百年ほど前に、科学が進歩したクリンゲル国に、クローカ博士という大学者がいた。ペトルスという一人息子は、例をみないほど手におえない子で、頭の中にいたずらがいっぱいつまっているところは、父親の頭の中で、発明でいっぱいなのと同じであった。
クローカ博士は、王さまの命令で、見かけは学校の建物のような、しかし学校よりもすばらしくその中に入りさえすれば学校も先生もいらなくなるような、完璧な教育機械を発明します。その輝かしい機械の被実験者第一号として、ペトルスと12人の仲間たちが、少なくとも一年間、中に閉じ込められることになりました。 しかし事前に博士の設計図をちゃっかり盗み見していたペトルスは、仲間たちを引き連れて町外れの無人の小島に逃げ出して、ほとぼりがさめるまで、自分たちだけで暮らすことにします。 その間も、機械は規則正しく空っぽのまま動き続け・・・
SF昔話、でしょうか。近未来にいかにもありえそうな事柄を、昔話形式の語りで淡々と描いた、楽しい短編。以前旧版を図書館で借りて初めて読んだとき、「こんな作品もお書きになるんだ」と、ちょっぴり意外な新鮮さを感じたことを覚えています。 大人たちの思惑と、子どもたちの思惑が、正しく運転する機械をはさんで、迷走し、二転三転暗転反転して、巧みな結末へと転がっていく物語は、とても痛快。ちゃめっけのある語りの文章が、この皮肉な結末に、明るい笑いを添えています。
▲上へ
|