■エリック・バトゥー(バデュ)さんの絵本
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1968年、フランス生まれ。リヨンの美術アカデミーに入学。現在絵本の制作に専念、人気絵本作家で、邦訳も多く、『ペローの青ひげ』(講談社) と『めぐる月日に』(講談社) で、2001年度プラチスラバでのBIBグランプリを受賞する。色彩の魔術師とうたわれ、皮肉やウィットをかくしもつ可愛らしい人物を描いたのびやかなイメージの絵、シックで繊細な色の大胆な構図が印象的。
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『それはひ・み・つ』*『しろいうさぎがやってきて』 |
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『それは ひ・み・つ』 エリック・バトゥー作 石津ちひろ訳 講談社 2005年
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わあ! なんて きれいな まっかな、り・ん・ご!
大切な自分だけの秘密のりんごを、ねずみくんはそっと地面に隠します。 「何をかくしたんだい?」 そこへつぎつぎと、小さな生き物たちがやってきて、ねずみくんとご対面。 ねずみくんは秘密の地面の前にたちはだかって、なんでもないよと知らん顔。 ところが・・・。
秘密を守りたいねずみくんと、見破っているのかいないのか、つぶらな瞳をぱちくりさせた愛らしい生き物たちの、横顔の対決場面の繰り返しの楽しい、シンプルで大胆な絵本。
たっぷりとした余白が、りんごの赤とねずみくんの愛らしいちっぽけさをきわだたせ、後々の粋な舞台として存分に楽しめます。
シンプルなテキストの文字の色やレイアウトにもこまやかなこだわりのゆきとどいた、愉快で美しい絵本。 小さな子への読み聞かせにもぴったり。
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![オンライン書店ビーケーワン:それはひ・み・つ](http://img.bk1.co.jp/bookimages/0259/025923780000.jpg)
↑ この深みのある赤い表紙に、ちっちゃなスポットライトをあびたようにちょこんと登場している、可愛いねずみくん。 画像では小さくてわかりづらいですが、タイトルの 「ひ・み・つ」 の「・」の部分は、○の真ん中に、手描きのりんごのカットが表紙の赤色と同じ色で描かれていて、とても愛らしい感じです。タイトル文字もリボンみたいでお洒落。 そして、扉を開けると、見返しに、その手描きの小さなりんごが、一面に水玉模様のように並んでいて、リズミカルで楽しい感じです。
図書館で何気なく表紙を見るなり、そのシックでシンプルな美しさに、「これは!」と、わくわくしてしまいました。 それは扉を開けても続きます。
わあ! なんて きれいな まっかな、り・ん・ご!
左ページ下の部分に、1-2行程度の短いテキスト。(り・ん・ご の・の部分も真っ赤なりんごのカットです) 右ページ下の部分に、灰色の小さなねずみくんと、真っ赤な小さなりんごがちょこんと描かれています。 つまり、見開き左右上部は、3分の2以上のたっぷりとした余白。 潔いほどの白さです。 この美しい鏡のような余白は、主人公の小ささをきわだてる効果的なレイアウトでもあるし、物語のもう一つの主人公の活躍のために用意された、巧みなしかけでもあるのです。小粋ですね! 原書は『Le secret』DIDIER JEUNESSE/France.2004、とあります。
さて、物語です。 ねずみくんのみつけた素敵な ひ・み・つ は、ねずみくんと同じくらい小さな真っ赤なりんご一個。 美味しそうに熟したみずみずしいりんごを、じぶんだけのひみつにしたくて、ねずみくんは地面に埋めてしまいました。
「なにをかくしたんだい?」 そこへやってきたりすがたずねます。 「それは ひ・み・つ。ぜったいおしえられないね。」
つぎにやってきたとりがたずねても。 「それは ひ・み・つ」 ・・・。
そして、ねずみくんの ひ・み・つ は・・・。
大切な ひ・み・つ のりんごを地面にかくして安心したのか、つぎつぎとやってきて興味を示す小さな動物たちに見せまいと通せんぼして立ちふさがっているからなのか、 「ひ・み・つ」 といいながら、ねずみくん自身、ふりむいてその ひ・み・つ を確認しようとしないところが、ひ・み・つ を独り占めしようとするねずみくんの、お茶目でにくめないところでしょうか。
