■いせひでこさんの絵本
1949年北海道生まれ。東京芸術大学デザイン科を卒業。『むぎわらぼうし』(講談社)で絵本にっぽん賞受賞など、受賞多数。
『むぎわらぼうし』*『はくちょう』*『秋桜 こすもす』

 
『むぎわらぼうし』講談社 復刊

新装版↓

旧版(品切れ)↓

『むぎわらぼうし』
竹下文子作
いせひでこ絵
講談社
昭和60年
2006年7月復刊

「いくの、いかないの?」
おねえさんが呼びます。
るるこは動けません。かぶったむぎわらぼうしの夏の残像に、もう少しだけ、身をゆだねて・・・。

光にとけこむるるこの輪郭線が、夏と秋との、少女と大人との淡い狭間を、ゆらゆら、消えかけては燃え上がる蝋燭の炎のように、行ったりきたり・・・。

絵本の中に夏の海のまぼろしをそっと閉じ込めた、切ないほど美しい絵本。

風のようにさわやかで、さざなみのようにきらめく絵本。子どもの頃拾って宝物にした、つるんとまあるい小石のように、思い出すたびにひんやりとなめらかで、手のひらにちょうどぴったりの大きさの、心地よい重さの・・・そんな小石を凪いだ湖に、とぷんと沈めたような、どこか切ない気持が、なつかしく心によみがえるようです。

テキストは、ヨゼフ・パレチェクさんの代表作の一冊『ちいさなよるのおんがくかい』(フレーベル館 品切れ くわしくは≫こちら)の訳者でもある、有名な児童文学作家の竹下文子さん(1957-)

イラストは、1949生まれの、『雲のてんらん会』(講談社)オンライン書店ビーケーワン:雲のてんらん会などの画家、いせひでこさん。

息をのみました・・・。


オンライン書店ビーケーワン:むぎわらぼうしカメラでもとらえがたいきらめく一瞬を、みずみずしく切り取ったような、美しすぎる瞬間。
むぎわらぼうしの少女の気持も、見つめるこちらの思い出さえも、一瞬で呼び覚ますような、ハッと心に響く表紙。

いっしょにいくの?いかないの?
よそいきを着たおねえさんが玄関で呼んでいます。
るることおねえさんは、おばさんのうちに招待されて、これから電車で行くところなのです。
るるこは、むぎわらぼうしをかぶって、じっと立ったまま、動けません。

だって、ほつれかけたるるこのむぎわらぼうしは、ついこのあいだまでの夏のもの。
季節は移ろい、今は秋、電車のお出かけには、少しふさわしくありません・・・。

1ページ、1ページ、るるこの光と影が、夏の残像と、心の中のまぶしい光にくっきりと照らされて、鮮やかに美しく描かれます。

テキストとイラストが、共鳴して、貴い高みへとのぼりつめていく、まっすぐな一条の白い光のように、水晶の結晶の先端のように、何一つ余分なもののない、ピュアな物語。

当時、「絵本にっぽん賞」を受賞なさったとありますが、納得の傑作です。古典としてずーっと後の世まで残したい、いつまでも色褪せない永遠の作品の一冊だと思うのですが・・・品切れ。なんてこと!

ぜひとも重版・復刊・再刊を希望いたします!念願かなって、2006年7月、待望の復刊となりました!↓↓↓楽天ブックスではこちら↓↓↓
むぎわらぼうし新装版

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『はくちょう』講談社

『はくちょう』
内田麟太郎文
いせひでこ絵
講談社
2003年 

青、蒼、藍、燃えるあお、ゆらめくあお、ほとばしるあお。あおい情熱が、湖から空へ、絵本の中をつきぬけるまっすぐな美しい絵本。

ありえない恋に、これほど胸をうたれ、心をゆさぶられるなんて。

表紙の青、蒼い空、白くほの透ける白鳥、湖からまっすぐ空を目指す草の葉・・・。
静かにひたひたと、力強く押し寄せてうちくだく波しぶきのようにも見え、はるか高い空の千切れ雲のようにも見える、白鳥の白。
天を指してきりりとのびて、交錯する長い草の葉は、天を焦がす緑の炎のようでもあり、天に射られた緑の矢の軌跡のようでもあり・・・。
白鳥の溶け込む蒼い空は、もしかすると、草陰からそっとのぞく、凪いだ湖の水面かも、しれません。

