■土方重巳さんの絵本
土方重巳(ひじかた・しげみ)1915-1986・・・1938年多摩美図案科を卒業後、1948年まで東方宣伝部に勤務。1949年(昭和24年)、当時「婦人朝日」誌の編集長だった飯沢匡氏のすすめで氏の(マルセル・デルモンのペンネーム)童話「森の大さわぎ」の挿絵を描いたのをきっかけに、飯沢氏と数多くのコンビの作品を手がける。『ヤン坊ニン坊トン坊』『ぼろきれ王子』(理論社)の挿絵、NHKテレビの「ブーフーウー」「ダットくん」などの人形デザイン、外国向き絵本パペット・ピクチュア・ブックの制作(デザイン)なども百数十種行っていた。他の絵本の挿絵には『ねずみとおうさま』(岩波書店)
オンライン書店ビーケーワン:ねずみとおうさま などがある。
(『ブーフーウー』理論社 著者紹介 より)
『王さまのアイスクリーム』*『土方重巳造形の世界』*マイニチの人形絵本*トッパンの人形絵本
≫別頁『ブーフーウー』*『逃げ出したお皿』*『ダットくん』*『ぼろきれ王子』*『ヤンボウ ニンボウ トンボウ』
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『王さまのアイスクリーム』 品切れ

 

↓画像はセブンアンドワイ icon

icon

icon『王さまのアイスクリーム』
フランセス・ステリットぶん
光吉夏弥やく
土方重巳え
大日本図書
1978年
品切れ

アイスクリームがどうやってできたか、知っていますか?
気難しい王さまの気に入るように、クリームを冷たく冷たく冷やそうとして、コック長やその娘たちが、こっくりこっくり目をつむって知恵をしぼります。今までは外から氷でくるんでクリームの缶を冷やしていたけれど、もっと冷たくしろと王さまの命令。
三時のおやつの時間はもうすぐ!
ところが、あわてたはずみに・・・。

子どもたちの大好きアイスクリームと、きむずかしい王さまと、かしこい娘のゆかいなお話。王さまのシロップは日曜日から日毎に決まった順番どおり、ご褒美は10本の指に10本の指輪。子どもたちが喜ぶ几帳面な描写があちこちに。

アイスクリームなんてもちろんなかったむかしのお話。
あるところにとてもきむずかしい王さまがいて、三時のおやつにクリームを召し上がることになっていました。それも、かけるシロップがきっちり決められていて、
日よう日はストロベリー
月よう日はラズベリー
火よう日はバニラ
水よう日はチョコレート
木よう日はピーチ
金よう日はレモン
土よう日はチェリー

もしシロップの順番を間違えたりしたら雷が落ち、首が飛ぶので、コック長は自分の7人の娘の名前を、上から順にストロベリー、ラズベリー・・・と、シロップの名前に変えてしまったほどです。これなら間違えっこありませんからね。

ところが、ある夏の暑い日、もうすぐ三時だというのに、どうしてもクリームが冷たくなりません。頭をかかえるお父さんを見て、一番上のかしこいストロベリーが、何かいい考えはないかと、こっくりこっくり考えてみました。そのとき、ちょうど通りかかったのは、山から切り出してきた氷を売りにきた男の子!

その日の冷たく冷えたクリームに感激した王さまは、氷でくるんで冷やす方法を考案したストロベリーにゆびわをやって、
「きょうのよりもっとつめたいクリームができたら、そのむすめに、ゆびに一本ずつ、ゆびわをとらせることにしよう」
と、公言します。
・・・

子どもたちの大好きなアイスクリームに、日曜日から毎日大好きなシロップの名前の羅列、十本の全部の指に指輪なんて、女の子なら、だれだって夢中、よだれがでそうになるお話でしょ??
アイスクリームがなかったころ・・・なんて、子どもたちには想像しにくいかもしれませんが、きむずかしい王さまのわがままにふりまわされる人々のお話は、子どもたちがよくなじんでいて大好きなモチーフの一つです。
こっくりこっくり考える、なんて愉快な響きの細部のこだわりも、子どもたちは大好きですよね。

本文イラストは白黒が中心で、ときおりカラーのものが差し挟まれて楽しい雰囲気。ふっくらとした明快な輪郭線に、水彩画でしょうか、シンプルな彩色がほどこされています。

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『土方重巳造形の世界』造型社 品切れ

土方重巳・造形の世界
ビーケーワン

『土方重巳
造形の世界』
土方重巳著
造型社
1978年
品切れ 

土方重巳氏自らの手により、氏の多岐にわたる数々の作品を、出版時の1978年まで年代順にまとめた貴重な作品集。
前半におさめられた、演劇、映画、オペラ関連のポスター、チラシ、舞台装置、童画と挿絵、NHKこども番組のキャラクター、人形絵本のデザイン、CMのキャラクター、学生時代のクロッキーなどなどの、貴重な作品を一堂に集め並べたカラー図版、モノクロ図版は本当に圧巻。

