■クリス・ウォーメルさんの絵本 |
Christopher Wormell 1955年イギリス、ゲーンズボロ生まれ。1991年「動物のアルファベット」でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞。 |
『ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ』*洋書 |
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『ひとりぼっちの かいぶつと いしのうさぎ』 クリス・ウォーメル作・絵 吉上恭太訳 徳間書店 2004年
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二目と見られないみにくい一人ぼっちのかいぶつと、かいぶつが石から作り出した物言わぬうさぎの、あまりにも静かで切ない友情を描いた物語。
かいぶつの見た目のあまりのみにくさに、他の動物たちはおろか太陽や月さえも隠れてしまうほどだったけれど、たった一つ、その見せかけのみにくさにびくともしなかった石のうさぎだけは、いつまでもかいぶつのそばによりそいつづけた・・・。何一つしゃべらなかったけれど。何一つ動かなかったけれど。
「それでもかいぶつはしあわせだった。」
この一文が、心に響く物語。
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原書は、『THE BIG UGLY MONSTER AND THE LITTLE STONE RABBIT』、Jonathan Cape Children's Books.、2004、とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
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『The Big Ugly Monster and the Little Stone Rabbit』 Alfred a Knopf (2004/09)
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邦訳版とは表紙が異なるようです。邦訳版の表紙イラストも、本文中に出てくる一場面なのですが、洋書の表紙イラストも、本文中に出てくる別の一場面と同じだと思われます。 ちょうど、どちらも、物語の真ん中くらいの・・・いちばん華やかりし場面。
実は図書館でふと表紙に目をとめたのですが、もし、これが普通の書店だったら、そのまま手に取ることはなかったかもしれません。 だって、むかれたようなぎょろめ、深く刻み込まれたしわがごつごつの岩のような皮膚、どこかみすぼらしいすきっぱと牙、奇妙な形にゆがむ唇、頭のてっぺんのまばらな毛、なのにそこだけしっかりしたまゆげと鼻毛、・・・、情け容赦なくリアルで、一見、いわゆる可愛らしさのかけらもないような、「みにくい」かいぶつのアップに、まさか購入する気にもなれず、中身を開いて見る勇気もなかったと思うのです。
図書館の本は、心ひかれるままに、「とりあえず読んだことないから読んでみよう」と、気軽に手に取ってじっくり読むことができるのがいいですよね。気になる絵本は、ひとまず図書館で借りてみて、子どもの反応を参考にしつつ、購入するかどうか考えるようにしています(と、自分を戒めておかないとネ)。 で。 購入しました。返しがたくなってしまったのです・・・。
物語は・・・
むかし、あるところに洞窟があって、せかいいちみにくいかいぶつがすんでいました。 そのみにくさは、とても言葉や絵では言い表せないほどで、かいぶつがでてくると、たちまち動物は逃げ去り、草花は枯れ落ち、空は雨、水たまりも干上がってしまうありさま。 いつしかかいぶつの洞窟のまわりは、だれもよりつかない、ひっそりとさびしい場所になってしまいました。
「かいぶつは、ぽつんとひとりぼっち。ひざしくてひざしくてたまらなかった。 どんなにおそろしく、みにくいすがたをしていても、心の中はちがったからだ。」
やさしさと、寂しさを感じる心を持っていたかいぶつは、しかたなく岩に話しかけていたのですが、ある日いいことを思いつきました。 その岩で、話し相手の動物たちを彫ったのです。自分の知っている動物の、きつねやあなぐまやしかなどの、自分の知っている姿を・・・自分から逃げていく後姿しかうまく彫れなかったけれど、一生懸命に・・・。
そしてたくさんの動物ができあがったとき、かいぶつは嬉しくてにっこりしました。 ところが、かいぶつはあまりにもみにくかったので、その笑顔に、たちまち石の動物たちは、こなごなに砕けちってしまいました。
たった一つの、石のうさぎだけをのぞいて。
かいぶつのみにくさにも壊れることのなかった、かいぶつのこしらえた石のうさぎと、かいぶつとの特別な出会いの瞬間です。 それが、この表紙の場面。

かいぶつは幸せになります。
かいぶつはうさぎに話しかけたり、歌をうたったり、踊りを踊ったり。あまりのみにくさに、岩はくだけ、月はかくれ、空は荒れくるいました。 石のうさぎは何も答えず、歌わず、踊らず、ただ石のように(まさしく!)だまってそこにあるだけでしたが、それでも、かいぶつはしあわせでした。
「それでも かいぶつは しあわせだった。」
もってうまれたみにくさで、あらゆるものに(空や月にまで!)拒まれたかいぶつ。 その運命を拒むことも、あらがうこともなく(去っていく動物を追いかけることもなければ、荒れ狂う天を仰いで嘆くこともなく)、ただそのまま受け入れたかいぶつ。 かいぶつのみにくさが、かいぶつの心以外のあらゆるものを打ち砕き、あらゆるものが、そのかいぶつの心を傷つけても、かいぶつは他の誰の心も傷つけることはありませんでした。 たったひとつ、かいぶつのみにくさにもびくともしなかった、奇跡のような石のうさぎを友達にして、ひっそりと、精一杯、与えられた運命を生き抜いて・・・。
「それでも かいぶつは しあわせだった。」
この一文が、胸に響きます。
こうして、「それでもしあわせだった」かいぶつとうさぎの毎日は少しずつ穏やかに過ぎていって・・・
いつもいつまでもかわらない、さらさらととした時の流れの確実さの中に、今この瞬間確かにここにいることの不思議、あやふやさ。今この瞬間は、過ぎ去ってしまえばどこへいってしまうのでしょうね。 かいぶつの作った石のうさぎのように、何一つ飾らないイラスト、余計なもののないテキストの、淡々とした行間に、胸がいっぱいになってしまいます。
かいぶつの作った石のうさぎのように、何一つ答えを与えてくれるわけではないけれど、読むたびにたくさんの物語をそのたたずまいに映し出すことができるような、どっしりと心に根付く絵本。そしてひっそりと心によりそう絵本。
最初はなんともとっつきがたいと思っていたイラストが、途中から、子どものように無邪気で、愛らしく、かなしく、いとおしく思えてくるから不思議。(それでもやっぱり迫力ありますけれどもね)
ちなみに、トロルやバーバヤガー、鬼ややまんばなど、こわい絵本大好きな3姉妹は、この絵本を外見で大変気に入ってくれましたが、小学校一年生の長女にも、まだ、しっかりと意味がのみこめなかったみたいです。なんて残念! しかしあまりあれこれと説明を入れたくないので、また1年後くらいに再度挑戦してみるつもり(といういいわけでポチッと購入)。
ともあれ、ぜひ、図書館などでお読みになってくださいね!
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『George And The Dragon (ハードカバー) 』 Alfred a Knopf (2006/02)
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『Puff-Puff, Chugga-Chugga (ハードカバー)』 Margaret Mcelderry (2001/02)
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『The Wild Girl (ペーパーバック)』 Red Fox (2006/11)
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『An Alphabet of Animals (ハードカバー) 』 Running Pr; Miniature版 (1996/03)
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