『バーバ・ヤガー』童話館出版 (冨山房 1975年 品切れ)
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バーバ・ヤガー
ビーケーワン
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『バーバ・ヤガー』 アーネスト・スモール文 ブレア・レント画 こだまともこ訳 冨山房 1970年 品切れ
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カブのおつかいのお金を落としてしまったマルーシャが、森でつかまったのはバーバ・ヤガー。わるい子を食べるのが大好きなバーバ・ヤガーに、なべの中に放り込まれて、あわやシチューにされかけますが、 「わたしはいい子なんですけど」 と訴えることで、一旦は逃れ、バーバ・ヤガーにこき使われました。ところがバーバ・ヤガーの秘密をいろいろと知るうちに・・・。
ロシアのバーバ・ヤガーの昔話を基にした壮大な冒険物語。いろいろなお話のエッセンスがほどよく混ざり、見事につむがれた弾むような物語に、迫力と愛嬌の版画が独特の世界を描いています。 こわくてお茶目で、不気味で可愛い、存在感のある一冊。
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『バーバ・ヤガー』 アーネスト・スモール文 ブレア・レント画 こだまともこ訳 童話館出版 1998年
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復刊かなって、よかった!
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かあさんに言われて村までカブを買いに行ったマルーシャは、とちゅうでお金を落としてしまいました。森に行けばカブが見つかるかもしれないと思ったのですが、森の奥で見つかったのは、やたらとかけまわるニワトリの足の生えた小屋、恐ろしいバーバ・ヤガーの家。 「バーバ・ヤガーはすごおくおそろしいおばあさんでね、・・・わるい子をみつけては、シチューのなかにほうりこんで、ぐつぐつにてくっちまうのさ。」 かあさんに聞いた話を思い出し、マルーシャは夢中で逃げ出しますが、バーバ・ヤガーに見つかって、気が付くとバーバ・ヤガーの小屋の中の、大きななべの中!
「ちょっとまって、バーバ・ヤガー!あたしはね、とってもいい子なんですけど・・・」 本当のことをいえば、カブのお金を落としてしまったので、いい子とはいえないのですけれどもね。 「い・い・子だって!」 バーバ・ヤガーは、どくキノコでも見たみたいに身震いして叫んで、マルーシャをなべからつまみ出し、食べるかわりに、小屋や庭の掃除、晩御飯の支度でこきつかうことにしました。 くたくたのマルーシャが、夕暮れに見たのは、黒ずくめの服を着て黒い馬にまたがった不思議な騎士。明け方に見たのは白ずくめの服を着て白い馬にまたがった不思議な騎士。それからみるみる嵐になって、その中から現れ出たのは、臼にのったバーバ・ヤガー!
「なんにもいうんじゃないよ。・・・おまえがひとつものをきくたびに、わしはひとつとしをとってしまうんじゃ」 と、バーバ・ヤガーは言いましたが、不思議なバーバ・ヤガーをとりまく秘密を聞いてみたくてたまらないマルーシャは、いくつか質問や観察をして、バーバ・ヤガーを得意がらせ、最後にうっかりカブのありかを聞いてしまって、バーバ・ヤガーにお金を落としたわるい子だと悟られてしまいます。
再びマルーシャをなべの中に放り込み、シチューにいれるためにキノコばたけに行ったバーバ・ヤガーは、そこでハリネズミに出会って、これもなべの中に放り込みます。 「はじめまして!」 なべの中で人間の言葉でマルーシャにあいさつしたハリネズミが、自分の身の上話をはじめたことには・・・。
日本のやまんばのように、ロシアの昔話によく登場する魔法使いのおばあさん、バーバ・ヤガーは、臼にのって空を飛び、杵で舵とりしながら、ほうきで形跡を消して進み、森の中の、にわとりの足を持つ小屋に住んでいます。犬や猫や木や、擬人化した夜や昼を従え、不思議な魔術や魔法を持ち、あるお話の中では主人公をつかまえてこきつかったり意地悪をしたり、別のお話の中では主人公を助けたり知恵を授けたりします。 一度聞いたら忘れられないような独特の特徴が楽しくて、清濁併せ持つおおらかさがとても魅力的。年を重ねている分だけ物知りで抜け目ないのに、どこかうかつで抜けているところがご愛嬌、こわがりでこわいもの好きの子供たちも大喜び。
ブレア・レントさんの描く版画調のバーバ・ヤガーも、独特のこだわりと可愛らしさがきっちりと掘り込まれ、刻みこまれていて、とてもとても魅力的。かすれた面からにじみ出る禍々しさと、おもちゃのようにシンボル化された表情からのぞく親しみやすさが、渋い色合いの中にほどよくまとまって、ぐつぐつ煮込まれたおなべのふたを開けたときのように、なんともいえないふくよかな雰囲気がたちのぼります。
