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『おひさまのたまご』
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エルサ・べスコフ作・絵 石井登志子訳 徳間書店
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北の森に住む、ダンスの好きな妖精が、ある日森の中でおおきな「おひさまのたまご」を見つけました。 いたずらなこびとコッテや、レストラン店主のわらいがえる、ものしりなねっこじいちゃんなど、気のいい森の仲間たちが集まって、このたまごをどうするか、わいわい話し合いが始まります。
そこへやってきたわたりどりのズアオドリが、このかぐわしい「おひさまのたまご」の正体を教えてくれて、みんなは早速そのみずみずしいジュースに舌鼓を打ちました。 ところがそこへ・・・。
おひさまの恋しい北国の、おひさまへのあこがれと、厳しく豊かな自然の恵みが、ぎゅっとつまったような、美しい古典絵本。
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こちらは「おひさまのたまご」です! とはいえ、表紙画像をご覧いただくと・・・この、落ち着いた色調の深い緑の森にごろりところがっている、明るく輝くようなだいだい色の丸い物体がたまごなのか何なのか・・・たぶん、小さい子はよろこんで「訂正」することでしょう。 3姉妹も言いました。「みかんだよ!」 ・・・正確には、冬、渡り鳥がわたってゆくような暖かい地方でとれる、太陽の恵みのいっぱいにつまった、オレンジ、なのですけれどもね。
原書は『SOLAGGET』BonnierCarlsen Bokforlag,1994、とあります。 かつて福武書店より出ていた『おひさまのたまご』の嬉しい復刊です。
『おひさまのたまご』には、「子どもの頃のこと」という、エルサ・ベスコフさんが1910年にお書きになったもので、「子ども時代の国」という本に収録されている文章が、巻頭におさめられています。 それを読むと、幼い頃のベスコフさんが、とても豊かな自然と家族の愛情につつまれて、きらきらと輝くようないくつもの夏をすごしたことが伺えます。きっと、その幸せな思い出たちが、後のベスコフさんの作品の礎になっているのだと感じます。
『おひさまのたまご』に描かれている豊かな北の森の物語も、そんな、ベスコフさんの愛した幸せな森を、そっとおとずれたような、あたたかな気持になれる作品です。
もりのほらあなにすむ小さな妖精は、ダンスが大好きで、春にふわふわと、秋にくるくると、冬にはらはらと、森に季節を告げながらふらふらになるまでおどりこむのでした。 しかし夏は違います。北の森に訪れた短い夏を精一杯楽しむために、踊る暇もなく、森中を探検してまわるのです。 そしてある日、妖精は森の奥で大きなだいだい色のまあるいものを見つけました。 「まあ、なんておおきなたまご!」 すっかりおひさまのたまごだと思い込んだ妖精は、早速仲間たちにこの大ニュースを伝えに走ります・・・。
仲間たちのいたずらな森のコッテ少年や、池のそばでレストランをしているわらいがえる、ねっこじいちゃんなどなど、個性的な登場人物が、オレンジのたまごを取り囲み、これはいかなるものか、またこれをどうするべきか、その謎や取り扱いの危険性、今後の処遇についてなど、あれこれわいわい話し合います。
おひさまのたまごという可愛らしい誤解の、なんとほほえましいことでしょう! その根底には、冬の長い北の国の住人たちの、太陽への強い憧れと畏怖が感じられます。 おひさまのさんさんと輝く地方で、おひさまの光をたっぷりあびて、おひさまいろに、おひさまのかたちに、みずみずしく実った、かぐわしい果実は、おひさまに憧れる北の国の小さな妖精たちにとって、おひさまそのもの、なのですよね。
そこへやってきたわたりどりのズアオアトリが、これはオレンジというくだものだ、と、みんなの愛らしい誤解を解きます。 妖精たちは、さっそくみんなで、ストローのように草の茎をさして、おひさまのめぐみのいっぱいつまったオレンジのジュースに舌鼓をうちます。 深い苔色の緑の森と、明るくつややかに輝くオレンジの色の対比が、とても美しく、印象的。
森のジュースを搾り取ったような、本物の葉っぱで染め出したような深い静かな緑色が、森林浴をしているように心地よく、本当に妖精たちがどこかにかくれていそうな、不思議な奥行きを感じます。
森に落ちいてたオレンジひとつで、こんな美しいひそやかな物語ができあがるなんて、まるで魔法のよう(そのオレンジ一つにも、ベスコフさんの他の作品にもつながっていくさりげないひみつがかくされていたりします)。 そしてその絵本をよんで、例えば近くの公園に行くと、落ちているはっぱ一枚にも、とっておきの物語がかくれていそうで、わくわくします。 エルサ・ベスコフさんの絵本には、そんなこころにくいヒントがあちこちにちりばめられているようで、美しく生き生きとしたイラストを眺めるだけでなく、物語のすみずみまでも、反芻する楽しみがあります。 なんでもない毎日からほんの少しメルヘンに目を向けた愛らしい物語から、ひたむきな自然観察眼に裏打ちされたイラストの緑豊かな森の奥から、見えないものを想像することの楽しみを、小さないきものたちへの慈しみを、与えてくれているようです。
