■クリス・ラシュカさんの絵本
1959年、アメリカのペンシルヴァニア州生まれ。セント・オラフ・カレッジで生物学を専攻した後、同カレッジで音楽と美術を学ぶ。美術教師を経て絵本作家になり、『やあ、ともだち』(偕成社)で1994年コルデコット賞銀賞を受賞。作品多数。
『父さんと釣りにいった日』*(『めぐりめぐる月』)*『ねむれないよるは』*『クリスマスの小さな木』*洋書

 
『父さんと釣りにいった日』文化出版局

『父さんと
釣りに
いった日』
シャロン・クリーチ文
クリス・ラシュカ絵
長田弘訳
文化出版局
2002年

だれもしらない所へ、新鮮な空気を釣りに行ったんだ。

子どもの頃、父さんと釣りに行って、ぼくが釣り上げたものは・・・。
ぼくと父の思い出の物語に、父とその父の思い出がかさなり、響きあう、詩情豊かな美しい絵本。色鮮やかで流麗なタッチが新鮮。

オンライン書店ビーケーワン:父さんと釣りにいった日

ぼくが子どもだったときの、ある土曜日だった。
父さんとぼくは、朝早くから釣りに行った。
「さあ、旅をしよう」と、父さんは言った。
「だれもしらない所へいこう。
新鮮な空気を釣りにいこう!
そよ風を釣りにいこう!」

「ほらごらん」
父さんが言えば、ただの街灯がたちまちちっちゃな月に、ただの木立がたちまちのっぽのみどりの兵士に、ただの小鳥がたちまちちいさな天使になる。

家にもってかえりたいような、澄んだ、つめたい川で、父さんは針にエサをつけて、ぼくは針のない糸を高く投げて、釣りをする。
ぼくはたずねる。子どもの頃の父さんのことを。
父さんは目をとじる。子どもの頃のちっちゃな家。野原。川。釣りを教えてくれた父さん・・・。
ぼくはつぎつぎと釣り上げる。吹きぬけていくそよかぜを。空のきれはしを。ぺらぺらの黄色い太陽を。そして、父さんの子どもの頃のちっちゃな家を。そして・・・。

オンライン書店ビーケーワン:父さんと釣りにいった日 

きらきらと輝く木漏れ日のような、さらさらと流れる澄んだ川のような、美しい文となめらかな筆で、父と子のきずなをうたいあげた詩情あふれる絵本。
小川の流れにとけこむように流れる筆使い、太陽の光をすべてふりまいたような豊かな色、森のすべての恵みが花ひらいたような美しい絵が、思い出の父と子を、のっぽのみどりの兵士のように静かに見守り、かけがえのないひとときに、ちいさな天使のように清らかな歌をそえているよう。

父さんの思い出と、ぼくの思い出。だれもしらないそよ風の中で、澄んだつめたい川のほとりで、かさなって、つながって、ひろがって・・・。
いつのひか、ぼくも息子に伝える日がくることを、ほんのりと予感させるような、文章のはじまりとおわり。
一筆書きのように、すうっとのびて、放物線のようななめらかな弧を描き、一場面をぐるりとめぐるように連なったイラストも、どこか輪廻を想像させるようです。

原書は『Fishing in the Air 』2000 Harper Collins、とあります。
アマゾン洋書ではこちら↓など。さまざまな版がありました。

『Fishing
in
the
Air

(ハードカバー)』
Joanna Cotler Books;
Book & CD版 (2000/9/5)

テキストのシャロン・クリーチさんは、1995年、『WALK TWO MOONS』でニューベリー賞を受賞。
「私は子どものころ、父と一緒に何時間も釣りをした。といっても、それほどたくさんの魚をつかまえたわけではない。ただ、すばらしい一日と、世界を見る方法をつかまえることができたと思う」と彼女は言う。
とあります。
(『父さんと釣りにいった日』文化出版局 表紙カバー裏見返し 著者紹介より)
WALK TWO MOONS』をアマゾン洋書で検索するとこちらなど。↓

『Walk Two
Moons

(Trophy Newbery) 』
(ペーパーバック)
Trophy Pr; Reprint版
(1996/09)
280p

他にもさまざまな版が出ています。アマゾン洋書によせられた書評も熱い!
邦訳は『めぐりめぐる月』。↓

 