つぎつぎと登場する小さな動物たちは、ねずみくんと背の丈が変わらないか、ねずみくんよりも小さな生き物だったりするのですが、そのくるっとしたつぶらな瞳は、対面のねずみくんを見ているようで、ねずみくんが必死で隠そうとしているその向こうの ひ・み・つ を、見透かしているようでもあります。 もっとも小さな読み手には、みんな見えているのですから、つぎつぎとページをめくるごとに、小さな動物たちの無邪気な顔や、ねずみくんのすましつづける表情と、こくこくと時の流れていく ひ・み・つ の対比を楽しみながら、わくわくと、物語への期待をふくらませていくことができます。
その期待を裏切らない、素直でほのぼのした展開の、ねずみくんのくるっとしたお目目や、くるんとした長いしっぽの変化が、お茶目で愛嬌があってにくめなくて、つい読み手の口元がほころんでしまう感じです。
ちなみに それぞれのページに繰り返し出てくる ひ・み・つ の文字にはそれぞれに色があって、登場する小さな生き物たちの身体の色に似た色が選ばれていることがわかります。小粋ですね!
この絵本で私がいちばんすきなのは、絵本を読んで、閉じたときに、裏表紙が若々しい緑であることです。 表表紙の赤は、りんごの赤でしたが、裏表紙の緑は、りんごの木の緑です。 表表紙にも、小さくスポットライトをあてられたように、タイトルの右横に丸い囲みがあって、そのなかに一つのりんごを背中に隠し持って立っているねずみくんのイラストが描かれています。
裏表紙の真ん中の左側にも、同じ大きさの小さな丸い囲みがあって、その中にりんごの実が一つなっているりんごの木が描かれています。 ちょうど、表表紙のねずみくんのイラストの丸い囲みを、ひっくりかえした位置にあるので、表表紙から裏表紙まで、一つの丸い穴があいているような感じにも見えますし、ひっくり返したときに、同じ丸い囲みの中で変化する物語のようにも、見えます。 絵本を読んで、表紙と裏表紙をながめると、そこにまた一つの物語が反芻されているようで、うれしいおまけをもらった感じです。
赤と緑は補色関係でもあり、クリスマスカラーなどでもおなじみ。くっきりと鮮やかな感じのするとりあわせの、シンプルで物語性のあるレイアウトがとても好き。
素直でほのぼのとした展開ながら、くすくすと愉快な一面とピリリとシニカルな一面を持ち合わせ、みんなに嬉しく締めくくられた小粋な絵本。 3姉妹にも好評でした。2歳半の三女も気に入ったので、小さい子でも楽しめると思います。 よろしければ図書館などで親子でお読みになってくださいね。
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『しろいうさぎがやってきて』 エリック・バデュ作 もきかずこやく フレーベル館 2004年
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春のある日平和なうさぎの村に、一匹の大きな白いうさぎが勝手にやってきて、傍若無人にふるまいはじめた。 その迫力に手も口も出せず、白いうさぎの勝手な決まりを飲むしかなく、次々と、白いうさぎの決めた「規格外」のうさぎたちはぞろぞろ村をあとにする。
そのうち、夏が来て秋がすぎ冬になり、村に残ったのは白いうさぎ一匹だった。 さすがに少し淋しくなった白いうさぎのもとに、ある日もっと白く大きなうさぎがあらわれて、二人は出会い、固く歓迎の握手を交わす。
ところがこのさらに白く大きく耳の長いうさぎは、白いうさぎよりもさらに勝手にふるまった・・・。
遠景を追い続けるカメラワークのような淡々とした構図のなか、荒々しいうさぎと悲しい村のうさぎたちの物語が、シンプルで皮肉の効いた文章で静かにきりきりと流れます。
季節がまた春を迎えるなか、最後に残ったのは一体誰・・・。
黒と赤の映えた、ひきしまった広大な画面構成が印象的な、もしかすると大人の絵本。ユーモアとスパイスはブラックペッパー。
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エリック・バデュさんの作品を何冊か読んだのですが、赤の使い方が、それもかなりはっきりとした赤い色がとても印象的。 この絵本のタイトルは、 『しろいうさぎがやってきて』 ですが、表紙のイラスト は、深みのある赤い色が鮮やかに目を惹きます。
本文のイラストも、赤と黒と、指し色で主役の白が効果的におりまぜられていて、とてもシックでアートな感じ。 物語は・・・ これが抜群に痛快なのです!
