『はらぺこライオン』アートン

図書館で目を射た、なんだか不思議な迫力の絵本はこちら。

『はらぺこ
ライオン』

インド民話
ギタ・ウルフぶん
インドラプラミット・ロイえ
酒井公子やく
アートン
2005年

ライオンのシンガムははらぺこ。楽してえさを取るいい方法はないものかと考えて、思いついたのが、人間の市場に出かけて、杭につながれているヤギを失敬すること。
いそいそと市場へ向かう途中で、シンガムは、つぎつぎに、かしこい小さな動物たちに出会って、

「ウォー!、おまえとここであったのなら、わざわざ村までいくこともない。おれさまははらぺこなんだ。いますぐおまえをたべてやる!」

いますぐとびかかって食べようとしますが・・・。
体の小さくて弱いものが、はるかに大きくて強いものを、楽しい知恵でやりこめる、読んで愉快、見て痛快、爽快でスケールもでっかい絵本。

民族色豊かな、のびのびと素朴で美しいイラストは、伝統的なワルリー画という画法を取り入れて作成されたものだそうです。

表紙のライオンの迫力に、思わず目が釘付け。
どこかアジアンチックでシンプルな色使い、小筆の先でちょんちょんとリズミカルにくりかえしたような素朴な文様・・・何か、アジアの布や、民族衣装を思わせる表紙だな、と、思ったら、果たして、インドの絵本でした。

テキストの作者、ギタ・ウルフさんは、
「現代インドにおいて最も独創的で創造性にあふれた作家の一人で、これまで児童書、一般書において、多数の賞を受賞している。ウルフは、文章と絵とがひとつになりコミュニケーションができる「絵本」という形にこだわり、深い敬愛を持ち、様々な試みを続けている。海外でも彼女の作品は多く紹介され、主な作品に“Hen‐sparrow Turns Purple”(1999年ブラスティラヴァ世界絵本原画展金杯受賞作)等がある」

イラストの作者、ロイ,インドラプラミットさんは、
「インドで最も期待されている現代美術家の一人であり、インド西部、バローダの大学でも美術教師として教鞭をとっている。1990年に、ロンドン王立美術カレッジで奨学金を受け絵画を修め、優秀な成績で英国のバーストン賞他を受賞している。書籍の装丁、さし絵などでも活躍しており、主な作品に“Sophocles’ Oedipus the King”(2005年アメリカン・アソシエーション・オブ・ミュージアム・デザイン部門賞受賞作)等があり、海外でも作品の多くが紹介されている」

と、絵本『はらぺこライオン』の著者紹介にあります。

アマゾン洋書を検索すると、こちらなど↓。

『The
Very
Hungry
Lion』
Tara Pubns

その他の作品はこちらなど↓

シックな小豆色の色使いも新鮮で、くっきりはっきりした印象的な画風のように思われます。

さて、『はらぺこライオン』です。
わくわくと扉を開くと、黄土色の見返しの文様も洒落ていて、つづいての、手織りのラグやカーペットを思わせるような、赤と緑の四角い連続模様の枠にふちどられた、中表紙にも、新鮮な予感にときめきます。

しずかな森のあさでした。
おきにいりの木のしたで、ライオンのシンガムは、こんなことをかんがえていました。
「どこかに、まるまるとふとったおいしいシカはいないか?ヤギでもいい、スズメでもいいぞ。
森じゅう、シカをおいかけてはしりまわるのなんか、もうまっぴらだ。なんとかかんたんにとれないものかな・・・?」

そこでひらめいたシンガムの考えは、人間の市場に行って、杭につながれているヤギを横取りすること。
いそいそと市場へ向かう途中で、シンガムは、いねをついばんでいるスズメのクルヴィに会いました。

「ウォー!、おまえとここであったのなら、わざわざ村までいくこともない。おれさまははらぺこなんだ。いますぐおまえをたべてやる!」

けれどクルヴィは、かしこいスズメだったので、あわてずさわがず、
「はいはい、どうぞ。」
と、答えたのでした。
「でもわたしはいま、おいしいあまいおもちをつくるために、お米をついばんでいるのですよ。どうせたべるのなら、そのおもちとわたしのりょうほうをたべればよいでしょう?」
「なに?もちだと?それならはやくつくれ。」
とシンガムがいうと・・・。

クルヴィはおもちづくりに必要なものを用意してくれ、と、シンガムに頼みます。
シンガムは市場で調達してくると請け負って、クルヴィのすすめにしたがって、遠い市場まで汽車で行こうと、線路で汽車を待ちました。
ところが驚いた機関士は、シンガムを見るとますますスピードをあげて汽車を素通りさせてしまい・・・。

はらぺこのシンガムと、このあとも次々と登場するかしこい動物たちのかけあいのくりかえしも楽しく、人間たちの驚く場面もにぎやかで、知らず、引き込まれてしまいます。読んで愉快で、見て痛快、爽快でスケールもでっかい絵本。

シンプルで独特の色使いは、深みのある赤紫色、緑色、紺色、黄土色、灰色、そして余白の白色。
何か新鮮な感じがするのは、もしかすると印刷物には普通に用いられている黒色がまったく使用されていないからかもしれません。
テキストの文字の色も、ページによって、赤紫色と、紺色のページにふりわけられていて、細やかなこだわりを感じます。

そして楽しくてのびのびとしたイラストは、伝統的なワルリー画という画法を取り入れて作成されたものだそうです。
「ワルリー画は、家々の赤土の壁に、米をすりつぶし、水を溶かして作った白い顔料と竹のペンで描かれ、その題材は村の日々の生活や、神話、伝説から取られたものとのことです。」
(『はらぺこライオン』訳者あとがきより)

個人的に初めて見るインドの民衆画ですが、どこかなつかしいような感じもする、素朴で親しみやすい絵。
「ウォー」と獲物にほえたてる、はらぺこライオンの愛嬌もたっぷり、ばらばらと散らばって逃げ惑う人々が、どこかスカーフの模様のようにおさまりよく配置された楽しい構図で、民族色豊かに描かれています。

賢い動物たちの機知もあっぱれですが、最後の最後、シンガムの悟りも、なかなか、ですよね?
終わり方もすがすがしい、愉快な絵本。

よろしければ図書館などでお読みになってくださいね。


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