『めぐり
めぐる月』

シャロン・クリーチ作
もきかずこ訳
井筒 啓之絵
430ページ
偕成社
(2005/11)

現在発売中の邦訳はこちら。

家を出た母を追って、祖父母とともに北米横断3000キロの旅に出た13才のサラマンカ。その道中のドライブで、祖父母にせがまれるままに、サラはクラスメイトのフィービーの奇妙な物語をはじめます。ややエキセントリックで猜疑心の強いフィービーをはじめとして、個性豊かなクラスメイトたち、近所の人々・・・。
やはり家を出て行ったフィービーの母を独自の疑いのまなざしで捜すフィービーに振り回されながら、サラは、やがて、さまざまな視点で、自分の母についても振り返ることができるようになってゆきます。
そして、フィービーの物語が結末を迎え、サラの旅も終わりに近づいたとき、すべての物語の断片が、ぴたりと一つにあわさって・・・。

ミステリアスな物語を幾つも重ねながら、サラの魂の軌跡を鮮やかに描いた読み応えのある長編。手がかりとなる言葉の一つ一つをかみしめて、もう一度読みたい。

 

『めぐり
めぐる
月』

シャロン・クリーチ作
もきかずこ訳
373ページ
講談社
(1996/06)
品切れ


過去にも出版されていたのですね。

▲上へ

 
『ねむれないよるは』偕成社

クリス・ラシュカ作・絵
泉山真奈美訳
偕成社
1997年
『ねむれないよるは』

ねむれないよるは
お月さまがきみをみていてくれるよ

それぞれの部屋で家族がすやすやと眠る中、いつまでも目が冴えて寝つけないワンちゃんと、やさしく見守るお月さまのお話。

シンプルでしっとりと詩情豊かな美しい絵が、大人の心も子どもの心もゆっくり落ち着かせてくれます。

オンライン書店ビーケーワン:ねむれないよるは

ねむれないよるは、
お月さまがきみを

まもってくれるよ

眠れない夜。
聞こえてくるいろいろな音。
にいさんの寝息、母さんの足音、父さんのドアを閉める音・・・。
みんなが寝静まっても、まだ、眠れない、ひとりぼっちの夜。
大丈夫、お月さまがちゃんと見ていてくれる。
きみをずっと見守っていてくれるから。
おやすみ。

横顔のようでもあり、正面の顔のようでもあり、すやすや眠っているようで、チュッとキスをしているようでもある、不思議な影をもつ印象的な表紙のお月さま。
扉をめくると、中表紙の半分だけ顔をのぞかせたお月さまからはじまって、物語とともに、だんだんに、まんまるいお月さまがのぼっていきます。少し横長の見開きの一場面の、左下から、中央、真上に向かって。それから、ゆるやかに、右下に向かって、弧を描きながら、降りてゆきます。
まるで、空のゆりかご。ぼくのためだけのプラネタリウム。
そのお月さまの見つめる先に、黄色い明かりのともる窓。主人公の犬が、ベットでまんじりともせず、目を見開いている場面が浮かび上がっています。そのとなりの窓では、何も知らない家族がそれぞれに眠りにつこうとしていたり、すやすやと眠りに落ちているというのに・・・。

赤、青、黄、緑・・・と、原色を中心に描きながら、輪郭のつかみやすい、余計なものをそぎおとしたシンプルな絵で、静謐で繊細な雰囲気をかもし出しています。
眠れないぼくを中心に、家族のひとりひとりに、部屋の明かりを消すまで、そして消した後の、小さな動きがさらりと描かれていて、それぞれの物語が楽しめます。
ぼくがどうして眠れないのか、余分な説明はないけれど、誰もが自分の経験に照らし合わせて、ひとり覚醒している長い長い夜を、同じ気持ちでたどることができそうです。

