風のようにさわやかで、さざなみのようにきらめく絵本。子どもの頃拾って宝物にした、つるんとまあるい小石のように、思い出すたびにひんやりとなめらかで、手のひらにちょうどぴったりの大きさの、心地よい重さの・・・そんな小石を凪いだ湖に、とぷんと沈めたような、どこか切ない気持が、なつかしく心によみがえるようです。 テキストは、ヨゼフ・パレチェクさんの代表作の一冊『ちいさなよるのおんがくかい』(フレーベル館 品切れ くわしくは≫こちら)の訳者でもある、有名な児童文学作家の竹下文子さん(1957-) イラストは、1949生まれの、『雲のてんらん会』(講談社)などの画家、いせひでこさん。 息をのみました・・・。
「いっしょにいくの?いかないの?」 だって、ほつれかけたるるこのむぎわらぼうしは、ついこのあいだまでの夏のもの。 1ページ、1ページ、るるこの光と影が、夏の残像と、心の中のまぶしい光にくっきりと照らされて、鮮やかに美しく描かれます。 テキストとイラストが、共鳴して、貴い高みへとのぼりつめていく、まっすぐな一条の白い光のように、水晶の結晶の先端のように、何一つ余分なもののない、ピュアな物語。 当時、「絵本にっぽん賞」を受賞なさったとありますが、納得の傑作です。古典としてずーっと後の世まで残したい、いつまでも色褪せない永遠の作品の一冊だと思うのですが・・・品切れ。なんてこと!
表紙の青、蒼い空、白くほの透ける白鳥、湖からまっすぐ空を目指す草の葉・・・。 もともと個人的に、水色、青りんご色、藍色、紺色、と、青い色が好きで、青い表紙にはつい惹かれてしまうのですが、この表紙にも、かなりどきんと心をつかまれました。 そして、表紙を開くと、さらに、青。蒼。藍。 青の乱舞。 そして、みなが去った後の、静かな湖は、宴の後のようにひっそりとして・・・いいえ、一羽だけ、羽の傷ついた白鳥が、ひっそりと傷をいやしていたのです。あたたかな湧き水をもつ、小さな池で。 白鳥は湧き水で傷をいやし、澄んだ湧き水しかもたない小さな池は白鳥を思いました。 池にほかに何ができたでしょう? そして白鳥が飛び立つ日・・・。 この美しいファンタジーを、3姉妹に読み聞かせすると・・・「あれは何?何?」と、5歳なりたての二女には少し理解が難しかった様子(惜しいな!)。7歳の長女は、だまって考えていました。 すごい本です。 読後、表表紙から続く裏表紙を眺めると、飛び立つ白鳥たちの白い群れが、いっそうあわ立つ波のように思えて、まぶしい光のプリズムから見たようにも思えて、涙で幾重にもにじんで見える光景のようにも思えて、心が、もう一度ざわめくような気がします。
さだまさしさんの作品で、山口百恵さんが歌った、有名な「秋桜」の詩に、伊勢英子さんが、においたつような満開の秋桜のイラストを添えて、美しい絵本に仕上げた一冊、です。 花びら自体がほのかに燐光を発しているような、幻想的に咲き乱れる秋桜の花畑の中を、後ろで長い髪を束ねた女性がひとり、後姿でたたずんでいます。 「秋桜」の美しい絵と、添えられたなじみのある詩の一行一行を読み進むと、思い出すメロディが、いっそう作品の中で溶けあって、秋桜の魅惑的な深い森の中に迷い込んでしまったよう。 この絵本の最後におさめられているあとがきを読むと、さらに、深いです。この絵本に用いられている数々のイラストのあざやかな謎(?)が、とっておきの推理小説を読み終えた後のように、ジグゾーパズルの最後のピースがぴたりとはまった瞬間のように、小気味よく氷解して、爽快。 よろしければ図書館などでごらんになってくださいね。
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