アーネスト・スモールさんの描く独特のバーバ・ヤガーの物語も、いろいろな要素が溶け合って、にぎやかで豊かな色合い。 カブからはじまった長い物語は、バーバ・ヤガーの特徴と物語のいくつかの伏線をひととおり示した後、マルーシャの命の危機から、ハリネズミの数奇な身の上話に向かい、ぴったりの符号を見せて、ハリネズミの物語とバーバ・ヤガーの物語を見事に同時解決しています。その後、カブとマルーシャたちをただちに解放してくれればよかったのですが・・・バーバ・ヤガーにとってお気の毒、じゃなかった、ユーモラスでシニカルでお茶目な結末へととんとん拍子で進んで、カブでおしまいのアクセント。カブに関するマルーシャのよい子わるい子の判断や、ハリネズミぼうやをあらためて見たときの判断の場面の、バーバ・ヤガーがたまらなく痛快で可愛い!勇敢な主人公たちといえど子どもで、恐ろしいバーバ・ヤガーといえどおばあさんで、頭を抱えるのは同じなんだなあと思わず噴出す愉快な場面が、人間くさくていいなあいいなあ。 (ひとつだけ言うなら、その後、ハリネズミぼうやは自分のうちに帰ったのかな?それはまた別のお話、なのかしら。いろいろな続きが想像できて楽しいですよね)
なお、かつての冨山房版と、復刊の童話館出版の絵本を読みくらべると、一部手直しがあるようですが、基本的にはほとんど同じ文章でした。イラスト、レイアウトなどもほぼ同じだと思われます。(紙の色がわずかに異なりますが、これは経年の変化によるものかも???) どちらの文章にも漢字によみがながふられているのですが、童話館出版の文章の方が、少し大きい子を対象とした漢字使いになっています。自分で読むと、また格別な満足感がありますよね。
原書は『BABA YAGA』最初のコピーライトは1966年、Houghton Mifflin Co.とあります。
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『たいようとつきはなぜそらにあるの?』 アフリカ民話より エルフィンストーン・デイレルぶん ブレア・レントえ きしのじゅんこやく ほるぷ出版 1976年
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太陽と月と水が、いかにして現在の姿になったか、というアフリカの民話を基にしたおおらかで力強い絵本。 南ナイジェリアの地区監督官だったエルフィンスーン・デイレルさんが、著書『西アフリカ・南ナイジェリアの民話』から取り上げたお話に、ブレア・レントさんが幅広くアフリカ的モチーフの絵をそえた一冊。 (『たいようとつきはなぜそらにあるの?』ほるぷ出版 より)
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むかしむかし、たいようとみずはとてもなかよしで、どちらもじめんのうえにすんでいました。 二人のうち訪ねていくのはいつも決まって太陽なので、なぜ水が太陽のうちにこないのかと太陽が訊ねると、水はこう答えるのでした。 「わたしのうちはかぞくがとてもおおいのです。みんなをつれていったら、あなたははみだしてしまいますよ。もしわたしがあなたをたずねるとしたら、あなたはとてもおおきないえをたてなければなりませんよ。・・・」
そこで太陽は奥さんの月といっしょに、友達をむかえる大きな家を建てました。家ができあがると、さっそく水をまねき、まねかれた水は大勢の家族をひきつれて、いよいよ太陽のうちにやってきました。 「はいってもだいじょうぶですか?」 「もちろんですとも さあどうぞ」 そこで水は魚や水の生き物をつれてどんどんながれこみ・・・
ブレア・レントさんの原始的なモチーフの力強い線画が、単純明快で素朴なアフリカの民話の持ち味をひきたててている絵本。 太陽と水の対照的な色使いもひときわ美しく、清新な雰囲気。 とぼけた持ち味の楽しい積み重ねで、小さい子の期待を裏切らず、すんなりと理解できる明快なお話なので、3歳半の3姉妹三女も大喜びでした。
原書は『WHY THE SUN AND THE MOON LIVE IN THE SKY』1968 Houghton Mifflin Company,Boston とあります。 1969年コルデコット賞オナー賞受賞作。 アマゾン洋書ではこちらなど。↓
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『Why the Sun and the Moon Live in the Sky (Caldecott Honor Books) (図書館) (学校)』 Houghton Mifflin (Juv) (1968/9/9)
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『おこった月』童話館出版 2006年復刊 『おこったつき』(冨山房 品切れ)
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『おこったつき』 ウィリアム・スリーター文 ブレア・レント画 ただひろみやく 冨山房 1975年 品切れ 2006年童話館出版より 『おこった月』として再刊。
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なかよしの二人が草原を歩いていたとき、ラポウィンザの不用意なひとことが夜空の月の怒りに触れ、ラポウィンザは空にさらわれてしまいました。残されたルーパンは友達を助けようと・・・。
