■エド・ヤングさんの絵本
中国、天津生まれ、上海育ち。イノリイ大学、ロサンゼルス・アートセンター大学、ニューヨークのブラット研究所などで学ぶ。中国絵画の哲学からその作品多くのインスピレーションを得る。1990年『ロンポポ』オンライン書店ビーケーワン:ロンポポ(古今社)でコールデコット賞、1992年『七ひきのねずみ』でコールデコット・オナー賞を受賞。主な邦訳作品には、『つる−サダコの願い』(日本図書センター)オンライン書店ビーケーワン:つる (広島の平和記念公園にある「原爆の子の像」のモデル佐々木禎子さんを、モデルにしたお話)、『怪物ヌングワマをたいじしたむすめの話』(偕成社 品切れ)など。
(『七ひきのねずみ』古今社 表紙カバー見返し 著者紹介参照)
『七ひきのねずみ』*『ロンポポ』*『つきのひかりのとらとーら』*『ライオンとねずみ』*『兎あにいおてがら話』

 
『七ひきのねずみ』古今社

『七ひきのねずみ』
エド・ヤング作 藤本 朝巳訳
古今社 
1999年 

オンライン書店ビーケーワン:七ひきのねずみ

中国のことわざ『群盲、象を撫ず』をもとに作られた絵本。

背景の黒が、色鮮やかな影絵のようなコラージュをひきたて、配置の美しさをもりたてています。簡潔で大胆な切り絵と、ひきしまったテキストが、想像力をかきたてる美しい絵本。

オンライン書店ビーケーワン:七ひきのねずみ

中国の諺をもとにした、コールデコット・オーナー賞受賞作。

ある日、ふしぎなものに出会った七匹のねずみは、びっくりぎょうてん。月曜日から順番に、一匹ずつ、ふしぎなものを調べに行きますが、戻ってきたねずみの答えはてんでばらばら。
あるものは、「がっしりばしらだよ」と言い張り、またべつのものは、「くねくねへびだった」と力説、またべつのねずみは・・・
そこで最後のねずみが、くまなくしらべて言う事には?

きりっとした黒色の地の、左側のページに、しっぽのぴんとのびた、色とりどりの七匹のねずみが、明快な切り絵で、夜空を彩る花火のように、鮮やかに描かれています。
黒色の右側のページには、ねずみたちがいぶかしがる、ふしぎな大きなものがどっかりと。それぞれのねずみたちの持ち帰る答えによって、そのふしぎなものは、地味な色彩から鮮やかな色形の、ねずみたちが主張するものへと七変化。
美しいコラージュの巧みなレイアウトで、ページをめくる楽しさ、ページからページへとふくらむ喜びもいっぱい。

大きな子なら、ページを少しめくれば、そのふしぎなものがいったい何なのか、ずばりわかるかも。
それでもなお惹きつけられてしまうのは、色鮮やかで軽やかな影絵のような切り絵の美しさと、短かくとぎすまされたテキストの繰り返しの心地よさ。月曜日から順番に、一匹ずつ調べる七色のねずみたちの、それぞれのくだした結論の妙なること!
七匹のねずみの七通りの答え、七通りの例えに、絵本を見る目も聞く耳も釘付け、首ったけかも。
七匹のカラフルなネズミの丸い目に、黒目がないことも、どことなく浮世離れしていて、個人的にどきどき、ざわざわしてしまいます。
テキストもイラストも、目と耳が離せない傑作絵本。

原書は『Seven Blind Mice』 1992 とあります。
アマゾン洋書ではこちらなど。↓

『Seven Blind Mice
(Reading Railroad)』

(ペーパーバック)
Puffin; Reprint版
(2002/06)

▲上へ

 
『ロンポポ オオカミと三にんのむすめ』古今社

『ロンポポ 
オオカミと三にんのむすめ』
エド・ヤング再話 絵
藤本朝巳訳
古今社

おかあさんの留守に、おばあさんに姿を変えて、三にんのむすめたちのところにやってきたのは、年老いたオオカミでした。その正体にいちはやく気づいた長女は、一計を案じ、オオカミを銀杏の木に誘い出します。
そして・・・。

ヨーロッパの昔話「狼と七匹のこやぎ」にも似た、中国に古くから伝わる昔話の絵本。
西洋と東洋が融合したエド・ヤングさんの美しい挿絵が、夢とうつつの交錯してはじけるような迫力の昔話世界へ、力強くいざないます。
1990年コールデコット賞受賞作。

オンライン書店ビーケーワン:ロンポポ

赤と黒、そして焦点のない白い目、どきりとして、胸のざわめく表紙。
千年以上前から伝わる中国の昔話「虎姑婆(ロンポポ)」を基にした、1990年コールデコット賞作品だそうです。子どもたちの大好きな、ヨーロッパの昔話「狼と七匹のこやぎ」にも似ているお話。