後半の本文には、主として、1933(昭和8)年の帝国美術学校入学から、帝美が分裂してできた多摩美術大学卒業の1938年まで、その後東宝時代の1938-1948年まで(この間に戦争で水兵となり、敗戦を迎え、復員する)を、時代背景をふまえながら、その時代に手がけた作品とともにまとめられた文章がおさめられています。
戦後1946年から、この本の出版までの1978年までについては、一年ごとに分けられ、その年の多方面にわたる仕事とその背景などが細やかに記されています。
輝かしい業績だけでなく、その仕事への情熱的な軌跡までも知ることのできる、貴重な自伝作品集。

土方重巳氏の貴重な作品の数々を贅沢に敷き詰めた、巻頭のカラー図録、モノクロ図録は圧巻です。写実的なポスターあり、デザイン的なチラシあり、悲劇的なもの、喜劇的なもの、大胆なもの、力強いもの、たおやかなもの、美しいもの、愛らしいもの・・・。
それぞれの作品の内容に即した表現様式が用いられている作品たちは、どの作品も精緻な観察力に基づき入念な資料集め、下調べにうらうちされているそうです。
「ロシアのものなどは氏が長年にわたりコツコツと集めた資料によって築き上げた貴重な努力の集積で、ロシアの大家から激賞されたことでも判る通りだ。」
とあります。
(まえがき 「土方氏と私」飯沢匡 より)

土方氏はロシアとも縁が深く、「森は生きている」「どん底」「石の花」「復活」などなどの映画・演劇ポスターなどのほか、「火の鳥」「せむしの子馬」「イワンのばか」「トルストイのこどもの本」(5.6巻の挿絵)、「日本とソビエト」の挿絵・・・などなど、たくさんの作品を手がけており、1964年にはソビエト旅行も果たしています。事情により出版されなかったサムイル・マルシャークの「賢い品々」(岩波書店、未出版、1965)の挿絵、レフ・トルストイの「イワンのばか」(集英社、品切れ、1967)の挿絵などについては、マルシャークの息子のイマヌエリ・マルシャークさんから絶賛され、「イワンのばか」については
「(細かないくつかは昔からロシアで描かれている形と違うにしても)すべての挿絵の驚嘆すべきロシア的な性格をそこなうものではありません」
と絶賛されています。

本当に数え切れないほど多くの、多方面にわたる優れた仕事の中から、絵本に関するものをあげると、童画の世界へのきっかけとなったのは、1949年(1948年)の飯沢匡氏との出会い。
1949年、
「それまで映画や演劇のポスターを書いていた私に、子供のものを描かないか−とすすめて下さったのが、当時『婦人朝日』の編集長をやっておられた飯沢匡さん」
だったそうです。作品は、マルセル・デルモンというペンネームで飯沢氏が書いた、「森の大さわぎ」(1950年一月号に掲載)。飯沢氏とのコンビの仕事は、その後長く続き、『ヤンボウ ニンボウ トンボウ』『ブーフーウー』『ダットくん』『逃げ出したお皿』『ぼろきれ王子』『プーポン博士の宇宙旅行』などなど、数々の名作品を生み出すことになりました。(飯沢氏はまえがきで、「この人に童画を描いて貰おうと決心して連絡したのに、目の前に現れてくれたのは一年後であった」と振り返っておられるので、お二人の出会いは1948年にさかのぼることができるかもしれません。)

1952年には岩波少年文庫の挿絵を3冊担当しています。(「サル王子の冒険」「火の鳥」「メギー新しい国へ」、このときの担当は石井桃子さん、乾富子さん)
この年には、贅沢なスタッフ(構成・文*飯沢匡、人形・装置*川本喜三郎、撮影*隅田雄二郎、デザイン*土方重巳)でトッパンの学習ノート十種がつくられ、本格的な人形絵本の制作に入りました。
息をのむほど美しく端整で精緻で優美な人形絵本を、残念ながらほとんど見たことがないのですが、タイトルをひろいあげるだけでも(※下記に一覧があります)、
「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」「にんぎょひめ」「三びきのくま」「三びきのこぶた」「いなばのしろうさぎ」「うらしまたろう」
・・・などなど世界の民話日本の民話、
さらに「ぷーぽんせんせいのあふりかたんけん」「やんぼうにんぼうとんぼう と おともだち」
などなど、飯沢匡氏とのコンビのお話などなど、50冊以上、本当にたくさん!
後の人形絵本のスタッフには、熊谷達子、宮坂(紙谷)元子()、内藤久美子、福田啓助、辻村ジュサブロー氏らが名をつらね、また昭和41年外国版人形絵本を始めてからは佐藤三郎、与勇輝氏らが加わっているそうです。

