■ヘレン・クーパーさんの絵本 |
1968年イギリス生まれのイラストレーター・絵本作家。1997年『いやだあさまであそぶんだい』(アスラン書房)、1999年『かぼちゃスープ』(アスラン書房)で、2度のケイト・グリーナウェイ賞受賞。他の作品には『ねことまほうのたこ 』(岩波書店、品切れ)、未邦訳作品には『Tatty Ratty』(Corgi Childrens) など。 |
『かぼちゃスープ』*『いやだあさまであそぶんだい』*『こしょうできまり』 |
まだまだ寒い冬には、あったかいこんなスープをどうぞ。ほかほか真心あつあつ友情、スパイスに汗と涙をちょっぴりです。
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『かぼちゃ スープ』 ヘレン・クーパーさく せなあいこやく アスラン書房 2002年4月
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森の中の古いおうちで、なかよく暮らす、ねことりすとあひるは、世界一美味しいかぼちゃスープと、楽器や歌がお得意です。 それぞれの決まった役割をきちんとこなし、毎日楽しくつつがなく暮らしいてたはずなのに、ある日突然、あひるが担当交代を叫んだことから、物語はとんでもないことに。
「ぼくが スープを かきまぜる!」
仲良しこよしの共同生活の秘訣、それぞれがそれぞれに一番見合った仕事を公平に分担し、遂行するという絶妙な秩序が見事ぶちこわしになり、たちまち怒号とスプーンがとびかい、不穏で険悪なムードが流れます。
あげく、きかんぼのあひるは、ぼうしをかぶって荷物まとめて、さっさと家を飛び出してしまいます。 残されたねことりすも、かんかん。
・・・なのですが、だんだん、時間がたつにつれ、どんどん、不安で心配に・・・。
昔話のような楽しいテキストは口調が良くて、耳にも心地よく、きびきびとしたコマわりのようなカットや、文字の配列の遊び心が、目にも心地よい、とびきりの仕上がりになっています。 こっくりと濃密な色彩を緻密に重ねた表情豊かな画風が、ぽってりとろりと美味しそうな感じ。
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原書は『PUMPKIN SOUP』Trans World PublishersLtd,London、1998、とあります。 アマゾン洋書はこちらなど。
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『PUMPKIN SOUP』 Farrar Straus & Giroux (J)
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作者のヘレン・クーパーさんは、1968年イギリス生まれのイラストレーター・絵本作家。1999年、この作品で2度目のケイト・グリーナウェイ賞を受賞したそうです。(ちなみに1997年一度目の受賞作は『いやだあさまであそぶんだい』(アスラン書房)だそう↓)
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『いやだ あさまで あそぶん だい』 ヘレン・クーパー作 ふじたしげる訳 アスラン書房 |
まだまだ眠りたくないやんちゃなぼうやの、おやすみなさいからの逃避行を、やさしさいっぱいのまなざしで美しく描いた作品。大いなる母の愛と、心ゆくまでの大冒険の心地よい疲れに包まれて、ぼうやもぐっすり眠ることでしょう。それからお疲れさまのお母さんも、ね。 1997年ケイト・グリーナウェイ賞受賞作。
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さて、『かぼちゃスープ』ですが、温かでまろやかな赤色、そしてこっくりとしたかぼちゃ色が、とても美しい魅力的な表紙です。 穏やかに燃える暖炉をながめているような心地よさ。
「森のなかのふるぼけた白い家 いつもスープのいいにおい にわはかぼちゃでいっぱいだ よるにはまどにかげぼうし うんがよければきみにもみえる バグパイプをふくねこと バンジョーをひくりすと 歌をうたうちいさいあひる」
物語は、楽しいおとぎ話の始まりのように、心躍る軽やかな歌のように、リズミカルに鮮やかにはじまります。 ねこ、りす、あひるが、それぞれの仕事をきちんと分け合って、美味しいかぼちゃスープを作りながら、楽しく仲良く暮らしていました。 いつものようにいつものことを、自然に当然につつがなくそつなくこなしていれば、すべて世はこともなく、3匹の楽しい楽しい毎日はずーっと続いてゆくはずでしたが・・・。いつしか愛はあっても飽きがきて、ケンカはなくても、倦怠がおとずれたのでしょうか・・・。
和を乱したのは、ちいさいかわいいあひるです。 塩味係のあひるはある晩突如ひとりごと。 「りすのスプーンをかりちゃおう。ぼくがスープをかきまぜる!」
さあ、かき混ぜ係のりすと切り分け係のねこの、勝手なあひるの交代劇におこったのなんの。 喧々諤々、大騒ぎの末、とうとう、あひるはぷいっと出て行ってしまいました。
残ったりすとねこは、最初、へへんとせせら笑いますが、だんだん、朝が来て、昼が来て、夕方が来ると、心細くなって、心配になって、いらいら、そわそわ、しょぼくれて、しくしく・・・。
せかいいちおいしいかぼちゃスープも、塩味つけの名人がいなければ、ちっとも美味しくありません。さらに涙でしょっぱくなるばかり。
ついに夜が来て、戻ってくる気配のないあひるの身を案じ、意を決したりすとねこは、暗いこわい森の奥へ・・・。
