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『あめあめふれふれもっとふれ』 シャーリー・モーガン文 エドワード・アーディゾーニ絵 なかがわちひろ訳 のら書店
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「もう三日のあいた、まちじゅうにあめがふりつづいていました。 ちいさなおとこのことおんなのこのきょうだいが、家のまどからかおをだして、あまぐもをみあげています。」
おいでおいでと手招きをするように、しとしとと降り続く春の雨を、じっと、ずっと、窓から眺めている、ちいさなきょうだいの物語。
ふたりは窓の外の雨を見て、雨の中を自由に動く人々や生き物を見て、自分たちもああしたい、自分たちならこうしたいと、小さなのびやかなあこがれを募らせます。
雨の中をレインコートとながぐつで、ばしゃばしゃはねかして歩きたい。 ふねをうかべて、かさをくるくるまわして歩き回ったら、どんなにきもちいいだろう・・・。
けれど幼いきょうだいは、決してそのことを、やさしい母親が喜ばないことを知っています。 だから、じっと、ずっと、見ているだけ。
雨は降り続きます。
そのとき、母親が、二人が窓から熱心に眺めている部屋に入ってきて、言いました・・・。
降り続く雨をじっと眺めながら、小さな夢と憧れをはばたかせ、切ない願いをあたためつづけた、幼いきょうだいのゆれる心の軌跡を描いた、みずみずしい幼年童話。 子どもの気持によりそった丁寧な描写と、やわらかな雨にけぶるようなしっとりとしたイラストが光ります。
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原書は『RAIN RAIN DON'T GO AWAY』 1972 とあります。 エドワード・アーディゾーニさんは、 「1900年ベトナム生まれ、イタリア系フランス人の父とイギリス人の母を持つ。5歳のときイギリスに移住。27歳で画家として独立。第2次世界大戦中は、公式の従軍画家に任命される。絵本作家、挿絵画家として高い評価を受け、生涯180冊以上の本を残した。長男のために描いて好評を博した」 とあります。 (『あめあめふれふれもっとふれ』著者紹介欄より)
テキストの作家シャーリー・モーガンさんは、 「1933年イギリス生まれ、15歳のとき、家族でアメリカに移住。結婚後、コピーライターを経て、幼稚園や保育園の教師をしながら、創作活動を始める」 とあります。 (『あめあめふれふれもっとふれ』著者紹介欄より)
エドワード・アーディゾーニさん(1900-1979)の穏やかなイラストもしっとりとした、可愛いきょうだいと二人を手招きするようにしとしとと降り続く雨の小さな物語。
「まちじゅうにあめがふっていました。 もう三日のあいた、あめはふりつづいていました。 ちいさなおとこのことおんなのこのきょうだいが、家のまどからかおをだして、あまぐもをみあげています。」
春の雨のかなでるいろいろな音、においを精一杯かぎながら、おとこのこはだまって窓から雨を見ています。 本当は黄色いレインコートを着て、消防士みたいにかっこいいながぐつをはいて、おもちゃのふねをみずたまりの小川にうかべて、ばしゃばしゃ歩いてみたいのだけれど。
おんなのこもだまって雨を見つめながら思います。 青いレインコートを着て、赤いつやつやのながぐつをはいて、青い花模様のかさをくるくる回しながら歩いて、小川をばしゃばしゃはねかしたらどんなに面白いだろう。
けれど二人は黙って見つめているだけです。 だっておかあさんが、きっと言うから。 「だめよ。そんなことをしたら、かぜをひいちゃうから」
雨は止みません。 おうちの中の遊びもお手伝いも、することはみんなしてしまいました。 雨は降り続きます。 庭に出て自由に自分の花壇を眺めている隣の家のおばさんが、窓の外を自由に通る新聞配達やさんが、ねこやいぬが、どれだけ二人には嬉しそうにはしゃいで見えることでしょう!
わたしがおばさんだったら、くちをあーんとあけて、あめをのんじゃうかもしれない。 ぼくがしんぶんはいたつのおにいさんだったら、みずたまりの小川にわざとつっこんで、みずをはねとばしてやろうっと。
二人がだまってずっと、じっと、窓の外を眺めていると、ふいににこにこお母さんがやってきて・・・。
特別な事件は何もないけれど、小さなきょうだいのあこがれの豊かな広がりと、自由な想像の楽しみと、細やかな心のゆれうごきが、とても自然に丁寧に、一文一文いつくしんで描かれた、さわやかな読み物です。 雨が降り続き、気持がどんよりと曇った日に、ぜひ読みたいすがすがしい絵本。
エドワード・アーディゾーニさんのやわらかな線画に、淡い彩色をほどこした、薄紅と黒の2色のイラストが、しっとりと、物語を奥ゆかしく彩っています。
きょうだいの愛らしさと、ふたりを包み、見つめる目の、雨だれのように絶え間ない、そして温かなぬくもりが、静かに心に残ります。 古いけれど、いつまでも新しい、変わらない古典的読み物。 よろしければ、図書館などでぜひお読みになってくださいね。
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