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 その1966(昭和41)年から制作された外国版人形絵本(飯沢匡、土方重巳)は、
Deluxe LIVING STORY BOOK
PUPPET STORY BOOK
PUPPET SHAPE BOOK
PRESCHOOL PUPPET BOOK
PUPPET POP-UP BOOK
シリーズなどがあり、1978年『土方重巳造形の世界』出版当時までにすでに世界36カ国に輸出され、発行総数は二千万部を超えていたそうです。判明分一覧表は≫こちら(PUPPET STORY BOOK)≫こちら(PRESCHOOL PUPPET BOOK)
このうちの一部、24タイトルは毎日新聞社が「マイニチの人形絵本」として、国内版を出版したそうです。(↓下記表は判明分12冊。『ねむりひめ』の裏を見ると、制作 大理社、印刷製本 造型社、昭和47年発行とあります)

  マイニチの人形絵本*全24タイトル一覧表は≫こちら
1 ピノキオ
2 ちいさなインディアン
3 ヘンゼルとグレーテル
4 あかずきんちゃん
5 くまさんのおうち
6 みにくいあひる
7 三びきのこぶた
8 きつねのわるだくみ
9 ジャックとまめの木
10 ねむりひめ            
1972 人形制作 佐藤三郎 
装置製作 中川涼 
カメラ 後藤時成
11 ながぐつをはいたねこ
12 こいぬの一にち
 

以下13-24もふくめて、さらに詳しい一覧表は≫こちら

その他のタイトルには、
Henny Penny
the Real Princess
the House That Jack Built
Mother Goose
A Child's Garden of Verses
the Night Before Christmas
the Owl and the Pussycat
What Is It?
Big and Little
Colors
Kittens
・・・
などなど、民話からライムから幼児向け絵本まで、本当にあらゆる種類のたくさんのものが出版されていたのですって!
後の本の著者紹介などには百数十種出版されたとも記されているので、本当に偉大な業績となったのですね。
いずみさまにいただいた、貴重なタイトル一覧表(判明分、ひきつづき探索中)は≫こちら

さらに、人形絵本以外にも、
ねずみのおうさま」(岩波の子どもの本)、「ライオンのめがね」(トッパンの絵物語)、「ほっきょくぐまのむーしかのぼうけん」(フレーベル館)、「イワンのばか」(集英社)、「せむしのこうま」(講談社)、「トルストイのこどもの本5.6巻」などなど、
たくさんの絵本や児童書の挿絵、
めばえ」「よいこ」「幼稚園」などの挿絵、
などなど多数の童画を手がけているそうです。
そして、人形劇団プークのポスター、チラシなどで、
ピーターとおおかみ」「エルマーのぼうけん」「ブレーメンのおんがくたい」「ぶんぶくちゃがま」「青い鳥」「バヤヤ王子
などを手がけているそうです。
さらに、CMコマーシャルでは、
アサヒビールのPR人形映画「ほろにが君」シリーズのデザイン、ミツワテレビ童話(ミツワ石鹸)、佐藤製薬のオレンジの象のキャラクター「サトちゃん」デザイン【2倍5倍1006】サトちゃん救急ばんそうこう 10枚(←画像は楽天ショップ「ケンコーコム」の、の「サトちゃん救急ばんそうこう 10枚」)、おそらく世界初のソフトビニール製貯金箱、三菱銀行「子ブタの貯金箱」考案・・・などなど、
本当にたくさんの企業のたくさんのキャラクターのデザイン、セットなどを手がけているそうです。

土方重巳 造形の世界』には、これら童画の世界をはじめ、1978年までのあらゆる方面の作品についてだけでなく、その作品の制作にまつわる話や、描かれた背景、モデルや資料などについても、土方重巳氏自身の手によって細やかに記されていて、
「仕事、仕事場、仕事部屋」
という言葉を愛した土方重巳氏の仕事へのとりくみの軌跡をたどる、大変貴重な一冊となっています。

