■ヴァレンチン・オリシヴァングさんの絵本 |
V.Olshvang В.Олъшванг 1962年生まれ。スヴェルドロフスク(元エカチェリンブルグ)の芸術学校を卒業した後、モスクワ国立映画大学でアニメ制作を学び、テレビ番組のイラストなどを手がける。またYu.ノルシュテインのアニメーション『外套』の制作に2年ほど加わる。アニメーション監督作品に、「ばら色の人形」「茶房」「ザリガニの話」など。 (『ワニになにがおこったか』偕成社 著者紹介 参照) |
『ワニになにがおこったか』*『ハリネズミと金貨』 |
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『ワニになにがおこったか』 M.マスクビナー原作 田中潔文 V.オリシヴァング絵 偕成社 2007年
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たまごを砂にうめて、子ワニの誕生を楽しみに待っていた、ワニのガーパに、なにがおこったか・・・。 生まれてきたのは、小鳥のヒナでした。
シニカルで醒めた雰囲気の中にも、時に愚かしいまでにきらきらと輝く純粋なものを、静かに熱く描いて、感動を呼び覚ます、美しく切ないおとぎ話。
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りっぱなしっぽのアフリカワニのガーパは、岸辺の砂に埋めたたまごから、かわいい子ワニが生まれてくるのを、ほかのワニたちと同じように、とても楽しみにしていました。 ところが、やっと生まれてきたのは・・・まだ羽毛もぬれたままの、小さなひよこでした。 ワニが鳥をそだてるなんて! 「この場で食っちまって、なにも生まれなかったことにしちまいな」 ワニぱあさんは忠告するのですが・・・。
ヒナがガーパの足に頬をすりつけながら、「パパ、パパ!」といったとき、ガーパはさとったのです。こいつをたべるなんて、できない、と。 できない。どうしても。だってこいつは、「おれの」ヒナなんだから。 「ヘッ、なんてこったい!」おばあさんはそういうと、ざぶりと水にとびこんで、いってしまいました。 ・・・
アフリカワニのガーパと鳥のヒナのリーパの、親子の愛と絆を、詩情豊かに描いた、美しい奇跡のおとぎ話。 ワニと鳥の親子という異質な組み合わせの寓話的世界に描かれた、ガーパのワニとしてゆれる心、親として思い悩む心の軌跡が、童話を越えて胸に迫ります。 自分のしようとすることが、他の人から見ると変わっているどころか、まったく逆の方向で、不可能に近く、ほとんど非常識だと笑われたとしたら? 自問自答するガーパの苦悩が、童話的に描かれてはいますが、その中には、さらに奥深いさまざまな問題の提起も感じます。
さらに、ワニと鳥という、存在自身の問題はどうでしょう? 空をとべないワニの子である小さな鳥は、鳥として育つべきなのでしょうか、それともワニとして? 鳥として育てたなら、いつしか巣立ち、決別する日がくるかもしれないのに?
もちろん、空の飛び方なんて、ガーパにわかるはずありません。 でも、だれかがおしえてやらなければ、リーパはワニにも鳥にもなれないと気づいたのです。 ・・・
ときにワニたちのおしゃべりや噂話の場面を差し挟みながら、静かに流れる美しいテキストのあちこちに、寓話を越えてはっとするような箇所がちりばめられていて、心がゆさぶられます。 そしていちばん心に響いたのは、私にとって思いがけない結末。いつしか周りの笑いやひやかしの雑音など、耳に入らなくいくらい、一生懸命だったガーパが、リーパとともに迎えた結末は・・・本当に、忘れられないおとぎ話になりました。 繊細な線とクレヨン画のようなイラストも、しみじみとした温かな味わい。
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ロシアのお話 『ハリネズミと金貨』 V.オルロフ原作 田中潔文 V.オリシヴァング絵 偕成社 2003年
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冬の到来を前に、年老いたハリネズミのおじいさんが、古ぼけた金貨をひろいました。冬ごもりの支度を整えるのに、役に立ちそうに思えたのですが、おじいさんを思いやる動物たちは・・・。
ロシアの伝統と魅力と、慈愛に満ちた美しい絵本。 黄昏を美しく描いた、穏やかな挿絵も魅力的。
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森のおくのくさむらに、小さな金貨がおちていました。 久しぶりの雨にあらわれて、またキラキラひかるようになった金貨は、森の小道をいく、ハリネズミのおじいさんにひろわれました。 年をとって、冬ごもりのしたくさえたいへんになってきたハリネズミは、この金貨で、冬ごもりのための干しキノコでも買おうとおもったのですが、なかなか見つかりません。 (せっかく金貨があるのに、キノコのほうがみつからんとはのう・・・) そのとき、木のうろからリスが顔をだして、ハリネズミにわけをききました。 「なあんだ、キノコがほしいなら、わたしがただであげるわよ!・・・その金貨は、くつにつかうといいわ。おじいさんのは、もうぼろぼろだもの。」 「ありがとう、リスさん!年よりをきづかってくれて。」 そこでハリネズミは、くつをさがすことにして・・・。
寒く厳しい冬の到来を目の前に、年老いたハリネズミと、動物たちの心温まる交流を、金貨をからめて描いた、きらきらと輝くような物語。 本来の金貨と人とのつながりが、逆転してしまっているような現代で、ロシアのこの清貧で慈愛に満ちた物語を読むと、久々の雨に洗われた金貨のように、心がうるおって、よみがえるような感じがします。 物語の中の、年老いたハリネズミのおじいさんがそうであったように。 見返りをもとめることもなく、自然な感情のままに、ハリネズミのおじいさんを気遣う、やさしい森の動物たちが、本当にきらきらとまぶしいですよね・・・。
何故、ロシアでこの物語が生まれたか、訳者の田中潔さんのあとがきを読むと、ひときわ、絵本の輝きが増すようです。 日本語版のための描きおろしの挿絵の作品というのも、贅沢な輝きですよね。
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