むかし、あるむらにおかあさんとシャン、タオ、パオツェという三にんのむすめがすんでいました。
あるひおかあさんは、おばあさんの誕生日のお祝いに、とまりがけで出かけることになりました。それを見たとしよりのオオカミは、おばあさんの姿をして、三にんのところへやってきて、戸をたたきました。
おかあさんのいいつけどおり、しっかりと戸に鍵をかけて留守番をしていた三にんですが、言葉巧みなオオカミにだまされて、ついにタオとパオツェが戸をあけてしまいました。
オオカミは部屋に入るなりろうそくを吹き消し、暗闇にまぎれてまんまと三にんをだましつづけ、いっしょのふとんで眠ろうとします。

「おばあちゃんのあしはけがごわごわしてるのね」
「おまえたちにかごをあんでやるために あさのひもをもってきたのさ」
・・・

タオやパオツェの「おばあちゃん」とのやりとりを不思議に思ったシャンが、ろうそくに火をともすと、オオカミはすぐに火をふきけしました。でも、シャンはけむくじゃらの正体を見てしまったのです!
シャンは、とっさに知恵をしぼって、オオカミにぎんなんの実の話をします。
・・・

見開きの一場面が、二分の一、四分の一、四分の一の合計三コマに分割されていて、その一つにはテキストが配置された、ゆっくりと流れていくような構成。中国古来の屏風絵の手法を取り入れているそうです。
(訳者の藤本朝巳さんのあとがきより、このくわしいあとがきは、とてもとても参考になります!)

オオカミと3にんのむすめたちの息詰まる対決を、ろうそくの炎で闇をゆらゆらとあぶりだすように、大胆なアングルで、不気味に不穏に描き出しています。
流れるような三コマの枠の間の余白に、時間の流れや空間の広がりはもちろん、獣の姿に悪意を併せ持つオオカミの底知れぬおそろしさや、命がけのはりつめた空気、目を見開き息を殺して見定めようとする視線までもが、伝わってきそうな気がします。

光と闇の美しいいたずらのような、一瞬のゆらめきをとどめた幻想的な絵の中に、オオカミに対する敬意と畏怖も感じ、あえない最後は、オオカミに対してどこか切ない気持ちを抱くほど。

東洋画と西洋画を気高く共鳴させながら、効果的なアングルに隠し絵をしのばせて、直接的にも深層的にも鋭くじわじわと訴えかけてくる迫力の美の絵本。
その圧倒的な美しさ、物語の力強さに、子どもたちが嬉々として聞き入る絵本。少し大きい子や大人たちは、エド・ヤングさんの仕掛けた巧みな隠し絵を、ひとつひとつ探し出す楽しみも。

原書は『Lon Po Po』1989 とあります。
アマゾン洋書ではこちらなどいろいろ。↓


『Lon Po Po:
A Red-Riding Hood Story from China
(Caldecott Medal Book)
(ハードカバー)』
Philomel Books
(1989/11)

▲上へ

 
『つきのひかりのとらとーら』福武書店 品切れ

『つきのひかりの
とらとーら』

フィリス・ルート文
エド・ヤング絵
野中しぎ訳
福武書店
1991年
品切れ

ジェシカは、小さな弟のことでまたママにしかられて、ベッドの中で思います。
もうすぐ、月からきたとらとーらが、まどからしのびこんでくるかもしれない。
弟は泣くかもしれないけど、私は平気。
とらとーらにのって、よぞらにとびだすの。
・・・

小さな弟妹を持つ上の子や、兄弟姉妹をもつ母親なら、ジェシカの気持ちやとらとーらとの問答に、どきりとしたり、そのとおりとひざを打つ思いだったりするかも。

月の光にうかびあがる幻想的な絵と、女の子のおしやべりのようなテキストが、心を解き放つ不思議な冒険へ一緒につれていってくれるような絵本。ジェシカもとらとーらも、いとおしい。

月の光におぼろに浮かぶ幻を描き出したような、幻想的なファンタジー絵本。

ママにまたしかられた。マイケルのせいよ。

とらのぬいぐるみ・とらとーらをしっかりと抱きかかえた、白いネグリジェを着た女の子・ジェシカが、正面から顔を背けて描かれています。
いつだってジェシカは、小さな弟のマイケルのせいでママにおこられてばかりなのです。今日だって、もうベッドにおはいりなさいと、部屋においやられてしまいます。

ジェシカは考えます。
もうすぐ、しゅわしゅわのみみをしたとらとーらがまどからしのびこんでくるかもしれない。つきからきたとらとーら。
めをさましたら、マイケルはきっとなくわね。
でもあたしはへいき。とらなんかこわくないもの。

