。 パパのもの、ママのもの、ぼくのもの。 みせてあげるね。
幼い子の身の回りの大切なものたちをひとつひとつ歌うように描いた、もう一つの「おおきなみどりのへや」の絵本。 『ぼくにげちゃうよ』『おやすみなさいおつきさま』とのそこここにちりばめられた符号を楽しんで。
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ぼくのほんと、ママのほん。
本文最初の場面は、小さな絵本と大きな絵本、仲良く並んだ2冊の同じ絵本。しかもそれはズバリ、『ぼくのせかいをひとまわり』・・・今読んでいる絵本とまったく同じ絵本! この小粋なしかけ(?)に、まずびっくり。 それから、うさぎの親子のくつろぐ、暖炉の燃えるみどりのおへや・・・ああ、これはデジャヴュ、どこかで見たことあるような。 『おやすみなさいおつきさま』▲の穏やかで満ち足りたほの暗い世界が思い浮かんで、それから、ページをめくってゆくと、『ぼくにげちゃうよ』▲の世界も浮かんで・・・。
ぼくをとりまく、かっちりとした丁寧な暮らしぶりが、白黒の線画と濃厚な色のカラーのページで、交互に描かれています。 ぼくのものとパパのもの、ぼくのものとママのもの、大人のものとは別に、きちんと子どものぼくの分もあって、それが嬉しい。ぼくのせかい、ぼくの場所。 昼間のこのぼくのものたちへの愛着が、いとおしさが、『おやすみなさいおつきさま』のひとつひとつの名残惜しいおやすみなさいの呼びかけへとつながってゆくのですね。
ところで、『おやすみなさいおつきさま』では、おおきなみどりのおへやに一緒にいた大人のうさぎは、「おばあさん」でであり、子うさぎが寝かされていたベッドは、特に子供用ではないと思ったのですが・・・『ぼくのせかいをひとまわり』では、ママうさぎ、そして、柵つきの子供用ベッド。 もちろん、二つのみどりのへやをよく見ると、決して同じではないと思われるので、二つはよく似た、けれど別々の独立した物語なのかも。? パラレル・ワールドのような、不思議な、そして魅力的なぼくのせかいを、いろいろな角度からいろいろな気持ちで楽しむことができそうですよね。
原書は『MY WORLD A Companion to GOODNIGHT MOON』、最初のコピーライトは、1949、Harper&Brothers、とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
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『My World: A Companion to Goodnight Moon』 (ハードカバー) Harpercollins Childrens Books
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『おやすみなさいおつきさま』が できるまで 評論社 64p 2001年
『おやすみなさいおつきさま』 マーガレット・ワイズ・ブラウンぶん クレメント・ハードえ せたていじやく
▼ ブラウンとハードの生涯 "おおきなみどりのへや"の夢をはぐくんで レナード・S・マーカス 中村妙子訳
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ぼくの絵本と、ママの本が、一つに合わさったような本。 前半に、『おやすみなさいおつきさま』を、そのまま収録。 後半に、解説の、「ブラウンとハードの生涯 "おおきなみどりのへや"の夢をはぐくんで」が納められています。 絵本を読み、解説を読むと、『おやすみなさいおつきさま』の知られざる一面や、新しい一面がつぎつぎと見えてきて、ますます「おおきなみどりのへや」の魅力にくるまれてゆくようです。
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前半には絵本『おやすみなさいおつきさま』、後半には、解説「ブラウンとハードの生涯 "おおきなみどりのへや"の夢をはぐくんで」が、おさめられた紺色の本。 品のよい装丁も美しく、二人の生涯をくわしく記した解説文は貴重な写真や図入りで見やすく、読み応えのある仕上がり。 作品誕生の背景や推敲、出版当時の反響、そして長く愛され続けている現在へと、『おやすみなさいおつきさま』の輝かしい足跡を決定的に知ることのできる贅沢な書物です。
個人的にとりわけ興味深かったのは、『おやすみなさいおつきさま』のおばあさんうさぎの話。
「おばあさんと子どもを人間として描くか(ハードはそうしたいと思っていました)、それともウサギとして描くか(ブラウンとノードストローム(※)の意見)についても、議論がありました。ハードは、おばあさんを二通りに描いてみせました。 ・・・」 (※ハーバー・アンド・ブラザーズ社の編集者、『おやすみなさいおつきさま』の出版に携わる)
それから、『おやすみなさいおつきさま』の"おおきなみどりのへや"の場面のレイアウトについて、作家と画家と編集者が徹底的に議論して、そして完成した作品の話。 よろしければ図書館などでお読みになってみてください! ハードさんのおくゆかしい巧みな技法に、あらためて気が付いたときは、本当に目からうろこが落ちる思いでした。 "おおきなみどりのへや"を、ゆったりと、くつろいで、まるで大きなゆりかごのような心地よいゆらぎを感じたのは、だからなのかも・・・。
もう一冊の『おやすみなさいおつきさま』として、ぼくの絵本とママの本、ならべておきたい美しい本です。
原書は、 GOODNIGHT MOON WITH A 50TH ANNIVERSARY RETROSPECTIVE とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど↓
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『Goodnight Moon (ハードカバー)』 Harpercollins Childrens Books; 50th Anniv版 64p (1997/7/24)
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アマゾン洋書を検索していて発見。 『GOODNIGHT MOON』60周年になるのですね!↓
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『Over the Moon: a Collection of First Books for Baby: Goodnight Moon, the Runaway Bunny, And My World 』 (ハードカバー) Harpercollins Childrens Books (2006/09) 108p
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2006年9月予約。 60周年記念のシールが。
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マーガレット・ワイズ・ブラウンさんとクレメント・ハードさんのコンビの作品。↓
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『Bumble Bugs And Elephants: A Big And Little Book (ハードカバー)』 Harpercollins Childrens Books (2006/01)
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