■ヘレナ・ズマトリーコバーさんの絵本
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1923-2005。チェコのプラハ生まれの人気イラストレーター。15歳から新聞の挿絵などを手がけ、1948年に絵本デビュー。作品は多数。アウトラインのくっきりはっきりとした、やわらかな明るい色の、ぱっちりおめめのイラストが普遍の魅力。 |
*『かあさんねずみがおかゆをつくった』*『ぼくだってできるさ!』 |
『かあさんねずみがおかゆをつくった』福音館書店 品切れ
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『かあさんねずみがおかゆをつくった』 ヘレナ・ズマトリーコバーえ いでひろこやく チェコのわらべうた 福音館書店 1984年 現在品切れ
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「かあさんねずみがおかゆをつくった みどりのなべでおかゆをつくった」 ・・・。
韻をふんだとても耳に心地よいチェコのわらべうた。 わらべうたに共通の、どこかナンセンスでとぼけていてごろがよく、それゆえに長く歌い継がれるうたの内容が、口ずさみやすい訳文と、ヘレナ・ズマトリーコバーさんのはっきりくっきりぱっちりとしたイラストで、最初から最後まで楽しく美しく愛くるしく描かれています。
無邪気で天真爛漫、清く明るく愛らしいズマトリーコバーさんの世界をごらんあれ。
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少し前の限定復刊で、既に売り切れてしまっているようです。 ヘレナ・ズマトリーコバーさんのとってもチャーミングなイラスト満載の、おもちゃ箱のようにカラフルでにぎやかで楽しい絵本なのですが・・・。
原書は、『VARILA MYSKA KASICKU』SNDK,Praha.、コピーライトは1954,1961とあります。 ということは、少なくとも50年以上も前に描かれた絵本!…だなんて、信じられないくらい新鮮で、愛らしくて、軽やかに弾むような魅力はどうでしょう!
ヘレナ・ズマトリーコバーさんは1923年チェコのプラハ生まれの、人気イラストレーターで、なんと15歳のときから新聞の挿絵を描いていらっしゃったそうです!絵本のデビューは1948年だそう。 まったく古びることのないチャーミングなイラストは、現在もチェコで大人気のようで、遠い日本でも、プレシャスブックスさんや絵本の家さん、アット・アームズさんなど、チェコ本などおしゃれな洋書を販売なさっているショップで、チェコの原書を購入することが出来ます。個人的に何冊も持っているのですが、どれも全部飾っておきたいくらい可愛いの!
さて、『かあさんねずみがおかゆをつくった』 です。 原文は、韻をふんだとても耳に心地よいチェコのわらべうた、だそうで、いでひろこさんによる訳文も、シンプルでリズミカルで楽しい文章になっています。
絵本の扉をあけると、見返しの水玉模様のようにちりばめられた、ズマトリーコバーさんのカットもうきうきと素敵。 そしてあつあつおかゆのなべの絵の中表紙をめくると、 「かあさんねずみがおかゆをつくった みどりのなべでおかゆをつくった・・・」 はじまりはじまり。
表紙にも登場しているかあさんねずみが台所でおかゆをかきまぜ、こねずみたちがまだかまだかととりかこむ、にぎやかで楽しいイラストが、なんだかわくわく、とびきりの予感。
次のページは・・・ 7匹のこねずみの兄弟たちが、それぞれおさらにおかゆをよそってもらって食べる場面を、リズミカルに並べたもの。 いちばん3姉妹がこだわって、それこそお皿をなめるようにとことんながめつくしたページです。 ぜひ図書館などでこのページを親子でご覧頂きたいのですが、みんないいお顔で美味しくいただいている幸せなひとコマ、ばかりではないのですよ! 美味しいおかゆを食べている子といない子、もらった子ともらえなかった子が、いるのです!
まだ字の読めない小さな子どもでも、絵本に描かれている登場人物(あるいは動物)の表情と、それを読んでくれる大人の表情を、熱心に読み取ることができるのだそうです。 で、絵本の中の顔の絵を見て、わらっているとかおこっているとか、実際の感情と重ね合わせて見ることが出来るようになった子どもたちは(1歳前後くらいからかな)、たいてい、泣いている顔を見つけると喜びます。 涙をながし、口をあけてあーんあーんと叫ぶ絵本独特のオーバーな表情が、子どもたちにとてもわかりやすく、実生活でもよく泣く子どもたちにとってとても身近でもあり、何より、その泣き顔を見て、 「これは泣いているおかおだ!」 と、自分が自分でわかったということが、得意満面、嬉しくてたまらないのでしょう。とくに年齢が小さい子ほど。 というわけで、2歳になったばかりの三女も、この場面ばかりはしっかり参加して存分に味わっているようです。
そして、年齢が上に行くほど、なんでこのこはおかゆがもらえないんだろう、なんでみんな平等でないのかしら、と、不思議に思うようです。とくに、うちは3姉妹と、標準家庭より少しばかり(?)多目の兄弟構成だからかも、しれませんが(笑)。
こと食べ物の公平分配は、3姉妹にとって、あくなき探求の重大テーマですから、3姉妹の入念なチェックおよび監督指図、熱い注目とコウルサイ注文のもと、その分配方法ならびに配分量の最終決定には、厳重な平等精神とかなりの慎重な配慮が必要とされる一大事です。 3姉妹の固い結束の有無にかかわる、一触即発の大問題ですから、ちょっとの不正もごまかしも不公平もそこにはゆるされないのです(笑)。
それゆえ、とりわけ長女と二女は、このちょっと理不尽ともいえる場面が、気になって仕方がないみたい。 このさらっとしたナンセンスさが、3姉妹とハハをひきつけてやまない魅力の一つなのでしょうか。
・・・話がそれましたが、『かあさんねずみがおかゆをつくった』 には、このように、短くて楽しい、ちょっとナンセンスで愉快なわらべうたがほかにもまだあります。 そしてそれぞれに、これ以上ないくらい的確で愛くるしいズマトリーコバーさんの挿絵が、たっぷりそえられていますので、眼福です!