もともと個人的に、水色、青りんご色、藍色、紺色、と、青い色が好きで、青い表紙にはつい惹かれてしまうのですが、この表紙にも、かなりどきんと心をつかまれました。

そして、表紙を開くと、さらに、青。蒼。藍。

青の乱舞。
いえ、舞うのは白鳥。
季節が来て、湖からいっせいに飛び立つ白鳥の、うちたてる羽音が聞こえてきそうな迫力、そのスピード感。

そして、みなが去った後の、静かな湖は、宴の後のようにひっそりとして・・・いいえ、一羽だけ、羽の傷ついた白鳥が、ひっそりと傷をいやしていたのです。あたたかな湧き水をもつ、小さな池で。

白鳥は湧き水で傷をいやし、澄んだ湧き水しかもたない小さな池は白鳥を思いました。

池にほかに何ができたでしょう?
言葉も持たず、かわす鳴き声ももたず、涙さえ見えない(だって池自身が水なのですから)、小さな池が。

そして白鳥が飛び立つ日・・・。

オンライン書店ビーケーワン:はくちょう詩人の内田麟太郎さんのひとつひとつの短い言葉のうちにあふれる熱い流れを、いせひでこさんがキャンバスの上に青く蒼くほとばしらせて、矢のように鋭く、まっすぐに切り裂いて、つきぬけた、幻想的な物語。

この美しいファンタジーを、3姉妹に読み聞かせすると・・・「あれは何?何?」と、5歳なりたての二女には少し理解が難しかった様子(惜しいな!)。7歳の長女は、だまって考えていました。
私も、この本における狐の意味を考えたりしましたが、あれこれ余計な意味を加えたりするのは蛇足というものですよね。

すごい本です。

読後、表表紙から続く裏表紙を眺めると、飛び立つ白鳥たちの白い群れが、いっそうあわ立つ波のように思えて、まぶしい光のプリズムから見たようにも思えて、涙で幾重にもにじんで見える光景のようにも思えて、心が、もう一度ざわめくような気がします。

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『秋桜 こすもす』サンマーク出版 


らに、いせひでこさんのこの一冊。

 
『秋桜 こすもす』
さだまさし作
伊勢英子絵
サンマーク出版
2004年3月

明日嫁ぐ私の、母への思いを豊かにつづったさだまさしさんの『秋桜』の詩に、伊勢英子さんが美しい絵画を添えて絵本に仕上げた作品。
現在の子どもだけでなく、かつてのすべての子どもたちが、絵本の中で小さな子どもに戻れるような、郷愁をさそう絵本です。

さだまさしさんの作品で、山口百恵さんが歌った、有名な「秋桜」の詩に、伊勢英子さんが、においたつような満開の秋桜のイラストを添えて、美しい絵本に仕上げた一冊、です。

花びら自体がほのかに燐光を発しているような、幻想的に咲き乱れる秋桜の花畑の中を、後ろで長い髪を束ねた女性がひとり、後姿でたたずんでいます。
その両手は一輪の花にさしのべて・・・。

オンライン書店ビーケーワン:秋桜(コスモス)秋桜」の美しい絵と、添えられたなじみのある詩の一行一行を読み進むと、思い出すメロディが、いっそう作品の中で溶けあって、秋桜の魅惑的な深い森の中に迷い込んでしまったよう。

この絵本の最後におさめられているあとがきを読むと、さらに、深いです。この絵本に用いられている数々のイラストのあざやかな謎(?)が、とっておきの推理小説を読み終えた後のように、ジグゾーパズルの最後のピースがぴたりとはまった瞬間のように、小気味よく氷解して、爽快。
原画をぜひ、見てみたいです。

よろしければ図書館などでごらんになってくださいね。

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