よろしければぜひ図書館などでお読みになってくださいね。
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エルサ・ベスコフさんの絵本、続いてこちら。
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『きみ どこへゆくの?』 −スウェーデンの子どものうた− アリス・テグネール 作詞作曲 エルサ・ベスコフ絵 ゆもとかずみ 訳詩 石井登志子 解説 徳間書店 2005年2月発行 定価1800円+税
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左に、アリサ・テグネールさんのどこかなつかしいゆったりとしたメロディの楽譜と、それを飾るエルサ・ベスコフさんのクラシカルなモノクロの影絵、右に、エルサ・ベスコフさんの落ち着いた色彩の一面のカラーイラスト、と、すみずみまで楽しめる贅沢な音楽絵本になっています。画集、というべきかも。 さらに石井登志子さんのくわしい解説もついています。いたれりつくせり!
スウェーデンの豊かな自然や、子どもたちが生き生きと描かれていて、ながめているだけでやさしく気持がほころんでいきそうです。
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原書は『BORGMASTER MUNTE』初めて出版されたのは1922年だそうです。
横長の大型絵本で、背表紙とタイトル文字と、小さな女の子のスカーフとエプロンの、あたたかなレンガ色が、さんさんとふりそそぐ日差しに負けず鮮やかに映えている表紙。…あら、帯がかかっていて、むきあうふたりの足元のくっきりとした影が見えないのですね、ではこちら、BK1さんでもう一度。
絵本の人物の影にご注目。なんだか昨日本当に遠い旅先ですれちがった気もするような、なつかしくてさりげなく心に焼きつく風景です。美しい。
この表紙が、タイトルの「どこへゆくの?」という曲のために描かれたもの。 旅人のような親切なおにいさんが、小さなけなげな女の子の水汲みを手伝ってあげようか、という、なんとも愛らしい歌です。本文中に登場するのですが、見開きの、左ページに楽譜が書かれてあって、その楽譜の上にそえられた、モノクロの影絵が、また少しクラシカルで哀愁をさそいます。
そして右ページには、ベスコフさんの美しいイラストが一面に。 左に楽譜とそれを飾るモノクロの影絵、右に一面のカラーイラスト、と、すみずみまで楽しめる贅沢な音楽絵本になっています。画集、というべきかも。 さらに石井登志子さんのくわしい解説もついています。いたれりつくせり!
エルサ・ベスコフさんのやわらかくみずみずしい色彩のなかでも、よもぎいろ、というのか、深みのある緑色と、さし色のようにしばしば使われている落ち着いたレンガ色がとても好きなのですが、たっぷり堪能できます。 海の歌では、個人的に大好きな水色の、さわやかな海と愛らしい子どもたちの絵も楽しめます。山の歌もあれば、野原の歌も、お庭の歌も、おうちの中の遊びの歌も、クリスマスの歌もあって、もりだくさん、行ったことはないけれど、スウェーデンの景色や季節にデジャヴュのような親しみを覚えてしまいます。
モノクロの影絵をはじめ、エルサ・ベスコフさんのすみずみまでこだわったデザインや装飾も、とっぷり味わいひたることが出来ます。
3姉妹に見せると、 「これ弾いてー、歌ってー」 コールが鳴り止まず、ハハはかなり困りはてました。ピアノ…で弾けばよかったのですが、手近なところで、鍵盤ハーモニカ、(コレです、画像はヤマハのピアニカ→)で、片手でがんばって、ブーカブーカ、一生懸命音をひろいました…(笑)。
それが、おっとりとしたどこかなつかしいメロディなのです。
鍵盤ハーモニカでひいたせいか、アコーディオンで演奏したらさらにぴったりかも、というような、何だか気持ちがやさしくなるような曲ばかり ( 弾くのがやさしいかどうかは、…たぶん、やさしい楽譜なのでしょうけれど、ハハの技術では…あのその、しばしの秘密の特訓を要するかも(笑))。
楽譜が読める方はぜひお子さまとお楽みください。 楽譜には、イラストのページにのっていない、2番、3番…の、歌詞がのっている曲もあって、それをふまえてもう一度右のイラストをながめると、さらに新しい発見があるかも。
ともあれ、「スウェーデンの子どもの母」と呼ばれるアリサ・テグネールさん (1864-1943)の歌と、「スウェーデンの絵本の母」ともいうべきエルサ・ベスコフさん (1874-1953) の、スウェーデンのマザーグースともいうべき夢のように豪華な作品ですものね。それを遠い日本で今子どもたちと手にすることが出来る幸せ!