例えば、こんなものであんなものをかいました、という家族のおかいもののうたは、取り合わせの意外さと、常識一般からみた対価価値感覚のズレが、なんともとぼけた味わいの、3姉妹のお気に入りその2のわらべうた。
お買い上げの家族ひとりひとりの顔と、そのお買い上げたモノモノと、支払ったお金代わりのモノ、を絶妙な配置で並べたチャーミングなイラストが、ひとつひとつ小さな指でおさえて確認せずにはいられないくらい、3姉妹の興味を惹くようです。
ヘレナ・ズマトリーコバーさんの絵本を何冊かとっくりと眺めて気がついたことですが、ぱっちりおめめのころころとした愛くるしいイラストの、特に男の大人の人を描いたイラストにおいて、くちひげやあごひげ、高い鼻やぼうしやパイプなど、その人を特徴付ける部品が描きこまれていればいるほど、顔のバランスがコミカルに大きくなっているようです。 これもあれもと、描きたかったものをどんどん付け加えていくごとに、いつのまにか大きくなっちゃった、という感じの茶目っ気を感じます。 迷いのない明快な線と、にごりのない軽快な色で、まっすぐに届くひたむきなイラストは、子どもたちの目を惹き付け、大人たちの目を和ませ、いつまでも新鮮で色褪せることがありません。
そして本文最後のページ構成が、またまた小粋でお気に入り。 チェコの子どもたちは、このように聴覚的にも視覚的にも感覚的にも優れた絵本たちを読んで、大きくなるというのですから、絵本大国チェコの秘密が、ちょっぴりわかったような気がする、うらやましい一冊です!
よろしければ、図書館などでごらんになってくださいね。 そしてぜひとも復刊希望です、出版社さま!
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『ぼくだってできるさ!』冨山房インターナショナル』
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『ぼくだってできるさ!』 エドアルド・ペシチカさく ヘレナ・ズマトリーコバーえ むらかみけんたやく 冨山房インターナショナル 2005年12月
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2005年12月に嬉しいヘレナ・ズマトリーコバーさんの絵本がでました!
ぱっちりおめめの愛らしいぼうやが目印。 赤い帽子も、緑のつりズボンの模様も、なんて可愛い。 原書は『MARTINKOVA CITANKA A DIE KLUBICKA POHADEK』1977、とあります。
1977年といえば、ハハたちの幼年時代と重なります。 届いた絵本をわくわくとめくると・・・主人公の小さい元気なぼうやマルチーネクと、近所の小学生のおねえさんヘレンカの、普通の幸せな毎日がいきいきと自然に描かれていて、その素朴さが、なんだかとっても懐かしい感じ! 遠く離れたチェコの幼年物語ですが、そそかしこの楽しい豊かなエピソードに、昔、同じようなことを見たり聞いたりやったりした、おおらかでにぎやかな思い出がよみがえってくるようです。
作者エドアルド・ペシチカさん(1924-1987)が、マルチーネクの物語を書き始めたのは1950年代だそうです。 訳者の村上健太さんのあとがきを読むと、この時代のチェコの自由を抑圧された空気と、その中での児童文学の流れ、作者エドアルド・ペシチカさんの込められた願いなどがとてもわかりやすく書かれてありました。
「・・・・ ペシチカは、戦争前のチェコスロバキア、ナチスの占領時代、その後の社会主義時代など、激変するチェコの歴史を肌で体験してきた作家です。彼の作品からは、当時の暗い空気を感じることは出来ませんが、そこには来るべき明るい時代へむけて、せめて子どもたちだけは、のびのびと育って欲しいという願いがこめられているといえます。 ・・・・」
とあります。(『ぼくだってできるさ!』訳者村上健太さんのあとがき「マルチーネクが生まれた時代」より)
マルチーネクの素朴で健全ないとおしい日々は、実はとてもさまざまなメッセージがこめられた、きらきらとまぶしい、光り輝くような存在だったのですね。
物語は・・・ 学校へ上がる前の小さな元気なぼうや、マルチーネクと、幼なじみの小学一年生のおねえさん、ヘレンカのおりなす、楽しくてにぎやかな毎日の小さな物語が、全部で8編おさめられています。 特に私がにっこり気に入ったのは、
■「かまれたらどうしよう・・・」 |
