■エヴゲーニイ・ラチョーフさんの絵本
1906-1997。シベリア生まれ。幼いころから自然に親しみ、後に動物画家となる。クバン美術学校、キエフ美術学校などに学ぶが、写実を拒否する当時の教育への不満から退学。動物昔話のもつ寓話的表現にルバーシカやサラファンなどを動物に着せることを思いつく。昔話、寓話などの挿絵を多く手がける。
***『てぶくろ』(ネット武蔵野)著者紹介より
『てぶくろ』(福音館書店)*『てぶくろ』(ネット武蔵野)

≫別頁 類話『てぶくろ』ヤスロラーバ絵*『ちいさなおうち』カルペンコ絵*

ロシアの画家、エヴゲーニイ・ミハーイロヴィチ・ラチョーフさんの『てぶくろ』は、2冊の異なる翻訳絵本があります。
この2冊の元となったイラストは、スターリン時代の1950年に描かれたものオンライン書店ビーケーワン:てぶくろ(福音館書店)と、その後「雪解け」の時代を経た1978年に描かれたものオンライン書店ビーケーワン:てぶくろ(ネット武蔵野)だそうです。
これらのイラストについての詳細な論文に、

E.ラチョーフの描くふたつの『てぶくろ』をめぐって

が、あります。(「カスチョールの会」の21号掲載)
筆者の田中知子さんは、ロシアの児童文学の研究と紹介を行っている「カスチョールの会」の代表的メンバーでもあり、その姉妹組織の、ロシアの優れたアニメ−ションやイラストの紹介と保全を目的として作られたR・G・Cの責任者でもあり、『メルヘン・アルファベット』(ネット武蔵野、くわしくはこちら)、『おしゃべりなもり』(福音館書店 くわしくはこちら)の翻訳者、解説者の方でもあります。
それだけにふたつの「てぶくろ」のイラストについて、およびその描かれた時代背景について、幅広い研究をもとに的確に考察された論文はとても読み応えがあり、歯切れのよい文章でとてもわかりやすく記されています。
ご興味のある方は、ぜひ「カスチョール」HPのこちらで冊子「カスチョール」についてごらんになってくださいね。
今回の文章を書くにあたっても、たくさん参考にさせていただき、引用をさせていただきました。お忙しい中、快くご承諾してくださった田中知子様、「カスチョールの会」代表の田中泰子先生、ならびに「カスチョールの会」のみなさまに、心から感謝を申し上げます。

ラチョーフさんの描くふたつの『てぶくろ』のひとつがこちら↓です。

 

ウクライナ民話『てぶくろ』福音館書店

ウクライナ民話
『てぶくろ』
エウゲーニー・M・ラチョフえ
うちだりさこやく
福音館書店

おじいさんがもりでかたほうおとしたてぶくろに、ねずみがもぐりこんで、くらすことにしました。
そこへかえるがぴょんぴょんはねてきて、
「だれ、てぶくろにすんでいるのは?」
「くいしんぼねずみ。あなたは?」
「ぴょんぴょんがえるよ。わたしもいれて。」
「どうぞ」
ほら、もう二ひきになりました。

そこへうさぎがはしってきて・・・

暗い寒い冬の森で、ひとつぽっかり暖かな手袋に、どんどん動物たちがおとずれてかわすやりとりと、ぎゅうぎゅうづめにもぐりこんで暮らすにぎやかさ、ナンセンスさの繰り返しの楽しい、ウクライナ民話。
動物が、本来の獣らしさをがっしりと残しながらも、その象徴的な性格にぴったりの民族衣装を着て2本足で立ち、生真面目にやりとりを演じている力強いイラストたちは、ウクライナ民話「てぶくろ」と分かちがたく結びつき、「てぶくろ」といえば、ラチョーフさん、という図式が、しっかり私たちの中に出来上がっているように思います。

1965年の邦訳初版以来、時代を超えてずっと読み継がれている古典絵本。

1949年から色(水彩)を使い始めたラチョーフさんの、最初のカラー作品の一つで、1950年に、「国立児童図書出版所」から出版されたそうです。当時はまだスターリンも生きている時代で、出版に当たっては厳しい検閲をうけ、「体制批判」などという批判もうけたそうです。

しかし、『てぶくろ』はたちまち読者の心をつかみ、数え切れない版を重ね、世界中の国々に翻訳出版され、古典絵本として高く評価されました。
ネット武蔵野から2003年に出版された『てぶくろ』は、ウクライナ民話集「麦の穂」の出版のために、1978年に新しく描き直されたものだそうです。
その「麦の穂」もまた国際的に高い評価を受け、数々の賞を受賞しました。(「麦の穂」の原書は、『KOLOSOK』"Malysh",Moscow,1978。邦訳は、ネット武蔵野より、ウクライナ民話ラチョーフ・シリーズとして、『てぶくろ』『麦の穂』オンライン書店ビーケーワン:麦の穂『わらの牛』オンライン書店ビーケーワン:わらの牛)

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ウクライナ民話『てぶくろ』ネット武蔵野

  

ウクライナ民話
『てぶくろ』
エヴゲーニイ・ラチョーフ絵
田中潔訳
ネット武蔵野
2003年

 

おじいさんが深い森でてぶくろを片方落っことした。
やってきたのはキーキーねずみ。
するとそこへピョコンピョコン!かえるが1ぴきやってきた。
「てぶくろの家は、だれの家?」
「キーキーねずみ、わたしの家よ。そういうあなたはだあれ?」
「わたしはピョンピョンがえる。わたしも入れてちょうだいな」
「いいとも、お入り!」

てぶくろの家には、これで2ひき。そこへうさぎがはねてきて・・・。

ラチョーフさんが民話集「麦の穂」のために、1978年に新しく描き直した、もう一つの「てぶくろ」です。
真冬の森の空も、ここではピンクや黄緑、薄紫など、どこかきらりと明るく澄んで、晴れやかな雰囲気に。「ケとハレ」でいうなら、「ハレ」を感じます。特徴的な黒い輪郭線があまりみられなくなって、透明感のあるしっとりとした作品にしあがっています。

「ウクライナの伝統的な装飾模様とも、これまで以上によく合っていました。」
と、ラチョーフ夫人の言葉にあります。(『麦の穂』ネット武蔵野、表紙カバー見返しより)

民族の誇りと伝統を大切に、民話集にふさわしく晴れやかに描かれた、もうひとつの楽しい「てぶくろ」のおはなし。

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