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ケイ・フェンダー文 フィリップ・デュマ画
やまぐちともこ訳 冨山房 1984年 品切れ
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ひな鳥の時におじいさんのぼうしの上に落っこちたオデットは、少しきむずかしくなっていたおじいさんの心をほぐし、たちまち毎日を楽しく変えます。やがて小鳥がみなみのくにへ旅立つ秋が来て・・・。
ひとりぼっちのアコーディオン引きのおじいさんと、小鳥のオデットの、幸せな一年・・・春、夏、秋、そして旅立つ冬、まためぐる春を描いた、少し切ない物語。 現在品切れですが、大好き。
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春、小鳥のひなが、くるくるくる・・・と巣から落っこちたところは、おじいさんのぼうしの上。ひとりぼっちのアコーディオンひきのおじいさんに、オデットという名前をもらって、一緒に暮らすことになりました。 すこしきむずかしやになっていたおじいさんの毎日が、オデットによってかわります。輝く春、楽しい夏を笑顔で過ごし、木の葉が色づく秋のおわり、みなみのくにへ飛び立つ季節を迎えたオデットは・・・。
軽やかなペンの線と、水彩の淡い落ち着いた色使いの、どこかなつかしい感じのイラスト。 ページの上部にイラストが、下部にテキストが添えられている構成で、上部のイラストは、四角い枠の中にかっちりとおさめられています。この四角い枠の中に、オデットとおじいさんとの出会いと、過ごした四季が、さまざまな角度から、パリの町並みを背景に美しく描かれています。 少しセピアがかった色調のイラストをゆっくりと眺めていると、古いアルバムをひもといているような、オデットと暮らした季節の写真をひとつひとつ手にとっているような、ここちよい気持ちになるのは、イラストの中心に、いつもいつも、おじいさんとオデットが、あるいはそのどちらかが、きちんといるからかもしれません。
そんなことを思いながら、静かな結末へと絵本をもう一度読み返したとき・・・気がつきました。 あるところから、おじいさんの位置が、中心から外れているのです。 建物の背景も、街角の背景も、これまでとなんら変わらず、おじいさんのために中心の空間を残しているかのように広々と描かれているのに、おじいさんだけが、ひっそりと舞台の真ん中から退いたような、うら悲しさ。
また春が来て、澄んだ色彩の中でおじいさんのいた空間を探すとき、小鳥のオデットの無邪気なテキストが切なくて・・・。
ぼうしにこめられたさまざまな思いに、胸がいっぱいになりました。 「くるものは拒まず、さるものは追わず」そんなさらりとした自由を描いたものかもしれませんし、お互い独立したもの同士がつかの間心を通わせたひとときを描いたものかもしれませんし、時の流れの無常を描いたものかもしれませんが・・・それでもなおさらりとした時の流れの中で、誰かから誰かへ、確かに受け継いでいきたいものが、淡々と描かれているように思います。
英語版原書は『ODETTE』(Victor Gollancz)、1977年コピーライト。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
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『Odette: A Springtime in Paris』 Kane Miller Book Pub
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まよなかのぼうけん
ビーケーワン
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『まよなかのぼうけん』 フィリップ・デュマさく・え やまぐちともこやく 福音館書店 1982年 品切れ
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真夜中は不思議。女の子が、大好きなお人形たちと同じ大きさになって、そっと家を抜け出せるんです。 さあ、何をして遊びましょう。 夜が明けるまで、子どもたちの秘密の時間。大きな大人がおはようを言いに来るまで・・・ね。
ペンとインクを軽やかに走らせたような達筆な絵のリズムと、簡潔で上品な文のメロディが、ウィンクのように口笛のように溶け合って、遊び心いっぱいの秘密の大冒険を奏でています。
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あるところに、ほんとうにおとなしいお人形のおとこのことおんなのこがいました。 ふたりはもっとおおきなおんなのこといっしょでした。おおきなおんなのこはときどきちょっぴりらんぼうで、ふたりにたべさせるときもふりをするだけです。
よるがくるとおおきなおんなのこは もっとおおきなおんなのひとにつかまって、 ベッドにいれられてしまいます。
さて、まよなかになると、とてもふしぎなことがおこります。 おおきなおんなのこがきゅうにちいさくなってしまうのです。 ・・・
真夜中の不思議で、お人形たちと同じ大きさになった女の子が、お人形たちと家を抜け出し、野原を自由に駆け巡るのびやかなお話。 小さな子どもたちの夜の大冒険は、昼間ならなんでもないささいなことも本当に楽しくて、昼間ならできそうにもない大胆な出来事もすんなりできてしまいます。ただ走るだけだって何だって遊べるし、誰かのかたっぽの靴だって何だって役に立てることができるのです。うさぎ穴にだって、いつしかメルヘンの世界に遊びに行くことだってへいちゃら!
きちんとおめかしして写してもらった写真のように、一ページに一枚ずつ四角の枠の中にさらさらと描かれたイラストと、ちくりとユーモアをひそませながら、おすまし顔でおしゃべりしているような涼しいテキストで、優雅にニンマリとほほえませてくれるいなせな冒険絵本。 真夜中の子どもたちに、こんな秘密があるなんてね!
原書は、『LA PETITE GEANTE』1977 L'ecole des loisirs, Paris とあります。
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『ゆきのしたのなまえ』
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クロード・マルタンゲ文 フィリップ・デュマ絵 とき ありえ訳 講談社 2006年 |
おじいちゃんと孫との対話の中で、本当に伝えたい大切なことを描いた、繊細な絵本。ふたりが手をつないで散歩する街の景色が、物語に美しさと深みをそえています。
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おじいちゃん、あのひとのはなしをしてよ。 もう、はなしたろう? うん。でも、またして! じゃ、どこからはなそうか。 ・・・
美しい街並みを、おじいちゃんと孫が歩く。 孫がせがんだのは、おじいちゃんの手紙のはなし。 ドイツのある町の教会の前に、お金をめぐんでもらうために帽子を前において、犬と地面に座っていた、名前も知らない男のひとのはなし。 その場を去っても、その男と犬のことが、どうしても頭から消えないおじいちゃんは、スイスの家にもどったあとで、手紙を書こうと思いたった。 名前も知らないけれど、ドイツ郵便局の人々の力を信じて、 「10月7日に、ドーム教会のいりぐちで 犬といっしょに ものごいをしていた 男のひとへ シュヴァルツヴルトの森 ボンドルフの町 ドイツ」 おじいちゃんは手紙を出して、そして、待った・・・。
美しい街中を散歩しながら、孫にせがまれるままに、おじいちゃんと男の交流の話をくりかえし語りながら、伝えたい大切なことを、温かく、ときに厳しく描いた絵本。 しっとりとした街の景観を楽しみながら、おじいちゃんが孫に話そうとしていることは何か、心にしまっておきたいことは何か、本当にわかってもらいたいことは何か、一緒に考えることができます。 おじいちゃんが何を言おうとしているのか、何故そうするのか、考えながら、根底にある現代の社会的問題や、プライバシーの問題などなどについても、同時に考えることができるのでは・・・と感じました。 人間のあたたかな交流と、互いを尊重する心を描いた、格調高い物語。 スケッチのような、ひたむきなイラストが美しいです。
原書は『LE MENDIANT』2003 Editions La Joie de lire S.A..,5 chemin Neuf-1207 Guneve./Suisse とあります。
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