マルチーネクは、おつかいに行く途中のおうちの入り口にある、犬の石像がこわくて、いつもよけて通ります。 この日もよけて通ろうとしたとき、ちょうどヘレンカがやってきました。 「どうしよう・・・」 ヘレンカに、犬を怖がっていることを知られたくなくて、マルチーネクは果敢に石像をよけずその前を通過しようとするのですが、 「どうしてめをつぶっているの?」 と、ヘレンカに聞かれて、おもわず目をあけてしまいます。 するとそこに、おそろしい石の犬が! マルチーネクは、あわてて、 「なんでもないよ。ただ、ぼくがこの犬をこわがっているなんて、おもわないでよ。やろうとおもえば、さわることだってできるんだ。ほんとうだぞ」 と、虚勢をはってみせます。 ヘレンカは笑って、なんと、背伸びをして、いかめしい犬の石像にさわったのです! マルチーネクはびっくりしましたが、 「ぼくだってできるぞ!」 と・・・。
未知のもの、こわいものがいっぱいある幼年時代、おばけや鬼や魔法使いが、本当に近くにじっと潜んでいそうだったあの頃。見かけのこわさはすぐにおそろしい想像に結びついて、知らず自分で与えてしまった根拠のない底知れぬ魔力に、成長とともにそれが迷信や思い込みとある日ふっと自覚するまで、とらわれてふるえあがったものでした。 そしておそれおののきながらも、それを他人に知られたくなくて、「こわくなんかないぞ」と精一杯頑張る小さなプライドが、とてもくすぐったいような、愛らしい作品。 魔法があっけなくとけたあとの、マルチーネクの表情が想像できるような、余韻も好き。
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■「すてきなぼうしなのに・・・」 |
寒くなったある日、お使いをたのまれたマルチーネクは、買ってもらったばかりの新しい帽子をかぶって出かけます。 マルチーネクはとてもこの帽子が気に入っています。 通りを歩く人のどの帽子よりも素敵で、通りを歩く人はみんなこの帽子を見ているみたいです。 そこへランドセルを背負ったヘレンカが「おはよう」とやってきて、帽子とマルチーネクを見ると、 「へんなぼうしねえ」 と言って、学校へ行ってしまいました。 とたんに、通りを歩く人が、みんなこの帽子に顔をしかめているような気がしました。
マルチーネクが帽子を背中に隠したとき、お使いに行く友だちのヴィーテクがやってきました。 一緒に歩きながら、 「どうして、そんなにすてきなぼうしをかぶらないの?」 と、ヴィーテク。 「ぼくのぼうし、すてきかな?」 おずおずとマルチーネクは尋ねます。
マルチーネクは帽子をかぶりました。 こんどはだれも、帽子に顔をしためたり、笑ったりしていません。 ・・・
自分と他人を知り、他の人の目が気になりはじめたマルチーネクの、多感な心のゆれうごきが、見事に描かれているほほえましいお話。少しずつ成長していくマルチーネクの心に、とても自然によりそうことができます。 ここでは目ざとくマルチーネクの新しい帽子を見つけて笑ったヘレンカは、新しい帽子をマルチーネクが気に入っていることを見抜きながら素直になれず、「へんなぼうし」などとからかってしまうのですが、他の物語では迷子になったマルチーネクを助けたり、歯医者につきそってあげたりと、かいがいしくおねえさんらしいところも持ち合わせていますので、お楽しみに。
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マルチーネクの小さな8つの物語には、ヘレナ・ズマトリーコバーさんのぱっちりおめめの愛らしい挿絵が、カラーであちこちにちりばめられています。 もちろんとびきり可愛い! ふくふくとしたほっぺも、おてても、洒落た模様のお洋服も帽子も、背筋の伸びたおしゃまなヘレンカも、みんなみんな可愛い。 シンプルなレイアウト、くっきりはっきりとしたアウトライン、明るくやわらかな色彩、しっかりと見開かれた大きな目、子どもたちの絵本の世界をやさしく明るく照らすような、穏やかでそして力強い光を感じます。 物語と同じく、時代を経ても場所を変えても、まったく新しく人々の心をとらえます。
個人的には、ズマトリーコバーさんの描くおじいさんの、大きな鼻、まゆ、ひげ、しわ、と、伝えたい特長が増えていくほどに、顔が大きくなっていくところが好き。のびのびとした子どもの絵のように天真爛漫なバランスが好きです。
訳者の村上健太さんの「おわりに」によると、200冊以上の本に絵を描いてきた、チェコの人気画家へレナ・ズマトリーコバーさんは、2005年春、81歳でお亡くなりになったそうです・・・。
天真爛漫な美しいたくさんの作品たちを、本当にありがとうございました。
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