・・・

ひらり、って、せなかにとびのって、とらとーらとまっくらなよぞらへひとっとび。
・・・

黄色の縞と大きくてしなやかな肢体を持つ、月からきたとら・とらとーら。
夜空にとけこむように幻想的に描かれていながら、光る目も、するどい歯も、流れるような走る姿もリアルで迫力満点。
ジェシカの気持ちも、読み手の固定観念も解き放つのびやかなファンタジーに、ときめき、高鳴り、胸がすく思い。

とらとーらがおそろしい獣のとらであることは、ジェシカの化身として、ジェシカの心の闇の深さをあらわしていたり、傷つけようとするものに対する盾としての強さをあらわしていたり、マイケルに対する姉としての立場や、無意識の優越感をあらわしていたりするのでは・・・などと思います。そのとらとーらが、眠っているマイケルに対して、獣らしくばっさりと口にする言葉は、ジェシカならずともどきり。

「おとうとをたべてあげようか」

ジェシカは自分の気持ちと向き合って、そして、心の奥底にある気持ちに気が付きます。

エド・ヤングさんの大胆なアングルや、燐光を発しているようなフォルムの余韻が、絵本を閉じてまぶたを閉じた後も、とらとーらとの冒険の続きにつれていってくれそうな絵本。

原書は『MOON TIGER』1985 とあります。

▲上へ

 
『ライオンとねずみ』岩崎書店 品切れ

『ライオンとねずみ』
イソップ童話
エド・ヤング絵
田中とき子訳
岩崎書店
1981年
品切れ

イソップ童話の「ライオンとねずみ」が、楽しい絵本になりました。
エド・ヤングさんの大胆なアングルのシンプルなデッサンが、時におそろしく時におかしく、時になんともなさけなく時になんとも頼もしく、ライオンとねずみを自在に操り、巧みなパントマイムをみせてくれるよう。
軽やかさのなかにも決してあなどれない重みが伝わってくる、古典絵本。

むかし、ライオンにつかまった小さなねずみが、「きっとおれいをするから」と、命乞いをしてゆるされました。ライオンは、「小さなねずみに何ができる」と、笑いとばしましたが、果たしてライオンが猟師の網につかまってしまったとき、かけつけてきた小さなねずみは・・・。

有名なイソップ童話に、エド・ヤングさんの鉛筆画の絵コンテのような挿絵を添えた、軽快で愉快痛快な絵本。
赤線の小さな真四角の枠のなかに、小さなねずみの視点でとらえた大胆な構図の白黒の鉛筆画が、美しくシンプルに描かれています。時には枠から効果的にはみだしていたり、心理的に印象の強い部分を前面におしだしたりと、迫力満点。
その真四角のコマが、質のよいアニメーションを見るようになめらかに流れ、いきいきとした動きをつむぎだしています。
おそろしいけれど王者らしく太っ腹な一面をもつライオンと、ちょこまかしているけれどちゃっかりしている小さなねずみの、コミカルな大小コンビも楽しく、裏表紙まで、軽やかに物語を堪能できます。

みんなが知ってるイソップ童話がエド・ヤングさんの手になると、すっきりあっさり、それでいてしっかり、しっとりと、奥深く心に焼きつく物語になるのですね。

原書は『The Lion and The Mouse』1979 とあります。

 このコミカルな白黒のデッサンのコマわりで、いきいきと描かれた昔話絵本には、↓があります。

『兎あにい
おてがら話』

プリシラ・ジャイクス再話
エド・ヤング絵
今江 祥智訳
遠藤 育枝訳
BL出版

目次
「兎あにい、してやったり」
「ワニどんの晴れ着」
「亀どん空をとぶ」
「兎あにいのかくれんぼ合戦」
「ほんとうのもてなし」
「がらがらへびの口約束」

アメリカ南部のシー・アイランド諸島のアフリカ系民族に伝わる「ガラ語」の昔話6編をおさめた、縦開きの珍しい絵本。エド・ヤングさんの白黒の墨絵のような、鉛筆画のようなコマわりのコミカルなイラストが、楽しいフィルムのように連なっています。
「ガラ」「ガラ語」について、収録の各昔話についての解説や、訳者からのひとことも添えられていて、本格的。邦訳には各地の方言を巧みに採り入れる試みがなされています。
世界各地に伝わる民話につながるものもあったり、珍しいものもあったり。

原書は『BO RABBIT SMART FOR TRUE』コピーライトは1995、1981とあります。

この記事へのコメントを読む*書く
(この記事へ戻るには、ブラウザの戻る、をクリックしてくださいね)

▲上へ

エド・ヤングさんの絵本
「あ」の絵本箱へ

くどー★La★ちぇこさんの絵本箱へ

HOMEへ
くどー★La★ちぇこさんの絵本日記HOMEへ


Copyright (c)2005-2007 kudolacieko All Rights Reserved