夜が来て、朝が来る。
だいじょうぶ、誰かが誰かを見守っているよ。
絵本のおしまいの先のはじまりを、予感させるような、希望への余韻にほんのりと染まる絵本。

原書は『CAN'T SLEEP』1995 とあります。

(ハードカバー)
Orchard Books
(1995/09)
『Can't Sleep』

▲上へ

 
『クリスマスのちいさな木』光村教育図書

『クリスマスの
ちいさな木』

e.e.カミングス詩
クリス・ラシュカ作
さくまゆみこ訳
光村教育図書

とおいとかいでちいさなクリスマスツリーになって、ちいさな家族と幸せなクリスマスをすごしたいと願った、ちいさな木の物語。

ちいさな木を導いていく物語が、不思議なまとまりを見せる絵の中に、楽しく美しくとけこんでいます。

オンライン書店ビーケーワン:クリスマスのちいさな木

e.e.カミングスさんのちいさな木に捧げられた愛らしい一篇の詩をもとに生まれた物語。
クリス・ラシュカさんの独特の列でうずまいていくステンドグラスのような、チロリアン・テープのような、螺旋階段のような、不思議に連なっていく愛らしい絵が、ちいさな木のちいさな旅を、楽しく美しく彩っています。

ちいさな木には、ちいさなゆめがありました。
どこか遠い都会にいってクリスマスツリーになり、ちいさな家のちいさな家族にかこまれて、しあわせなクリスマスをすごしたかったのです。

ある日、ずんずん山をのぼってきたちいさなトラックが、ちいさな丘のちいさな木を見つけ・・・

ちいさな木の遠い遠いちいさな旅が始まりました。

クリスマス・カラーの、赤と緑を基調とした、にぎやかで楽しい絵は、鉛筆の線と淡い水彩の色によるものでしょうか?
連続する三角形や四角形などの図形の中に、巧みにはめこまれとりこまれて、なんとなく幾何学的にならびながら列やうずをつくり、なめらかにつながっていく絵が、ひとつひとつ不思議な世界観を描いているよう。

テキストには表立って登場しませんが、ちいさな木を見つけ、山から運び汽車にのせ、遠い都会へと連れて行き、都会の片隅で販売し、めぐりあって購入したちいさな家族の家まで届ける、いわば裏方のような役割をしている人々に、注目して読むと、遊び心たっぷり。
ちいさな木のちいさな願いをかなえ、ちいさな家族へとぴったりと導いた人々が、リレーのように描かれながら、一つの顔をみせて・・・クリスマスの魔法のような、贈り物のような、奇跡のような、楽しい秘密をしのばせています。

巻頭のe.e.カミングスさんの詩のページにも、本文テキストのページにも、巻末の原詩のページにも、奥付のページにも、魅力的なちいさなカットがあちこちにちりばめられています。

原書は『LITTLE TREE』 コピーライトは2001年 とあります。
アマゾン洋書ではこちらなど。↓

『Little
Tree

(ハードカバー)』
Hyperion
(Juv)
(2001/09)

▲上へ

 

 クリス・ラシュカさんの洋書たち

アマゾン洋書を、Christopher Raschka で検索すると、多数の洋書がヒットしました。邦訳も、どんどん出版されるといいですよね!

『The Hello, Goodbye Window
(Boston Globe-Horn Book Honors
(Awards))
(ハードカバー) 』
Hyperion (Juv)
(2005/5/15)

ボストングローブ・ホーンブック賞オナーブック受賞。
2006年コールデコット賞受賞作品。

『Another Important Book (ペーパーバック)  』
Trophy Pr; Reprint版 (2006/06)

『Boy Meets Girl/
Girl Meets Boy
(ハードカバー)』
Editions Du Seuil (2004/8/31)

『Arlene
Sardine

(Venture-Health & the Human Body)
(ハードカバー) 』
Orchard Books
(1998/09)

『Mysterious Thelonious
(ハードカバー) 』
Orchard Books (1997/09)

『Snaily Snail (Thingy Things) (ハードカバー) 』
Hyperion (Juv) (2000/07)

 

この記事へのコメントを読む*書く
(この記事へ戻るには、ブラウザの戻る、をクリックしてくださいね)

▲上へ

クリス・ラシュカさんの絵本
「か」の絵本箱へ

くどー★La★ちぇこさんの絵本箱へ

HOMEへ
くどー★La★ちぇこさんの絵本日記HOMEへ


Copyright (c)2005-2007 kudolacieko All Rights Reserved