■イーヴァル・アロセニウスさんの本 |
Ivar Arosenius 1878-1909 病気のためわずか30歳の若さでこの世を去る。リッランは作者のひとり娘・エヴァさんの愛称。 死後発表された『リッランとねこ』は、スウェーデンの古典として、今も人気が高いそうです。 |
『リッランとねこ』 |
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『リッランとねこ』 イーヴァル・アロセニウスさく ひしきあきらこやく 福音館書店 1993年 現在品切れ
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ある日ねこに出会ったリッランは、ねこの背にまたがって、ムチを片手に出発です! どこへ?それは読んでのお楽しみ。みんなぶるぶる、こわがらないでね!
作者のイーヴァル・アロセニウスさんが、最愛の娘エヴァ(愛称がリッラン)さんのために描いた、愛らしくも摩訶不思議な物語。
くつろいだ雰囲気のあっさりシンプルなイラストと、奇想天外な愛らしいテキストで、とにかくどんどんリッランとともに前へ前へと進みます。 楽しい楽しい冒険の後に、ほのぼのと母と子のぬくもりが伝わってくるような、不思議な魅力の読み物。
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ある日リッランが町を歩いていると、おおきなねこに出会いました。ひゃあとおどろくリッランに、 「おのりなさい」 とねこ。ムチをもったリッランは、さっそくねこにまたがって、いずこへともなく出発、さあ、リッランとねこのお通りです!
こわがるぶたもふるえるにわとりも、みんなみんな後にして、いさましいリッランがたどり着いたのはお城でした。そこでリッランとねこは王さまに会って・・・。
原書は『Katt-Resan Bilderbok』Albert Bonniers forlag,Stockholm,1909、とあります。 100年近く前に出版された絵本なのですね!
イラストは、いたってシンプル。簡潔な線画に、橙、山吹、緑色、それから、顔のベージュ色、と黒の5色使いと、あっさりすっきり。 絵の上手な大人が、子どもにせがまれるままに、その場でささっと描き上げた、という感じ。
くつろいだ雰囲気のシンプルなイラストには、余白がたっぷりで・・・というよりは、背景がほとんどありません。リッランとねこが進む道や、地面を示す線すら、ない場合が多いのです。水の中を行く場面、とか、町が見えてきた場面、とか、必要最低限の背景のみ、あとは真っ白で、それがかえって不思議な空間にぽーんとふみこんでしまった、という感じ。 描かれているものはとってもわかりやすいのですが、つかみどころがあるようでないようで、肩からほにゃら〜と力が抜けちゃうかも。
テキストもこれまた不思議です。 まず、ちいさなリッランがみちで(大きな)ねこに出会って、ひゃあっとこわがるのですが、どんな道かどんな場所かの手がかりを示すような背景もなく保護者の姿もなく、描かれているのは余白とねことリッランと、それからリッランの手のムチだけ。あまり自然にひょろりと描かれているので、最初ムチだとは気づかずに読み進めていくと、後の場面で、リッランがぴしりとムチで雄牛を追い払う使う場面があって、ああ、これはムチだったのか、と、はっとしたりします。 ねこにまたがった後にムチを手に入れるのならば話は分かるのですが、何故最初から、リッランはまるでそれが風船か旗ででもあるかのようにさりげなくムチを手に掲げていたのでしょう?不思議不思議。 どうやらリッランがねこを走らせることは、運命づけられていたのかもしれません。(しかも途中ムチの姿はいったん消え、ふたたびあらわれる出没奇抜さ(?)なのですヨ)
で、出会ってすぐに「おのりなさい」と言われたねこにさっそくまたがって、リッランはおおはしゃぎでたったか出かけます。どこへ?なんて、ナンセンス! 出会ったにわとりも、ぶたも、みんなリッランとねこをこわがって、罪のない丸い目を見開いてぶるぶる震えて逃げ出します(のが3姉妹に大受けしました)。 ハハが笑ったのは、着飾ったナゾの馬の場面。この馬は何の暗示なのでしょうね(エヴァちゃんの実在のおもちゃか何かかしら???)・・・、思わず頭が空っぽになる心地よさです。惜しいところで目が覚めてしまった楽しい夢のような、奇想天外な物語が、時として大人の理解をはるかに超える子どもの感性のように、はつらつぴちぴちととびはねている、という感じ。
3姉妹がいちばん凝視して何度も繰り返し確認したのは、お城でごちそうをたらふく食べて、おなかがいっぱいになりすぎたねこにふりかかった災難を、リッランがわあーっと驚く場面。昔話などのあっけらかんとしたコワイ場面、食べたり食べられたりする恐ろしい場面が大好きな子どもたちが、やっぱり無邪気に手放しで喜んだページです。 大胆奇抜で愛らしい物語にふさわしい、はじけとんだクライマックスに、アロセニウスさんのエヴァちゃんもきゃっきゃと喜んだのかしら。
最愛のエヴァちゃんと、母アロセニウスさんの、ないしょ話のような、せがまれるままに語り始めた私的なおとぎ話をどんどん二人でふくらませていったような、愛らしい摩訶不思議な物語です。 なんだかよくわからないけれど、とにかくどんどん突き進む爽快感と、強くぐいぐいひっぱってくれる素朴な魅力を感じるお話。 あっさりした下書きのようなイラストもあらすじのようなテキストも、読めば読むほどますます不思議で、おしゃれに思えてきたりします。 余談ですがこの絵本を古本屋さんで偶然発見したときには、こっそり小躍りしたほどでした(笑)。
現在品切れなのが残念ですが、よろしければ図書館などでお読みになってくださいね。
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