出版社の徳間書店さま、ありがとうございました。
贅沢な絵本ゆえお値段も少々はりますが、よろしければ図書館などでお読みになってくださいね。
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『おひさまがおかのこどもたち』 エルサ・ベスコフ作・絵 石井登志子訳 徳間書店 2003年
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「おひさまがおか」へようこそ! 待ちに待った夏、わたしたちは思いっきりおひさまのもとで遊びます。 庭で、畑で、森で、湖で、夏はまぶしくて、楽しいことがいっぱい!
北欧のよろこばしい夏を、一枚一枚ポストカードのように美しく穏やかに描いた、珠玉の作品。 こどもである満ち足りた日々を、かつてこどもであり満ちていた日々を、なつかしく思い出すような、大切な一冊。
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少し前に出たエルサ・ベスコフさんの嬉しい初邦訳絵本。 原書は『BARNEN PA SOLBACKA』BonnierCarlsen Bokforlag AB,Stockholm 1995、初版は1898年、とあります。なんと100年以上も前の絵本なのですね!
表紙の地の黒色が、記念撮影のような心もち緊張気味でおすまし顔の子どもたちのイラストをひきしめて、なんだかとてもシックで新鮮な感じです。
エルサ・ベスコフさんの描く子どもたちのふっくらとしたやさしい表情も大好きなのですが、その子どもたちの穏やかな風景をふちどるように、さりげなく描かれた繊細な飾り枠の草花の模様が、個人的にとても好き。 その場面、場面にぴったりそぐった草花や木の実などがバランスよく品よく描かれていて、眺めているだけで幸せな気分になるようです。
『おひさまがおかのこどもたち』は、表紙から、その素朴で可憐な飾り枠がページをめくるごとに惜しげもなく登場して、幸せな夏の子どもたちに文字通り花を添えています。
そう、この絵本には、「おひさまがおか」に住む幸せな明るい夏の子どもたちのひとときがいっぱい!
「おひさまがおか」へようこそ! ここはわたしたちのうちです。 まちにまったあかるいなつがやってきました。
表紙の地の黒色とはうってかわって、本文のイラストの地はピュアな白色で、やわらかい色彩で軽やかに描かれた日差しと緑いっぱいの絵を、まぶしく受け止めているようです。
家でのお勉強、森でののいちごつみ、かくれんぼ、水遊び、木の実なげ、夏至まつり・・・全身で夏を楽しんでいる無邪気な子どもたちのイラストに、短い散文詩のようなテキスト、一枚一枚の絵が詩のようで、絵日記のようで、思い出のぎゅっとつまったアルバムのようです。
この『おひさまがおかのこどもたち』は、エルサ・ベスコフさんのデビュー作・『ちいさなちいさなおばあちゃん』(偕成社)の翌年1898年に描かれたものだそうで、100年以上前のベスコフさんの初期の絵本、ということになるのですが、今見てものびのびと美しい、やわらかくてみずみずしいイラストに、この絵本を普通に読むことのできる幸せをしみじみとかみしめるばかり。 (ついでに、この絵本に描かれているような自然いっぱいの素朴で健康な夏を、今の子供たちにもしっかりとかみしめさせてやれたら、本当に素敵なのですけれど!)
派手な物語はありませんが、自分たちの夏を重ね合わせ、自分たちで続きをつむいでゆくような、なつかしい記憶の扉をあけるような、静かな穏やかな絵本です。 よろしければ図書館などでお読みになってくださいね。
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『ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん』福音館書店
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『ブルーベリーもりでの プッテのぼうけん』 エルサ・ベスコフ さく・え おのでらゆりこ やく 福音館書店 1977年
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プッテはかごを二つさげてもりへいきました。ブルーベリーとこけももをつんで、おかあさんのおたんじょうびのおくりものにしたいのです。でも、いったいどこにあるのでしょう。
プッテがきりかぶに座って泣いていると、足元にこびとのおじいさんがやってきて、 「わしはブルーペリーのとうさんで、ブルーベリーもりのおうさまじゃ。おいでプッテ、わしのくにへいこう。・・・」
プッテがさそわれたのは、豊かな森の奥でそっと栄える、ちっちゃなちっちゃなまほうのくに。 ブルーベリーもりを訪れた少年プッテと、ブルーベリーもりの人々たちの、心和む愛らしいひとときを描いた、スウェーデンの古典絵本。
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邦訳の初版は1977年ですので、親子二代にわたってお読みいただいている方もいらっしゃるかもしれませんね! 途中、長く品切れ状態が続いたのですが、近年のエルサ・ベスコフさんの人気に応えるかたちで、福音館書店さんが、『もりのこびとたち』、『ぼうしのおうち』、などとともに、一連の復刊・重版を行ってくださった、嬉しい嬉しい待望の一冊。
原書は、『PUTTES AVENTYR I BLABARSSKOGEN』Albert Booniers Forlag AB,Stockholm,1901、とあります。ので、かれこれ100年以上も前の絵本なのですね!