アラスカ南部に住む、北アメリカインディアンの一部族、トリンギット族に伝わる昔話を翻案したものだそうです。 (『おこったつき』冨山房 品切れ 表紙カバーみかえしより)
長いけれど転がる月のように勢いよく流れていく物語は、日本の昔話の「さんまいのおふだ」などにも似て、いつのまにか息をのんで聞き入ってしまいます。 月はしぶとく主人公たちをおいかける敵役なのですが、実はそのそもそもの原因は、 「みてよ、あのつき。かおじゅうあばただらけ。なんてみっともないんでしょ。」 とラポウィンザが笑ったことに端を発していたりします。太陽は直接擬人化されてはいませんが、主人公たちをさりげなく助けてくれたりしています。 |
表紙のたけだけしい月の憤怒の顔が、強烈な印象を焼き付ける絵本。黄色や紫を用いたおおらかな水彩画が、独特の幻想的な雰囲気。大胆に筆で描かれた月の大きさに対して、細かく線で描きこまれた主人公・ルーパンとラポウィンザなどの人間の大きさはちっぽけで、物語の壮大さを思わせます。 『バーバ・ヤガー』、『Bayberry Bluff 』の版画調のタッチとはまたまったく異なる画風。
原書は『THE ANGRY MOON』1970 Little, Brown and Company Inc.とあります。 テキストの著者のウィリアム・スレーターさんの最初の本だそうです。 (『おこったつき』冨山房 品切れ 表紙カバーみかえしより) 1971年コルデコット賞オナー賞受賞作。
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『おこった月』 ウィリアム・スリーター再話 ブレア・レント絵 あきのしょういちろうやく 童話館出版 2006年9月
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1975年冨山房刊『おこったつき』の再刊。 表紙は同じものだと思われます。新訳。旧版とは見返しのイラストが異なるのと、旧版の表紙カバー見返しにあった文章はありません(表紙カバーもないタイプの絵本でした)。転がるような迫力、たたみかけるような月の怒りを再び存分に味わえるようになって、嬉しい限り。
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『Bayberry Bluff (学校)』 Blair Lent作 Houghton Mifflin (Juv) (1987/03)
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↑ 楽天アートブックショップで画像を発見しました。 「ヤマモモ島のお話」だそうです。
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小さな島に、Bayberry Bluff とよばれる村ができるまでを、愛らしい版画調の絵で描いた絵本。アメリカの歴史をひもとくようなお話。実際に実話に基づいているそうです。当時の人々の服装や家々の装飾などにも注目して眺めたい絵本。
ヤマモモのしげる小さな島がありました。人々は船でわたって眺めを楽しんでいましたが、ある夏、夜も過ごしてみたいとつぎつぎにテントを張りました。それから、2、3週間すごしてみたいと木枠のしっかりした帆布の小屋をたて、花や葉っぱや手作りの飾りで飾りました。 夏が過ぎると、いまやずっとこの島で過ごしたいと思うようになった人々は・・・。
木のおもちゃみたいに愛らしい形、ほほえましい表情が、古典的な色使い、力強い版画のタッチととけあって、とても魅力的な世界を作り出しています。 ブレア・レントさんはいろいろなタッチをお持ちですが、なかでもこの愛らしく素直な雰囲気が個人的にとても好きです。
文章は簡潔で、文字のない場面さえあります。だんだんにぎやかに華やかになっていく絵は明快で、小さな種がすくすく大きく立派な木に育つのを見ているよう。ひとつひとつ楽しい変化を目で追うだけで、物語をほとんどつかむことができました。
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『Tikki Tikki Tembo (An Owlet Book) (ペーパーバック) 』 Henry Holth & Co (J); Reissue版 (1989/10)
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『The Beastly Feast (ペーパーバック)』 Henry Holth & Co (J); 2nd Rep版 (2001/07)
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『Ruby and Fred (ハードカバー) 』 Henry Holth & Co (J) (2000/10)
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