春、今夜はうさぎ村のパーティです。村の広場のテーブルの上には赤いにんじんがいっぱい、赤や点々、まだら模様のさまざまなうさぎの村人でいっぱい。 ところがおや、見慣れない白い大きな、耳が長くてひげが長くて赤い目のうさぎが、いただきますとも言わないで、勝手ににんじんをぱくつきはじめました。 みんなはびっくり、ぽかん。 そして翌朝、その白い大きなうさぎは、勝手におきてを決めたのです。
「なるほど、なるほど。おおきいうさぎがくらすには、このむらはあまりにもきゅうくつだ。・・・このものさしよりちいさいものは、むらをでていってもらおうか」 そして、ちいさなうさぎはどうしようもなく村を出ていきました。 夏、白い大きなひげの長いうさぎは、次の決まりを作りました。 「ひげのみじかいうさぎは、むらをでていってもらおうか」
こうして、日がすぎるごとに、どんどん、どんどん、規格外のうさぎたちが村を追われました。 とうとう、白い大きなうさぎだけが、村にぽつんと残ったとき、白いうさぎははじめて、自分ひとりには村が大きすぎると気づきます。 誰か来ないかなと待つ白い大きなうさぎのもとに、ある寒い冬の日、どこからかやってきたのは、念願かなったりの白い大きな・・・自分よりもさらに大きくて、耳が長くひげが長く目の赤い、見たこともないうさぎでした。 2匹は固い握手をかわして、さっそく歓迎のテーブルにつきます。 ところがおや、この白い大きなうさぎのお客は、いただきますとも言わないで・・・。
初めて読んで、上の2匹の白い大きなうさぎが固い握手をかわす横顔を、漠とした赤と黒の背景にくっきりと描いたイラストを見たときには、これからおこるであろう刺激的な展開への予感に、ハッとひざを打つような、わくわくした思いにとらわれました。 ああ、フランスの絵本!という感じ(?)。
ええそうです、ユーモアとスパイスがぴりりと効いています! 単に「いじめっ子はだめだよ」と、可愛らしく諭すようなやさしい絵本ではありません。例えるならお子さま敬遠のブラックペッパー、レッドペッパー系(笑)。 もしかしたら、小さい子どもにはこのたまらなくひりひりするような痛快なオチがわからないかも・・・(ちなみに3姉妹には、こちらが解説を加えなければ意味がわからなかったようでした。残念!)。それならばほどよくわかるときまで、しっかりハハが楽しみます!
原書は『Comme le loup blanc』2002とあります。
表紙カバー見返しにある一文に、 「この絵本のタイトル『Comme le loup blanc』を直訳すると「白いおおかみのように」。・・・(中略)・・・ちなみに、「白いオオカミのように知られている」とは、「だれにでも知られている」ことだそうです。」 と、説明があります。 絵本を最後まで読んでいただくと、このタイトルの意味があらためてよくわかって、とてもとても興味深いので、ぜひ図書館などでお読みになってくださいね。
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