それなのに、この、いまだ鮮やかで色褪せないみずみずしい魅力はどうでしょう!
美しいブルーベリーの茂みと、虫たちがお洒落におりなす、シックなデザインがとても素敵な表紙を開けると・・・。 木の幹さえも繊細に美しく描かれた、松の木のもりに、青いストライプのシャツもすがすがしい、可愛い赤い帽子の男の子、プッテの登場です。
空のかごを両手に下げて、たたずむ姿だけでもたまらなく愛らしいのに、プッテはこれから、なんとお母さんのお誕生日のために、ブルーベリーとこけももをつみに、森へやってきたところなのです。 ね? きっとこれで、世界中のあらゆるお誕生日のお母さんたちの心も、ほっこり和んでしまいますよね(笑)。
ところがかわいそうに、森でブルーベリーもこけももも見つからず、切り株に座ってプッテが泣いていると、不意に足元にこびとのおじいさんがあらわれます。 「プッテなくんじゃないよ。わしのくにへいこう」 ブルーベリーもりのおうさまみずからに導かれ、たちまち身体の小さくなったプッテが訪れたのは、まるでりんごのように大きく思えるブルーベリーがたわわに熟している不思議のくに。 そこには、プッテと同じ年頃の、口もとやほおを実で青く染めたブルーベリーつみの七人の男の子たちがいて、おうさまの言いつけどおり、プッテのかごをブルーペリーでいっぱいにすると、 「おもしろいことしてあそぼう」 と、プッテをさそいます。 プッテと男の子たちは、楽しく元気に遊びはじめました。 ・・・。
横長の、ゆったりとした大型の版に、片面だけの印刷という、贅沢なつくりの古典絵本なのですが、その片面のイラストがまたこれ贅沢なデザインで、すみずみまで繊細可憐な草花の装飾がほどこされ、美しい額に入った絵画を眺めているよう。
その一枚一枚をめくるほどに、プッテと同じくらいの小さな読み手たちも、プッテと同じ不思議な冒険へと、心地よくいざなわれてゆきます。 たちまち仲良く遊ぶプッテと子どもたちの、なんとのびのびとほほえましいこと。
森、小人、魔法、動物、美味しい果実、無邪気にたわむれる子どもたち、かあさん・・・、 キーワードがすべてそろっていて、響きあい、さわやかにまっすぐに堪能できる美しい絵本は、現代においても、なかなか他にないのでは・・・と思います。 きっとこの絵本をお手本と目標にかかげた、絵本作家たちは世界中に少なくないのでは・・・?
それくらい、個人的に私の中で決定的な基礎となり、大きな場所を占めている絵本の一冊です。
3姉妹も大好きで、とりわけ長女が好きなのは、後半の、こけももはちみつをつくるかあさんのお手伝いをして、こけももをせっせと磨く女の子たちの、一同整列お仕事場面。 こけももの赤のさし色のお洋服とぼうしとリボンも可愛く可愛くて、青いブルーベリーぼうやたちとともに、3姉妹とハハのとびきりのお気に入り。 もし万が一このように子宝にめぐまれることがあったなら(笑)、このような風景はぜひ挑戦してみたい理想図です。
エルサ・ベスコフさんの描く子どもたちは、ひとりひとりに物語があって、豊かな表情と自然なしぐさを与えられており、どの子にも、穏やかな愛情に満ちたまなざしの「母」を強く感じます。
最初に森へと出発したプッテの可愛い顔と、最後に冒険を終えたプッテのりりしい顔を、どうぞとっくりと見比べてくださいね。
そして、プッテとともに冒険を終えた、すがすがしいお子さまの表情も! 親子二代、三代で、どうぞゆっくりと楽しいひと時を、この絵本とともにお過ごしくださいね!
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