■エロール・ル・カインさんの絵本 |
1941-1989年。シンガポール生まれのイギリス人。15歳のとき映画会社の招きでアニメーションの勉強のためにイギリスにわたる。1968年アニメーションの仕事の中から最初の絵本を出版。1969年『ハイワサのちいさかったころ』(ほるぷ出版) でケイト・グリーナウェイ賞を受賞。絵本作家として48冊の作品を残す。 (『アルフィとくらやみ』評論社 表紙カバー裏見返し 著者紹介 参照) |
『アルフィとくらやみ』* |
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『アルフィとくらやみ』
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サリー・マイルズぶん ジルベルトの会やく 評論社
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エロール・ル・カインえ
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真夜中、ふと目を覚ましたアルフィは、明かりをつけたら暗闇がどこへいってしまうのか、気になって眠れなくなりました。 そこで暗闇に向かって、尋ねてみると、なんと、見えないけれどそこにずっといたくらやみくんが、返事をしてくれたのです!
子どもの闇への不安、ひとりぼっちの心細さをやわらげ、励ましてくれるやさしい絵本です。 みんなに恐れられている暗闇が、実は淋しがりやではにかみやの、愛すべき性格を持っていること、心を開けば大切な友だちになれることを、静かに教えてくれる、心休まる絵本。 3姉妹二女のお気に入り。
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エロール・ル・カイン さん(1941-1989)の絵本、とくれば、ほるぷ出版さんが有名ですが、『アルフィとくらやみ』 は評論社さん出版。 画風は、『おどる12人のおひめさま』 、『いばらひめ』 (ともにほるぷ出版)などの、豪華華麗で幻想的なものとはまた趣が異なり、比較的さらさらとしたやわらかい愛らしいタッチになっています。
とはいえ、「くらやみくん」の登場する絵本だけに、ハイライトの使い方など印象的で、アルフィぼうやの怖い顔などの迫力は、エロール・ル・カインさんならでは、という感じ。
そして、イギリスの作家サリー・マイルズさん(1933-1987)による、「くらやみくん」のテキストも心に残ります。 夜が来るとそこにあるけれど、朝が来ると忘れてしまい、なんとなく怖がる以外その存在を考えたこともないような、「暗闇」に、まさしく光をあて、親しみやすく思慮深い性格を与えていて、とても新鮮。 なんでもない子供部屋と、なんでもない夜の暗闇が、心の中の光や闇、宇宙の真理や神秘をも伝えるような、見えない美しく底知れない広がりを見せてくれます。
原書は『Alfi and the Dark』(Chronicle Books Llc ) 1988年とあります。 邦訳は、「ジルベルトの会」。 個人のお名前ではなく、子どもたちに良質の絵本のご紹介や、読み聞かせなどをしてくださる団体「子どもの本をたのしむジルベルトの会」のお名前なのだそうです。 「1975年、東京の杉並区に、子どもと本の結びつきを願って「土曜文庫」が誕生。1985年、文庫を母体に「子どもの本を楽しむジルベルトの会」として再発足。以来、例会・通信・文庫・ボランティア活動を軸に現在に至る。アルフィと会員は2001年文庫で出会い、以来、会員からも子どもたちからも愛されている。」 (絵本のカバー見返しの、著者紹介欄より) とあります。
子どもたちと読んでみて納得、しました。 こわいお話大好き3姉妹二女が「これ好き!」と、叫んで、早速ひったくっていったくらいです(笑)。
お話は、暗闇のこわい小さなアルフィぼうやと、実はみんなにこわがられてひとりぽっちのくらやみくんの、ほのぼのとした交流を描いたもの。 夜一人でトイレに行くことすらこわがる3姉妹ですから、身近なアルフィくんのすることなすこと興味津々。
真夜中、ふと目を覚ましたアルフィはつぶやきました。 「ぼくが明かりをつけたら、このくらやみはどこへいっちゃうんだろう?」 くらやみくんはこれを全部聞いていて、アルフィが知ったら驚くだろうな、と思いました。 気になって眠れないアルフィは、ついにベッドにすわって、見えないけれどきっとそこにいるはずの、くらやみくんに呼びかけました。 するとくらやみくんが、 「アルフィ、ぼくだよ!おしえてあげようか」 と、答えてくれたのです! 「・・・でもそのまえに、アルフィは、ぼくがどこへ行くと思う?」 アルフィは一生懸命考えてみました。そして思いついた素敵な答えを、さっそくくらやみくんに語りかけるのですが、見えないくらやみくんは、だまったまんま、別のことを考えているのでした。 「アルフィの答えをもし違うといったら、アルフィはぼくをおいはらってしまうかもしれない。本当の答えを言ったら、わかってもらえないかもしれない。友だちになってくれないかもしれない・・・」
自分の存在を認めてもらうこと。本当の自分を理解し、受け入れてもらうこと。 それは、ずっと無視され誤解され恐れられていたくらやみくんも、絵本を読んでいる大人も子どもも、みんなみんな心に抱いている切ない願いですものね。
ずっとひとりで淋しい思いを重ねてきたくらやみくんの、友情に対するひたむきなあこがれや、自分をさらけだすことへの不安やためらいが、素直で無邪気なアルフィの明るさに照らされて、時に妖しくまがまがしく、時にユーモラスに滑稽に、うきぼりになっています。 アルフィが天真爛漫に輝くほど、くらやみくんの姿がいとおしく、二人を守ってあげたくなります。 くらやみくんの得たものが、読み手の心にもほんのり幸せな余韻を運ぶよう。 何度でも開きたくなる、開くたび心も開いていくような、ひたひたと心にしみいる闇の絵本。
子ども部屋の暗闇の世界を描いた「いるいるえほん」的絵本には、他にも『アレキサンダーとりゅう』▲(福武書店、品切れ)などがあります。
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