濃い味付けの色で、ぽってりと美味しそうに描かれた美しいイラストは、見開きページの左と右に、白い余白のテキストを置いて、片側は大きく一面に、片側はリズミカルに小さなカットを自由に並べて・・・と、こだわりのレイアウト。 光と影のさし方も効果的で、大好きなぬいぐるみが命を持って動いているような、ほどよい立体感を感じながら、歌うようにとんとんと、楽しくページを進むことができます。
簡潔でリズミカルな文章のテキストも、ストーブを囲んで昔話を聞いているように、耳に心地よく流れます。 3姉妹にも、読み聞かせ大好評! いろいろあって、やっとめでたい大団円の、あつあつのかぼちゃスープをすすった後の、次の物語へと軽やかにとんでいきそうな、余韻の残る結末が、・・・笑えます。
があがあうるさく鳴いて、よちよち危なっかしく歩く、つぶらな瞳の愛嬌あるあひるは、絵本の世界で、このような、ちょっぴりやんちゃであどけなく、気は優しくておどけものだけど、わがまま気ままで困ったちゃん、であることが、多いような気もします。
ちなみに、『かぼちゃスープ』の、 「きちんと配分が決まっている自分の仕事を他人と取りかえて、おおさわぎになる」 というモチーフは、昔話にも多く見られるようです。 思いつくだけでも、
『すんだことは すんだこと』 ワンダ・ガアグ再話・絵 佐々木マキ訳 福音館書店
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『しごとをとりかえた だんなさん』 ウィリアム・ウィースナーさく あきのしょういちろうやく 童話館出版 |
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『スズメと 子ネズミと ホットケーキ』 イリーナ・カルナウーホヴァ再話 アナトーリー・ネムチーノフ絵 斎藤 君子訳 ネット武蔵野
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・・・などがありますが、簡単そうに思え、青々と見えるシバ、じゃなかったシゴトでも、実際にやってみなければその苦労はわからないものですよね。 「こんなはずじゃなかった」的な、弱った主人公たちのトホホな顔が、3姉妹にも大好評。
ともあれ親子でほのぼの楽しめるあつあつ絵本。 今が旬! そしてさらに、2005年には続編の邦訳が出たのですって!
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『こしょうで きまり』 ヘレン・クーパーさく かわだあゆこやく アスラン書房 2005年11月
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せかいいち美味しいのかぼちゃスープの、味の決め手の塩がきれて、はるばる都会までお買い物。 あひるもついてきちゃったけれど、初めての大都会に大興奮、あっちできょろきょろ、こっちでうろうろ、あーあ、迷子にならなきゃいいけど・・・。
クラシカルでメルヘンな森から、きらびやかで近未来的な都会へと、舞台は変われど、おなじみのかぼちゃスープの面々はやっぱり変わらず、ちゃっかりやってくれました! 無国籍風近未来的「シティ」の描写も楽しく、ためになる解説も嬉しい、一冊まるごと、スパイシーで美味しい絵本。
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原書は『A PIPKIN OF PEPPER』Random House Children's Books,London 2004、とあります。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
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『 A PIPKIN OF PEPPER』 Farrar Straus & Giroux (J)
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もちろん主人公は、おなじみのあひるとりすとねこ。 今度は目にも鮮やか華やかな、そしてはるかな都会が舞台。
「ふるぼけた白い家のなか、なべでなにかがにえている。 にえているのはなんだろう? かぼちゃスープにきまってる!」
ところが、そのスープの決め手の大事な塩が、きれいさっぱりきれてしまっていて、さあたいへん。 ちょいと問題児のあひるを連れて行くかどうかでひともめしたあと、みんなでそろってバスに乗り、遠い都会へ塩を買いに出かけることになったのですが、 「ぴったりくっついてはなれないようにね」 と何度も念押ししたはずなのに、やっぱりあひるが、初めての都会にどっきりびっくり、いろんな店にわくわくきょろきょろ、魅惑的な胡椒の店など発見して、スープにどうかとあれこれ真顔で考えているうちに、いつしか迷子、りすとねこがどこにもいない!
前作と同じタッチの、ふっくら濃い味のあたたかなイラストはそのままに、青や紫の挿し色の光るどこか垢抜けたセンスのイラストも加えて、にぎやかで華やかな都会「シティ」を描きます。 この「シティ」はイギリスの首都ロンドンなどがモデルになっているそうですが、どこか無国籍風の、宇宙的な感じも楽しめます。 巻末には、美しい「シティ」のイラストの親切な注釈が、裏表紙には胡椒についての詳しい説明がありますので、全部読んだらさらに味わい深いスープになりそうです。
小さなカットのテンポよい配置も、テキストの文字の配置も大きさも、こだわりのレイアウトがおしゃれ。思わず絵本の中に迷い込みたくなりそう。
ところでてんやわんやの結末のスープ、お味はおいしかったのかな? 『かぼちゃスープ』とあわせてぜひ親子でお読みになってくださいね。
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