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トッパンの人形絵本 フレーベル館 品切れ

≫別頁(人形絵本関連)≫トッパンの人形絵本≫トッパンのステレオ絵本≫マイニチの人形絵本≫Puppet Storybook≫Preschool Puppet Book≫人形絵本*関連資料≫紙谷元子さんの人形絵本

土方重巳さんのデザインする、りりしくて愛らしい表情の登場人物たちが、そのままの純粋さで実り、結晶したような、珠玉の人形写真絵本。幼児が自由に何度でも手にとって眺められるよう、角の丸いしっかりした厚紙仕様。
指の先にいたるまで細やかに、丁寧に、真心をこめて作られ、表情と動きを与えられ、光を当てられた人形たちは、いきいきと内面から輝いて、いまにも目の前で動き出しそう。
知っているお話、知らないお話、遠い昔のお話、遠い異国のお話・・・、いつもの毎日から遠いお話にもかかわらず、すんなりと心の近くに感じられるのは、人形の姿かたち、衣装や背景に細やかな心配りがなされ、そのお話にいちばんふさわしい形式が選ばれているから。

運良く図書館に蔵書があったものは、
おやゆびひめ
せむしのこうま
ももたろう
の3冊でしたが、『おやゆびひめ』のくるみのベッドにばらのふとんのあのあこがれの場面、『せむしのこうま』の登場人物たちそれぞれの階級に応じた民族衣装、『ももたろう』の登場人物たちの衣装などなど、本当にため息がでるくらい細やかで、華やかで、きらびやかです。
人形製作のことも、写真撮影のこともほとんどわかりませんが、それが卓越した芸術であることは素人の目にも明らか。人形にさす光も影も、物語のつむぎだす世界をちょうどとらえた一瞬になっていて、写真ならではの確かな現実の輝きと、人形ならではの心地よい非現実感がないまぜになった、ほどよい陶酔感を感じます。
本当に、物語もデザインも、人形製作も小物製作も写真撮影もすべてがすばらしい、結晶のような絵本だったのですね。

当時多数のシリーズが作られていたようで、下記表↓は、『ももたろう』の裏表紙にあった当時のシリーズ一覧です。本当に世界中のお話を網羅していたのですね。
もしも一冊一冊すべての復刊がむつかしいならば、全集の形でもいい、復刊を切望いたします!

  トッパンの人形絵本(フレーベル館)
*全40タイトル一覧表は≫こちら。トッパンのステレオ絵本一覧表は≫こちら
構成・文 飯沢匡
人形と装置のデザイン 土方重巳
***
↑は、図書館に蔵書があったもの。その他は本当に残念ながら未読。
1. あかずきんちゃん
2. じゃっくとまめのき
3. ぴーたーとおおかみ
4. 三びきのくま
5. 三びきのこぶた
6. ぷーぽんせんせいのあふりか探検
7. やんぼうにんぼうとんぼうとおともだち
8. ぷーぽんせんせいと海のぼうけん
9. やんぼうにんぼうとんぼうとなまけざる
10. きんのがちょう
11. やんぼうにんぼうとんぼうとあひるのこ
12. 三びきのこぶたのたんじょうび
13. いっすんぼうし
14. しらゆきひめと七にんのこびと
15. ねむりひめ
16. やんぼうにんぼうとんぼうとなきべそこぞう
17. おやゆびひめ  
1958 人形制作 川本喜八郎 
装置製作 中川涼 
天然色写真撮影 隅田雄二郎
18. ぶれーめんのおんがくたい
19. まっちうりの少女
20. やんぼうにんぼうとんぼうとけんぼう
21. 七ひきのこやぎ
22. ちびくろ・さんぼ
23. へんぜるとぐれーてる
24. ぴのきお
25. せむしのこうま 
1960 製作 シバ・プロダクション
人形制作 川本喜八郎 
天然色写真撮影 隅田雄二郎
26. しんでれら
27. おやゆびとむ
28. ながぐつをはいたねこ
29. みにくいあひるのこ
30. あらじんとふしぎならんぷ
31. ふくろうとねこ
32. ぴーたー・ぱん
33. ゆきのじょおう
34. いなばのしろうさぎ
35. あおいとり
36. あかいくつ
37. ももたろう
1964 製作 シバ・プロダクション
人形制作 紙谷元子
 
38. しんどばっどの冒険
  以下続刊(当時)・・・*全40タイトル一覧表は≫こちら

海外版については、amazon.comで、Tadasu Izawa and Shigemi Hijikataの洋書を検索すると、たくさんありました。中には画像のあるものも。マーケット・プレイスは要チェック?

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